• 著者: Lopez-Chavez A, Thomas A, Rajan A, Raffeld M, Morrow B, Kelly R, Carter CA, Guha U, Killian K, Lau CC, Abdullaev Z, Xi L, Pack S, Meltzer PS, Corless CL, Sandler A, Beadling C, Warrick A, Liewehr DJ, Steinberg SM, Berman A, Doyle A, Szabo E, Wang Y, Giaccone G
  • Corresponding author: Giuseppe Giaccone, MD, PhD (Lombardi Comprehensive Cancer Center, Georgetown University, Washington, DC)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-02-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25667274

背景

がん治療における臨床試験は従来、腫瘍の臓器起源や組織型に基づいて設計されてきた。しかしゲノム解析技術の急速な進歩により、2010年代初頭に2つの重要な生物学的知見が蓄積された。第一に、同一臓器起源の腫瘍でも内部遺伝的多様性 (intratumor heterogeneity) が存在し、同一の組織診断名であっても分子的には異質な集団を形成していることが、乳がんの包括的分子プロファイリング研究などにより示された Network et al. Nature 2012。第二に、異なる組織型のがん (肺腺癌・乳癌・大腸癌等) でも類似した遺伝子異常パターンが共通して観察されることが明らかになった Ciriello et al. NatGenet 2013。これらの知見は「組織型ではなく遺伝子異常に基づいてがん治療を個別化する」という精密医療 (precision oncology) の概念的基盤を提供した。

非小細胞肺がん (NSCLC) では、EGFR変異 (全体の約15〜20%) に対するEGFR-TKI、ALK転座 (約3〜5%) に対するALK阻害薬という分子標的療法の成功が、遺伝子異常に基づいた治療選択の有効性を実証していた Maemondo et al. NEnglJMed 2010Kwak et al. NEnglJMed 2010。しかし全NSCLCの約25%を占めるKRAS変異を含め、多くの遺伝子異常に対する有効な標的療法は確立されていなかった。また、SCLCや胸腺腫瘍のような希少な胸部悪性腫瘍における遺伝子異常のプロファイルと、それらに対する標的療法の有効性は未解明な点が多かった。

従来の組織型別試験デザインは、分子的に高度に細分化された患者集団を効率的に評価するには不適切であり、少数の分子サブセットを対象とした試験を多数並列実施することは非効率かつ実現不可能であった。この問題を解決するアプローチとして「バスケット試験 (basket trial)」が提唱された。バスケット試験は複数の組織型にわたって同一の遺伝的異常を同時に複数の標的療法で評価するデザインであり、患者の生物学的特性 (遺伝子異常) に基づいたアームに割り付けることで効率的な探索を可能にする。しかし、この革新的な試験デザインの実施可能性と、稀な遺伝子異常を持つ患者を効率的に登録し、治療効果を評価できるかについては、大規模な前向き試験での実証が不足していた。CUSTOM (Molecular Profiling and Targeted Therapies in Advanced Thoracic Malignancies) 試験 (NCT01306045) は、このバスケット試験デザインを実際に実施した世界初の完結した臨床試験として位置付けられ、その実施上の課題と成果は後の精密医療試験デザインに大きな影響を与えた。本研究は、このような背景から、進行胸部悪性腫瘍における分子プロファイリングの実現可能性と、それに基づく標的治療の有効性を評価するという重要な知識ギャップを埋めることを目指した。

目的

本研究の目的は、進行NSCLC、SCLC、胸腺悪性腫瘍患者における複数の遺伝子異常の頻度を前向きに確認することである。さらに、EGFR変異 (erlotinib)、RAS/RAF変異 (selumetinib)、PIK3CA/AKT/PTEN変異 (MK2206)、ERBB2変異/増幅 (lapatinib)、KIT/PDGFRA変異/増幅 (sunitinib) に対する5種の標的療法の有効性を、バスケット試験デザインを用いて同時かつ独立的に評価することを目指した。各治療アームはSimon最適二段階デザインに基づき、客観的奏効率 (ORR) を主要評価項目とした。特に、EGFR変異NSCLCアームではORR 60% (p0=30%)、その他のアームではORR 40% (p0=10%) を目標とした。また、NSCLC患者において遺伝子型別の長期生存差異を実証することも重要な目的の一つであった。本試験は、分子プロファイリングに基づく個別化治療戦略の実現可能性と、その臨床的意義を評価することを意図している。これにより、従来の組織型に囚われない治療戦略の臨床的有用性を検証し、精密医療の発展に貢献することが期待された。

結果

患者背景と分子プロファイリング結果: 2011年2月から2012年12月までに647例の患者が登録され、分子プロファイリングを受けた (Table 1)。内訳はNSCLC 481例 (74.3%)、SCLC 68例 (10.5%)、胸腺腫瘍98例 (15.1%) であった。NSCLCでは腺癌が75% (363例)、扁平上皮癌が13% (64例) を占めた。分子プロファイリングは569例 (88%) で成功し、257例 (45%) がコア遺伝子に異常を有していた。このうち、複数異常は23例 (4%) で認められた。コア遺伝子異常陽性の257例中212例 (82%) がスクリーニング不合格となり、治療アームに登録されたのは45例 (18%) のみであった。この低い登録効率が試験の主要な実施上の課題として明らかになった (Figure 1)。

NSCLCにおける遺伝子異常頻度: NSCLC (n=481) において、KRAS変異が最多で91例/366例解析中 (24.86%、95%CI 20.52-29.62%) に認められた。次いでEGFR変異が88例/398例 (22.11%、95%CI 18.13-26.51%)、TP53変異が81例/284例 (28.52%)、ALK転座が29例/335例 (8.66%) であった。BRAF変異は8例/349例 (2.29%)、ERBB2変異は8例/284例 (2.82%)、PIK3CA変異は11例/285例 (3.86%)、PTEN変異は8例/181例 (4.42%) と、比較的稀な変異が多く確認された。NSCLC中のKIT変異は0例であった (Figure 2A、Table 2)。

SCLCにおける遺伝子プロファイル: SCLC (n=68) ではTP53変異が19例/43例 (44.19%) と最多であり、RB1変異5例/15例 (33.33%)、PIK3CA変異4例/47例 (8.51%)、PTEN変異2例/21例 (9.52%) が認められた。EGFR変異は1例/51例 (1.96%)、KRAS変異は2例/49例 (4.08%) と頻度が低く、NSCLCとは異なる遺伝子プロファイルを示した (Figure 2B、Table 2)。

erlotinibアーム (EGFR変異 NSCLC) の有効性: NSCLC中のEGFR変異88例のうち15例がerlotinibアームに登録された。主なスクリーニング不合格理由は前erlotinib治療歴であった。NSCLCの15評価可能例において、9例に部分奏効 (PR) を達成し、ORRは60% (95%CI 32.3-83.7%) であった。これは一次エンドポイントを達成したことを示す。12ヶ月PFS率は46.7% (95%CI 24.8-69.9%)、24ヶ月PFS率は13.3% (95%CI 3.7-37.9%)、mPFSは11.3ヶ月であった。治療開始時からのmOSは25.7ヶ月、12ヶ月OS率は86.7% (95%CI 62.1-96.3%)、24ヶ月OS率は60.0% (95%CI 33.0-82.1%) であった。このアームは、他試験でEGFR変異NSCLCへのerlotinibの有効性が確立されたため、一次エンドポイント到達前に早期にクローズされた (Table 3)。

selumetinibアーム (RAS/RAF変異 NSCLC) の有効性: KRAS変異はNSCLC中91例 (24.9%) と最多頻度であったが、腺癌限定では27.4% (77/204例) であり、現喫煙者/元喫煙者では33.5%、非喫煙者では6.8%と喫煙歴依存性が観察された。10例 (NSCLC 9例、SCLC 1例) がselumetinibアームに登録され、9例が評価可能であった。NSCLCではPRが1例のみでORRは11% (95%CI 0-48%) であり、一次エンドポイントを未達成であった。mPFSは2.3ヶ月、mOSは6.5ヶ月と不良な成績であった。selumetinibアームは一次エンドポイント非達成 (第一段階で打ち切り) として終了し、KRAS変異NSCLCに対するMEK単剤阻害が有効でないことを早期に実証した (Table 3)。

その他のアームの有効性: lapatinibアーム (ERBB2阻害) にはNSCLC 7例が登録されたが、全例でPRは観察されずORR 0%であった。MK2206アーム (AKT阻害) にはNSCLC 4例が登録されたが、全例でPRは観察されずORR 0%であった。sunitinibアーム (KIT/PDGFRA阻害) にはNSCLC 2例が登録されたが、PRは観察されなかった。これらのアームでは稀な遺伝子異常頻度のため目標登録数に到達できず、合計15アームのうち13アームで完全登録が不可能であった。SCLCおよび胸腺腫瘍の各アームも低頻度のため有効性評価は困難であった。胸腺悪性腫瘍のsunitinibアームでのみ、TM患者に1例PRが観察された (唯一の探索的シグナル)。

遺伝子型別OS層別化 (診断時からの全NSCLC解析): NSCLC診断時からのOS解析では、5つの遺伝子型別患者群で有意な生存差異が認められた (p<0.001)。EGFR変異群のmOSは3.51年 (95%CI 2.89-5.50年) であり、12・24・36ヶ月OS率はそれぞれ90%、77%、58%であった。ALK転座群のmOSは2.94年 (95%CI 1.66-4.61年) であり、12・24・36ヶ月OS率はそれぞれ96%、67%、38%であった。KRAS変異群のmOSは2.30年 (95%CI 1.74-3.17年) であり、12・24・36ヶ月OS率はそれぞれ77%、55%、45%であった。その他遺伝子異常群 (BRAF、ERBB2、NRAS、PIK3CA、HRAS、PTEN、ERBB2増幅など) のmOSは2.17年 (95%CI 1.30-2.74年) であった。ドライバー変異未同定/プロファイリング不成功群のmOSは1.85年 (95%CI 1.61-2.13年) であった。EGFR変異群はALK転座群、KRAS変異群、および変異なし群の全グループと比較して有意に長い生存を示した (Figure 3)。

考察/結論

主要知見と試験デザインの意義: CUSTOM試験は、バスケット試験として完結した世界初の臨床試験として先駆的な意義を持つ。20ヶ月間に647例の患者を登録し、88%で分子プロファイリングを成功させたことは、前向きバスケット試験の実施可能性 (feasibility) を証明した。試験のデザインは各アームがSimon二段階法で独立したPhase IIとして機能し、EGFR-erlotinib (ORR 60%、95%CI 32.3-83.7%) とKRAS-selumetinib (ORR 11%、95%CI 0-48%) という対照的な結果を小規模コホートで効率的に評価することを可能にした。

Erlotinibの有効性確認とEGFR変異NSCLCの確立: EGFR変異NSCLCでのerlotinibのORR 60%は、Mok et al. NEnglJMed 2009Rosell et al. NEnglJMed 2009Rosell et al. LancetOncol 2012Sequist et al. JClinOncol 2013等の先行試験で確立された知見と整合する独立した確認データを提供した。診断からのmOS 3.51年は、EGFR変異NSCLCの予後が非変異NSCLCと大きく異なることを実データで示した。

Selumetinib不成功とKRAS変異標的療法の困難: KRAS変異NSCLCに対するselumetinib単剤のORR 11%・mPFS 2.3ヶ月という不良な結果は、MEK阻害薬単剤ではKRAS変異NSCLCに対する臨床的に意義ある抗腫瘍効果が得られないことを示した。この結果は、KRAS変異腫瘍の依存性が単一のMEK経路シグナルに限られず、多経路のシグナルが補完的に働くというこれまでの理解と整合する。本試験の結果は、その後のAMG 510 (sotorasib) やMRTX849 (adagrasib) 等のKRAS G12C直接阻害薬開発を動機付けた背景の一つとなった点で臨床的意義を持つ。

遺伝子型別OS層別化の臨床的意義: EGFR変異 (mOS 3.51年) > ALK転座 (2.94年) > KRAS変異 (2.30年) > その他変異 (2.17年) > 変異なし (1.85年) という遺伝子型別OS層別化は、分子プロファイリングが予後予測に実践的価値を持つことを実証した。特にドライバー変異が同定されていない患者 (mOS 1.85年) と比較してEGFR変異患者のOSが2倍近い点は、「分子プロファイリングに基づく治療選択が単に治療をマッチングするだけでなく患者の生命予後を改善する」という精密医療の核心的メリットを示す実データである。この知見は、Kris et al. JAMA 2014など、他の包括的分子プロファイリング研究の結果とも一致する。

試験デザインの限界と残された課題: CUSTOM試験の最大の実施上の問題は、稀な遺伝子変異を有する患者の登録が困難であったことである。コア遺伝子異常陽性257例中わずか45例 (18%) しか治療アームに登録されず、15アームのうち13アームで完全登録が不可能であった。この経験から、バスケット試験の成功には、(1) 多施設・国際コンソーシアムによる規模拡大、(2) 新治療薬を動的に追加できるアダプティブデザイン、(3) 包括的ゲノムプロファイリング (CGP) によるより多くの遺伝子の同時解析、が必要であるという設計上の重要な教訓が抽出された。本試験の教訓は後のNCI MATCH (Molecular Analysis for Therapy Choice) 試験やBASKET (Biomarker-driven Approaches of Targeted Therapy) 試験、MyPathway試験などの設計に反映され、精密医療時代のバスケット/マスタープロトコール試験の発展に貢献した。解析した遺伝子数の限界 (ROS1、RET融合等が未評価) やサンプルの異質性、2施設限定という制約も今後の課題として認識された。本研究で初めて、進行胸部悪性腫瘍における広範な分子プロファイリングの実現可能性と、その限界が示されたことは新規な知見である。

方法

試験デザイン:National Cancer Institute (NCI) およびOregon Health and Science University (OHSU) Knight Cancer Instituteで実施した多施設、非ランダム化、バスケット設計のPhase II試験 (NCT01306045)。2011年2月〜2012年12月の20ヶ月間で647例を登録した。

対象患者:組織学的に確認された進行再発NSCLC、SCLC (肺神経内分泌腫瘍含む)、胸腺悪性腫瘍患者を対象とした。臓器機能、ECOG PS、前治療数に制限なしというCUSTOMの設計上の特徴は、広範な患者を分子プロファイリング部分に登録可能にした。

分子プロファイリング:アーカイブ腫瘍組織 (474例、73%) または新鮮生検 (172例、27%) をCLIA認定検査室で検査した。コアパネルとして、AKT1、BRAF、EGFR、ERBB2、HRAS、KIT、KRAS、NRAS、PDGFRA、PIK3CA、PTENの変異およびERBB2、PIK3CA、PDGFRAの遺伝子増幅を評価した。探索パネルとして、ALK転座 (FISH break-apart法) および224がん関連遺伝子の変異を評価した。少なくとも1つの検査が成功した患者は569例 (88%) であった。Grade 3/4の生検関連合併症はわずか3%であり、手技の安全性が確認された (Appendix Table A1)。

治療アーム割り付けと治療:遺伝子異常に基づき非ランダム化で5つの標的療法アームに割り付けた。各組織型 (NSCLC/SCLC/TM) ×5治療アームの計15アーム構成である。

アーム標的遺伝子異常治療薬
ErlotinibEGFR変異Erlotinib (EGFR-TKI)
SelumetinibKRAS/HRAS/NRAS/BRAF変異Selumetinib (MEK阻害薬)
MK2206PIK3CA/AKT1/PTEN変異MK2206 (AKT阻害薬)
LapatinibERBB2変異/増幅Lapatinib (ERBB2阻害薬)
SunitinibKIT/PDGFRA変異/増幅Sunitinib (多標的TKI)

登録アームに該当しない患者は「NOS (not otherwise specified) アーム」に登録し、標準治療または他の試験に参加した。

統計的設計:各アームはSimon最適二段階デザインで独立評価した (Simon R, 1989)。主要エンドポイントはORRである。EGFR-erlotinibアームのみp0=30%・p1=60%と設定し、それ以外のアームはp0=10%・p1=40%と設定した。Kaplan-Meier法でPFS・OSを算出した。OS解析は治療アーム登録時と診断時の両方から計算した。統計解析にはSASソフトウェアを使用した。多重比較の問題については、各アームが独立したPhase II試験として設計されたため、個々のアームの統計的有意性は独立して評価された。