- 著者: Urska Janzic, Izidor Kern, Andrej Janzic, Luka Cavka, Tanja Cufer
- Corresponding author: Urska Janzic (University Clinic Golnik, Slovenia)
- 雑誌: Radiology and Oncology
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-06-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 28959173
背景
進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療において、免疫チェックポイント阻害薬 (CPIs: immune checkpoint inhibitors) は標準治療としての地位を確立し、患者の生存期間を大幅に延長している。現在、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブといった複数のCPIsが臨床使用されており、これらは二次治療および一次治療の両方で有効性が示されている。例えば、ペムブロリズマブはPD-L1陽性NSCLCの一次治療において、化学療法と比較して優位性を示したことが報告されている Reck et al. NEnglJMed 2016。しかし、これらの薬剤に対する奏効率は、患者集団全体では約20-30%に留まることが報告されており、治療効果を予測するためのバイオマーカーの必要性が強く認識されている。
PD-L1 (Programmed death-ligand 1) の免疫組織化学 (IHC) 発現は、CPIsに対する奏効予測バイオマーカーとして最も広く研究されている。しかし、PD-L1 IHCの評価には、使用される抗体クローン、アッセイプラットフォーム、およびカットオフ値が薬剤ごとに異なるという課題が存在する。例えば、ペムブロリズマブには22C3抗体、ニボルマブには28-8抗体、アテゾリズマブにはSP142抗体、デュルバルマブにはSP263抗体がそれぞれ対応する診断薬として承認されている。これらの抗体間の互換性を評価する目的で実施されたBlueprint PD-L1プロジェクトでは、SP142抗体が他の抗体と比較して腫瘍細胞 (tumor cell, TC) の染色感度が低い一方で、免疫細胞 (immune cell, IC) の染色感度が高いという特性が示された Hirsch et al. JThoracicOncol 2017。
肺癌の主要な組織型である扁平上皮癌 (SCC) と腺癌 (AC) の間でPD-L1発現パターンに差異があることは、臨床的意義を持つ重要な知見である。特に、TCとICを分けて評価した研究は限られており、組織型と細胞コンパートメント(TCまたはIC)がPD-L1発現に与える影響については、依然として未解明な点が多い。例えば、ニボルマブの臨床試験であるCheckMate 017(SCC患者を対象)では、PD-L1発現レベルにかかわらず一定の奏効率が示されたのに対し Brahmer et al. NEnglJMed 2015、CheckMate 057(非SCC患者を対象)では、PD-L1高発現患者でより良好な治療成績が報告されている Borghaei et al. NEnglJMed 2015。このことは、組織型によってPD-L1の予測的意義が異なる可能性を示唆しており、臨床現場での治療選択において、組織型とPD-L1発現のコンパートメント別評価の重要性が高まっている。
PD-L1発現の評価は、腫瘍組織の不均一性や生検検体の小ささによっても影響を受ける可能性がある。小さな生検検体では、外科切除検体と比較してPD-L1陽性率が低く評価される可能性があることが報告されている Ilie et al. AnnOncol 2016。したがって、PD-L1発現の正確な評価には、十分な量の組織検体を用いることが重要である。SP142抗体を用いたICのPD-L1発現評価の再現性に関するデータは不足しており、その臨床的有用性を確立するためにはさらなる検証が必要であるという課題が残されている。
本研究は、スロベニアの単一施設における外科切除検体を用いて、SP142抗体によるPD-L1 IHCを実施し、肺SCCとACにおけるTCおよびICのPD-L1発現パターン、ならびに観察者間の一致性を評価することを目的とした。これにより、組織型に依存したバイオマーカーとしてのPD-L1の意義を明らかにすることが期待される。
目的
本研究の目的は、スロベニアの単一施設で外科的に切除された非小細胞肺癌 (NSCLC) 検体を用いて、SP142抗体によるPD-L1免疫組織化学 (IHC) 染色を実施し、肺扁平上皮癌 (SCC) と腺癌 (AC) における腫瘍細胞 (TC) および免疫細胞 (IC) のPD-L1発現パターンを詳細に評価することである。さらに、PD-L1発現評価における観察者間の一致性を検証し、組織型に依存したバイオマーカーとしてのPD-L1の臨床的意義を明らかにすることを目指す。特に、TCとICそれぞれのPD-L1発現が組織型によってどのように異なるか、また、ICのPD-L1発現評価の再現性がどの程度であるかを明らかにすることで、免疫チェックポイント阻害薬の治療選択におけるPD-L1 IHCの解釈に重要な情報を提供することを意図する。本研究は、SP142抗体を用いたPD-L1 IHCの特性を考慮し、TCとICのPD-L1発現が異なる臨床的含意を持つ可能性を探るものである。
結果
患者特性と検体の内訳: 合計n=54例の腫瘍検体が解析され、内訳は腺癌 (AC) が29例 (54%)、扁平上皮癌 (SCC) が25例 (46%) であった。患者の大多数は男性 (34例、63%) であり、女性は20例 (37%) であった。診断時の平均年齢は62.4歳 (標準偏差 8.6歳) であった。喫煙状況については、現喫煙者が25例 (46%)、元喫煙者が21例 (39%) であり、非喫煙者は0例であった。8例 (15%) の喫煙状況は不明であった (Table 1)。
腫瘍細胞 (TC) のPD-L1発現と組織型間の比較: TCにおけるPD-L1発現は、SCCでACと比較して有意に高率であった。5%以上のカットオフ値を用いた場合、SCCでは52% (13/25) の症例がPD-L1陽性であったのに対し、ACでは17% (5/29) であり、統計学的に有意な差が認められた (p=0.016)。同様に、10%以上のカットオフ値を用いた場合でも、SCCでは52% (13/25) が陽性、ACでは14% (4/29) が陽性であり、この差も統計学的に有意であった (p=0.007)。これらの結果は、SCCにおいてTCのPD-L1発現がACよりも高いことを明確に示している (Figure 2)。TCにおけるPD-L1発現の観察者間一致性は非常に高く、5%以上のカットオフ値を用いた場合、κ値は0.89であり、p値は0.001未満であった。これは、3名の病理医間でTCのPD-L1染色パターン(細胞膜染色)の識別が非常に高い精度で行われたことを示唆している。
免疫細胞 (IC) のPD-L1発現と組織型間の比較: ICにおけるPD-L1発現については、SCCとACの間で統計学的に有意な差は認められなかった。5%以上のカットオフ値を用いた場合、SCCでは76% (19/25) がPD-L1陽性、ACでは72% (21/29) が陽性であり、p=0.764であった。10%以上のカットオフ値を用いた場合でも、SCCでは64% (16/25) が陽性、ACでは41% (12/29) が陽性であり、p=0.166であった。これらの結果は、組織型に関わらずICのPD-L1陽性率が高い傾向にあることを示している (Figure 2)。しかし、ICにおけるPD-L1発現の観察者間一致性は著しく低く、5%以上のカットオフ値を用いた場合、κ値は0.12であり、p=0.119であった。この低い一致度は、ICの分布や密度、あるいは腫瘍関連免疫細胞と間質免疫細胞の区別が困難であること、またSP142抗体を用いたIC評価基準の複雑さが影響している可能性が考えられる。
TCとICのPD-L1発現のコンパートメント内比較: 腺癌 (AC) 群では、ICのPD-L1発現がTCのPD-L1発現を有意に上回っていた。5%以上のカットオフ値を用いた場合、ACにおけるICのPD-L1陽性率は72% (21/29) であったのに対し、TCの陽性率は17% (5/29) であり、この差は統計学的に非常に有意であった (p<0.001)。10%以上のカットオフ値を用いた場合でも、ICの陽性率は41% (12/29)、TCの陽性率は14% (4/29) であり、有意差が認められた (p=0.008)。ACにおいてTC陽性であった全ての症例は同時にIC陽性でもあった。一方、扁平上皮癌 (SCC) 群では、TCとICのPD-L1発現の間に統計学的に有意な差は認められなかった (5%カットオフでp=0.146、10%カットオフでp=0.508)。SCCでは、TC陽性でIC陰性であった症例が3例存在した。
カットオフ値の影響と全体的なPD-L1陽性率: 5%と10%のカットオフ値を用いた結果は、主要な結論において一貫性を示した。しかし、10%カットオフ値ではACのTC陽性率が14%に低下し、小規模なサンプルサイズにおいては判別力に影響を与える可能性が示唆された。TCまたはICのいずれかでPD-L1陽性であった検体の全体的な陽性率は、5%以上のカットオフ値で80% (43/54) であり、10%以上のカットオフ値で57% (31/54) であった。ACでは、TCまたはICのいずれかで陽性であった割合は、IC単独の陽性率と同じであった (5%カットオフで72%)。これは、ACにおいてTC陽性であった全ての症例がIC陽性でもあったためである。SCCでは、全体的な陽性率はIC単独の陽性率よりもわずかに高かった (5%カットオフで88% vs 76%)。これは、TC陽性でIC陰性であった3例の存在によるものである (Table 2)。
喫煙歴とPD-L1発現の関連: SCC患者の多くは喫煙者または元喫煙者であり、これはSCCにおける高頻度の体細胞変異負荷 (TMB) と関連している可能性が示唆される。高TMBは、免疫チェックポイント阻害薬に対する奏効と関連することが報告されている Rizvi et al. Science 2015。本研究の患者コホートでは、喫煙者が25例 (46%)、元喫煙者が21例 (39%) を占めており、特にSCC患者において喫煙歴がPD-L1発現に影響を与えている可能性が考えられる。
考察/結論
本研究は、肺非小細胞肺癌 (NSCLC) におけるPD-L1発現が、組織型(扁平上皮癌 [SCC] と腺癌 [AC])および細胞コンパートメント(腫瘍細胞 [TC] と免疫細胞 [IC])に依存することを示した点で、PD-L1免疫組織化学 (IHC) の臨床解釈に重要な示唆を与える。
先行研究との違い: 既報の多くの研究がPD-L1発現をTCのみで評価しているのに対し、本研究はTCとICの両方でPD-L1発現を定量的に評価し、特にACにおいてICのPD-L1発現がTCを大きく上回ることを示した点で、これまでの報告と異なる知見を提供する。また、SP142抗体を用いたBlueprint PD-L1プロジェクトの知見と整合し、SP142がTC染色感度が低い一方でIC染色感度が高いという特性を、実際の患者検体で確認した。D’Incecco et al. の研究では、異なる抗体 (Ventana Ab58810) を使用し、生検検体と外科切除検体を混合して解析しており、本研究とは対照的に、SCCのTC陽性率が30%と低く報告されている。本研究は、均一な外科切除検体とSP142抗体を用いることで、より明確な組織型間のPD-L1発現差を捉えることができた。
新規性: 本研究で初めて、スロベニアのNSCLC患者コホートにおいて、SP142抗体を用いたPD-L1 IHCにより、SCCのTCにおけるPD-L1発現がACよりも有意に高いことを示した。また、ACではICのPD-L1発現がTCを統計学的に有意に上回るという、組織型特異的なコンパートメント間の発現差を明確に同定したことは新規の知見である。さらに、IC評価の観察者間一致性が著しく低いという課題を具体的に数値 (κ=0.12) で示したことも、今後のPD-L1評価の標準化に向けた重要な情報となる。
臨床応用: 本研究の知見は、免疫チェックポイント阻害薬の治療選択において、PD-L1 IHCの解釈に直接的な臨床的含意を持つ。SCC患者ではTCのPD-L1高発現が治療奏効と関連する可能性があり、これは喫煙関連の高体細胞変異負荷 (TMB) やインターフェロンγシグナル経路の活性化を反映していると考えられる。一方、AC患者では、TC単独のPD-L1評価ではICのPD-L1発現を見落とす可能性があり、アテゾリズマブなどの治療効果予測を過小評価するリスクがある。アテゾリズマブの臨床試験 (例: Fehrenbacher et al. Lancet 2016、Rittmeyer et al. Lancet 2017) では、TCとICの両方を含むPD-L1スコアが有効性の層別化因子として採用されており、本研究の結果はこれらの大規模試験の背景にある考え方と整合する。したがって、臨床現場では、特にAC患者において、ICのPD-L1発現も考慮に入れた総合的な評価が重要である。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、サンプルサイズがn=54例と比較的少ないため、結果の一般化には注意が必要である。第二に、SP142抗体のみを使用しており、他の承認された抗体(22C3、28-8、SP263)との直接比較は行われていない。異なる抗体間でのPD-L1発現評価の互換性については、さらなる検証が今後の検討課題である。第三に、本研究では臨床予後や免疫療法に対する奏効との直接的な関連は評価されていない。これらの関連を明らかにするためには、より大規模な前向き研究が必要である。第四に、腫瘍内のPD-L1発現の不均一性については詳細に評価されていない。最後に、IC評価の観察者間一致性が低いという結果は、IC評価の標準化と再現性向上に向けたトレーニングプログラムや、AI補助評価システムの開発の必要性を示唆している。EGFRやKRAS、ALKなどのドライバー遺伝子変異とPD-L1発現との関連についても、今後の研究で詳細に検討されるべきである。
方法
試験デザインと患者選択: 本研究は前向き観察研究として実施された。2006年から2015年の間にスロベニアのUniversity Clinic Golnikで診断・治療された原発性切除可能NSCLC患者の外科切除検体から、連続した患者の扁平上皮癌 (SCC) および腺癌 (AC) の腫瘍組織が選択された。合計n=54例の患者検体が含まれ、内訳はACが29例 (54%)、SCCが25例 (46%) であった。これらの検体は、同施設の病理学研究室で収集・保管されていた。本研究はヘルシンキ宣言に従って実施され、National Ethics Committeeの承認 (承認番号 40/04/12) を得ている。
患者特性: 患者のベースラインの臨床病理学的特性、具体的には診断時の年齢、性別、喫煙状況は、University Clinic Golnikの病院肺癌登録データベースから取得された。喫煙状況は、現喫煙者、非喫煙者、元喫煙者(肺癌の初回診断の1年以上前に禁煙した者と定義)に分類された。患者の平均年齢は62.4歳 (標準偏差 8.6歳) であり、男性が34例 (63%) と多数を占めた。喫煙者は25例 (46%)、元喫煙者は21例 (39%) であった。
免疫組織化学 (IHC) 染色: 腫瘍組織検体はホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) され、4 µm厚の切片にスライスされた。これらの切片は、Ventana/Roche (USA) 製のウサギモノクローナル抗体SP142を用いて、Ventana/Roche (USA) 製の自動プラットフォームBenchmark上でPD-L1染色された。PD-L1発現のコントロール組織としてヒト胎盤も免疫染色された。
PD-L1発現評価: 3名の独立した病理医 (I.K., U.J., L.C.) が、患者の臨床病理学的特徴に関する事前情報なしに、スライド全体を評価した。腫瘍細胞 (TC) および免疫細胞 (IC) におけるPD-L1陽性免疫組織化学反応の割合が、染色強度に関わらず0%から100%の範囲で評価された。TCの染色陽性は細胞膜染色として、ICの染色陽性は細胞質染色として評価された。ICの存在 (あり/なし) も各検体で評価された。
カットオフ値: PD-L1発現の陽性/陰性判定には、事前に計画された2つのカットオフ値、すなわち5%以上および10%以上のPD-L1発現がTCまたはICのいずれかで用いられた。
統計解析: 統計解析はSPSS v22ソフトウェアを用いて実施された。TCおよびICにおけるPD-L1発現の観察者間一致性は、Fleiss kappa統計量を用いて評価された。PD-L1発現と他の従属変数との関連性は、カテゴリカルデータにはカイ二乗検定、連続データにはt検定を用いて評価された。TCとICの発現間の関連性は、McNemar検定を用いて評価された。全ての解析において、p値が0.05未満である場合を統計学的に有意と判断した。