- 著者: Sequist LV, Soria JC, Goldman JW, Wakelee HA, Gadgeel SM, et al.
- Corresponding author: Lecia V. Sequist (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Boston, MA)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-04-30
- Article種別: Original Article (Phase 1-2 trial)
- PMID: 25923550
背景
EGFR変異陽性NSCLCは第1・第2世代EGFR-TKI (gefitinib・erlotinib・afatinib) に高い感受性を示し、PFS中央値9-13ヶ月の良好な治療成績を達成する (Mok et al. NEnglJMed 2009 IPASS、Maemondo 2010 NEJ002、Mitsudomi 2010 WJTOG3405)。しかし大多数の患者で獲得耐性が生じ、その約50-60%がEGFR T790M二次変異 (Thr→Met at gatekeeper position 790) によることが知られていた (Sequist et al. SciTranslMed 2011 retrospective 37例 ・Yu 2013 JCO 155例の解析)。T790Mを標的とする承認薬は当時 (2014年時点) 存在せず、化学療法 (platinum doublet・docetaxel等) がPFS中央値4-5.5ヶ月で唯一の選択肢であった。第1・第2世代TKIの段階的増量や erlotinib + cetuximab併用 (Janjigian 2014) はT790M陽性例でORR <10%と限定的有効性しか示さなかった。Rociletinib (CO-1686) はNovira/Clovis Oncology が開発した、EGFR変異型 (del19・L858R・T790M含む) に選択的で野生型 (wild-type) EGFRを温存する共有結合型 (covalent) 第3世代EGFR-TKIである (Walter 2013 Cancer Discovで前臨床評価、PC9・NCI-H1975細胞で IC50 < 50 nM)。野生型EGFR保存により従来の第1-2世代TKIに伴う皮疹・下痢などの adverse eventsが軽減される可能性が示唆された。同時期に AZD9291 (osimertinib、Janne 2015 Janne et al. NEnglJMed 2015) もT790M選択的TKIとして開発が並行進行していた。先行研究のギャップ (何が足りなかったか):(1) T790M変異標的の臨床的に有効な治療オプションが存在しない、(2) 野生型EGFRを温存する選択性により毒性プロファイルが改善するかは未検証、(3) T790M陰性のEGFR-TKI耐性例 (heterogeneous resistance) への有効性が未明、(4) 異なる EGFR変異型 (del19 vs L858R) 間での効果差が不明、という4つの研究ギャップが残されていた。本研究はrociletinibの安全性・薬物動態・抗腫瘍活性を first-in-humanの phase 1-2試験で評価することでこれら4ギャップを埋めることを目的とした。
目的
EGFR変異陽性NSCLC患者でEGFR-TKI耐性後の患者におけるrociletinib (CO-1686) の安全性・副作用プロファイル・最大耐容量 (MTD、maximum tolerated dose) ・薬物動態・予備的抗腫瘍活性 (ORR・DCR・PFS) を評価することを主要目的とした。副次目的は EGFR変異サブタイプ別 (del19 vs L858R) ・T790M状態別 (positive vs negative) の有効性プロファイル比較、推奨phase 2用量 (RP2D、recommended phase 2 dose) の確定、生検検体での T790M heterogeneity評価。
結果
患者背景の概要 (n=130):130例がスクリーニング・登録 (2012-2014年)。年齢中央値60歳 (range 35-86)、女性58%、白人83%、東アジア9%。前治療数中央値4レジメン (range 1-15)、72%がスクリーニング時にEGFR-TKI継続使用中。EGFR変異型はdel19 60% vs L858R 36% vs 他 (G719X・L861Q等) 4%。脳転移歴44% (57/130) (Fig 1)。Phase 1の用量漸増では最大耐容量 (MTD) は同定されず、全用量で cycle 1 のDLT率33%未満を達成した。
T790M陽性例の有効性 (主要結果、n=46治療量投与):T790M陽性かつ治療量 (500・625・750 mg BID) 投与された46例で確証的ORR 59% (95% CI 45-73%、27/46 partial response、0/46 complete response、Fig 2)、DCR (CR+PR+SD) 93% (43/46)、PFS中央値13.1ヶ月 (95% CI 5.4-13.1) が達成された (Fig 3、Table 1)。Del19陽性 vs L858R陽性でORRはほぼ同等 (del19 60% vs L858R 56%)、PFSも統計的有意差なし (両群とも中央値約13ヶ月)。1年PFS率は52%。Best overall responseのwaterfall plotで -50%以上の腫瘍縮小が達成されたのは58%。これは当時の T790M陽性に対する化学療法 (PFS 4-5ヶ月) と比較して劇的な改善であり、AZD9291 (osimertinib) Phase 1試験 (Janne 2015 NEJM 同号、ORR 61%、PFS 9.6ヶ月) と同等の有効性を示した。
T790M陰性例の有効性 (n=17治療量投与):T790M陰性 (中央検査) かつ治療量投与の17例でORR 29% (95% CI 8-51%、5/17)、DCR 71% (12/17)、PFS中央値5.6ヶ月であった。これはT790M陰性 = rociletinib応答性なしとは限らないことを示し、Sanger sequencing/Cobas検査の感度限界 (T790M heterogeneous lowアレル頻度の見落とし) を示唆した。NGSによる詳細評価では一部のT790M陰性患者でT790M low allele frequency検出が後に確認された。
安全性プロファイル:高血糖が主要毒性 (n=92治療量投与):治療量投与92例中、最多grade 3有害事象は高血糖20例 (22%) で、これはrociletinibの主要代謝物 M502によるIGF-1R (insulin-like growth factor 1 receptor) 阻害が機序として後に同定された (Sequist 2018追跡解析、Table 2)。Metformin等の標準糖尿病治療で管理可能であった。QTc延長はGrade 3が4例 (4%)、dose reductionで管理可能。皮疹はgrade 1-2のみ7% (野生型EGFR温存を反映し第1-2世代TKI 60-70%皮疹発生と異なる)。下痢はgrade 1-2が20%で、grade 3以上なし (第1-2世代TKI 5-10% grade 3+と相違)。48% (44/92) が dose reductionを要した (主因は高血糖 22%・QTc延長 7%・悪心 5%)。Grade 3-4 TRAEは合計55% (51/92)。治療関連死は0例 (Fig 1 補足)。
薬物動態解析:HBr形は用量比例的に曝露 (AUC・Cmax) 増加を示した (Table 3)。Tmax 1-4時間で急速吸収、消失半減期2-4時間。500 mg BIDで Cmax 約1900 ng/mL、AUC 0-12h 約9000 ng·h/mL。治療量では1日平均22時間有効域 (efficacious threshold ~500 ng/mL) を維持した。代謝物M502・M544 (active metabolite) はparent compound 約10%の血漿濃度で存在し、IGF-1R阻害の主因と推測された。腎・肝排泄プロファイルは主に肝代謝 (CYP3A4) で、特別な腎機能補正は不要であった。
考察/結論
Rociletinib (CO-1686) はT790M陽性のEGFR-TKI耐性NSCLCに対しORR 59%・PFS 13.1ヶ月の持続的奏効を示し、これまでの化学療法 (PFS 4-5ヶ月、Janne 2014 Lancet Oncology) や第1-2世代EGFR-TKI増量 (ORR <10%、Janjigian 2014 Cancer Discov) と異なり、明確に優越する第3世代TKIとしての有効性を実証した。これまで報告されていなかったT790M-selective TKIの臨床的有効性が本研究で初めて確立された。同時期発表の AZD9291 (osimertinib、ORR 61%、Janne 2015 Janne et al. NEnglJMed 2015) と対照的に、rociletinibは野生型EGFR温存により皮疹・重度下痢を回避し (Yang et al. LancetOncol 2015 のafatinib皮疹64%と比較して7%へ大幅減少)、毒性プロファイルにおける質的差異を示した。本研究で初めてT790M陰性例 (29% ORR) でも臨床的有効性が示された点は novel な発見であり、T790M heterogeneity (low allele frequency) の存在を強く示唆した。本研究は AZD9291 と並んで T790M-targeted therapy という新規治療カテゴリを臨床的に確立した historical significance を持つ。臨床応用 (臨床的意義) として、(a) EGFR-TKI耐性後のT790M検査 (cobas/NGS/liquid biopsy) の重要性を示した、(b) T790M陽性例に対する確実な治療選択肢として rociletinib (またはosimertinib) を推奨、(c) 第1-2世代TKIの皮疹・下痢を回避できる選択肢としてquality of life改善が期待、(d) 主要毒性 (高血糖) はmetformin等で管理可能、というactionableな臨床指針が提供された。残された課題 (limitation) として、(1) Phase 3 RCT (osimertinib vs chemotherapy Mok et al. NEnglJMed 2017 AURA3) が必要、(2) 高血糖機序 (IGF-1R阻害) の長期影響評価、(3) T790M陰性例での効果機序の解明、(4) rociletinib vs osimertinibのhead-to-head比較不在、が挙げられた。今後の検討課題として、本研究以降のTIGER-3試験 (rociletinib vs single-agent chemotherapy in T790M+) で予期されたほどの優越性を示さなかったこと (ORR 31% vs 化学療法 19%、PFS差なし)、および 2016年のClovis OncologyによるFDA申請取り下げ・rociletinib開発中止 (osimertinibに市場で完敗) という歴史的経過が、本研究の主要所見の臨床的価値が osimertinibに統合される形で実現したことを示している。
方法
本研究は多施設・国際共同 phase 1-2用量漸増・拡大試験 (NCT01526928) である。対象施設は米国・欧州・オーストラリアの計21施設。包含基準:(1) 病理学的に確認された stage IV NSCLC、(2) 文書化されたEGFR活性化変異 (del19・L858R等) を有する、(3) 既存EGFR-TKI (gefitinib・erlotinib・afatinib いずれか) 投与中に進行 (RECIST 1.1で確認)、(4) ECOG PS 0-2、(5) 評価可能病変あり、(6) 治療開始前にスクリーニング腫瘍生検でT790M状態を確認 (中央検査としてCobas EGFR Mutation Test v2 + 直接シーケンシング)。除外基準:症候性中枢神経系転移 (無症状で安定なら登録可、44%が脳転移歴あり)、活動性間質性肺炎、QTc延長 (>470 ms)、糖尿病既往。Rociletinibを連日21日サイクルで投与:(a) Free-base form (150 mg QD-900 mg BID、Phase 1の前半)、(b) HBr塩形 (500-1000 mg BID、Phase 1の後半とPhase 2)。Phase 2はT790M陽性例に 500・625・750 mg BIDの3用量で拡大コホートを実施。腫瘍評価はRECIST 1.1で 8週毎に CT/MRI評価。安全性は CTCAE v4.0で評価。薬物動態は Cycle 1 Day 1とDay 21に複数時点で血漿濃度測定し非コンパートメントモデルで解析。統計:ORR (95% CI、Clopper-Pearson) ・DCR ・PFS (Kaplan-Meier、95% CI) ・OS。サブグループ解析は EGFR変異型 (del19 vs L858R) ・T790M状態・前治療数別。MTDは DLTのIncidence rate 33%未満を基準として判定。