• 著者: Oxnard GR, Hu Y, Mileham KF, Husain H, Costa DB, Tracy P, Feeney N, Sholl LM, Dahlberg SE, Redig AJ, Kwiatkowski DJ, Rabin MS, Paweletz CP, Thress KS, Jänne PA
  • Corresponding author: Geoffrey R. Oxnard, MD (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA)
  • 雑誌: JAMA Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-08-02
  • Article種別: Original Investigation
  • PMID: 30073261

背景

Osimertinibは、第1・第2世代EGFR-TKIに対する獲得耐性の主要因であるEGFR T790M変異を標的とする第3世代不可逆的EGFR-TKIとして、T790M陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) の標準治療薬として世界中で広く使用されている。T790M陽性例に対するosimertinibは、客観的奏効率 (ORR) 約62%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値約10ヶ月という高い臨床活性を示すことが報告されている (Janne et al. NEnglJMed 2015Mok et al. NEnglJMed 2017)。また、一次治療としてのosimertinibも、標準化学療法と比較して有意なPFS延長を示し、新たな標準治療としての地位を確立しつつある (Soria et al. NEnglJMed 2018)。しかし、最終的にはほぼ全ての患者がosimertinibに対する獲得耐性を発症し、その後の治療選択が大きな課題となっている。

Osimertinibへの獲得耐性機構としては、EGFR C797S変異、MET増幅、小細胞肺癌への組織転化などが個別に報告されてきた (Thress et al. NatMed 2015Sequist et al. SciTranslMed 2011)。しかし、これらの耐性機構がどのような頻度で出現し、耐性発現のタイミングや臨床的行動パターン (例: 耐性までの期間) とどのように関連するのかについては、体系的な解析が不足していた。特に、血漿中の細胞遊離DNA (cfDNA) を用いた連続モニタリングが、耐性パターンを早期に予測できるか否かは未解明であった。

従来のEGFR-TKI耐性に関する研究では、腫瘍組織生検による解析が主流であったが、腫瘍の空間的不均一性や繰り返し生検の困難さから、耐性機構の全貌を捉えるには限界があった。液体生検は、非侵襲的に腫瘍のゲノム情報をリアルタイムでモニタリングできる利点があり、耐性機構の動態を追跡する上で有望なアプローチと考えられている (Chabon et al. NatCommun 2016)。しかし、osimertinib耐性における液体生検の役割、特に治療早期のcfDNA変化が耐性パターンを予測する可能性については、さらなる検証が必要であった。本研究は、osimertinib獲得耐性後の分子メカニズムを詳細に解析し、その臨床的意義を明らかにすることを目的とした。特に、T790M変異の維持または消失が耐性パターンと治療期間に与える影響を評価することは、今後の治療戦略を最適化する上で重要な情報となると考えられた。

目的

本研究の目的は、osimertinibに対する獲得耐性の分子メカニズムを系統的に解析し、各耐性パターンの臨床的行動 (特に治療中止までの期間、TTD) との関連性を明らかにすることである。さらに、治療前および治療早期の血漿cfDNAジェノタイピングが、耐性パターンの予測マーカーとなりうるか否かを検討する。具体的には、耐性時のEGFR T790M変異の維持または消失が、治療効果の持続期間や出現する耐性機構の種類にどのように影響するかを評価する。T790M消失が早期の治療失敗と多様な競合する耐性メカニズムの出現に関連するという仮説を検証し、液体生検による連続モニタリングが耐性機構の動態を捉え、将来的な治療戦略の最適化に貢献できる可能性を探ることを目指した。これらの知見を通じて、osimertinib耐性後の治療選択を個別化するためのバイオマーカーの同定と、新たな治療開発の方向性を示すことを意図した。

結果

T790M維持群とT790M消失群の患者背景と耐性機構: 41例の腫瘍NGS解析において、osimertinib耐性時のEGFR T790M維持は13例 (32%)、T790M消失は28例 (68%) に認められた (Figure 1)。T790M維持群では、9例 (全体22%、維持群の69%) にEGFR C797S変異が検出され、これらは全てT790Mとcisに存在していた。一方、T790M消失群では、小細胞肺癌への組織転化 (n=6)、MET増幅 (n=4)、PIK3CA変異 (n=2、うち1例は小細胞転化と重複)、BRAF変異 (n=2) といった既知の耐性機構に加え、RET融合遺伝子、FGFR3融合遺伝子、BRAF融合遺伝子 (各1例) といった新規の耐性機構も同定された。特に注目すべきは、KRAS Q61K変異 (腫瘍NGS、アレル頻度 30%) が1例に検出され、droplet digital PCRで確認されたことである (Figure 2)。患者背景では、T790M維持群で女性比率が高い傾向 (女性11例、85%) が認められたが、その他の因子は両群で類似していた。

耐性までの期間 (TTD) の比較とT790M消失の臨床的意義: T790M消失群の中央値TTDは6.1ヶ月であり、T790M維持群の15.2ヶ月と比較して有意に短かった (log rank P=0.01) (Figure 3)。この所見は、T790M消失がosimertinib治療前から存在した耐性クローンの選択的増殖によって起こることを強く示唆する。この差は、T790M消失が早期の治療失敗に関連する重要なバイオマーカーであることを示している。

検証コホート (AURA試験, n=110) での確認: AURA試験の検証コホートでは、耐性後血漿cfDNAにEGFRドライバー変異が検出された110例を解析対象とした。T790M消失は52例 (47%)、T790M維持は58例 (53%) であった。T790M維持例のうち24例 (22%) がEGFR C797Sを獲得し、いずれもT790M維持例に限定された。TTDはT790M消失群で5.5ヶ月、T790M維持かつC797S陰性群で12.6ヶ月、T790M維持かつC797S陽性群で12.4ヶ月であり (log rank P=0.006)、主要コホートの所見が再現された (Figure 4A)。TTDを三分位に分けた解析では、TTD上位三分位 (13ヶ月以上) の患者ではT790M維持が72% (26/36例) を占め、下位三分位 (5.5ヶ月以下) ではT790M消失が68% (26/38例) を占め、T790M状態とTTDの明確な相関が示された (Figure 4B)。

治療早期 (1〜3週) の血漿cfDNA変化と耐性パターン予測: 19例で治療開始1〜3週の早期血漿検体が利用可能であった。最終的にT790M消失となった11例と維持となった8例を比較すると、両群とも血漿T790MレベルはΔT790Mとして同程度の低下 (中央値100%) を示した。しかし、EGFRドライバー変異レベルの変化 (ΔDriver) はT790M維持群でより大きく低下した (中央値100% vs 83%低下、P=0.01)。ドライバー変異とT790M変異の差分 (ΔDriver - ΔT790M) はT790M消失群で有意に大きかった (中央値16% vs 0%、P=0.003) (Figure 5C)。ΔDriver - ΔT790M >1%の9例中8例が最終的にT790M消失となり、早期血漿反応がT790M消失の予測に有用であることが示唆された。

連続血漿モニタリングによる耐性機構の動態観察と腫瘍不均一性: 連続cfDNA解析では耐性機構の複雑な動態が観察された。小細胞転化例では、治療中にT790Mが低下する一方でドライバー変異が増加した。EGFR C797S獲得例では、初期の完全血漿消失後に2種のC797S変異体とT790Mが再出現した。KRAS変異獲得例では、新たなdroplet digital PCR assayを開発してKRAS Q61K変異の経時的出現を確認し、血漿でT790Mの再出現も観察された。複数の事例で、血漿NGSが腫瘍NGSでは検出できなかった耐性機構 (KRAS G12V変異、ALK再構成、EGFR G724S) を検出しており、腫瘍の空間的不均一性と液体生検の相補的価値が示された。

耐性機構の治療前からの存在: 6例の小細胞転化例のうち1例では、osimertinib開始の8.5ヶ月前の生検で小細胞分化が確認されていた。MET増幅4例のうち1例では、osimertinib前の生検でfocal MET増幅 (6%の細胞に10コピー) が存在し、9週間のosimertinib後にはMET増幅が94%の細胞に拡大した。BRAF融合遺伝子も1例でosimertinib前から存在が確認された。これらの所見は、T790M消失に伴う耐性機構が多くの場合、osimertinib治療前から潜在的に存在する耐性クローンの選択的増殖であることを強く示唆する。

考察/結論

Osimertinib耐性の2つの主要パターンと臨床的意義: 本研究は、osimertinib耐性にはT790M消失型 (早期耐性、多様な競合機構) とT790M維持型 (後期耐性、主にEGFR C797S) という2つの生物学的に異なるパターンが存在することを初めて体系的に示した。T790M消失型はosimertinib治療前から存在していた非T790M耐性クローンの選択的増殖によって引き起こされると考えられる。これは、従来のEGFR-TKI耐性研究で報告された、治療前の腫瘍不均一性が耐性機構の出現に影響するという知見と一致する。一方、T790M維持型はT790M変異が主要な耐性機構であり続け、osimertinib処理下でさらにC797S変異を獲得した集団を反映する。この2つのパターンは、後続治療戦略の選択において根本的に異なるアプローチを必要とする点で臨床的意義が大きい。

新規性および先行研究との違い: 本研究で初めて、osimertinib耐性後にKRAS Q61K変異や複数の遺伝子融合 (RET、FGFR3、BRAF) といった新規の耐性機構を同定したことは新規性がある。これらの機構は、これまで報告されていなかった多様な耐性経路の存在を示唆する。また、先行研究では個別の耐性機構が報告されてきたが、本研究はT790Mの維持/消失という観点から耐性機構を分類し、それぞれの臨床的行動パターン (TTD) との明確な関連を示した点で、これまでの研究とは異なる体系的な理解を深めた。

多発性耐性機構の同時存在と腫瘍不均一性: 血漿NGSが腫瘍NGSでは検出できなかった耐性機構 (KRAS G12V変異、ALK再構成、EGFR G724S) を検出した事例は、腫瘍組織の空間的不均一性とliquid biopsyの相補的価値を強調する。複数の耐性機構が同時に存在することは、単一の組み合わせ治療アプローチによる耐性克服を困難にする。この知見は、Yu et al. ClinCancerRes 2013が報告した多発性耐性変異の存在を裏付けるものである。

臨床応用と今後の課題: 本研究の知見は、osimertinib耐性後の治療戦略に重要な臨床的含意を持つ。osimertinib耐性後の再生検によるT790M状態の確認は、患者を適切な後続治療 (T790M維持例ではC797S標的治療の臨床試験、T790M消失例では耐性機構に応じた標的治療または化学療法) に導くために不可欠である。連続血漿モニタリングによる耐性パターンの早期予測が実現すれば、耐性出現前の先制的な組み合わせ治療への介入が可能となる可能性がある。現在開発中の各種osimertinib組み合わせ療法は、どのタイプの耐性を標的とするのかを明確にした上で、適切な患者選択を行う必要がある。

残された課題と研究の限界: 本研究の限界として、後ろ向き多施設コホートであるため、統一されたNGSアッセイではなく施設ごとの臨床NGSを使用している点が挙げられる。また、前後の生検が利用可能な患者が限定されており、耐性出現前の腫瘍異種性の全体像は不完全である。TTDはPFSの代替指標であり、完全な生存解析は別途必要である。さらに、機関コホートでT790M消失が68%と多い原因として、早期耐性患者が後ろ向き研究では過剰に集積される選択バイアスがある (検証コホートの47%と比較)。今後の検討課題として、T790M消失を予測するバイオマーカーのさらなる探索や、多様な耐性機構を標的とする新規治療法の開発が挙げられる。

方法

患者コホート: 本研究は、多施設後ろ向きコホート研究と検証コホートを用いた。主要解析対象は、4施設の機関データベースから同定された、T790M陽性獲得耐性に対して単剤osimertinibを投与されたEGFR変異陽性進行NSCLC患者143例のうち、osimertinib耐性後に腫瘍生検の次世代シーケンス (NGS) 解析が可能であった41例 (女性28例、68%) であった。患者は、以前のEGFR-TKI治療後にT790M変異陽性であることが腫瘍または血漿ジェノタイピングで確認されており、毒性により治療中止した患者は除外された。検証コホートとしては、AURA Phase 1試験 (NCT01802632) の参加者のうち、osimertinib耐性後に血漿cfDNAジェノタイピングが施行可能であった110例を使用した。

ゲノム解析: 主要コホートの腫瘍NGS解析は、各施設で臨床承認されたNGSアッセイ (CLIA認定) を用いて実施された。一部の患者ではMET FISHも実施された。検証コホートの血漿cfDNA解析は、droplet digital PCRまたはBEAMing法を用いて実施され、EGFRドライバー変異 (L858R、exon 19 del)、T790M、C797S変異が定量された。抵抗性血漿中にEGFRドライバー変異が検出されなかった患者は、腫瘍DNAの証拠がないため解析から除外された。連続血漿モニタリングは、機関コホートの一部患者で治療開始後1〜3週の早期血漿検体を収集し、cfDNA変化と最終的な耐性パターンとの関連を解析した。

評価エンドポイント: 主要評価項目は、治療中止までの期間 (TTD) であった。TTDは、後ろ向きコホートにおいてPFS解析が困難な場合に、治療効果を適切に反映する代替エンドポイントとして採用された。TTDは、治療開始から何らかの理由で治療が中止されるまでの期間と定義された。患者は、最後に治療を受けたことが確認された日付で打ち切られた。AURAコホートではPFS解析も含まれた。

統計解析: TTDおよびPFSの分布推定にはKaplan-Meier法が用いられた。カテゴリカル変数の分布比較にはFisherの正確検定が、連続変数の分布比較にはWilcoxon順位和検定が使用された。治療期間と耐性時のT790M消失のオッズとの関連を推定するためにロジスティック回帰モデルが使用された。全てのP値は両側検定であり、0.05未満が統計的に有意とされた。本研究および解析は2017年11月9日に最終決定された。