• 著者: P. A. Zucali, M. G. Ruiz, E. Giovannetti, A. Destro, M. Varella-Garcia, K. Floor, G. L. Ceresoli, J. A. Rodriguez, I. Garassino, P. Comoglio, M. Roncalli, A. Santoro, G. Giaccone
  • Corresponding author: G. Giaccone (Clinical Cancer Research, National Cancer Institute, NIH, Bethesda, MD, USA)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2008
  • Epub日: 2008-05-07
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 18467317

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) であるゲフィチニブやエルロチニブは、未選択患者の約10%に奏効を示す。しかし、これらの薬剤に対する耐性機序の詳細は十分に解明されていない点が課題であった。EGFR T790M変異は主に二次耐性に関連することが報告されており (Pao et al. PLoSMed 2005Kobayashi et al. NEnglJMed 2005)、KRAS変異は一次耐性に関連することが知られている (Pao et al. PLoSMed 2005)。また、ERKおよびAKTキナーゼ経路の持続的な活性化も、NSCLC細胞におけるEGFR-TKI耐性に寄与することが示されている。SRC活性化は、ヒト胆嚢腺癌細胞においてAKTおよびERKシグナル経路の調節を介してゲフィチニブ耐性を誘導することが報告されており、発癌性SRCおよびRASタンパク質は、細胞間接着におけるE-カドヘリン複合体の喪失を伴う上皮間葉転換 (EMT) を誘導し、浸潤および転移能を増加させる可能性がある。E-カドヘリン発現の回復は、肺癌細胞におけるEGFR-TKI感受性を増加させることが示されており (Witta et al. CancerRes 2006)、強いE-カドヘリン染色を有するNSCLC患者は、エルロチニブ/化学療法と化学療法単独の比較において、有意に長い無増悪生存期間 (TTP) を示し、全生存期間 (OS) の延長傾向が認められた (Yauch et al. ClinCancerRes 2005)。

一方、cMETチロシンキナーゼ受容体は、NSCLCを含む多くのヒト腫瘍で過剰発現および増幅が認められる。cMET刺激は、RAS/ERK、PI3K/AKT、およびcSRCキナーゼ経路を含む複数の下流シグナル経路を活性化する。cMETはSRC活性化を介してEMTの促進因子と考えられている。肝細胞増殖因子 (HGF、cMETのリガンド) の高レベル発現および腫瘍内cMET発現は、NSCLCにおけるより攻撃的な生物学的特性と不良な予後に関連することが示されている。HGF/cMET経路の異常は、NSCLC細胞に実質的な増殖優位性および浸潤能を付与する可能性がある。さらに、siRNA、低分子化合物、および特異的抗体を含む様々な治療戦略によるcMET標的阻害が、NSCLC細胞の増殖および生存率の低下につながることが最近の研究で示されている。Engelman et al. Science 2007は、ゲフィチニブ感受性肺癌細胞株におけるcMET増幅がゲフィチニブ耐性を誘導し、ERBB3-PI3K/AKT経路を介することを報告した。しかし、EGFR-TKI治療を受けた患者の腫瘍検体における活性化cMET発現と臨床転帰との関連は、これまで十分に解明されておらず、この点が知識のギャップとして残されていた。特に、EGFR-TKI治療における一次耐性のバイオマーカーとしての活性化cMETの役割については、臨床データが不足していた。

目的

本研究の目的は、EGFR-TKI治療を受けたNSCLC患者の腫瘍サンプルにおける複数の生物学的マーカー (pAKT、pERK、cSRC、E-カドヘリン、およびcMETの各リン酸化部位) の発現と治療転帰との関連を評価することである。特に、活性化cMETの一次EGFR-TKI耐性バイオマーカーとしての意義を明らかにすることを目指した。さらに、in vitro試験において、cMET抗体DN-30とゲフィチニブの併用効果を検討し、EGFR-TKI耐性を克服するための新たな治療戦略の可能性を評価することも目的とした。これにより、EGFR-TKI治療に対する患者の反応を予測し、個別化医療の進展に貢献する知見を得ることを意図している。

結果

患者特性と治療奏効: 最初の51例のゲフィチニブ治療NSCLC患者において、奏効 (PR) は3例 (6%) に認められ、48例がSD (安定疾患) またはPD (病勢進行) であった。奏効した3例は全員女性、腺癌、非喫煙者であった。EGFRエクソン19欠失 (4例) はPR (p<0.0001) およびより長いTTP (p=0.007) と有意に関連した。KRAS変異は15例に検出されたが、これらの患者では奏効は認められなかった。

cMET[pY1003]発現と一次耐性の関連: 43例の評価可能な腫瘍のうち、4例 (9.3%) でcMET[pY1003]の強い膜染色 (3+) が認められた。これらの4例は全例が治療に対してPDを示し (4/4例、p=0.019)、中央値TTPは1.2ヶ月と、他の群 (3.2ヶ月) と比較して有意に短かった (p=0.0416)。一方、中程度 (2+) および弱い (1+) 発現、または陰性 (0) の群では、TTPに有意差は認められなかった。追加の2シリーズの患者コホートでも同様の傾向が確認され、エルロチニブまたはゲフィチニブ治療を受けた27例の進行NSCLC患者のうち2例 (7.5%) でcMET[pY1003]の過剰発現が認められ、両者ともPDであった。根治切除を受けた71例のNSCLC患者のうち3例 (4%) でcMET[pY1003]の過剰発現が認められた。3シリーズ合計149例におけるcMET[pY1003]過剰発現の全体頻度は6% (9/149例) であった。これらの9例は全員が喫煙者または元喫煙者であり、EGFR変異は陰性であった。9例中6例でKRAS変異が陽性であり、6例でpAKTおよびpERKの両方が陽性であった。また、これらの患者の多くでE-カドヘリン陰性が認められ、EMTに関連する特徴と一致した (Table 3)。

FISH解析 (cMETコピー数): 51例中42例でFISH解析が評価可能であり、21例 (50%) でFISH陽性 (MET高コピー数) が認められた。このうち1例でMET遺伝子増幅が確認された。cMET[pY1003]強発現の4例中3例がFISH陽性であったが、cMET[pY1003]過剰発現とFISH陽性との間に統計的に有意な関連は観察されなかった (p=0.6)。cMET増幅を伴う1例の患者はSDを示し、KRAS変異を有していた。2例のFISH陽性患者はEGFR変異も有しており、1例はPD、もう1例はPRであった。この結果は、活性化cMETの評価にはFISHによるコピー数解析よりもIHCによるリン酸化タンパク質発現の評価が優れている可能性を示唆している。

変異解析: 4例の患者でEGFRエクソン19欠失が認められ、15例の患者でKRAS変異が検出された (Table 2)。EGFRエクソン18、20、21に変異は認められなかった。KRAS変異を有する腫瘍ではEGFR19変異は認められず、KRAS変異を有する患者はいずれもゲフィチニブ治療後にPRを達成しなかった。cMET[pY1003]過剰発現腫瘍では、cMETエクソン14および15に変異は検出されなかった。

多変量解析 (独立予後因子の同定): Cox比例ハザードモデルによる多変量解析では、病勢進行のリスク増加と有意に関連する独立因子として、cMET[pY1003]強発現 (ハザード比 [HR]=2.464、95%信頼区間 [CI] 1.293-4.696、p=0.006) およびPS≥2 (HR=4.605、95% CI 1.773-11.961、p=0.002) が同定された。病勢進行のリスク減少と有意に関連する独立因子として、腺癌組織型 (HR=0.217、95% CI 0.087-0.542、p=0.001) およびpAKT陽性 (HR=0.461、95% CI 0.298-0.713、p=0.001) が確認された。死亡リスク増加因子はPS≥2 (HR=2.398、95% CI 1.079-5.330、p=0.032) であり、死亡リスク低下因子はBAC組織型 (HR=0.506、95% CI 0.277-0.924、p=0.026) であった (Table 4)。

In vitro試験 (ゲフィチニブ+cMET抗体DN-30の相乗効果): ゲフィチニブは、H1650細胞 (EGFR 19欠失) で0.1 μM、H460細胞 (KRAS変異、cMET[pY1003]陽性) で24 μMのIC50値を示した。DN-30 (80 μg/ml) 単独では細胞増殖の軽度な阻害を示したが (Figure 2B)、SW1573細胞ではcMETのダウンレギュレーションを誘導した (Figure 2C)。HGFの添加はゲフィチニブの活性をわずかに低下させたが、DN-30の追加はH460、SW1573、A549、およびH292細胞においてゲフィチニブによる増殖抑制を増強し、IC50値は0.06 μM (H292) から18 μM (H460) の範囲であった。CI計算では、これらの細胞株全てで相乗効果 (CI < 1) が示された (Figure 2E)。対照的に、cMET[pY1003]発現が陰性であるH1650細胞では、ゲフィチニブにDN-30を追加しても細胞増殖の有意な減少は認められず、薬理学的相互作用研究では拮抗効果 (CI > 1) が示された。これは、cMET活性化依存的な相乗効果の特異性を裏付けるものであった。

考察/結論

本研究は、活性化cMET (cMET[pY1003]強発現) がNSCLC患者における一次ゲフィチニブ耐性の独立したバイオマーカーであることを初めて臨床的に実証し、in vitroにおいてゲフィチニブとcMET抗体の相乗効果を示した重要な報告である。

先行研究との違い: これまでの研究では、cMET増幅がゲフィチニブ耐性に関与することがin vitroで報告されていたが (Engelman et al. Science 2007)、本研究は、FISHによる遺伝子コピー数ではなく、IHCによるリン酸化cMETタンパク質の発現が臨床的な一次耐性と強く関連することを示した点で、先行研究とは異なる知見を提供している。特に、cMET[pY1003]強発現がPDのリスク増加と独立して関連するという多変量解析の結果は、このバイオマーカーの臨床的有用性を強調するものである。

新規性: 本研究で初めて、cMET[pY1003]の強発現がゲフィチニブ一次耐性の独立した予測因子であることを臨床コホートで明らかにした。cMET[pY1003]強発現 (3+) の頻度は約6%と低いものの、この患者群は全例でPDを示し、典型的なEGFR-TKI無効群の特徴 (喫煙歴、EGFR変異陰性、KRAS変異陽性) を示したことは新規の発見である。また、in vitro試験において、cMET[pY1003]発現細胞株でゲフィチニブとcMET抗体DN-30の併用が相乗効果を示すことを実証した点も新規性がある。

臨床応用: 本知見は、EGFR-TKI治療前のcMET[pY1003] IHC検査が、一次耐性患者を特定するための有用なツールとなり得ることを示唆している。cMET[pY1003]強発現患者に対しては、EGFR-TKI単独療法ではなく、EGFR-TKIとcMET阻害薬の併用療法を検討することが合理的な治療戦略として示唆される。これにより、EGFR-TKI治療の個別化を推進し、患者の治療成績向上に貢献する臨床応用が期待される。

残された課題: 本研究の限界は、最初のコホートが51例という比較的小規模な後ろ向き解析であること、およびcMET[pY1003]強発現例が4例と少数であったことである。このため、これらの知見を一般化するためには、より大規模なコホートでの前向き検証が必要である。また、cMET[pY1003]強発現患者におけるEGFR-TKIとcMET阻害薬の併用療法の有効性と安全性を評価するための前向き臨床試験が今後の検討課題として残されている。さらに、cMET[pY1003]のリン酸化がc-Cblなどのタンパク質との結合に重要な役割を果たし、受容体の内在化を調節することから、このリン酸化が持続的な腫瘍刺激を誘導するメカニズムのさらなる詳細な解明も今後の研究方向性である。

方法

本研究は、イタリアのHumanitas臨床研究所においてゲフィチニブの拡大アクセス試験で治療を受けた51例の進行NSCLC患者を対象とした後ろ向き研究である。プロトコルは施設倫理委員会によって承認され、全患者から書面によるインフォームドコンセントが得られた。患者はゲフィチニブ250 mg/日を連日経口投与され、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 基準に従い2ヶ月ごとに奏効評価が行われた。

腫瘍組織マイクロアレイ (TMA) を構築するため、最初の51例の患者からパラフィン包埋腫瘍検体を収集した。病理医が腫瘍コア、腫瘍境界、および正常組織から1 mm²のパンチ領域を選択し、受容体組織アレイブロックに組み込んだ。免疫組織化学 (IHC) 染色では、pAKT (Ser473)、pERK (P-p44/42Mapk-Thr202/Tyr204)、E-カドヘリン、およびcSRCに対する抗体を用いた。cMET活性化は、NSCLCで活性化cMETを特徴づけるリン酸化エピトープの発現を評価するため、3種類のcMET抗体 ([pY1003]、[pY1230/1234/1235]、[pY1349]) を用いて決定された。pAKTは核染色、pERKおよびcSRCは染色強度、E-カドヘリンおよびpMETは膜染色強度に基づいてスコアリングされた。特に、cMET[pY1003]は膜染色が強い場合 (スコア3+) に陽性と判断された (Figure 1)。

cMET FISH解析には、BAC (bronchioloalveolar carcinoma) クローンRP11-95I20を用いて開発された自家製MET FISHプローブが使用された。検体は、細胞あたりのMETシグナル数に基づいて4つのFISHランクに分類され、ランク3および4がFISH陽性とされた。EGFR (エクソン18-21)、KRAS (エクソン1, 2)、およびcMET (エクソン14, 15) の変異解析は、全ゲノムDNAを抽出し、ネストPCRおよびダイレクトシーケンシングによって実施された。

cMET[pY1003]強発現の頻度をより大規模なNSCLC集団で評価するため、オランダのVrije大学医療センターで治療された2つの追加コホート (ゲフィチニブまたはエルロチニブ治療を受けた進行NSCLC患者27例、根治切除を受けたNSCLC患者71例) においてもcMET[pY1003]発現が評価された。

In vitro試験では、ヒトNSCLC細胞株 (A549、SW1573、H460、H292、H1650など) を使用した。細胞はゲフィチニブ単独、またはHGF (40 ng/ml) およびcMET抗体DN-30 (80 μg/ml) との組み合わせで処理された。増殖抑制効果はMTTアッセイによって評価され、薬物相互作用は非定常濃度比での併用指数 (CI) 法を用いて評価された。

主要評価項目は、病勢進行 (PD) の頻度、無増悪生存期間 (TTP)、および全生存期間 (OS) であった。統計解析には、Fisherの正確検定またはχ²検定、Kaplan-Meier法による生存曲線、ログランク検定、およびCox比例ハザードモデルによる多変量解析が用いられた。多変量解析には、単変量解析でp<0.05の有意水準を示した変数のみが投入された。すべての統計解析はSPSSソフトウェア (バージョン14.0) を使用して実施された。