- 著者: Primo N. Lara Jr, Jeff Longmate, Philip C. Mack, Karen Kelly, Mark A. Socinski, Ravi Salgia, Barbara Gitlitz, Tianhong Li, Mariana Koczywas, Karen L. Reckamp, David R. Gandara
- Corresponding author: Primo N. Lara Jr (University of California Davis Comprehensive Cancer Center, Sacramento, CA, USA)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-06-23
- Article種別: Original Article
- PMID: 26106072
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) は米国における癌関連死の主要な原因であり、診断時に進行期である患者が多く、治癒が困難な疾患である。近年、EGFR (epidermal growth factor receptor) のチロシンキナーゼドメインにおける活性化変異 (exon 19欠失やL858R変異など) が、肺腺癌の約10%から15%に認められ、erlotinibなどのEGFR TKI (tyrosine kinase inhibitor) に対して顕著な奏効を示すことが報告されている。しかし、これらのEGFR変異陽性腫瘍は、治療開始後ほぼ全ての症例で獲得耐性を獲得し、最終的に病勢が進行する。獲得耐性のメカニズムとしては、約50%の症例でEGFR T790M二次変異の出現が報告されているが、残りの症例ではT790M以外のメカニズムが関与している。特に、HGF-MET経路を介したAKT経路の活性化が、erlotinib耐性の重要な要因となることが約20%から30%のEGFR変異陽性NSCLCで示唆されている。
前臨床研究では、HGF (hepatocyte growth factor) による刺激が、erlotinib感受性細胞株においてerlotinibの細胞増殖抑制効果および細胞傷害効果を打ち消すことが示されていた。このHGFを介した耐性は、METの下流にあるAKT経路の活性化を介して誘導されることが明らかになっている。さらに、allosteric AKT阻害剤であるMK-2206が、HGF誘導性のerlotinib耐性を部分的に解除し、erlotinibの活性を回復させることが報告された (Hirai et al. Mol Cancer Ther 2010)。この知見は、AKT阻害がerlotinib抵抗性の克服に有効である可能性を示唆するものである。
一方、EGFR野生型NSCLC患者におけるerlotinib単剤療法の奏効は限定的であり、中央値PFS (progression-free survival) は通常2〜3ヶ月と短いことが知られている (Shepherd et al. NEnglJMed 2005、Cappuzzo et al. LancetOncol 2010)。このため、EGFR野生型NSCLCにおいても、AKT阻害剤との併用によりerlotinibの感受性を回復させる戦略の臨床的意義が問われていた。先行研究では、MK-2206単剤または他の抗癌剤との併用による抗腫瘍活性がin vitroおよびin vivoで示されており、erlotinibとの併用による相乗効果も報告されている (Molife et al. J Hematol Oncol 2014)。しかし、erlotinib既治療のNSCLC患者におけるAKT阻害剤とerlotinibの併用療法の有効性と安全性に関する大規模な臨床データは不足しており、特にEGFR変異型と野生型に層別化した詳細な評価は未解明であった。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的として、erlotinib治療後に病勢進行したNSCLC患者を対象に、AKT阻害剤MK-2206とerlotinibの併用療法の第II相試験を実施した。この併用療法は、erlotinib抵抗性のメカニズムとしてAKT経路の活性化が関与する可能性に着目し、その臨床的妥当性を検証することを意図した。
目的
本第II相試験の主要目的は、erlotinib単剤または併用療法により12週間以上の奏効または病勢安定の臨床的ベネフィットを得た後に病勢進行した進行NSCLC患者において、AKT阻害剤MK-2206 (45 mg 隔日経口投与) とerlotinib (150 mg 毎日経口投与) の併用療法の有効性と安全性を評価することである。本試験では、患者をEGFR変異型群 (stratum 1) とEGFR野生型群 (stratum 2) に層別化し、それぞれの群で異なる主要評価項目を設定した。
具体的には、EGFR変異型群 (stratum 1) では、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 基準に基づく客観的奏効率 (objective response rate, ORR) を主要評価項目とし、目標奏効率を30%超と設定した。これは、41例の患者において5例以上の奏効が認められた場合に、十分な活性があると判断される基準であった。一方、EGFR野生型群 (stratum 2) では、12週時点での病勢コントロール率 (disease control rate, DCR) を主要評価項目とし、目標DCRを20%超と設定した。これは、41例の患者において5例以上の病勢コントロールが認められた場合に、十分な活性があると判断される基準であった。
副次評価項目としては、両群における無増悪生存期間 (PFS) および安全性の評価が含まれた。本研究は、erlotinib抵抗性のメカニズムとしてAKT経路の活性化が関与する可能性に着目し、この併用療法が臨床的に意義のある効果をもたらすかを検証することを目的とした。特に、EGFR野生型NSCLC患者におけるerlotinib単剤の限定的な効果を改善する可能性を評価することも重要な目的の一つであった。
結果
患者背景と層別化: 本試験には合計80例の患者が登録された。内訳はEGFR変異型群 (Stratum 1) が45例、EGFR野生型群 (Stratum 2) が35例であった (Table 1)。患者の年齢中央値は64歳であり、女性が多数を占めた (65%)。両層ともに約80%の患者が腺癌の組織型であった。63例 (79%) の患者が過去に細胞傷害性化学療法を受けていた。erlotinibが直前治療であった患者は、Stratum 1で55% (n=25)、Stratum 2で60% (n=21) であった。Stratum 1におけるEGFR変異の内訳は、exon 19欠失が27例、L858R変異が11例、exon 21/その他の変異が7例であった。Stratum 1の患者における過去の薬物療法レジメン数の中央値は2 (範囲1-8) であり、Stratum 2では3 (範囲1-8) であった。両群間で患者背景に大きな偏りは認められず、比較可能な集団であった。
安全性と治療実施: MK-2206とerlotinibの併用療法は忍容可能であることが示された (Table 2)。Stratum 1およびStratum 2の両群で、治療サイクル数の中央値は3サイクルであった (範囲1-21および1-23)。毒性による用量遅延は両層で類似しており、Stratum 1で実施された総サイクル数230のうち30サイクル (13%)、Stratum 2で実施された総サイクル数203のうち26サイクル (13%) で用量遅延が必要であった。全患者80例中31例 (39%) で、試験期間中にいずれかまたは両方の薬剤の用量変更が必要となった。 治療を受けた80例中52例でグレード3以上の有害事象 (AE) が発生した。これらのうち41例では、少なくとも1つのグレード3以上のAEがMK-2206またはerlotinibに起因する可能性が指摘され、3例ではグレード3を超えるAEが認められた。最も頻繁に報告されたグレード3以上の薬剤関連AEは、発疹 (n=12)、下痢 (n=11)、疲労 (n=8)、および粘膜炎 (n=5) であった。グレード4の薬剤関連AEは肺感染症1例のみであった。治療関連死は肺炎による1例が報告された。治療中止の主な理由は病勢増悪であり、56例 (70%) で認められた。
EGFR変異型群 (Stratum 1) の有効性: EGFR変異型群 (N=45) では、完全奏効 (CR) は認められなかった。部分奏効 (PR) は4例 (9%) であり、病勢安定 (SD) は14例であった。12週時点でのDCRは40% (18/45) であった。この群におけるPFS中央値は4.4ヶ月 (95% CI 2.7-6.6) であった (Table 3, Fig. 1)。主要評価項目である奏効率30%超は達成されなかった。 erlotinibが直前治療であった25例では、奏効率は8% (2/25)、DCRは32% (8/25)、PFS中央値は3.1ヶ月 (95% CI 2.7-13.9) であった。一方、erlotinibが直前治療でなかった20例では、奏効率は10% (2/20)、DCRは50% (10/20)、PFS中央値は5.3ヶ月 (95% CI 2.6-11.3) と、直前治療でなかった群でやや良好な傾向が示された。この結果は、EGFR変異型NSCLCにおいては、AKT/EGFR二重阻害が細胞傷害的効果よりも細胞静止的効果が中心であったことを示唆している。
EGFR野生型群 (Stratum 2) の有効性: EGFR野生型群 (N=35) では、未確認の部分奏効が1例 (3%) 認められ、病勢安定が14例であった。12週時点でのDCRは43% (15/35) であった。この群におけるPFS中央値は4.6ヶ月 (95% CI 2.9-8.5) であった (Table 3, Fig. 1)。主要評価項目である12週時点でのDCR20%超は達成され、95% CIの下限値21.5%も目標の20%を上回ったため、本試験の事前設定された基準をクリアした。 erlotinibが直前治療であった21例では、DCRは48% (10/21)、PFS中央値は5.6ヶ月 (95% CI 2.8-15.6) と良好な結果であった。erlotinibが直前治療でなかった14例では、奏効率7% (1/14)、DCRは36% (5/14)、PFS中央値は3.0ヶ月 (95% CI 2.9-NA) であった。この結果は、erlotinib既治療のEGFR野生型NSCLCにおいて、MK-2206とerlotinibの併用療法が臨床的に意義のある活性を示すことを強く示唆するものである。特に、erlotinib単剤での典型的なPFS (2-3ヶ月) を上回る4.6ヶ月というPFS中央値は、この患者集団における臨床的有用性を示している。
考察/結論
本第II相試験は、erlotinib既治療の進行NSCLC患者において、AKT阻害剤MK-2206とerlotinibの併用療法がEGFR野生型群で臨床的有用性を示すことを明らかにした。特に、EGFR野生型群 (Stratum 2) における12週時点のDCR 43%は、事前に設定された主要評価項目であるDCR 20%超を大きく上回る結果であり、この併用療法がerlotinib抵抗性のEGFR野生型NSCLCにおいてさらなる臨床評価に値することを示唆している。EGFR野生型NSCLCにおけるerlotinib単剤のPFS中央値が通常2〜3ヶ月であることを考慮すると、本試験で観察されたPFS中央値4.6ヶ月は、臨床的に意義のある延長であると考えられる。この結果は、Miller et al. LancetOncol 2012 が報告したLUX-Lung 1試験や、LUX-Lung 8試験におけるafatinibの活性と比較しても遜色ないものであった。
先行研究との違い: 本研究は、erlotinib既治療のNSCLC患者をEGFR変異状態に基づいて層別化し、AKT阻害剤とerlotinibの併用療法を評価した点で、これまでの単剤療法や他の併用療法の試験とは異なるアプローチをとった。特に、EGFR野生型群で予想を上回るDCRを達成したことは、この患者集団におけるerlotinib抵抗性のメカニズムにAKT経路が関与している可能性を示唆するものであり、これまでのEGFR野生型NSCLCに対する治療戦略とは対照的な結果である。
新規性: 本研究で初めて、erlotinib抵抗性のEGFR野生型NSCLCにおいて、AKT阻害剤とerlotinibの併用療法が臨床的に意義のある病勢コントロール率を達成し得ることを示した。これは、EGFR野生型NSCLCにおける新たな治療戦略の可能性を提示する新規な知見である。前臨床データではHGF-MET経路を介したAKT活性化がerlotinib耐性に関与することが示唆されていたが、本研究はその臨床的妥当性を裏付けるものとなった。
一方、EGFR変異型群 (Stratum 1) では、奏効率が9%と低く、主要評価項目である奏効率30%超は未達成であった。この結果は、T790M変異を含む複雑なバイパスシグナル経路がerlotinib抵抗性に関与しており、AKT/EGFRの二重阻害だけではこれらの経路を完全に抑制するには不十分である可能性を示唆している。同時期に登場した第三世代EGFR TKI (例: Sequist et al. NEnglJMed 2015 のrociletinibや Janne et al. NEnglJMed 2015 のAZD9291/osimertinib) がT790M変異陽性例で顕著な奏効を示していることを踏まえると、EGFR変異型におけるerlotinib抵抗性克服には、T790Mを標的とする薬剤がより有望であると考えられる。
臨床応用: 本研究の結果は、erlotinib抵抗性のEGFR野生型NSCLC患者において、AKT経路阻害が有効な治療戦略となり得ることを示唆しており、将来的な臨床応用への道を開くものである。特に、EGFR野生型NSCLCにおけるerlotinib単剤の限定的な効果を考慮すると、AKT阻害剤との併用療法は、この患者集団に対する新たな治療選択肢となる可能性がある。本研究は、AKT阻害剤 (AZD5363やGSK2141795などを含む) の今後の開発における概念実証 (proof-of-concept) を提供するものである。
残された課題: 本試験の限界として、組織生検による包括的な分子プロファイリングが実施できなかった点が挙げられる。これにより、AKT依存性バイパス機序を有するレスポンダーサブセットを同定することができなかった。将来の研究では、バイオマーカーを用いた患者層別化により、AKT阻害剤の恩恵を最も受ける患者集団を特定することが今後の重要な課題である。また、本試験で観察された細胞静止的効果を細胞傷害的効果に転換するための、さらなる併用療法の検討も必要である。例えば、Lopez-Chavez et al. JClinOncol 2015 が報告したバスケット試験では、PIK3CA/AKT/PTEN経路に遺伝子変異を持つ患者においてMK-2206単剤では腫瘍縮小効果が認められなかったことから、単一の経路阻害では不十分である可能性が示唆されている。最適な治療戦略を確立するためには、複数のシグナル伝達経路を同時にまたは連続的に阻害するアプローチが今後の検討課題となる。
方法
本研究は、NCI-CTEP (National Cancer Institute - Cancer Therapy Evaluation Program) およびCalifornia Cancer Consortiumが主導した層別化第II相臨床試験 (ClinicalTrials.gov登録番号: NCT01294306) である。
適格基準: 組織学的または細胞学的に確認されたNSCLC患者で、erlotinib単剤または他の薬剤との併用療法により12週間以上の奏効または病勢安定のベネフィットを得た後に病勢進行した患者を対象とした。erlotinibによる初期進行後に他の全身療法を受けた患者も適格とした。Karnofsky Performance Statusは60%以上が必須であり、許容可能な肝機能、腎機能、骨髄機能を有している必要があった。症候性のない、制御されたまたは治療済みの脳転移患者も、脳転移のために投与されていたコルチコステロイドが少なくとも14日間中止されている場合に限り適格とした。MK-2206またはerlotinibに類似する化学的または生物学的組成の化合物に対するアレルギー反応の既往がある患者は除外された。
試験デザインと治療計画: 患者はEGFR変異状態に基づいて2つの層に層別化された。
- Stratum 1: EGFR活性化変異 (exon 19欠失またはexon 21 L858R変異) を有する腫瘍の患者。
- Stratum 2: EGFR野生型腫瘍の患者。 EGFR変異状態は、登録後6週間以内に確認され、適切な層に割り当てられた。
治療は、MK-2206を45 mg隔日経口投与、erlotinibを150 mg毎日経口投与とし、28日を1サイクルとした。用量調整は、グレード3以上の発疹、下痢、またはその他の非血液学的毒性 (グレード2の角膜炎を含む) が発生した場合に実施された。グレード2の非血液学的毒性で医学的に懸念される場合 (例: 長期にわたる心臓、肺、または神経毒性) は、毒性がグレード1以下に解決するまで治療を中断し、その後減量して再開された。用量再増量は許可されなかった。
統計学的考慮事項: 主要目的は、MK-2206とerlotinibの併用療法の有効性を、EGFR変異型腫瘍患者とEGFR野生型腫瘍患者の2つの層で決定することであった。副次目的には、無増悪生存期間 (PFS) と安全性が含まれた。 両層には独立して2段階デザインが適用された。
- Stratum 1 (EGFR変異型): 最初の段階で21人の患者を治療し、RECIST客観的奏効が1人以下の場合、この層への登録は中止された。2人以上の奏効が認められた場合、最終的なサンプルサイズ41人まで登録を継続した。41人中5人以上が奏効した場合、試験はEGFR変異型腫瘍において十分な活性を示すと判断された。この基準で活性を示す確率は、基礎となる奏効率が5%の場合0.05以下、20%の場合0.90以上であった。
- Stratum 2 (EGFR野生型): 最初の段階で21人の患者を治療し、12週時点での病勢コントロール (DC) が1人以下の場合、この層への登録は中止された。2人以上のDCが認められた場合、最終的なサンプルサイズ41人まで登録を継続した。41人中5人以上が12週時点でDCを示した場合、試験はEGFR野生型腫瘍において十分な活性を示すと判断された。この基準で活性を示す確率は、基礎となるDC率が5%の場合0.05以下、20%の場合0.90以上であった。 試験の実施中、最初の段階でエンドポイントが評価されている間の登録中断を避けるため、最初の段階で最大5人の追加患者の過剰登録が許可された。これにより、タイプIエラー率が0.050に維持された。PFSの推定にはKaplan-Meier (カプラン・マイヤー) 法が用いられた。
研究実施: 2013年3月までに、Stratum 2では12週時点でのDCを示す患者が32人中13人と、レジメンが有望であるという基準を大幅に上回った。12週時点でのDCの確率に対する正確な95%信頼区間の下限は24%であり、目標の20%を上回っていた。フラットな事前分布を用いた事後分布の2.5パーセンタイルも26%と目標を大きく上回った。この時点で、試験スポンサーであるNCI-CTEPにより試験終了の許可が与えられた。2013年4月に試験が正式に終了するまでに、この層には36人の患者が登録された。