• 著者: Yoshihisa Kobayashi, Yosuke Togashi, Yasushi Yatabe, Hiroshi Mizuuchi, Park Jangchul, Chiaki Kondo, Masaki Shimoji, Katsuaki Sato, Kenichi Suda, Kenji Tomizawa, Toshiki Takemoto, Toyoaki Hida, Kazuto Nishio, Tetsuya Mitsudomi
  • Corresponding author: Tetsuya Mitsudomi (Kinki University Faculty of Medicine, Osaka-Sayama, Japan)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-07-23
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26206867

背景

非小細胞肺がん (NSCLC) におけるEGFR変異は、アジア人患者の約40% Yatabe et al. J Thorac Oncol 2015、白人患者の約17% Kris et al. JAMA 2014で検出される。これらの変異のうち、エクソン19欠失 (Del 19) およびエクソン21のL858R変異(共通変異)が約90%を占め、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) に対する感受性を示すことが知られている Maemondo et al. NEnglJMed 2010 Mitsudomi et al. LancetOncol 2010 Zhou et al. LancetOncol 2011。対照的に、エクソン20挿入 (Ins 20) やエクソン20のT790M変異は、これらのTKIに対する耐性を示すことが報告されている Kobayashi et al. NEnglJMed 2005 Pao et al. PLoSMed 2005

一方、EGFRエクソン18変異は全EGFR変異の約3.6%を占め、G719X (X = A, S, C, D) がその大部分を構成する。しかし、これらの稀少変異に関するデータは限定的であり、その分子学的特性やTKI感受性は十分に解明されていない点が課題として残されている。特に、エクソン18変異を有する肺がん患者に対する最適な治療戦略は未確立であった。この領域における知識の不足が、臨床現場での適切な治療選択を妨げていた。著者らは、エクソン18欠失 (Del 18: delE709_T710insD) を有する肺腺がん患者が第二世代TKIであるアファチニブに奏効した症例を経験し、この稀少変異に対する治療選択の根拠を確立する必要性を認識し、本研究を開始した。

目的

本研究の目的は、EGFRエクソン18変異の頻度を大規模データベースで確認するとともに、第一世代 (gefitinib/erlotinib)、第二世代 (afatinib/dacomitinib/neratinib)、第三世代 (AZD9291/CO1686) のEGFR-TKIに対するin vitro感受性を系統的に比較することである。これにより、エクソン18変異陽性肺がん患者に対する最適なTKI選択の分子学的根拠を提示することを目指した。

結果

EGFRエクソン18変異の頻度と分布: ACCのデータベースにおいて、1,402例のEGFR変異陽性肺がんのうち、Del 19が40% (n=563)、L858Rが47%、Ins 20が4%を占めた。エクソン18変異は3.2% (n=45) に認められ、内訳はG719Xが41例、E709X+G719Xが1例、Del 18が3例であった (Fig 1B)。COSMICデータベースでは、全EGFR変異16,138例中4.1% (n=654) がエクソン18変異であった。コドン709および719の変異がエクソン18変異全体の84% (n=551/654) を占め、delE709_T710insD (n=12)、E709K (n=36)、G719A (n=163) がそれぞれのカテゴリーで最も頻度の高い変異であった (Fig 1D)。

エクソン18変異のドライバー機能確認: Ba/F3細胞にG719A、E709K、Del 18変異を導入すると、IL-3非存在下で約8時間の倍加時間で増殖し、これはDel 19変異細胞と同等の増殖能であった (Fig 2A)。対照的に、eGFPまたは野生型 (WT) EGFRを導入した細胞は増殖しなかった。NIH/3T3細胞を用いたフォーカス形成アッセイでは、エクソン18変異細胞は顕著なパイルアップ病巣を形成したが、WT/eGFP細胞は接触阻止を維持した (Fig 2B)。これらの結果から、G719A、E709K、Del 18の3つのエクソン18変異は、がん原性ドライバーとして機能することが確認された。

各世代TKIに対するin vitro感受性の比較: 各TKIのIC90をDel 19変異細胞のIC90に対する比率で評価した (Fig 3B)。第一世代TKI (gefitinib, erlotinib) に対し、Del 18変異細胞はgefitinibに対し>1,000倍、erlotinibに対し>50倍高いIC90を示した。E709KおよびG719A変異細胞もgefitinibに対し>50倍、erlotinibに対し>11倍高いIC90を示し、耐性傾向が認められた。第二世代TKI (afatinib, dacomitinib, neratinib) に対し、afatinibのIC90はDel 18、E709K、G719A変異細胞のいずれにおいてもDel 19変異細胞のわずか3〜7倍であり、IC90は臨床C troughの1/40未満であった。特にneratinibに対しては、G719A変異細胞がDel 19変異細胞よりも25倍低いIC90を示し、E709K変異細胞で5倍、Del 18変異細胞で同程度の感受性を示した。第三世代TKI (AZD9291, CO1686) に対し、Del 18、E709K、G719A変異細胞のいずれも、Del 19変異細胞と比較して>11倍高いIC90を示し、低感受性であることが示された。

Western blot解析によるTKI感受性の確認: HEK293細胞を用いたWestern blot解析では、100 nmol/LのアファチニブがDel 18、E709K、G719A、Del 19の全ての変異型EGFRにおいてp-EGFRをほぼ完全に抑制した (Fig 4)。また、10 nmol/Lのneratinibは、G719A変異細胞においてDel 19変異細胞よりも強力なp-EGFR抑制効果を示した。第一世代および第三世代TKIは、Del 19変異細胞でのみ効果的であった。p-HER2の抑制もp-EGFRと同程度であり、HER2阻害が感受性差に直接寄与する可能性は低いと考えられた。

Del 18変異肺腺がん患者の症例報告: 63歳男性のStage IV肺腺がん患者において、既存の遺伝子検査でEGFR、KRAS、ALK、HER2、BRAF変異が陰性であった。しかし、胸水細胞から抽出したRNAのダイレクトシークエンスにより、Del 18 (delE709_T710insD) 変異が検出された。第一世代TKIであるerlotinib 150 mg投与ではSD (stable disease) であったが、重度の皮疹のため中止。その後、afatinib 40 mgに切り替えたところ、著明な腫瘍縮小が認められた (Fig 5B)。

臨床文献総括: 文献データを統合した結果 (Table 1)、G719X変異を有する腫瘍患者のafatinibまたはneratinibに対する奏効率 (PR) は78% (n=14/18) および75% (n=3/4) と、第一世代TKI (gefitinib/erlotinib) の35% (n=8/23) 〜56% (n=9/16) を有意に上回ることが示された。

考察/結論

本研究は、EGFRエクソン18変異の分子学的特性とTKI感受性を系統的に評価した初の包括的な報告である。エクソン18変異は全EGFR変異の3.2%〜4.1%を占め、稀少ではあるものの、過去に「ドライバー変異陰性」とされた症例にも潜在的に存在することを示唆している。

先行研究との違い: これまでの研究では、エクソン18変異に対するTKI感受性は限定的なデータしかなく、特に第二世代TKIとの比較は不足していた。本研究は、第一・第三世代TKIと比較して第二世代TKI、特にアファチニブとネラチニブがエクソン18変異に対して高い感受性を示すことをin vitro実験および臨床データから明確に示した点で、これまでの知見と異なる。Davis et al. (2011) のキナーゼ-TKI解離定数解析データも、gefitinibがDel 19に対しG719C/Sより2.0-3.7倍高い親和性を示す一方、afatinibでは0.9-1.7倍と差が小さく、neratinibではG719C/SがDel 19より2.5-6.2倍高い親和性を示すことを報告しており、本研究のIC90データと整合する。

新規性: 本研究で初めて、エクソン18変異(G719A、E709K、Del 18)ががん原性ドライバーとして機能することをin vitroで確認し、これらの変異が第一・第三世代TKIには低感受性である一方、第二世代TKI、特にアファチニブとネラチニブに高い感受性を示すことを分子レベルで新規に同定した。特にG719A変異細胞はneratinibに対しDel 19変異細胞よりも25倍高い感受性を示し、これはこれまで報告されていない特異的な感受性パターンである。

臨床応用: 本知見は、エクソン18変異陽性NSCLC患者に対する最適な治療選択に直結する臨床的意義を持つ。第一・第三世代TKIが効果的でない場合でも、アファチニブが第一選択となり、ネラチニブも有力な候補となり得る。しかし、ネラチニブは主要EGFR変異に対して不活性であるため、肺がん患者に対する開発は中止されている。現在の承認済み体外診断キット (therascreen, cobas) はDel 18 (delE709_T710insX) やE709X点変異を検出できないため、これらの稀少変異を見落とす可能性がある。そのため、RNAダイレクトシークエンスや次世代シーケンシング (NGS) などのより包括的な遺伝子解析法の導入が臨床現場で強く推奨される。Drilon et al. (2015) の報告では、11遺伝子パネルで陰性であったドライバー変異陰性肺腺がん31例中2例にNGSでDel 18が同定されており、稀少ドライバー変異検出の臨床的意義は大きい。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究がin vitro系に依存しており、患者腫瘍微小環境を完全に反映しているわけではない点が挙げられる。また、G719X以外の稀少エクソン18変異(G719R、G719Dなど)のTKI感受性は未評価であり、これらの変異に対する最適な治療戦略は今後の研究で解明される必要がある。さらに、エクソン18変異における二次耐性機構は未解明であり、長期治療における耐性克服戦略の確立が求められる。前向き臨床試験データは少数例のpost-hoc解析に限定されており、エクソン18変異特異的な大規模前向き臨床試験の実施が今後の方向性として重要である。

方法

本研究は、EGFR変異の特性とTKI感受性を評価するための基礎研究および臨床データ解析を組み合わせたデザインである。EGFR変異の頻度を評価するため、愛知県がんセンター (ACC) の2001年11月から2015年5月までのデータベースと、COSMICデータベース (release 71) からEGFR変異データを抽出した。代表的なエクソン18変異であるG719A、E709K、およびDel 18 (delE709_T710insD) をpQCLINレトロウイルスベクターにサブクローニングし、eGFPと共にIL-3 (interleukin-3) 依存性Ba/F3細胞、NIH/3T3細胞、およびHEK293細胞に導入した。

IL-3非存在下でのBa/F3細胞の増殖アッセイおよびNIH/3T3細胞のフォーカス形成アッセイにより、これらの変異ががん原性ドライバーとして機能するかを評価した。TKI感受性は、Cell Counting Kit-8 (CCK-8) を用いて72時間TKI曝露後の90%阻害濃度 (IC90) を測定し、各TKIの臨床的なトラフ濃度 (C trough) と比較した。Western blot解析により、p-EGFR (Tyr1068)、p-HER2 (Tyr1248)、およびtotal EGFRの発現レベルを定量し、TKIによるリン酸化抑制効果を確認した。統計解析にはJMP version 11.1.1を使用し、G719AとG719S、E709KとE709A間のTKI感受性の違いをχ²検定またはFisher正確検定で比較した。統計的有意水準は両側p<0.05とした。本研究はレトロスペクティブコホート研究であり、倫理委員会の承認を得て実施された。