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Epithelial versus mesenchymal phenotype determines in vitro sensitivity and predicts clinical activity of erlotinib in lung cancer patients

  • 著者: Yauch RL, Januario T, Eberhard DA, et al.
  • Corresponding author: Amler LC (Genentech, Inc., South San Francisco, CA, USA)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2005
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 16361555

背景

EGFR阻害剤erlotinibは進行NSCLC患者の生存を改善することが示されていたが、第一選択化学療法との併用 (TRIBUTE試験など) では全体集団で臨床的な上乗せ効果を示せなかった。当時、EGFR変異・遺伝子増幅・タンパク過剰発現の3機序がEGFR活性化の根拠として示されていたが、これらのマーカーだけではerlotinibの臨床効果を完全に説明できなかった。例えば、EGFR変異は非小細胞肺癌患者の約10-15%にしか認められず、erlotinibの恩恵を受ける可能性のある広範な患者集団を同定するバイオマーカーの探索が急務であった。また、EGFR活性化の機序に依存しない包括的なシグネチャーの同定という視点も従来は不足していた。先行研究では、EGFR変異がEGFR-TKIへの応答性を予測することが報告されていたが (Lynch et al. NEnglJMed 2004Paez et al. Science 2004)、これらのマーカーだけではerlotinibの臨床効果を完全に説明するには至らず、より広範な患者選択を可能にする新たな予測バイオマーカーの同定が未解明であった。さらに、EGFR-TKI耐性メカニズムに関する研究も進められていたが (Pao et al. PLoSMed 2005)、感受性予測バイオマーカーの探索は依然として重要な課題として残されていた。

目的

42株のNSCLC細胞株パネルを用いた薬理ゲノミクスアプローチにより、erlotinib活性を予測する遺伝子シグネチャーをin vitroで同定すること。さらに、TRIBUTE第III相無作為化試験 (NCT00006277) の腫瘍検体への適用によってそのシグネチャーの臨床的関連性を検証すること。

結果

EMTシグネチャーがerlotinib感受性の主要決定因子である: 42株のNSCLC細胞株は約2-log範囲のerlotinib IC50 (0.3〜>10 μmol/L) を示した。感受性はEGFR媒介増殖能・EGFR変異・EGFR遺伝子増幅と相関したが、これらだけでは全感受性株を説明できなかった。KRAS変異 (31% の細胞株) は主に中間感受性株に集積し、HER3転写レベルは感受性株で有意に高かった (P=0.04)。TGFα・amphiregulin・β-cellulに代表されるEGFRリガンド転写レベルも感受性株で有意に高かった。非教師あり階層的クラスタリング (4,562変動遺伝子) では、NSCLC細胞株が2つのサブクラスに明瞭に分類され、感受性株の大多数が一方のブランチに集積した (感受性16株中14株が正しく分類) (Figure 2A)。教師あり解析で同定された100マーカー遺伝子のうち、感受性株高発現50遺伝子にはE-cadherin・plakophilin 3・stratifin1等の上皮関連遺伝子が含まれ、非感受性株高発現50遺伝子にはvimentin・TCF8 (Transcription factor 8、ZEB-1)・epimorphin等の間葉系遺伝子が含まれた (Table 1)。Gene Ontology解析では後者の24% (12/50) が形態形成関連生物学的プロセスに分類された。7つのEMT (上皮間葉転換) マーカー遺伝子を用いた2次元クラスタリングでも、E-cadherin・γ-catenin・α-cateninが上皮クラスター、N-cadherin・vimentin・FGFR1・TGFβが間葉系クラスターを形成し、大多数の感受性株・非感受性株が対応するブランチに集積することを確認した (Figure 2C)。また、一次NSCLC腫瘍80検体でも、感受性関連遺伝子群・非感受性関連遺伝子群それぞれ内での発現相関が有意に正であり (P<1e-5)、感受性群と非感受性群の間では有意な負の相関を示した (P<1e-5)。

EMTマーカータンパクの発現パターンを確認: E-cadherin・γ-cateninは感受性細胞株で高発現し、vimentin (部分的にN-cadherin) は非感受性株で主に発現した。Western blotによる半定量的タンパク発現値の非教師あり階層解析でも、感受性株の大多数が上皮サブグループに集積することを確認した (Figure 3B)。細胞株tissue microarrayでのE-cadherin免疫組織化学染色はWestern blotの発現と良好に対応し、一次NSCLC腫瘍組織でも上皮腫瘍細胞に強い膜・細胞質染色が認められた (Figure 3C)。核染色も観察されたが、mRNAやWestern解析での発現と相関せず、アーティファクトと判断された。

TRIBUTE試験でE-cadherin陽性患者においてerlotinib臨床活性を確認: TRIBUTE試験参加患者87名のE-cadherin免疫組織化学染色の結果、75% (65/87名) が陽性 (強発現) であった。E-cadherin陽性群 (n=65) では、erlotinib+化学療法群はchemotherapy単独群と比較してTTPが有意に延長した (中央値 34週 vs. 19.3週; HR 0.37; 95% CI 0.19-0.73; log-rank P=0.003) (Figure 4A)。E-cadherin陰性群 (n=22) ではerlotinib追加による利益は認められず、むしろ逆転傾向を示した (TTP中央値 19.1週 vs. 30週; HR 1.63; 95% CI 0.50-5.33; P=0.40) (Figure 4B)。全生存期間についてはE-cadherin陽性群でerlotinib+化学療法群の生存延長傾向を認めたが統計的有意差には至らなかった (中央値 15.1ヶ月 vs. 13.6ヶ月; HR 0.82; 95% CI 0.43-1.58; P=0.56)。全患者集団のTTPはerlotinib追加で有意差なく (中央値 23.7週 vs. 22.3週; HR 0.90; 95% CI 0.78-1.05; P=0.17)、E-cadherin層別化による予測的バイオマーカーとしての価値が示された。奏効率 (RECIST) のE-cadherin陽性群では18% vs. 14%、陰性群では25% vs. 43%であり、有意差はなかった。また、E-cadherin陽性は治療割付によらず良好な中央値生存 (13.6ヶ月 vs. 10.6ヶ月) と関連しており、予後マーカーとしての側面も示唆された (P=0.49、有意差なし)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、NSCLCにおけるEGFR阻害剤感受性の決定因子として、EGFR変異や増幅といった従来のマーカーとは異なる、EMT (上皮間葉転換) シグネチャーの重要性を体系的に示した点で、これまでの研究と対照的である。特に、E-cadherin発現という単一のタンパク質マーカーが臨床活性を予測し得ることを実証した点は、先行研究では十分に検討されていなかった。

新規性: 本研究で初めて、NSCLC細胞株パネルを用いた薬理ゲノミクス解析により、EMTシグネチャーがerlotinib感受性の主要決定因子であることを新規に同定した。上皮表現型を維持する腫瘍がerlotinibに感受性であり、間葉系表現型への転換が治療抵抗性と関連するという知見は、これまで報告されていない重要な発見である。

臨床応用: 本知見は、erlotinibの臨床活性を予測する新規バイオマーカーとしてE-cadherinが臨床応用可能であることを示唆する。TRIBUTE試験の患者検体を用いた解析では、E-cadherin高発現患者においてerlotinibと化学療法の併用群が化学療法単独群と比較して、無増悪期間(TTP)を有意に延長した (HR 0.37; 95% CI 0.19-0.73; log-rank P = 0.003)。この結果は、EGFR-TKI治療における患者選択の重要性を先駆的に示したものであり、臨床現場での個別化医療の推進に貢献する臨床的意義を持つ。

残された課題: TRIBUTE試験の全参加者 (n=1,079) のうちE-cadherin評価が得られたのは87名 (8%) に留まるため、選択バイアスが存在する可能性があることが残された課題である。また、E-cadherin陰性群ではerlotinib上乗せが逆効果の傾向を示しており、間葉系腫瘍におけるEGFR阻害剤の有害な作用機序については今後の検討を要する。さらに、KRAS変異株の一部でerlotinib感受性が認められるなど、EMTシグネチャーと他のEGFR経路活性化指標との関係の複雑さが残された課題である。検証的な大規模試験の実施が今後の課題として提起される。

方法

細胞株パネルの構築と感受性評価: 42株のNSCLC細胞株を対象に、低血清条件下でTGFα (3 nmol/L) によりEGFR活性化した状態でerlotinib感受性 (IC50) を測定した。IC50 < 2.0 μmol/Lを感受性、>8.0 μmol/Lを非感受性と定義した。TGFα駆動性増殖能 (maximal stimulation index) も算出した。アポトーシス誘導能はcaspase-3/7活性測定で確認した。EGFR変異 (exon 18-21のSanger sequencing)、KRAS変異 (exon 2)、EGFR遺伝子増幅 (FISH)、HER family受容体・リガンドのqRT-PCR、EGFR表面発現 (FACS) を網羅的に評価した。

遺伝子発現解析: Affymetrix HGU133Plus_2.0マイクロアレイを用いて全42株の基礎遺伝子発現プロファイルを取得した。非教師あり解析では4,562の最も変動した遺伝子を用いた階層的クラスタリングを実施した。教師あり解析では感受性・非感受性の最上位50プローブセットを抽出し、計100のマーカー遺伝子を同定した (GenePatternのsignal-to-noise metric)。さらに確認として7つの確立したEMT (上皮間葉転換) マーカー遺伝子 (E-cadherin、γ-catenin、α-catenin、N-cadherin、vimentin、FGFR1、TGFβ) による2次元階層的クラスタリングを実施した。一次NSCLC腫瘍の遺伝子発現データ80検体 (BioExpressデータベース) でもシグネチャーの相関性を確認した。

タンパク発現解析: NSCLC細胞株でWestern blot (E-cadherin、γ-catenin、N-cadherin、vimentin) を実施し、mRNA発現と対応させた。

臨床検体解析 (TRIBUTE試験): TRIBUTE (Tarceva in Patients with Lung Cancer) 試験 (erlotinib+化学療法 vs 化学療法単独、第III相無作為化試験、n=1,079) に参加した患者のうち、腫瘍組織研究への追加同意が得られた87名の腫瘍検体 (tissue microarray) にてE-cadherinの免疫組織化学染色を実施した。E-cadherin発現スコア0-3で評価し、強さ2-3を陽性、0-1を陰性と定義した。主要評価項目はtime to progression (TTP) とoverall survival (OS)。Kaplan-Meier法で生存曲線を描画し、log-rank検定でP値算出、Cox回帰でhazard ratio (HR) を推定した。