• 著者: Heon S, Yeap BY, Britt GJ, Costa DB, Rabin MS, Jackman DM, Johnson BE
  • Corresponding author: Bruce E. Johnson (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, USA)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2010
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 21030498

背景

肺癌は米国における癌死亡の主因であり、NSCLC (non-small cell lung cancer) が全肺癌の約85%を占める。中枢神経系 (CNS、central nervous system) 転移はNSCLCにおける頻度の高い合併症であり、生活の質と生存期間を大きく低下させる。これまでの研究として、局所進行NSCLC (Stage III) に対して化学療法 ± 放射線 ± 手術を施行した後のCNS再発率が40-55%と報告されており (Mamon et al. JClinOncol 2005)、中央値追跡期間35-37か月での検討である。

gefitinib・erlotinibはEGFRチロシンキナーゼドメインの可逆的小分子阻害薬であり、感受性EGFR変異 (主にexon 19 deletionとL858R) を有するNSCLCに対して奏効率60-80%・TTP (time to progression、進行までの期間) 10-12か月・OS 20-30か月の有効性を示す (Mok et al. NEnglJMed 2009; Maemondo et al. NEnglJMed 2010)。

これらの薬剤はCNSへの移行が確認されており、脳転移 (BM、brain metastases) に対して10-30%の奏効率が示されている。Jackman et al. (JClinOncol 2006) は軟膜転移 (LM、leptomeningeal metastases) に対する高用量gefitinib (1,000 mg/day) で脳脊髄液中濃度がEGFR感受性株の増殖阻害濃度に到達することを示した。

一方でOmuro et al. (Cancer 2005) は、gefitinib部分奏効後の中央値27か月追跡で粗CNS進行率が43%に達するとの報告もあり、EGFR-TKIがCNS転移の発生・制御に与える影響は明らかでなかった。何が足りなかったかというと、(1) EGFR変異陽性NSCLCに焦点を絞った長期CNS転移リスクの系統的データが未解明、(2) EGFR変異型別 (exon 19 del vs L858R vs その他) のCNS転移リスク層別化、(3) gefitinib vs erlotinib の薬剤間比較、(4) 過去の歴史的化学療法コホート (40-55%) との直接的な数値比較、の4点がgapとして残されていた。EGFR変異が確立されてから6年が経過し、長期生存が期待されるこの集団でのCNS転移リスクの定量化が急務であった。

目的

EGFR体細胞変異を有する進行NSCLC患者においてgefitinibまたはerlotinibを一次治療として投与した際のCNS転移進行の累積リスクを評価し、CNS進行に関連する予後因子 (年齢・性別・人種・喫煙歴・組織型・PS・病期・EGFR変異型・使用TKI) を特定すること。

結果

CNS進行の累積発生率と歴史的比較:1年7%・2年19%で歴史的40-55%を大きく下回る:中央値潜在追跡期間42.2か月 (12-95か月) でn=84例が進行し、PFS中央値は13.1か月 (Fig 1) であった。n=100例中n=28例 (粗CNS進行率28%) がCNS進行を発症し、うちn=8例は既存脳転移の増悪であった。1年・2年のCNS進行累積発生率は7% (95% CI 3-13%) および19% (95% CI 11-27%) であり (Fig 2A)、Stage III NSCLCでの化学療法後の歴史的報告 (40-55%) を大きく下回った。治療前脳転移のないn=81例に限定すると1年6% (95% CI 2-13%) ・2年13% (95% CI 7-22%) とさらに低く、治療前脳転移ありn=19例では1年11%・2年47%と有意に高かった (p=0.003、Fig 2B、Table 3)。軟膜転移の累積発生率は1年1% (95% CI 0-5%) ・2年6% (95% CI 2-12%) であった。CNS転移発症までの中央値期間はgefitinib/erlotinib開始から19.0か月 (1-64か月) であり、Stage III NSCLC化学療法の中央値9-13か月より長かった。

CNS進行の予後因子:63歳未満HR 5.4・Exon 19 del HR 2.7・その他変異HR 5.7:単変量解析でCNS進行と有意に関連した変数は年齢とEGFR変異型であった。63歳未満は63歳以上に比べ2年CNS進行リスクが高かった (27% vs 9%、p<0.001)。EGFR変異型ではL858Rを参照としてexon 19 deletionで2年リスク21%・その他変異で38%であり、L858Rの2年リスク3%と比較して有意差が認められた (p=0.029)。多変量解析においてもEGFR変異型は独立した有意な予測因子であった (exon 19 del vs L858R:HR 2.7、95% CI not reported、p=0.044; その他変異 vs L858R:HR 5.7、p=0.021)。年齢の調整HRは5.4 (63歳未満 vs 63歳以上、p=0.003)。治療前脳転移の有無の調整HRは1.7であったが有意差はなかった (p=0.290)。性別・人種・喫煙・組織型・PS・病期・gefitinib vs erlotinibは有意な予測因子とならなかった。

Exon 19 deletion vs L858R: PFS延長 vs CNS リスク増大の逆説:Exon 19 deletion群はL858R群に比べTTP中央値 (16.2 vs 11.8か月、p=0.026) およびOS中央値 (40.6 vs 23.9か月、p=0.014) がともに有意に延長した。にもかかわらず、exon 19 deletion群はCNS進行リスクが2年21% (vs L858R 3%、p=0.029) と高く、逆説的な関係が示された。Competing risk regressionで死亡を補正後もこの差は持続するため、観察期間バイアスではなく腫瘍生物学的差異が示唆された。

全生存期間とCNS転移後の予後:OS 33.1か月、CNS進行後生存5.5か月で予後不良:コホート全体のOS中央値はgefitinib/erlotinib開始日から33.1か月であった (Fig 3)。CNS転移発症後の生存期間中央値は脳転移で5.5か月・軟膜転移で5.1か月と短く、CNS転移が依然として予後不良因子であることが確認された。CNS進行したn=28例のうちn=26例 (93%) はCNS進行の前後でEGFR-TKIを中止しており、TKI継続中にCNS隔離進行 (CNS sanctuary progression) を起こす臨床像が示された。

獲得耐性変異の脳転移検出:CNS進行例2例で脳転移巣の生検が施行された。1例ではexon 19 deletion + T790M、1例ではexon 20 insertion (de novoの可能性) が同定された。Pre-treatment組織が不十分のため、T790Mがde novo由来か獲得耐性由来かは確定できなかったが、後者の例は2回PR後の進行であり (Engelman et al. Science 2007 のMET増幅機序と同様の) clonal selection 仮説と整合した。

考察/結論

本研究はEGFR変異陽性NSCLCにおけるgefitinib/erlotinib一次治療後のCNS転移リスクを初めて系統的に報告した novel な大規模シリーズ (本研究で初めて n=100 のEGFR変異陽性集団で 42.2 か月の中央値追跡を達成) である。累積CNS進行率7% (1年) ・19% (2年) は、これまでの研究で報告された化学療法コホートの40-55%を大きく下回り、EGFR-TKI時代におけるCNS制御の改善を示唆する。これは Schiller et al. NEnglJMed 2002Scagliotti et al. JClinOncol 2008 の cytotoxic chemotherapy 時代の data と異なる新規の発見である。

しかしこの差がEGFR変異陽性腫瘍固有の生物学的特性 (より緩徐なCNS転移傾向) によるものか、EGFR-TKIのCNS微小転移に対する直接的な治療効果によるものかを本後方視的研究では区別できない。これまでの研究と異なる重要な発見として、Exon 19 deletionでのCNS進行リスク増大 (vs L858R、HR 2.7) は本研究で初めて多変量解析で示された。OS延長による観察期間の長さやcompeting risk補正後も差が持続することから、腫瘍生物学的差異が示唆される。

新規性:本研究で新規に示された主要な所見は、(1) EGFR-TKI時代の長期CNS進行率の定量化 (7%/19%)、(2) 年齢 (<63歳HR 5.4) とEGFR変異型 (exon 19 del HR 2.7) を独立予測因子として同定、(3) 治療前脳転移既往が2年CNS進行率を47%に高めるリスク因子であること、(4) gefitinib vs erlotinibの薬剤間でCNS進行率に有意差なし (限られた症例数の制約あり)、の4点である。

臨床応用 (clinical implication):本研究の bench-to-bedside の臨床的意義は、(1) EGFR変異陽性 NSCLC 患者ではEGFR-TKI開始後も CNS 転移リスクが残存し、特に若年・exon 19 deletion・治療前脳転移既往例ではCNSサーベイランスMRIを定期的に行う価値があること、(2) gefitinib/erlotinib 標準用量では BBB (blood-brain barrier、血液脳関門) 通過不十分のためCNSがsanctuary siteとなり、より高い CNS 移行性を持つ次世代 EGFR-TKI (osimertinib等) の意義が示唆されること、(3) CNS 転移が EGFR-TKI 抵抗性メカニズム (T790M等) の選択場であり再生検の意義があること、(4) Stage III locally advanced NSCLC EGFR 変異陽性の adjuvant TKI 試験 (osimertinib ADAURA等) における CNS 再発率減少の根拠を提供すること、の4点である。

残された課題:(1) 後方視的設計でCNS画像は症状出現時または試験スクリーニング時に限られ、定期スケジュール撮影なしのバイアスあり、(2) 化学療法群との直接同時比較がないため、低 CNS 進行率がEGFR変異の腫瘍生物学的特性か EGFR-TKI 治療効果かが区別不能、(3) gefitinib群 (n=15) が少なく erlotinib (n=85) との直接比較の検出力不足、(4) 脳組織分子解析が2例のみで CNS 微小転移の薬剤耐性機序が不明、(5) アジア系n=15と少数のため人種差の検証不能、(6) 定期的 CNS MRI を含む前向き研究と化学療法対照群との比較、osimertinib 等次世代 TKI での CNS リスクの再評価が今後の検討課題である。

結論として、EGFR変異陽性進行NSCLCに対するgefitinib/erlotinib一次治療後のCNS進行の1年・2年累積発生率は7%・19%であり、歴史的な化学療法コホートの40-55%を大きく下回った。若年 (63歳未満、HR 5.4) とexon 19 deletion (vs L858R、HR 2.7) が独立したCNS進行予測因子であった。EGFR-TKI時代においてもCNS転移は発生し予後不良因子であり続けることが示され、EGFR変異型別のCNS転移リスク層別化と予防・治療戦略の最適化に向けた前向き研究の必要性が提起された。

方法

対象:2002年1月-2009年2月にDana-Farber Cancer Institute (DFCI) およびBeth Israel Deaconess Medical Center (BIDMC) でEGFR変異陽性進行NSCLC (Stage IIIB/IV、AJCC 6th edition、または再発NSCLC) と診断され、gefitinibまたはerlotinibを一次治療として投与されたn=100例を後方視的に解析した。患者は両施設のCRIS (Clinical Research Information System) データベースから同定した。少なくとも1年の潜在追跡期間を確保するため2009年2月までの開始例に限定した。

EGFR変異解析:腫瘍検体 (凍結またはFFPE [formalin-fixed paraffin-embedded]) からゲノムDNAを抽出し、EGFR exon 18-21をPCR増幅後、両方向のSangerシークエンスで変異を同定 (Lynch et al. NEnglJMed 2004; Paez et al. Science 2004 の方法に準拠)。複数回独立PCRで confirm された変異のみを採用。

患者背景:女性n=82 (82%)、年齢中央値63歳 (35-79歳)、非喫煙者n=61 (61%)、腺癌n=89 (89%)、White non-Hispanic n=83 (83%) ・アジア系n=15 (15%)。EGFR変異型はexon 19 deletion n=51 (51%) ・L858R n=33 (33%) ・その他 (G719A/C、L861Q、exon 20 insertion、T790M共存等) n=16 (16%)。gefitinib n=15 (15%) ・erlotinib n=85 (85%)。治療開始前脳転移ありがn=19 (19%) で、n=15が全脳照射 (WBRT、whole-brain radiation therapy 30-40.5 Gy) を受けていた (Table 1)。

CNS転移の定義と画像評価:CNS転移は脳実質病変と細胞学的または画像的に診断された軟膜転移を含む。CNS進行 = 新規CNS転移発生 OR 既存脳病変の進行と定義。全例治療開始時に造影脳MRI (またはCT) を撮影、症状出現時に再撮影、定期スケジュール撮影は治験 protocol eligibility 例のみ。

統計解析 (Statistical methods):CNS進行の累積発生率はFine-Gray cumulative incidence function (CIF) で算出 (死亡を競合リスク competing risk として扱う)、95% CIはAalen漸近分散推定 + log(-log)変換 (Choudhury approach)。PFSとOSはKaplan-Meier法。単変量解析はGray’s test (年齢中央値≤63 vs >63、性別、人種、喫煙、組織型、PS、病期、EGFR変異型 [exon 19 del vs L858R vs その他]、gefitinib vs erlotinib)、多変量解析はproportional subdistribution hazards model of Fine and Gray (HR、hazard ratio、95% CI、p-value推定)。両側p<0.05で有意。SAS 9.2 + R 2.6.2 cmprsk パッケージ使用。

統計検出力:想定CNS進行率40% (Mamon et al. 2005の歴史的値) に対し25%以下への低下を両側α=0.05、検出力90%で検証可能 (n=100で達成)。