• 著者: Vincent A. Miller, Vera Hirsh, Jacques Cadranel, et al.
  • Corresponding author: James Chih-Hsin Yang (National Taiwan University, Taipei, Taiwan)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2012
  • Epub日: 2012-03-26
  • Article種別: Original Article (Phase 2b/3)
  • PMID: 22452896

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) のうち、腺癌患者の約10〜15%は上皮成長因子受容体 (EGFR) の活性化変異を有している。これらの患者は、第一世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であるエルロチニブやゲフィチニブによる治療に対して高い奏効率と長い無増悪生存期間 (PFS) を示すことが、複数の臨床試験で報告されている (Mok et al. NEnglJMed 2009Shepherd et al. NEnglJMed 2005)。しかし、これらの薬剤に対する治療効果は一時的であり、最終的には全ての患者で獲得耐性が生じ、病勢が進行する。獲得耐性の主要なメカニズムとして、EGFR遺伝子のT790M変異が約50〜60%の患者で認められることが知られている (Oxnard et al. ClinCancerRes 2011)。このT790M変異は、第一世代TKIの結合を阻害する「ゲートキーパー変異」として機能し、治療効果を減弱させる。

アファチニブ (BIBW2992) は、EGFRを含むErbBファミリーの全受容体 (EGFR/HER2/ErbB3/ErbB4) に対して不可逆的に共有結合するパン-ErbBブロッカーである。前臨床試験では、アファチニブがEGFRの活性化変異だけでなく、T790M変異を含むEGFR変異体に対しても抗腫瘍活性を示すことが報告されていた (Li et al. Oncogene 2008)。このため、第一世代EGFR-TKI治療後に病勢進行した患者に対する新たな治療選択肢として、アファチニブへの期待が高まっていた。

当時、EGFR-TKI治療後に病勢進行した進行肺腺癌患者に対する有効な治療選択肢は限られており、アンメットニーズが非常に高かった。特に、化学療法も1〜2レジメン施行後に病勢進行した患者群では、さらなる治療選択肢が不足している状況であった。本試験は、このようなEGFR-TKI前治療歴および化学療法歴を持つ進行肺腺癌患者を対象に、アファチニブの有効性と安全性を評価する最初の大規模プラセボ対照試験として計画された。本試験の設計時には、プラセボ群における後続治療の実施率が低いと想定されていたため、主要評価項目として全生存期間 (OS) が設定された。しかし、その後の臨床現場の変化により、プラセボ群においても後続治療が広く行われる可能性があり、OS評価に影響を及ぼすことが懸念された。この点において、EGFR-TKI獲得耐性後の最適な治療戦略は未解明であり、新たな治療薬の臨床的有用性はまだ確立されていなかった。

目的

本試験LUX-Lung 1 (ClinicalTrials.gov, number NCT00656136) は、EGFR-TKI (エルロチニブ、ゲフィチニブ、またはその両方) による治療を12週間以上受けた後に病勢進行し、かつ1〜2レジメンの化学療法歴を持つ進行肺腺癌患者 (ステージIIIBまたはIV) を対象として、アファチニブ50mg/日とプラセボをそれぞれベストサポーティブケア (BSC) と併用した場合の全生存期間 (OS) を主要評価項目として比較することを目的とした。副次評価項目として、無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、疾患制御率 (DCR)、奏効期間 (DoR)、健康関連QOL (HRQoL)、および安全性が評価された。本試験は、EGFR-TKI前治療歴のある患者群におけるアファチニブの臨床的有用性を確立することを目指した。

結果

患者背景と試験集団: 2008年5月26日から2009年9月21日までに697名の患者が特定され、そのうち585名がアファチニブ群 (n=390) またはプラセボ群 (n=195) に無作為に割り付けられた (Figure 1)。両群間でベースライン特性に大きな差は認められなかった (Table 1)。患者の約62% (361/585) がアジア諸国出身であり、民族的にも約3分の2 (387/585) がアジア人であった。約63%が非喫煙者であり、99%が腺癌であった。ECOG PS 0-1の患者が96%を占めた。前EGFR-TKI治療歴の内訳は、エルロチニブのみ55%、ゲフィチニブのみ39%、両方6%であった。前EGFR-TKI治療期間の中央値は42週 (約10.5ヶ月) であった。また、99%の患者がプラチナ製剤を含む化学療法歴を有し、中央値で2レジメンの治療を受けていた。スクリーニング時に利用可能な組織検体でEGFR変異が評価された141例中、96例 (68%) がEGFR変異陽性であった (Table 2)。

主要評価項目 (OS): 主要評価項目であるOSの中央値は、アファチニブ群で10.8ヶ月 (95% CI 10.0-12.0)、プラセボ群で12.0ヶ月 (95% CI 10.2-14.3) であり、統計学的に有意な差は認められなかった (HR 1.08, 95% CI 0.86-1.35; 片側p=0.74) (Figure 2A)。プラセボ群のOS中央値がアファチニブ群よりも0.8ヶ月長いという逆転現象が観察された。このOSの差が認められなかった主な要因として、プラセボ群の79%が病勢進行後に後続治療 (主にEGFR-TKIの再投与) を受けたのに対し、アファチニブ群では68%であったことが挙げられた (Table 5)。この後続治療の交絡効果が、OSの評価を複雑にしたと解釈された。サブグループ解析においても、治療群間のOSに有意な差は認められなかった (Figure 2B)。

副次評価項目 (PFS): 独立評価委員会によるPFS中央値は、アファチニブ群で3.3ヶ月 (95% CI 2.79-4.40)、プラセボ群で1.1ヶ月 (95% CI 0.95-1.68) と、アファチニブ群で統計学的に有意な延長が認められた (HR 0.38, 95% CI 0.31-0.48; p<0.0001) (Figure 3A)。このPFSの改善は、EGFR変異陰性患者を除く全てのサブグループで一貫して観察された (Figure 4)。特に、前EGFR-TKI治療で完全奏効または部分奏効を達成した患者、あるいは48週以上の治療期間があった患者など、EGFR変異陽性である可能性が高いサブグループでは、アファチニブのPFS延長効果がより顕著であった (Table 4)。例えば、前EGFR-TKI治療で完全奏効または部分奏効を達成した患者群では、PFSのHRは0.23 (95% CI 0.17-0.33) であった。

奏効率と疾患制御率: 客観的奏効率 (ORR) は、独立評価委員会によりアファチニブ群で7% (部分奏効29例、完全奏効0例) であったのに対し、プラセボ群では0.5% (部分奏効1例) であり、アファチニブ群で有意に高かった (p=0.0071) (Table 3)。奏効期間 (DoR) 中央値はアファチニブ群で24週 (約5.5ヶ月) であった。疾患制御率 (DCR) は、アファチニブ群で58% (独立評価委員会による) であったのに対し、プラセボ群では18%であり、アファチニブ群で有意に高かった (p<0.0001) (Table 3)。

安全性: アファチニブ群で最も多く報告された有害事象 (全グレード) は、下痢 (339例, 87%; グレード3: 17%) および皮疹/ざ瘡 (305例, 78%; グレード3: 14%) であった (Table 6)。これらの有害事象は、プラセボ群と比較してアファチニブ群で著明に高頻度で発生した (下痢: アファチニブ群87% vs プラセボ群9%; 皮疹/ざ瘡: アファチニブ群78% vs プラセボ群16%)。口内炎 (61%; グレード3: 3%) や爪囲炎 (39%; グレード3: 5%) もアファチニブ群で高頻度であった。有害事象による用量減量はアファチニブ群の150例 (38%) で必要とされ、そのうち80例 (21%) が下痢、59例 (15%) が皮疹/ざ瘡によるものであった。有害事象による治療中止はアファチニブ群の70例で発生し、そのうち30例が薬剤関連であった。薬剤関連の重篤な有害事象は、アファチニブ群で39例 (10%)、プラセボ群で1例 (<1%) であった。アファチニブ群で2例の薬剤関連死亡が報告された (心不全1例、急性腎不全および肝不全1例)。間質性肺疾患 (ILD) の薬剤関連死亡はなかったが、既存の肺炎の致死的増悪が1例報告された。

後続治療の影響: プラセボ群の患者の79%が病勢進行後に後続の抗癌治療を受けたのに対し、アファチニブ群では68%であった (Table 5)。プラセボ群ではEGFR-TKIの再投与がアファチニブ群の約2倍の頻度で行われていた。この後続治療の差がOSの評価に影響を与えた可能性を検討するため、逆確率打ち切り重み付けCoxモデルを用いた解析が行われた結果、アファチニブ群でOSの改善が示唆された (HR 0.64, 95% CI 0.43-0.95; p=0.028)。また、後続の全身療法を受けなかった患者群ではアファチニブ群でOSが良好であったが、後続の全身療法を1つ以上受けた患者群では両群間にOSの差は認められなかった (Figure 5)。

考察/結論

LUX-Lung 1試験は、主要評価項目である全生存期間 (OS) において、アファチニブがプラセボと比較して有意な改善を示さなかったネガティブ試験である。OS中央値はアファチニブ群10.8ヶ月に対しプラセボ群12.0ヶ月であり、HR 1.08 (95% CI 0.86-1.35, p=0.74) であった。しかし、副次評価項目である無増悪生存期間 (PFS) はアファチニブ群で有意に延長し (中央値3.3ヶ月 vs 1.1ヶ月; HR 0.38, 95% CI 0.31-0.48; p<0.0001)、客観的奏効率 (ORR) もアファチニブ群で7%とプラセボ群の0.5%と比較して有意に高かった。これらの結果は、アファチニブがEGFR-TKI前治療歴のある進行肺腺癌患者において、一定の抗腫瘍活性を有することを示唆している。

先行研究との違い: 本試験は、EGFR-TKI治療後に病勢進行した患者を対象とした大規模なプラセボ対照試験として、この患者集団におけるアファチニブの有効性を初めて定量的に評価した点で、これまでの研究と異なっている。これまでの研究では、この設定での有効な治療選択肢が不足しており、本試験の結果は、PFSとORRの点で、従来の化学療法や他の分子標的薬の単剤療法と比較して優位性を示した。特に、Jackman et al. JClinOncol 2010の基準を満たす獲得耐性患者サブグループにおいて、アファチニブのPFS延長効果が顕著であったことは、単なるEGFR-TKIの再曝露効果ではないことを示唆している。

新規性: 本研究で初めて、EGFR-TKI治療後に病勢進行した進行肺腺癌患者において、アファチニブがプラセボと比較してPFSと奏効を統計学的に有意に延長することを示した。これは、EGFR T790M変異を含む獲得耐性メカニズムの一部を克服する可能性を秘めた不可逆的ErbBファミリーブロッカーの臨床的活性を実証した点で新規性がある。また、健康関連QOLの改善も認められ、咳、呼吸困難、疼痛といった肺癌関連症状の有意な改善がアファチニブ群で観察された。

臨床応用: OSの改善が認められなかった主な要因は、プラセボ群における79%という高い後続治療率による交絡効果が考えられる。特に、プラセボ群でEGFR-TKIの再投与がアファチニブ群の約2倍の頻度で行われていたことは、OS評価に大きな影響を与えたと推測される。後続治療の影響を調整した解析では、アファチニブ群でOSの改善が示唆されたことから、アファチニブがこの患者集団において臨床的意義を持つ可能性は否定できない。しかし、OSの改善が直接的に示されなかったため、臨床現場でのアファチニブの導入には慎重な判断が必要である。本試験の結果は、その後のLUX-Lung 3およびLUX-Lung 6試験 (EGFR変異陽性NSCLCの一次治療におけるアファチニブと化学療法の比較試験でOS改善を示した) の設計に重要な教訓を与えた。

残された課題: 本試験の主要なlimitationは、OSの改善が示されなかったことである。これは、プラセボ群における高い後続治療率がOS評価を複雑にしたため、アファチニブの真のOSベネフィットを評価することが困難であったことが残された課題である。また、EGFR変異ステータスのスクリーニング時の確認が必須ではなかったため、EGFR変異陽性患者におけるアファチニブのT790M変異に対する効果を詳細に解析するには、サンプルサイズが不十分であった。今後の研究では、T790M変異選択的な第三世代TKI (例: オシメルチニブ) の開発や、アファチニブと他の薬剤との併用療法が検討されるべきである。

方法

LUX-Lung 1試験は、2008年5月26日から2009年9月21日にかけて、アジア (中国、香港、韓国、シンガポール、台湾、タイ)、ヨーロッパ (ベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、英国、スペイン)、北米 (カナダ、米国) の15カ国86施設で実施された、第2b/3相無作為化二重盲検プラセボ対照多施設共同試験である。

患者選択基準: 病理学的に確認されたステージIIIB (胸水あり) またはステージIVの腺癌患者で、測定可能病変を有し、ECOGパフォーマンスステータス (PS) が0〜2、生命予後が3ヶ月以上とされた。また、1〜2レジメンの化学療法歴 (術後補助化学療法を含む) があり、エルロチニブまたはゲフィチニブによる治療を12週間以上受けた後に病勢進行した患者が対象とされた。EGFR-TKI治療中止から治験薬初回投与までの期間は14日以上とされた。EGFR変異ステータスのスクリーニング時の確認は必須ではなかったが、12週間以上のEGFR-TKI治療歴はEGFR変異陽性患者を濃縮する戦略として用いられた。

無作為化と盲検化: 適格患者は、アファチニブ50mg/日とBSC併用群、またはプラセボとBSC併用群に2:1の比率で無作為に割り付けられた。無作為化は、性別およびベースラインのECOG PS (0-1 vs 2) で層別化され、コンピュータ生成シーケンスによって行われた。治験責任医師、患者、および治験依頼者は治療割り付けについて盲検化された。

治療プロトコル: 患者は病勢進行または許容できない有害事象が発生するまで、アファチニブ50mg/日またはプラセボを毎日経口投与された。グレード3以上の有害事象、またはグレード2の下痢、悪心、嘔吐が7日以上持続した場合、治験薬の投与を最大14日間中断し、グレード1以下に回復後、10mg減量して再開することが可能であった。3回目の減量が必要な場合は、治験薬の投与を中止した。

評価項目: 主要評価項目は、無作為化日から死亡までの期間として定義される全生存期間 (OS) であり、ITT (intention-to-treat) 解析で評価された。副次評価項目には、独立評価委員会および治験責任医師による無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、奏効期間 (DoR)、疾患制御率 (DCR)、安全性、および健康関連QOL (EORTC QLQ-C30およびQLQ-LC13を用いて評価) が含まれた。腫瘍評価は、スクリーニング時、4週、8週、12週、その後8週ごとにCTまたはMRIスキャンで行われ、独立した放射線科医によるレビューが行われた。

統計解析: 主要評価項目であるOSの比較には、層別化ログランク検定が用いられ、片側α=0.025で有意水準が設定された。ハザード比 (HR) は、層別化Cox比例ハザードモデルを用いて推定された。PFSも同様に解析された。OSの検出力は、HR 0.70 (アファチニブ群のOS中央値6.7ヶ月 vs プラセボ群の4.7ヶ月を想定) を検出するために、359イベントで90%の検出力を持つよう設計された。後続治療のOSへの影響を評価するため、逆確率打ち切り重み付けCoxモデルおよび後続治療の有無によるサブグループ解析が実施された。