- 著者: Lee JK, Shin JY, Kim S, Lee S, Park C, Kim JY, Koh Y, Keam B, Min HS, Kim TM, Jeon YK, Kim DW, Chung DH, Heo DS, Lee SH, Kim JI
- Corresponding author: S.-H. Lee (Division of Hematology and Medical Oncology, Seoul National University Hospital, Seoul, Korea)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2013
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 23559152
背景
これまでの研究としてIPASS (Mok et al. NEnglJMed 2009) ・NEJ002 (Maemondo et al. NEnglJMed 2010) ・WJTOG3405 (Mitsudomi et al. LancetOncol 2010) ・EURTAC (Rosell et al. LancetOncol 2012) の大規模無作為化試験により、EGFR (epidermal growth factor receptor) 活性化変異を有する進行非小細胞肺癌 (NSCLC、non-small-cell lung cancer) に対するEGFR-TKI (tyrosine kinase inhibitor、gefitinib/erlotinib) の優越性が確立された。これらの試験では約70%の患者が客観的奏効を示したが、残る約30%はTKIに対して一次耐性 (primary resistance、原発性耐性) を示した。
二次耐性 (獲得耐性、secondary/acquired resistance) のメカニズムとしては既報でT790M ゲートキーパー変異 (Kobayashi et al. NEnglJMed 2005) ・MET (mesenchymal-epithelial transition) 増幅によるキナーゼスイッチング (Engelman et al. Science 2007; Bean et al. ProcNatlAcadSciUSA 2007) ・PIK3CA (phosphatidylinositol-4,5-bisphosphate 3-kinase, catalytic subunit alpha) 変異・小細胞肺癌 (SCLC、small-cell lung cancer) への形質転換 (Sequist et al. SciTranslMed 2011) などが明らかにされてきたが、一次耐性の臨床的・分子生物学的背景はほとんど解明されていなかった。
先行する小規模後方視的研究で以前の研究としてKRAS変異・de novo MET増幅・PTEN (phosphatase and tensin homolog) 消失などの共存遺伝子異常が一次耐性と関連する可能性が示唆されていたが、いずれも症例数が少なく再現性は不確かであった。また BIM (Bcl-2-interacting mediator of cell death) 遺伝子内の約2900 bp欠失多型がTKI誘導アポトーシスを障害し内因性耐性をもたらす可能性が Ng et al. (Nat Med 2012) によって提唱されたが、NSCLCでの大規模検証は行われていなかった。何が足りなかったかというと、(1) EGFR変異 NSCLC 一次耐性例の包括的ゲノムプロファイル (NGS-based) の系統的解析、(2) BIM欠失多型の NSCLC コホートでの validation、(3) 一次耐性に共通するドライバー異常の存在の検証、の3点が gap として未解明であった。
目的
TKI感受性EGFR変異を有するNSCLCにおけるEGFR-TKI一次耐性の分子メカニズムを探索的に調査すること。特に (1) 主要な癌ドライバー遺伝子異常 (T790M・MET増幅・ALK融合・KRAS等) の共存が一次耐性を説明しうるか、(2) BIM欠失多型がTKI転帰を予測しうるか、(3) 一次耐性と関連する臨床的予測因子 (BIM多型・治療ライン・EGFR変異型・喫煙) を検討すること。
結果
コホート全体の治療成績と一次耐性の頻度:ORR 78.8%・PFS中央値11.9か月、3か月時点での一次耐性5.6%:n=197例全体の客観的奏効率 (ORR、objective response rate) は78.8% (CR n=3 [1.5%] + PR n=150 [77.3%]、SD n=33 [17%] 、PD n=11 [4.1%])、PFS中央値は11.9か月 (95% CI 10.1-13.7か月、Fig 3A) であった。データカットオフ時点 (2012年8月) で n=141 (71.6%) に進行イベントが発生していた。3か月時点でのPFSは94.4%であり、n=11 (5.6%) が一次耐性 (3か月未満進行) を示した。一次耐性11例の疾患負荷は多くが大きく (Stage IIIB 2例を除く)、うち4例 (S129・S102・S254・S211) はTKI投与中にCNS (central nervous system、中枢神経系) への症候性転移を発症して進行した (Table 3)。
一次耐性例での共存ドライバー異常の同定:T790M・MET増幅・ALK融合で3/10例 (30%) が説明可能:一次耐性11例のうち組織が十分な10例に追加分子解析を実施した。ALK FISHをn=7例に行い、そのうち S211 (74歳男性・exon 19 deletion・1次治療) でALK融合を同定した (50%のbreak-apart signal、25/50 cells陽性)。この患者はgefitinib失敗後にcrizotinibで持続奏効を達成しており (PFS 21.9か月、OS 21.9か月)、ALK融合が真のドライバーであったと考えられた。MET FISHをn=6例に行い、S153 (56歳女性・L858R・2次治療) でMET増幅を同定した (17%の細胞でMETコピー数>15、Cappuzzo基準gene copy number=10,025、約2000-fold増幅)。Targeted deep sequencingをn=9例に行い、S129 (48歳女性・exon 19 deletion+T790M複合・1次治療) がexon 20のde novo T790M変異を初診時から併有していたことが既存のEGFR sequencingで確認された (PFS 0.7か月、OS 0.8か月で最短)。Table 3に11例全例 (S211・S153・S102・S217・S61・S117・S196・S78・S259・S254・S129) の年齢・性別・組織型・治療ライン・BIM・EGFR変異・MET FISH・ALK FISH・deep sequencing・転移巣・PFS (0.4-2.7か月) ・OS (0.8-21.9か月) を網羅した (Fig 2はBIM PCR、Fig 3はPFS Kaplan-Meier曲線)。
TP53共存変異と新規mutationの検出:Targeted deep sequencingで TP53変異が n=3/9例 (33%) に検出された (S217: G245V、S102: R342C、S78: R82H、いずれも肺癌で既報のhotspot)。これ以外に一次耐性に共通する再発性ドライバー変異 (KRAS・BRAF・ERBB2・PTEN・PIK3CA 等) は同定されなかった (0/9例)。S102にNOTCH1 T1574A 変異とMET高polysomy (gene copy number=4.2) ・S259にSMAD4 I179V 変異が見られたが、いずれも新規変異であり機能的意義は不明であった。
BIM欠失多型・EGFR変異型・治療ライン・喫煙の予測能の否定:BIM欠失多型はn=21/193例 (10.9%) に認めたが、BIM欠失群と野生型群のPFS中央値に差はなかった (11.9か月 vs 11.3か月、HR not reported、log-rank p=0.791、Fig 3B)。これはNg et al. (Nat Med 2012) の報告した予測能を本コホートで否定する結果であった。治療ライン (1次治療 vs 2次以降:10.7か月 vs 11.9か月、p=0.580、Fig 3C)、EGFR変異型 (exon 19 deletion vs L858R:11.3か月 vs 12.2か月、p=0.596、Fig 3D)、喫煙歴 (非喫煙 vs 喫煙:12.0か月 vs 10.7か月、p=0.436、Fig 3E) もいずれもPFSの有意な予測因子とならなかった。
術後再発例の良好なPFS:診断時disease burden効果:一方、術後再発例 (n=42) はinitial Stage IV例より有意にPFSが長かった (16.0か月 vs 10.0か月、p=0.007、Fig 3F)。Stage IIIB例 (n=7) のPFS中央値は18.0か月とさらに長かった。この差は術後定期観察による早期再発検出 (疾患負荷が小さい状態でのTKI開始) で説明できると考えられた。
考察/結論
本研究はEGFR変異陽性NSCLCにおけるTKI一次耐性のメカニズムを最大規模 (一次耐性11例) のコホートで系統的に解析した初の探索研究であり、これまでの研究と異なる点として、ターゲットディープシーケンシング (46遺伝子・739 hotspot) を用いた包括的ゲノム解析と BIM欠失多型の大規模検証 (Ng et al. NatMed 2012 の追試) を同一コホートで実施した点が新規である。本研究で初めて示された主要な所見は、(1) 一次耐性例の30% (3/10) のみが既知ドライバー異常 (de novo T790M・MET増幅・ALK融合) で説明可能で、残り70%は原因不明であること、(2) BIM欠失多型はNSCLCコホートでTKI転帰の予測因子とならないこと、(3) targeted deep sequencingで一次耐性に共通する recurrent driver mutation は同定されなかったこと、の3点である。これは一次耐性が遺伝学的に高度に不均一 (heterogeneous) で、単一マーカーによる予測が困難であることを示している。
既知の一次耐性機序の報告頻度との比較では、de novo T790M は0.6-3%・MET増幅は約1.5%の報告と整合し、ALK融合とEGFR変異の共存は東アジア集団で最大10%に生じうるとされ (Rimkunas et al. ClinCancerRes 2012)、今回の症例も一致する。これまでの一次耐性関連研究の多くは候補遺伝子アプローチでKRAS・PTEN等を個別に検討したが、本研究は46遺伝子の包括解析でも recurrent driver なしという陰性結果を示した点で対照的である。
新規性:本研究で初めて NOTCH1 T1574A 変異と SMAD4 I179V 変異がEGFR変異NSCLC 一次耐性例で検出された。NOTCH1 T1574A は血液腫瘍 hotspot コドン1575 隣接で、その機能的意義は今後の検討課題である。
BIM欠失多型に関する考察:Ng et al. の元論文では慢性骨髄性白血病 (CML、chronic myelogenous leukemia) でimatinib耐性、NSCLC 23例でTKI耐性予測の知見が示されたが、本研究の197例 (NSCLCのみ・東アジア人) では予測能なしという真逆の結果が得られた。これは BIM 欠失多型の頻度が東アジア人で約12%と高いものの、機能的影響はBH3-only proteinやBIM RNA発現量に依存し、deletion 単独では転帰を予測しないことを示唆する。
臨床応用と臨床的意義:本研究の bench-to-bedside の含意は、(1) EGFR変異 NSCLC でも 5.6% は一次耐性となり、臨床医はこの可能性を念頭に置く必要があること、(2) ALK FISH と MET FISH は一次耐性例で実施する価値があり (ALK 融合発見ならcrizotinib で持続奏効可能)、(3) BIM 欠失多型は単独で TKI 治療判断に用いるべきではないこと、(4) 術後再発例は disease burden が小さく予後良好なため、サーベイランス間隔の最適化が重要であること、を示す。EGFR変異NSCLCで一次耐性が疑われた場合は、ALK・MET・T790Mの de novo 検査 (RNA-seq FISH + NGS) を行うべきとの実践的指針を支持する。
残された課題:(1) 単施設・少数例 (n=197/一次耐性 n=11) で recurrent driver の同定検出力が不足、(2) アーカイブ FFPE 組織の品質不均一で deep sequencing 失敗例あり、(3) 一次耐性に共通する遺伝子異常が同定できなかった (true negative か under-powered か不明)、(4) prospective collection・WES (whole exome sequencing) ・RNA-seq・methylation profiling 等の包括的マルチオミクス解析が今後の検討課題、(5) TKI開始前tumor heterogeneity の影響評価 (small subclone 由来 de novo T790M の clonal selection 仮説、Turke et al. CancerCell 2010 と整合) の今後の研究が必要である。
結論として、TKI感受性EGFR変異陽性NSCLC 197例中11例 (5.6%) が一次耐性を示し、そのうち3例でde novo T790M変異・MET増幅・ALK融合の共存遺伝子異常が同定された。しかし大部分の一次耐性は原因不明であり、BIM欠失多型・EGFR変異型・治療ライン・喫煙はいずれも有意な予測因子とならなかった。一次耐性機序の不均一性が示され、包括的ゲノムプロファイリングを用いた個別化アプローチの必要性が強調された。
方法
コホート:2006-2011年にSeoul National University Hospital (SNUH) でTKI感受性EGFR変異陽性NSCLCとしてgefitinibまたはerlotinibを受けた連続n=288例から、アーカイブ組織が得られない77例と初回奏効評価前に治療中止となった14例を除外したn=197例を解析対象とした (Fig 1)。EGFR活性化変異の定義はG719X・exon 19 deletion・L858R・L861Q (Jackman et al. JClinOncol 2010 の基準)。
患者背景:年齢中央値62歳 (31-85歳)、男性n=73 (37.1%) ・女性n=124 (62.9%)、非喫煙者n=142 (73.2%)、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) 0-1がn=172 (87.3%)、組織型は腺癌n=191 (97.0%)、臨床病期はIIIB n=7 (3.6%) ・IV n=148 (75.1%) ・術後再発n=42 (21.3%)。EGFR変異型はexon 19 deletion n=115 (58.4%) ・L858R n=72 (36.5%) ・G719X n=1 (0.5%) ・complex mutation n=9 (4.6%)。TKI治療は初回治療がn=67 (34.0%) ・gefitinib n=179 (90.9%) ・erlotinib n=18 (9.1%) であった。
一次耐性の定義:TKI開始後3 か月 (90日) 未満の病勢進行かつ客観的奏効の証拠なしと定義。RECIST 1.1で奏効評価し、PFS (progression-free survival、無増悪生存期間) はTKI開始日から放射線学的または臨床的進行までと定義した。
BIM欠失多型の検出:FFPE (formalin-fixed paraffin-embedded) 組織からゲノムDNAを抽出し、TAKARA Ex Taq Hot Startポリメラーゼで2セットのプライマー混合PCRを実施 (95℃ 30 s、98℃ 10 s/60℃ 10 s/72℃ 30 sを40サイクル、72℃ 3 min最終伸長)。PCR産物 (deleted BIM = 284 bp、wild-type BIM = 362 bp) を2%アガロースゲル電気泳動で判定 (Fig 2)。
一次耐性例の追加分子解析:(1) ALK FISH (anaplastic lymphoma kinase fluorescence in situ hybridization) でn=7例、(2) MET FISH でn=6例 (Cappuzzo基準でgene copy number判定)、(3) Ion AmpliSeq Cancer Panel (Life Technologies) を用いたターゲットディープシーケンシングでn=9例を解析。Cancer Panelは46がん関連遺伝子の739 hotspot (single-nucleotide variants + indels) をCOSMICデータベースから選択。Ion PGM sequencerでシークエンス、Torrent Suite Software 2.0.1のVariant Caller (≥20% variant allele frequency検出) で解析、Integrative Genomics Viewer 2.1で手動レビュー。コリア人健常者ゲノム DB (Kim et al. Nature 2009) ・dbSNP 135・1000 Genomes (2010年11月リリース) のgermline variantを除外。
統計解析:PFSはKaplan-Meier法で推定、群間比較はlog-rank test、両側p<0.05を有意水準とした (SPSS 20.0)。