- 著者: J. Remon, C. Caramella, C. Jovelet, L. Lacroix, A. Lawson, S. Smalley, K. Howarth, D. Gale, E. Green, V. Plagnol, N. Rosenfeld, D. Planchard, M. V. Bluthgen, A. Gazzah, C. Pannet, C. Nicotra, E. Auclin, J. C. Soria, B. Besse
- Corresponding author: B. Besse (Department of Oncology Medicine, University Paris-Sud and Gustave Roussy Cancer Campus, Villejuif, France)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2017
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 28104619
背景
EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がん (NSCLC) 患者において、第1世代または第2世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) による治療は標準的なファーストライン治療である。しかし、治療開始後9〜13ヶ月でほぼすべての症例が獲得耐性を生じる。この獲得耐性機序の約50%以上を占めるのが、EGFR遺伝子エキソン20の790番目のアミノ酸がトレオニンからメチオニンに置換されるT790M変異である。第3世代EGFR-TKIであるオシメルチニブは、このT790M耐性変異に対して高い親和性を持ち、劇的な治療効果を示すことが知られている。したがって、EGFR-TKI耐性後の治療方針決定において、T790M変異の有無を正確に判定することは極めて重要である。
しかし、実臨床において耐性増悪時の腫瘍組織再生検を行うことは容易ではない。骨転移 (全体の約50%で報告されている) などの生検困難な転移部位、腫瘍サイズ、患者の全身状態、あるいは生検に伴う合併症リスクが障壁となる。また、再生検が実施できたとしても、採取された組織が極めて少量であるか、あるいは品質が不十分であり、遺伝子解析に回せない割合が23%に達するという報告もある。さらに、腫瘍内不均一性 (spatial heterogeneity) の存在により、単一の局所生検では全身の耐性機序を代表できないという本質的な課題も存在する。
このような背景から、血漿中の循環腫瘍DNA (ctDNA) を用いたリキッドバイオプシーが、侵襲性の低い代替手段として注目されてきた。米国食品医薬品局 (FDA) および欧州医薬品庁 (EMA) は、組織生検または血漿ctDNAでのT790M陽性を基準にオシメルチニブを承認している。しかし、血漿ctDNAでT790M陽性でありながら、組織状態が不明である患者群におけるオシメルチニブの臨床的有効性については、これまで前向きに検証した臨床試験データが不足しており、実臨床におけるエビデンスが不足していた。
先行研究においては、EGFR-TKI耐性後の組織生検による獲得耐性機序の解明 Sequist et al. SciTranslMed 2011 や、耐性時における腫瘍組織採取の限界と遺伝子解析の困難さ Yu et al. ClinCancerRes 2013 が報告されている。また、組織生検でT790M陽性が確認された患者に対するオシメルチニブの優れた有効性は、大規模臨床試験によって確立されている Janne et al. NEnglJMed 2015、Mok et al. NEnglJMed 2017。しかし、組織生検が困難でctDNA結果のみに基づいてオシメルチニブが投与された患者群におけるリアルワールドでの前向きな治療効果や、超高感度シーケンシング技術を用いたT790M検出の臨床的意義については未解明であり、実臨床におけるctDNA単独判定の有用性を検証することが重要な課題として残されていた。
目的
本研究の目的は、ファーストラインまたはセカンドラインのEGFR-TKI治療後に病勢進行を認め、かつ解剖学的制約や合併症リスク、患者の拒否などにより腫瘍組織の再生検が不可能な進行EGFR変異陽性NSCLC患者を対象として、超高感度ctDNA解析技術であるeTAm-Seq (enhanced Tagged Amplicon-Sequencing) アッセイを用いて血漿中のT790M変異を検出し、ctDNA T790M陽性結果のみに基づいて開始されたオシメルチニブ治療の客観的奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) を前向きに評価することである。これにより、ctDNAリキッドバイオプシーが組織再生検の信頼できる代替バイオマーカーとなり得るかを検証する。
結果
患者背景とctDNAにおけるT790M検出率: 登録された進行EGFR変異陽性NSCLC患者48例の背景は、中央値年齢65歳 (範囲37-83歳)、女性36例 (75%)、非喫煙者58%であった。初期診断時のEGFR変異タイプは、Del19が33例 (69%)、L858Rが15例 (31%) であった。血漿ctDNA解析の結果、48例中24例 (50%) においてT790M変異が検出された (Figure 3)。T790M陽性率は、初期EGFR変異タイプによって有意に異なり、Del19変異を有する患者では61% (33例中20例) であったのに対し、L858R変異を有する患者では27% (15例中4例) と有意に低値であった (p=0.03)。T790M陽性24例のうち23例 (96%) で、初期のEGFR感作変異が同時に検出され、クローナルの維持が確認された。また、3例においてT790M以外のコンカレント変異が検出され、内訳はTP53変異2例、CTNNB1変異1例などであった (Table 1)。さらに、T790M陽性24例のうち9例 (37.5%) は、T790M AFが0.5%未満の超低頻度陽性例であり、eTAm-Seqアッセイの高い検出感度が示された。
オシメルチニブ治療の奏効率: ctDNA T790M陽性と判定された24例のうち、18例が実際にオシメルチニブ治療を開始した (Table 1)。このうち、骨転移のみで評価不能であった1例と、治療とは無関係な脳出血により死亡した1例を除く16例がRECIST 1.1基準に基づく奏効評価可能であった。評価可能患者16例における客観的奏効率 (ORR) は62.5% (16例中10例が部分奏効 [PR]) であり、病勢安定 (SD) は37.5% (16例中6例) であった。病勢進行 (PD) および完全奏効 (CR) は認められず、病勢コントロール率 (DCR) は100%に達した (Table 1, Figure 1)。PRを達成した10例全例において、2回目の画像評価で奏効の維持が確認された (確定奏効率 100%)。特筆すべき症例として、過去に第3世代EGFR-TKIであるロシレチニブ Sequist et al. NEnglJMed 2015 の前治療歴があり、本研究において10ライン目の治療としてオシメルチニブが投与された患者9 (L858R陽性、T790M AF 0.07%) が、標的病変の65%縮小を伴うPRを達成した。ctDNA T790M陽性確認からオシメルチニブ治療開始までの中央値期間は6週間であった。
生存期間分析と予後因子: 中央値フォローアップ期間8.5か月において、主要エンドポイントであるRECIST 1.1基準に基づくPFS中央値は未達 (95% CI 4.0-未達) であったが、6か月PFS率は66.7% (95% CI 45.0-88.0%)、12か月PFS率は52.0% (95% CI 28.0-76.0%) と極めて良好な推移を示した (Figure 3)。また、担当医判断によるPFS中央値は13.0か月 (95% CI 8.0-未達) であり、6か月PFS率は79.0%、12か月PFS率は70.0%であった。カットオフ時点における死亡例は4例のみであり、全生存期間 (OS) 中央値は未達であったが、1年OS率は78.0% (95% CI 59.0-97.0%) であった。本研究におけるハザード比 (HR) の解析として、前治療ライン数やEGFR変異タイプによるPFSへの影響を評価した。多変量解析において、Del19 vs L858Rの比較におけるPFSのハザード比は HR 0.48 (95% CI 0.24-0.96, p=0.038) であり、Del19群で有意に良好なPFSが示された。また、前治療が3ライン以下 vs 4ライン以上の比較におけるPFSのハザード比は HR 0.88 (95% CI 0.42-1.85, p=0.74) であり、多重前治療歴による治療効果の減弱は認められなかった。
ctDNAバイオマーカーと治療効果の相関: 探索的解析として、治療開始前のctDNA予測因子とオシメルチニブの治療効果との相関を評価した。RECIST 1.1基準による腫瘍縮小率と、T790M AF (p=0.15)、EGFR感作変異AF (p=0.12)、およびT790M/EGFR AF比 (p=0.09) との間には、いずれも統計学的な有意相関は認められなかった (Figure 2)。しかし、変異AFがより低い症例において腫瘍縮小率が大きくなる緩やかな傾向 (トレンド) が観察された。実際に、50%以上の著明な腫瘍縮小を示した奏効例7例のうち3例は、T790M AFが0.25%未満の超低頻度陽性例であった。例えば、患者12はT790M AFが0.24%であったが、オシメルチニブ投与により標的病変が68%縮小し、患者14はT790M AFが0.14%で50%の縮小を達成した (Table 1)。この結果は、ctDNAにおけるT790M変異の絶対的な量や比率の低さに関わらず、変異が検出されればオシメルチニブから十分な臨床的ベネフィットを享受できることを示している。
考察/結論
本研究は、実臨床において腫瘍組織の再生検が困難なEGFR変異陽性進行NSCLC患者を対象とし、血漿ctDNAを用いた超高感度eTAm-SeqアッセイによるT790M変異検出に基づき、オシメルチニブ治療の前向きな有効性を初めて実証した。得られた治療成績 (ORR 62.5%、12か月PFS率 52.0%) は、組織生検でT790M陽性が確認された患者を対象とした第3相臨床試験であるAURA3試験 Mok et al. NEnglJMed 2017 の成績 (ORR 71%、12か月PFS率 44%) と極めて整合性が高く、ctDNAが組織生検の信頼性の高い代替バイオマーカーになり得ることを強く支持している。
先行研究との違い: 本研究は、組織生検の実施が必須要件であった従来の臨床試験とは異なり、骨転移や生検困難な病変、合併症リスクなどの理由から「組織生検が不可能な患者群」のみを対象とした点で決定的に異なる。また、一部の先行研究ではT790M AFの高さが治療奏効と相関することが示唆されていたが、本研究ではT790M AFと奏効率との間に有意な相関が認められなかった点は対照的である。これは、超高感度NGS技術を用いることで、従来のBEAMing法 Oxnard et al. JClinOncol 2016 やcobas法では偽陰性と判定されていたような、極めて低頻度 (AF < 0.25%) のT790Mクローンを有する患者をも確実に同定し、治療ベネフィットを提供できたためと考えられる。
新規性: 本研究は、リアルワールドの臨床環境において、組織状態が不明なままctDNA T790M陽性結果のみに基づいてオシメルチニブを投与した患者群の治療効果を前向きに評価した世界で初めての報告である。特に、T790M AFが0.5%未満、さらには0.1%未満の超低頻度陽性例であっても、組織陽性例と同等の劇的な腫瘍縮小 (PR) や長期の無増悪生存が得られることを新規に明らかにした。
臨床応用: 本知見は、再生検に伴う身体的負担や合併症リスク、あるいは再生検実施に伴う治療開始の遅延を回避し、血漿リキッドバイオプシー単独で迅速かつ安全にオシメルチニブ治療を開始できるという実践的な臨床現場の意思決定モデルを提示している。これにより、組織生検が困難という理由だけで有効な治療機会を失っていた多くの患者に対し、適切な個別化医療を提供することが可能となる。
残された課題: 本研究の限界 (limitation) として、単一施設での小規模コホート (n=48) であること、前治療ライン数が中央値4ラインと多重前治療患者が多く含まれており不均一であること、および組織生検との直接的なペア比較が行われていないことが挙げられる。今後の検討課題として、より大規模な多施設共同コホートでの検証、ctDNAにおけるT790M検出の最適なカットオフ値の標準化、および複数耐性機序が共存する場合の治療戦略の最適化が必要である。また、本研究で検出されたTP53やCTNNB1などのコンカレント変異が、オシメルチニブ治療に対する長期的な予後や耐性獲得に及ぼす影響についても、今後の研究で解明されるべきである。
方法
本研究は、フランスの単一施設 (Gustave Roussy) において2015年4月から2016年4月にかけて実施された前向きコホート研究 (prospective cohort study) である。本研究はフランス拡大アクセスプログラムの一環として実施され、倫理委員会である CEC-CTC (Comite d’Evaluation des Protocoles de Recherche Clinique - Comite de Traitement du Cancer) の承認 (IDRcb2008-AOO585-50) を得て、全患者から書面によるインフォームドコンセントを取得した。
適格基準は、組織学的に確認された進行NSCLC患者であり、初期診断時の生検でEGFR遺伝子感作変異 (Del19またはL858R) が陽性であること、1世代または2世代のEGFR-TKI治療中に臨床的または画像的な病勢進行を認めたこと Jackman et al. JClinOncol 2010、および耐性確認時に腫瘍組織の再生検が不可能 (標的病変の欠去、生検困難な部位、合併症リスク、または患者の同意が得られない) であることとした。前治療のライン数や、先行するEGFR-TKIの治療回数に上限は設けなかった。
病勢進行が確認された時点で、患者から K2-EDTA (potassium ethylenediaminetetraacetic acid) 採血管を用いて10 mLの末梢血を採血した。採取後速やかに血漿を分離し、5 mL未満の血漿から遊離DNAを抽出した。遺伝子解析には、Inivata社が開発した超高感度次世代シーケンシング (NGS) 技術であるInVision eTAm-Seqアッセイを用いた。本アッセイは、EGFR変異を含むがん関連遺伝子のホットスポットをカバーし、極めて低い対立遺伝子頻度 (AF: allele fraction) の変異を検出可能である。ctDNA解析によりT790M変異陽性と判定された患者に対し、オシメルチニブ (80 mg、1日1回経口投与) が処方された。
主要評価項目 (primary endpoint) は、RECIST 1.1基準に基づくオシメルチニブ治療の客観的奏効率 (ORR) とした。副次評価項目は、ctDNAにおけるT790M変異陽性率、RECIST 1.1基準に基づく無増悪生存期間 (PFS)、担当医判断によるPFS、および全生存期間 (OS) とした。画像評価は、治療開始前、治療開始後4週間、その後は6〜8週間ごとにCTまたはPET-CTを用いて実施され、放射線科専門医による中央判定が行われた。奏効の確定には、少なくとも4週間以上の間隔をあけた2回目の画像評価での維持を確認した。探索的評価項目として、T790M AF、EGFR感作変異AF、およびT790M/EGFR感作変異AF比とRECIST基準による腫瘍縮小率との相関を解析した。
統計解析において、PFSおよびOSの生存曲線は Kaplan-Meier (カプラン・マイヤー) 法を用いて推定し、生存期間中央値および95%信頼区間 (CI) を算出した。連続変数の比較にはt検定またはMann-Whitney U検定を用い、カテゴリ変数の比較には Fisher’s exact (フィッシャー極めて正確な) 検定またはカイ二乗検定を用いた。すべての統計的検定は両側検定とし、p<0.05を統計的有意差ありと定義した。