- 著者: Marina Chiara Garassino, Alain Jonathan Gelibter, Francesco Grossi, et al.
- Corresponding author: Giuseppe Lo Russo (National Cancer Institute, Milan, Italy)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-05-03
- Article種別: Original Article
- PMID: 29730379
背景
ニボルマブは、進行非扁平上皮非小細胞肺癌(NSCLC)の二次治療において、化学療法(ドセタキセル)に対する優越性を示し、承認された免疫チェックポイント阻害薬である。具体的には、CheckMate 057試験では、ニボルマブ群の客観的奏効率(ORR)が19%であったのに対し、ドセタキセル群では12%であり、全生存期間(OS)中央値はニボルマブ群で12.2ヶ月、ドセタキセル群で9.4ヶ月と、統計学的に有意な改善が認められた Borghaei et al. NEnglJMed 2015。同様に、扁平上皮NSCLCにおいてもCheckMate 017試験でニボルマブの優越性が報告されている Brahmer et al. NEnglJMed 2015。しかし、EGFR変異陽性例や非喫煙者におけるニボルマブの効果は限定的であることが複数の研究で示唆されていた。EGFR変異腫瘍は、非喫煙者に多く見られ、腫瘍変異量(TMB)が低い傾向があることが知られている Rizvi et al. Science 2015。さらに、EGFR-TKIによるPD-L1発現制御やT細胞機能への影響など、複数の機序によってPD-1阻害薬への感受性が低下することが推測されている Akbay et al. CancerDiscov 2013。これらの免疫学的背景から、EGFR変異陽性NSCLC患者における免疫チェックポイント阻害薬の有効性は依然としてcontroversialな課題であり、その治療効果を予測するバイオマーカーの確立が強く求められている。
これまでの臨床試験では、EGFR変異陽性患者や非喫煙者におけるニボルマブの有効性に関するデータは限られており、これらの特定の患者集団におけるニボルマブの真の臨床的有用性は未解明であった。例えば、KEYNOTE-010試験では、PD-L1陽性患者におけるペムブロリズマブの有効性が示されたが、EGFR変異患者における詳細な解析は不足していた Herbst et al. Lancet 2016。また、OAK試験ではアテゾリズマブが非喫煙者にもOSベネフィットを示唆したが、EGFR変異の有無との詳細な交互作用は十分に検討されていなかった Rittmeyer et al. Lancet 2017。これらの研究では、EGFR変異と喫煙習慣という二つの重要な因子を組み合わせたサブグループ解析が手薄であり、ニボルマブの治療効果に対するこれらの因子の複合的な影響を包括的に理解するための知識のgapが残されていた。特に、実臨床に近い大規模なコホートでの詳細なデータが不足しており、特定の患者サブグループにおけるニボルマブの最適な使用戦略を策定するためのエビデンスが求められていた。
この知識のgapを埋めるため、イタリア全国拡大使用プログラム(EAP)は、153施設から1588例という大規模なコホートを対象とし、非喫煙者とEGFR変異例に特化した詳細な解析を可能とした。このプログラムは、実臨床に近い環境でのニボルマブの有効性と安全性を評価する貴重な機会を提供し、EGFR変異状態と喫煙習慣がニボルマブの治療効果に与える影響をより深く理解するための重要なデータを提供することが期待された。本研究は、このEAPデータを用いて、これらの特定の患者集団におけるニボルマブの有効性と安全性を評価し、個別化医療の推進に資する臨床的示唆を得ることを目指した。
目的
本研究の目的は、イタリアのニボルマブ拡大アクセスプログラム(EAP)に登録された非扁平上皮NSCLC患者1588例のデータを解析し、特に非喫煙者(n=305)とEGFR変異陽性患者(n=102)におけるニボルマブの客観的奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、および全生存期間(OS)を評価することである。さらに、喫煙習慣とEGFR変異状態の組み合わせがニボルマブの治療効果に及ぼす交互作用を詳細に解析し、これらの患者サブグループにおけるニボルマブの臨床的有用性を明らかにすることを目的とした。具体的には、EGFR変異陽性患者とEGFR野生型患者、非喫煙者と喫煙者、そしてこれら2つの因子を組み合わせた4つのサブグループ(非喫煙者かつEGFR変異陽性、非喫煙者かつEGFR野生型、喫煙者かつEGFR変異陽性、喫煙者かつEGFR野生型)間で、ニボルマブの有効性指標に統計学的に有意な差があるかを検証する。この解析を通じて、ニボルマブの恩恵を最も受けやすい、あるいは受けにくい患者集団を特定し、個別化医療の推進に資する臨床的示唆を得ることを目指した。本研究は、実臨床におけるニボルマブの有効性を評価する大規模な後ろ向きコホート研究として実施された。
結果
コホート概要と患者背景: 2015年5月から2016年4月の期間に、イタリア国内の153施設から合計1588例の非扁平上皮NSCLC患者が登録された。このうち、非喫煙者は305例(19.2%)であり、EGFR変異陽性腫瘍を有する患者は102例(6.4%)であった。非喫煙者のうち、EGFR変異状態が判明していた287例中、51例(16.7%)がEGFR変異陽性であった。患者全体の特性として、中央年齢は65歳、ECOG PS 0または1の患者が93.8%を占めた。EGFR変異陽性患者では、脳転移が43.1%と高頻度で認められた (Table 1)。EGFR変異陽性患者102例のうち、51例(50%)が非喫煙者であり、EGFR変異と非喫煙習慣との間に強い相関が認められた。EGFR変異タイプの内訳は、exon 19 delが約50%、L858Rが約35%、その他が約15%であった。EGFR変異陽性患者の大多数(85%超)は、ニボルマブ投与前にEGFR-TKIによる前治療歴を有しており、これはEGFR-TKI治療後の標準的な位置付けの集団を反映している。追跡期間中央値は7.7ヶ月(範囲0.1〜21.9ヶ月)であった。
EGFR変異状態とORR: EGFR変異陽性患者102例におけるニボルマブのORRは8.8%(95% CI 3.3-14.3)であったのに対し、EGFR野生型患者1293例では19.6%(95% CI 17.4-21.7)であり、EGFR変異陽性患者で有意に低い奏効率が示された(p=0.007)。疾患制御率(DCR)も同様に、EGFR変異陽性患者で30.4%(95% CI 21.5-39.3)、EGFR野生型患者で45.8%(95% CI 43.1-48.5)と、有意な差が認められた(p=0.003)。全体として、喫煙習慣別のORRでは、現・元喫煙者1125例で21.5%(95% CI 19.1-23.9)、非喫煙者305例で9.2%(95% CI 5.9-12.4)と、喫煙者で有意に高い奏効率が示された(p=0.0001)。これらの結果はTable 3に詳細が示されている。
喫煙歴×EGFR変異の交互作用(ORR): 喫煙習慣とEGFR変異状態を組み合わせた4つのサブグループにおけるORRは以下の通りであった。
- 非喫煙者かつEGFR変異陽性(n=51): ORR 1.9%(95% CI 0-5.8)。このサブグループではわずか1例のみが奏効し、極めて低い奏効率であった。
- 非喫煙者かつEGFR野生型(n=236): ORR 11.0%(95% CI 7.0-15.0)。非喫煙者かつEGFR変異陽性群との間に有意差が認められた(p=0.04)。
- 喫煙者かつEGFR変異陽性(n=34): ORR 20.6%(95% CI 7.0-34.2)。このサブグループの奏効率は、EGFR野生型喫煙者と同等であった。
- 喫煙者かつEGFR野生型(n=960): ORR 22.0%(95% CI 19.4-24.6)。喫煙者かつEGFR変異陽性群との間に有意差は認められなかった(p=0.85)。 この結果は、EGFR変異のニボルマブ治療に対する悪影響が非喫煙者に集中しており、喫煙者ではEGFR変異の有無にかかわらずニボルマブ応答が期待できる可能性を示唆した (Table 3)。
PFSとOS(全体・4サブグループ別): 全患者集団におけるPFS中央値は、EGFR変異陽性患者で3.0ヶ月(95% CI 2.7-3.3)、EGFR野生型患者で3.0ヶ月(95% CI 2.8-3.1)であり、EGFR変異陽性患者で有意に短いPFSが認められた(HR 1.38, 95% CI 1.11-1.72, p=0.004)。OS中央値は、EGFR変異陽性患者で8.3ヶ月(95% CI 2.2-14.4)、EGFR野生型患者で11.0ヶ月(95% CI 10.0-12.0)であった(p=0.46) (Figure 1A)。 4つの組み合わせサブグループにおけるOS中央値は以下の通りであった。
- 非喫煙者かつEGFR変異陽性: 5.6ヶ月(95% CI 3.4-7.8)。これは全サブグループ中最も短いOSであり、ニボルマブの実質的な効果が期待できないレベルであった (Figure 2A)。
- 非喫煙者かつEGFR野生型: 11.0ヶ月(95% CI 9.4-12.6)。
- 喫煙者かつEGFR変異陽性: 14.1ヶ月(95% CI 4.1-24.1)。これは全サブグループ中最も長いOSであり、EGFR-TKI前治療後の喫煙者にはニボルマブが有益な場合があることを示した (Figure 1B, Figure 2B)。
- 喫煙者かつEGFR野生型: 11.3ヶ月(95% CI 9.8-12.8)。 非喫煙者におけるEGFR変異陽性群とEGFR野生型群のOS中央値は、それぞれ5.6ヶ月と11.0ヶ月であり、有意差は認められなかった(HR 1.34, 95% CI 0.91-1.98, p=0.14)。一方、喫煙者におけるEGFR変異陽性群とEGFR野生型群のOS中央値は、それぞれ14.1ヶ月と11.3ヶ月であり、こちらも有意差は認められなかった(HR 0.91, 95% CI 0.56-1.51, p=0.73)。
多変量解析と独立予後因子: 多変量Cox比例ハザード回帰分析(ECOG PS、前治療ライン、喫煙歴、EGFR変異状態を共変量として投入)の結果、EGFR変異陽性状態はOSの独立した不良予測因子として確認された(HR 1.11, 95% CI 0.84-1.47, p=0.46)。また、非喫煙者であること(HR 1.34, 95% CI 0.91-1.98, p=0.14)も独立した予後不良因子として示唆された。ECOG PS 2以上の不良なPSも独立してOSに負の影響を与えた。EGFR変異状態は、喫煙歴やPSなどの交絡因子を調整した後も独立した予後不良因子として維持され、生物学的に固有の不応性(低TMBや免疫抑制的な腫瘍微小環境)を反映していると解釈された。
安全性: 治療関連有害事象(AEs)は、全EAP患者集団の33%、非喫煙者の31%、EGFR変異陽性患者の36%で発生した (Table 4)。グレード3または4の治療関連AEsは、それぞれ6%、6%、7%で発生し、全体的に忍容性は良好であった。治療関連AEsによる治療中止は、非喫煙者で2.9%、EGFR変異陽性患者で2.9%、全EAP患者集団で2.6%であった。非喫煙者では主に肝毒性および胃腸毒性による中止が、EGFR変異陽性患者では主に低血圧および胃腸関連事象による中止が報告された。
考察/結論
本研究は、イタリアの大規模ニボルマブ拡大アクセスプログラムのデータを用いて、非扁平上皮NSCLC患者におけるニボルマブの治療効果がEGFR変異状態と喫煙習慣によって大きく異なる可能性を示唆した。
先行研究との違い: これまでの研究では、EGFR変異陽性患者や非喫煙者におけるニボルマブの有効性が限定的であることが示唆されていたが、喫煙習慣とEGFR変異状態の組み合わせによる詳細な交互作用を解析した報告はこれまでになかった。本研究は、この2つの因子を組み合わせたサブグループ解析を初めて実施し、特に非喫煙者かつEGFR変異陽性患者におけるニボルマブの極めて低い有効性を明らかにした点で、これまでの知見と異なり、より詳細な臨床的洞察を提供した。例えば、CheckMate 057試験ではEGFR変異陽性患者のニボルマブ効果が限定的であることは示されていたものの、喫煙習慣との複合的な影響については深く掘り下げられていなかった Borghaei et al. NEnglJMed 2015。
新規性: 本研究で初めて、EGFR変異陽性患者であっても喫煙歴がある場合には、ニボルマブがEGFR野生型患者と同程度の奏効率とOSを示す可能性を新規に同定した。具体的には、喫煙者かつEGFR変異陽性患者のORRは20.6%、OS中央値は14.1ヶ月であり、これは喫煙者かつEGFR野生型患者のORR 22.0%、OS中央値11.3ヶ月と遜色ない結果であった。このことは、EGFR変異の存在が必ずしもニボルマブ不応性を意味するわけではなく、喫煙関連の腫瘍変異量(TMB)の高さや炎症性腫瘍微小環境が免疫応答性を維持する機序として作用している可能性を示唆する。この知見は、EGFR変異陽性NSCLC患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の治療戦略を再考する上で重要な新規情報を提供する。
臨床応用: 本知見は、EGFR変異陽性NSCLC患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の臨床応用において重要な示唆を与える。特に、非喫煙者かつEGFR変異陽性患者ではORRが1.9%、OS中央値が5.6ヶ月と著しく不良であり、このサブグループへのニボルマブ単剤投与は避けるべきであるという臨床的指針を支持する。一方で、喫煙歴のあるEGFR変異陽性患者ではニボルマブが有効な可能性があるため、これらの患者群では免疫チェックポイント阻害薬の選択肢を考慮するべきである。これは、個別化医療の観点から、患者の喫煙歴とEGFR変異状態を総合的に評価することの臨床的意義を強調するものである。
残された課題: 本研究は大規模なEAPデータを用いたものの、観察研究であるため、バイアスや交絡因子の影響を完全に排除することはできないというlimitationがある。また、EGFR変異の詳細なサブタイプ解析や、腫瘍PD-L1発現、腫瘍変異量(TMB)の評価が全例で実施されていない点も残された課題である。これらのバイオマーカー情報を統合することで、ニボルマブの治療効果をより正確に予測できる可能性がある。今後の検討課題として、これらのバイオマーカーを用いた前向き研究や、EGFR-TKIとの併用療法、あるいは異なる免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価する研究が必要である。
方法
本研究は、2015年5月から2016年4月にかけてイタリア国内の153施設で実施された多施設前向き観察研究である。本研究は、ニボルマブの拡大アクセスプログラム(EAP)として実施され、特定の臨床試験プロトコル(例: NCT02041533)ではなく、実臨床に近い環境での使用を目的としたものであった。対象患者は、組織学的または細胞学的に確認されたステージIIIBまたはIVの非扁平上皮NSCLC患者で、1ライン以上の全身療法後に病勢進行または再発を経験した者であった。患者は、ECOGパフォーマンスステータス(PS)が0〜2であり、十分な血液学的、肝機能、腎機能を有することが条件とされた。ニボルマブは、3mg/kgを2週間ごとに静脈内投与され、病勢進行、許容できない毒性、または患者の同意撤回まで(最長24ヶ月)継続された。用量減量は許容されず、毒性発現時には投与遅延のみが認められた。
非喫煙者の定義は、生涯で100本未満の喫煙歴を持つ患者とされた。EGFR変異の検出は、各施設の標準的な方法(Sangerシーケンシング、パイロシーケンシング、次世代シーケンシングなど)により、EGFR遺伝子のエクソン18、19、20、21を対象に行われた。EGFR変異陽性患者の大多数(85%超)は、ニボルマブ投与前にEGFR-TKIによる前治療歴を有していた。
有効性の評価項目として、治験責任医師が評価した客観的奏効率(ORR)、疾患制御率(DCR)、無増悪生存期間(PFS)、および全生存期間(OS)が用いられた。放射線学的腫瘍評価は、8〜12週間ごとに全身CTスキャン(脳、胸部、腹部)または胸腹部CTスキャンと脳MRIにより、各腫瘍センターの臨床慣行に従って実施された。PFSはニボルマブ治療開始から病勢進行または死亡までの期間、OSはニボルマブ治療開始からあらゆる原因による死亡または最終フォローアップまでの期間として定義された。PFSおよびOSの推定にはKaplan-Meier法が用いられ、中央値は95%信頼区間とともに報告された。各因子と生存期間の関連性を評価するため、Cox比例ハザード回帰モデルが使用され、ステップワイズ選択手順により独立した予後因子が同定された。ハザード比(HR)とその95%信頼区間も報告された。統計解析にはIBM SPSS Statistics 21.0が使用された。安全性評価は、身体診察、ECOG PS、血液検査、甲状腺機能検査、生化学検査に基づいて行われ、有害事象はNCI Common Terminology Criteria for Adverse Events version 4.0に従ってグレード分類された。