- 著者: Adam J. Schoenfeld, Joseph M. Chan, Daisuke Kubota, Hiroki Sato, Hira Rizvi, Yahya Daneshbod, Jason C. Chang, Paul K. Paik, Michael Offin, Maria E. Arcila, Monika A. Davare, Ujwal Shinde, Dana Pe’er, Natasha Rekhtman, Mark G. Kris, Romel Somwar, Gregory J. Riely, Marc Ladanyi, Helena A. Yu
- Corresponding author: Helena A. Yu (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-01-07
- Article種別: Original Article
- PMID: 31911548
背景
EGFR変異陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) における第3世代EGFR-チロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) であるosimertinibは、FLAURA試験において一次治療での無増悪生存期間 (PFS) を従来のerlotinib/gefitinibと比較して有意に改善(中央値18.9ヶ月 vs 10.2ヶ月)し、現在の標準一次治療として確立した (Soria et al. NEnglJMed 2018)。しかし、中央値PFS 19ヶ月での獲得耐性が不可避的に生じるため、耐性機構の解明と次治療戦略の開発が急務となっている。
これまでのosimertinib耐性機構に関する知見は、主にEGFR T790M変異陽性例に対して後治療でosimertinibを投与したコホートから得られており、EGFR C797S変異が15-32%と最頻の獲得変異、MET増幅が10-26%のoff-target耐性機構として報告されてきた (Oxnard et al. JAMAOncol 2018)。さらに、ALK・RET・BRAF等の融合遺伝子も後治療osimertinib耐性として同定されている。一方、歴史的に第1/2世代EGFR-TKI耐性研究では、組織型転換—とりわけ小細胞癌転換—が稀な機構として散発的に報告されてきた (Sequist et al. SciTranslMed 2011)。
しかし、一次治療osimertinibに固有の耐性機構については知識が不足していた。既存研究の多くは循環腫瘍DNA (ctDNA: circulating tumor DNA) を用いた血漿解析に依存しており、以下の根本的なgap in knowledgeが存在していた: (1) ctDNA解析では組織型転換を検出できない、(2) コピー数変化・染色体再構成の感度が組織解析と比較して低い、(3) 治療前後のペア腫瘍組織検体が不足しているため真の獲得変異と既存サブクローンの区別が困難、(4) EGFR T790M保持腫瘍を対象とする後治療コホートとは根本的に異なる耐性スペクトルが一次治療では出現する可能性。この手薄な領域を埋めるために、ペア腫瘍組織を用いた包括的な解析が必要とされていた。
目的
EGFR変異転移性肺癌患者において、一次治療および後治療でosimertinibを投与された際の獲得耐性機構を、治療前後のペア腫瘍組織を用いた次世代シーケンシング (NGS) 解析により網羅的に評価する。具体的には、組織型転換を含む多様な耐性機構の頻度・性質・臨床転帰との関連性を明らかにすること、感受性EGFR変異が耐性スペクトルに与える影響を解析すること、そして新規に同定された耐性変異(MET H1094Y、EGFR S768I+V769L)について機能的検証を行い潜在的治療戦略を探索することを目的とした。
結果
患者コホートの概要:一次治療群と後治療群の臨床特性: osimertinib獲得耐性かつペア腫瘍組織が利用可能な合計62例(一次治療n=27、後治療n=35)が解析対象となった (Table 1)。両群の年齢中央値は58歳(44-75歳)および59歳(40-75歳)、女性比率は56%および69%、never smokerは両群とも63%と臨床背景は類似していた。データカットオフ(2019年5月1日)時点での追跡期間中央値は一次治療群17.2ヶ月(95% CI 12.0-24.9ヶ月)、後治療群28.5ヶ月(95% CI 19.7-32.5ヶ月)であり、一次治療群の追跡期間が短いのは2018年4月の一次治療承認直後の患者が対象であるためである。一次治療群の中央値TTDは13.6ヶ月(95% CI 12.4-25.5ヶ月)、後治療群の中央値TTDは15.2ヶ月(95% CI 13.0-19.9ヶ月)であった。データカットオフ時点で一次治療群の70%(n=19)、後治療群の71%(n=25)が生存中であった。初期の感受性EGFR変異は、一次治療群ではExon 19欠失52%・L858R変異41%に対し、後治療群ではExon 19欠失80%・L858R変異17%・T790M変異91%と分布が異なり、後治療群がT790M陽性患者を対象とすることを反映していた。
一次治療Osimertinib耐性の分子学的景観:off-target変異が主体でEGFR C797Sは不在: 一次治療osimertinib群(n=27)において、既知の獲得耐性機構が同定されたのは41%(n=11)に留まった (Fig. 1C)。特筆すべきは、後治療群で最頻の獲得変異であるEGFR C797S変異が一次治療群では1例も検出されなかった点である。オンターゲット耐性変異は極めて稀で、EGFR G724S変異が4%(1/27例)のみであった。これに対してoff-target耐性機構は19%(5/27例)と相対的に高頻度で認められ、内訳はMET増幅2例(Supplementary Table S1)、KRAS G12A変異1例、TRIM24-BRAF融合1例、RUFY2-RET融合1例であった。後治療群と比較してoff-target耐性の割合が一次治療群で有意に高く(p=0.01)、off-target耐性が早期に出現しやすいことが示された。治療前の共存変異としてはTP53変異が70%(n=19)と最多、EGFR増幅が33%(n=9)、CDKN2A/B欠失が各15%(n=4)であった。EGFR-mediated耐性(EGFR依存性変異による耐性)を示した患者は、その他の耐性機構を持つ患者と比較して中央値TTDが有意に延長されており(18.0ヶ月 vs 13.2ヶ月、95% CI 13.3-33.2 vs 10.6-16.3、p=0.04)、OSも有意に良好であった(中央値OS未到達 vs 29ヶ月、95% CI 24.6-未到達、p<0.001)(Fig. 5A)。
後治療Osimertinib耐性:EGFR C797S変異の優位性とoff-target機構の多様性: 後治療osimertinib群(n=35)では、既知の耐性機構が71%(n=25)と高頻度で同定された (Fig. 2C)。EGFR C797変異(C797S 9例+C797G 1例)が全体の29%を占め、後治療群では治療後検体でEGFR C797S獲得が有意に濃縮されていた(p=0.04)。感受性EGFR変異との関連を解析すると、EGFR C797SはExon 19欠失を背景とする患者で有意に高頻度であり(p=0.03)、L858R背景の患者では治療後のCDKN2A/B欠失(p=0.02)・TERT増幅(p=0.03)が多い傾向が認められた(ただし多重比較補正後は有意性なし)。Off-target耐性機構としては、AGK-BRAF融合、MET exon 14変異、KRAS G12D変異(EGFR T790M喪失例)、ALK融合(EGFR T790M保持例)、ERBB2 Y772_A775dup(EGFR T790M保持)が同定された。ALK融合を獲得した2例ではosimertinibとALK-TKI(crizotinib・alectinib・lorlatinib)の併用により持続的な奏効が確認された (Fig. 5C, D)。これらの知見は、後治療群のT790M保持腫瘍がEGFR依存性を維持したまま三次EGFR変異(C797S)を選択しやすいことを示唆する。
組織型転換:高頻度かつ予後不良な早期耐性機構: 組織型転換は全体の15%(9/62例)で認められ、一次治療群15%(4/27例)・後治療群14%(5/35例)と両群でほぼ同頻度であった (Fig. 4A)。内訳は扁平上皮癌転換5例、多形性転換(扁平上皮・肉腫様・小細胞の複合特徴)1例、小細胞癌転換3例であった。扁平上皮癌転換では治療前の腫瘍組織でTTF-1陽性・p40陰性腺癌が確認され、治療後はTTF-1陰性・p40陽性の扁平上皮癌への転換が病理学的に確認された (Fig. 4B)。扁平上皮癌転換のゲノム的背景としては、PIK3CA E726K変異獲得(1例)、低レベル染色体3q gain(1例)が認められたが、共通のゲノム的相関因子は同定されなかった。多形性転換の1例では極めて高レベルの染色体3q増幅(49-fold)およびFGF3/FGF4/FGF19増幅(15-fold)が獲得されていた。一方、小細胞癌転換の全3例で治療前検体からRB1およびTP53変異が既存していた (Fig. 4A)。臨床転帰として、組織型転換を認めた患者はEGFR-mediated耐性患者と比較してTTDが有意に短く(p=0.04)、OSも有意に不良であり(p<0.001)、9例中5例が死亡し、うち4例はosimertinib進行後10ヶ月以内の早期死亡であった。扁平上皮癌転換例では様々な後続治療が試みられたが、小細胞癌転換の全例が白金製剤+etoposide療法を受けた (Fig. 4C)。
MET H1094YおよびEGFR SV768IL変異の新規耐性機構としての機能的検証: 一次治療群で同定されたMET H1094Y変異と後治療群で同定されたEGFR S768I+V769L(SV768IL)複合変異について機能的検証を実施した (Fig. 6)。PC9細胞にMET H1094YおよびMET H1094Rを安定発現させると、空ベクター(EV)および野生型MET発現細胞と比較してosimertinibに対するIC50が大幅に上昇した(MET H1094Y: 136-fold増加、MET H1094R: 959-fold増加)。キナーゼ不活性型K1110A変異では耐性が消失したことから、耐性はMETキナーゼ活性依存的であることが確認された。MET H1094変異発現細胞はEV・野生型MET発現細胞よりもcrizotinibへの感受性がわずかに高く、osimertinibとcrizotinibの併用では全試験濃度においてCI<1(相乗効果)が示された。さらに、この併用療法はPC9-MET H1094Y細胞においてcaspase 3/7活性を有意に増強し(p<0.0001)、osimertinib単剤またはcrizotinib単剤では誘導されないアポトーシスを惹起した。EGFR SV768IL変異についても、PC9細胞でosimertinib IC50が166-fold増加、HCC827細胞では244-fold増加を示した(Supplementary Fig. S1)。EGFR SV768IL発現細胞は野生型EGFRより高度なEGFR・ERK1/2・AKTリン酸化を呈し、osimertinib誘導性のcaspase 3/7活性化に抵抗性を示した。これらの結果はMET H1094YとEGFR SV768ILの両者が機能的なosimertinib耐性機構であることを確証するとともに、MET H1094Y耐性に対するosimertinib+crizotinib併用の有効性を支持する。
考察/結論
本研究は、osimertinibに対する獲得耐性機構が多様であること、そして一次治療osimertinibの耐性スペクトルが後治療osimertinibとは質的に異なることを、ペア腫瘍組織解析を用いて本研究で初めて包括的に実証した。これまでの研究では後治療osimertinibコホートから得られた知見が主体であり、EGFR C797Sが最頻の獲得耐性変異として認識されてきた。しかし本研究では、一次治療osimertinib群ではEGFR C797S変異が認められず、既報と対照的に、EGFR依存性変異(EGFR G724S 1例のみ、4%)は稀であり、off-target変異(19%)と組織型転換(15%、特に扁平上皮癌化)が早期に出現する主要な耐性機構であることが明らかになった。この違いは、後治療群のT790M保持腫瘍がEGFR依存性を維持したまま三次EGFR変異を選択しやすいのに対し、一次治療では治療前から潜在する非EGFR依存性サブクローンが早期に浮上するという生物学的差異によるものと考えられる。
本研究で初めて、MET H1094Y変異およびEGFR S768I+V769L(SV768IL)複合変異がosimertinib耐性の新規な機構として機能的に検証された。特に、MET H1094Yに対してはosimertinib+crizotinib併用が前臨床データで相乗的な腫瘍細胞死滅を示しており、この新規な治療戦略の臨床的意義は今後の探索が期待される。EGFR C797Sを介した耐性に対する一次世代TKI再導入の試験(NCT03755102)も進行中であり、獲得耐性機構の多様性に応じた個別化アプローチの開発が進んでいる。
臨床的意義として本研究の知見はいくつかの重要な含意を持つ。第一に、一次治療osimertinib進行後の患者では耐性機構同定のために腫瘍組織再生検が不可欠であり、ctDNA単独では扁平上皮癌転換を含む組織型転換を見逃すリスクがある。臨床現場における組織ベース解析の継続的な重要性が本研究により再確認された。第二に、扁平上皮癌転換は予後不良(中央値OS 29ヶ月対未到達、p<0.001)と強く関連しており、小細胞癌転換と類似した臨床的含意として、各組織型に特化した治療戦略への迅速な移行が重要である。第三に、off-target融合遺伝子(BRAF・RET・ALK等)の高頻度な獲得はosimertinibの選択圧下でゲノム再構成が促進されることを示唆しており、特定の融合が同定された症例では対応するTKIとの併用療法が有効な可能性がある。
残された課題として、本研究にはいくつかのlimitationがある。一次治療群の追跡期間が中央値17.2ヶ月と比較的短く、長期的な耐性スペクトルの全貌—特にEGFR C797S出現率の時間依存的変化—は今後の検討が必要である。また、組織型転換がde novoの細胞系譜可塑性によるものか既存サブクローンの増殖によるものかを単一生検で区別することは困難であり、future researchでは多部位生検・シングルセル解析・エピゲノム解析の統合が求められる。さらに、一次治療群の59%で耐性機構が未同定であり、エピジェネティック変化・RNA・タンパク発現変化を統合した更なる検討が必要である。腫瘍内不均一性もまた今後の解析における重要な課題として残されている。
方法
患者コホートと倫理的枠組み: Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) の機関審査委員会 (IRB: Institutional Review Board) 承認(プロトコル12-245)のもと、EGFR変異陽性転移性肺癌に対してosimertinibを投与され、治療開始前および疾患進行時(Jackman基準による獲得耐性の定義 Jackman et al. JClinOncol 2010)に腫瘍組織でNGSが施行された患者62例を後方視的に同定した。患者は一次治療osimertinib群(n=27)と後治療osimertinib群(n=35、先行EGFR-TKI後にosimertinibを投与)に分類した。
NGS解析: 主たるNGSプラットフォームはMSK-IMPACT(ハイブリッドキャプチャーベースの包括的がんゲノムプロファイリング、数百遺伝子を対象)であり、一部症例ではMSK-AmpliseqおよびFoundation Medicine NGSも使用した。単一ヌクレオチド変異 (SNV) およびコピー数変異 (CNV) はcBioPortalで解析した。既存のNGSで耐性機構が同定されなかった症例には補完的にカスタムRNAseqパネル(MSK-Fusion Solid)を適用した。組織型転換が疑われる全例では治療前後の病理検体を経験豊富な病理医が再レビューし、p40・TTF1・RB1・p53の免疫組織化学 (IHC: immunohistochemistry) 染色により治療前からの扁平上皮癌・神経内分泌癌・小細胞癌成分の混在を除外した。
統計解析: 臨床的・分子学的・組織学的特徴と臨床転帰の関連性評価にFisher exact検定およびlog-rank検定を使用した。治療中止までの期間 (TTD: time-to-treatment discontinuation、EGFR-TKI開始から治療中止まで) および全生存期間 (OS: overall survival、osimertinib開始から死亡または最終確認日まで) はKaplan-Meier法で算出した。特定変異の治療前後での濃縮評価にはペア検体でMcNemar検定、非ペア解析にはFisher exact検定を適用した。
機能的検証: 新規耐性変異の機能的役割を評価するため、EGFR Exon 19欠失細胞株PC9およびHCC827に部位特異的変異導入とレンチウイルス導入によりMET H1094R・MET H1094Y・キナーゼ不活性型MET H1094Y(K1110A)・EGFR S768I+V769L(SV768IL)を安定発現させた。osimertinibおよびcrizotinibに対するIC50はalamareBlue法(96時間処理)で算出した。薬剤相乗効果はChou-Talalay法によるCombination Index (CI: combination index)(CI<1=相乗、CI=1=相加、CI>1=拮抗)で評価し、アポトーシスはCaspase 3/7活性測定(48時間処理)で評価した。全実験は3回繰り返し、各条件を3重に実施した。