- 著者: Takashi Seto, Hiroshige Kato, Makoto Nishio, et al.
- Corresponding author: Takashi Seto (National Hospital Organization Kyushu Cancer Center, Fukuoka, Japan)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-08-28
- Article種別: Original Article
- PMID: 25175099
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) は世界的な主要な死因であり、その大部分を占める。特に、上皮成長因子受容体 (EGFR) 遺伝子に活性化変異を有するNSCLC患者は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) であるerlotinibやgefitinibに対し、標準化学療法と比較して高い奏効率 (ORR) と無増悪生存期間 (PFS) の延長を示すことが複数の第III相試験で報告されている Zhou et al. LancetOncol 2011、Rosell et al. LancetOncol 2012、Maemondo et al. NEnglJMed 2010。しかし、EGFR-TKI単独療法では、ほとんどの患者が治療開始から約1年以内に薬剤耐性を獲得し、病勢が進行するという課題が残されている。この耐性メカニズムの一つとして、血管内皮増殖因子 (VEGF) シグナル経路の活性化が前臨床研究で示唆されている。EGFR阻害下においてもVEGF産生が持続し、これが腫瘍血管新生を促進し、薬剤耐性獲得に関与する可能性が指摘されていた。この点に関して、VEGFシグナル経路がEGFR-TKI耐性獲得に促進的に関与するという生物学的根拠は、臨床的に十分に確立されておらず、未解明な部分が多かった。
VEGFを標的とする抗体薬であるbevacizumabは、非扁平上皮NSCLC患者に対する一次治療としてのプラチナ製剤併用化学療法において、PFSおよび全生存期間 (OS) の延長効果を示すことが報告されている Sandler et al. NEnglJMed 2006、Reck et al. JClinOncol 2009。また、EGFR-TKIとbevacizumabの併用療法は、未選択のNSCLC患者集団においてPFSを延長する可能性が示唆されていた。特に、第III相BeTa試験のEGFR変異陽性サブグループ解析 (erlotinib+bevacizumab群12例 vs erlotinib単独群18例) では、併用群のPFS中央値が17.1ヶ月と、単独群の9.7ヶ月と比較して大幅に延長する傾向が認められた。しかし、この解析は事後解析であり、EGFR変異ステータスは層別化因子ではなかったため、その有効性は未確立であった。
これらの背景から、EGFRとVEGFの二重遮断がEGFR変異陽性NSCLC患者の治療効果をさらに向上させる有望な戦略であると考えられたが、その有効性と安全性に関する無作為化比較試験のデータは不足していた。JO25567試験は、この知識のギャップを埋めることを目的として、EGFR変異陽性非扁平上皮NSCLC患者に対する一次治療としてのerlotinib+bevacizumab併用療法の有効性と安全性を、erlotinib単独療法と比較して検証する最初の無作為化第II相試験として計画された。
目的
本研究の主要な目的は、EGFR遺伝子に活性化変異 (エクソン19欠失またはL858R変異) を有する進行非扁平上皮NSCLC患者 (日本人) を対象に、一次治療としてerlotinib 150 mg/日とbevacizumab 15 mg/kgを3週ごとに併用する群と、erlotinib 150 mg/日を単独で投与する群における無増悪生存期間 (PFS) を比較することである。PFSは独立評価委員会によって判定された。
副次評価項目としては、全生存期間 (OS)、客観的奏効率 (ORR)、疾患制御率 (DCR)、奏効持続期間 (DoR) などの腫瘍反応、患者報告アウトカムとしてのQOL (FACT-Lスケールによる評価)、および安全性のプロファイルが設定された。これらの評価を通じて、erlotinibとbevacizumabの併用療法がEGFR変異陽性NSCLC患者の一次治療として、erlotinib単独療法と比較して臨床的に意義のあるベネフィットをもたらすか否かを検証することを目的とした。特に、PFSの延長が認められた場合、その延長が臨床的に意義のあるものであるかどうかを評価することも重要な目的であった。
結果
試験規模と患者背景: 2011年2月21日から2012年3月5日までに154例の患者が登録され、erlotinib+bevacizumab群に77例、erlotinib単独群に77例が割り付けられた。治療開始前に2例が脱落したため (多発血栓症1例、胸水増加1例)、最終的な有効性解析対象はerlotinib+bevacizumab群75例、erlotinib単独群77例の計152例 (modified ITT集団) であった (図1)。主要解析のデータカットオフは2013年6月30日であり、この時点で103件の病勢進行イベントが発生していた。中央追跡期間は20.4ヶ月 (IQR 17.4-24.1) であった。患者のベースライン特性は両群間でバランスが取れていた (表1)。中央年齢は67歳 (IQR 60-73) であり、75歳以上の患者は27例 (18%) であった。女性が60-66%、非喫煙者または元軽喫煙者が56-58%、腺癌が99%、ECOG PS 0が53-57%を占めた。EGFR変異の内訳は、エクソン19欠失が53% (erlotinib+bevacizumab群40例、erlotinib単独群40例)、L858R変異が47% (erlotinib+bevacizumab群35例、erlotinib単独群37例) であり、両群でほぼ均等に分布していた。
主要評価項目 (PFS) の有意な延長: erlotinib+bevacizumab併用群は、erlotinib単独群と比較して、独立評価委員会判定によるPFSを有意に延長した。PFS中央値は、併用群で16.0ヶ月 (95% CI 13.9-18.1) であったのに対し、単独群では9.7ヶ月 (95% CI 5.7-11.1) であった。ハザード比 (HR) は0.54 (95% CI 0.36-0.79) であり、ログランク検定によるp値は0.0015と統計学的に有意な差が認められた (図2)。Kaplan-Meier曲線は治療開始直後から明確に分離し、その差は追跡期間を通じて維持された。このPFS中央値16.0ヶ月という結果は、当時のEGFR変異陽性NSCLCの一次治療における最長クラスの値であり、VEGF-EGFR二重遮断の有効性を無作為化比較試験で初めて実証した。
EGFR変異型別のPFSサブグループ解析: ベースライン特性に基づくサブグループ解析では、ほとんどの患者サブグループでerlotinib+bevacizumab併用群がerlotinib単独群よりもPFS延長のベネフィットを示す傾向が認められた (図3)。いずれのサブグループにおいても有意な交互作用は認められなかった (p interaction >0.05)。EGFR変異型別の解析では、エクソン19欠失を有する患者 (各群40例) において、併用群のPFS中央値は18.0ヶ月 (95% CI 14.1-20.6) であり、単独群の10.3ヶ月 (95% CI 8.0-13.1) と比較して有意な延長が確認された (HR 0.41, 95% CI 0.24-0.72, p=0.0011)。一方、L858R変異を有する患者 (併用群35例、単独群37例) では、併用群のPFS中央値が13.9ヶ月 (95% CI 11.2-20.9) であり、単独群の7.1ヶ月 (95% CI 4.3-15.2) と比較して数値的には優越していたものの、統計的有意差は認められなかった (HR 0.67, 95% CI 0.38-1.18, p=0.1653)。
奏効率 (ORR) および疾患制御率 (DCR): 独立評価委員会判定によるORRは、erlotinib+bevacizumab群で69% (52/75例、95% CI 58-80%)、erlotinib単独群で64% (49/77例、95% CI 52-74%) であり、両群間に統計学的な有意差は認められなかった (p=0.4951)。完全奏効 (CR) は併用群で3例 (4%)、単独群で1例 (1%) であった。奏効持続期間 (DoR) 中央値は、併用群で13.3ヶ月 (95% CI 11.6-16.5)、単独群で9.3ヶ月 (95% CI 6.9-13.8) であったが、統計的有意差はなかった (p=0.1118)。しかし、DCRは併用群で99% (74/75例) vs 単独群で88% (68/77例) と、併用群で有意に高かった (p=0.0177)。ウォーターフォールプロット (図4) では、erlotinib+bevacizumab群の全患者で腫瘍縮小が確認されたのに対し、erlotinib単独群では3例で腫瘍縮小が認められなかった。この結果は、bevacizumabの追加が腫瘍縮小効果の維持に寄与し、PFS延長の主要な要因となった可能性を示唆している。
全生存期間 (OS) および治療期間: データカットオフ時点では、OSデータは未熟であり、統計的解析は実施されなかった (図5)。OSイベント数は、erlotinib+bevacizumab群で13例 (17%)、erlotinib単独群で18例 (23%) にとどまった。最終的なOS解析は、今後の追跡調査で報告される予定である。Erlotinibの治療期間中央値は、erlotinib+bevacizumab群で431日 (範囲21-837日)、erlotinib単独群で254日 (18-829日) と、併用群で大幅に長かった。Bevacizumabの治療期間中央値は325日 (1-815日) であった。
安全性プロファイル (有害事象): Grade 3以上の有害事象は、erlotinib+bevacizumab群で91% (68/75例) と、erlotinib単独群の53% (41/77例) と比較して顕著に高頻度で発生し、bevacizumabの追加による毒性増加が示された (表3)。最も頻度の高いGrade 3以上の有害事象は高血圧であり、erlotinib+bevacizumab群で60% (45/75例) と高率であったのに対し、erlotinib単独群では10% (8/77例) であった。次いで皮疹が併用群で25% (19/75例)、単独群で19% (15/77例) に認められた。蛋白尿は併用群で8% (6/75例) に発生したが、単独群では認められなかった。出血イベント (全グレード) は、erlotinib+bevacizumab群で72% (54/75例) と大幅に増加したが、大部分は低グレードの鼻出血や痔核出血であり、Grade 3以上の肺出血は発生しなかった。喀血は併用群の8% (6例;Grade 1が5例、Grade 2が1例) で報告された。間質性肺疾患 (ILD) は全患者の3% (5例) に発生したが、erlotinib単独群の1例がGrade 3であった他は、全例Grade 1〜2で回復した。重篤な有害事象の発生率は両群でほぼ同等であった (erlotinib+bevacizumab群24% vs erlotinib単独群25%)。Bevacizumabの中止に至った主な有害事象は、蛋白尿 (15%、11例)、出血イベント (12%、9例)、高血圧 (3%、2例) であった。Erlotinibの用量減量 (100mgへ) は、erlotinib+bevacizumab群で45%、erlotinib単独群で43%と、両群で同程度の頻度であった。
考察/結論
JO25567試験は、EGFR変異陽性非扁平上皮NSCLCの一次治療において、erlotinibとbevacizumabの併用療法がerlotinib単独療法と比較してPFSを有意に延長することを示した最初の無作為化比較試験である (HR 0.54, 95% CI 0.36-0.79, p=0.0015)。この結果は、EGFRシグナルとVEGFシグナルの同時遮断という治療戦略の概念実証となり、VEGF産生がEGFR阻害下でも持続することや、VEGFがEGFR-TKI耐性獲得の促進因子となるという生物学的根拠を臨床的に支持するものである。
先行研究との違い: これまでのEGFR-TKI単独療法では、PFS中央値が約12ヶ月であったのに対し、本研究の併用群では16.0ヶ月という延長が認められた。これは、EGFR-TKIと他の生物学的製剤の併用が、EGFR変異陽性NSCLC患者において臨床的に意義のある治療効果をもたらすことを初めて無作為化試験で示した点で、先行研究と異なる。特に、Kaplan-Meier曲線が治療開始直後から明確に分離したことは、併用療法の早期からの効果を示唆する。
新規性: 本研究は、EGFR変異陽性NSCLCに対する一次治療として、EGFR-TKIと抗VEGF抗体の併用効果を検証した初の無作為化試験であり、その有効性を新規に示した。ORRに有意差はなかったものの、DCRが併用群で有意に高かったこと (99% vs 88%, p=0.0177) や、ウォーターフォールプロットで併用群の全例で腫瘍縮小が確認されたことは、bevacizumabの追加が腫瘍抑制効果の維持に寄与し、PFS延長に繋がった可能性を示唆する。これは、bevacizumabが腫瘍血管の生理機能を変化させ、erlotinibの腫瘍内取り込みを改善する可能性や、EGFRとVEGFシグナル経路の相乗的な阻害効果によるものと考察される。
臨床応用: 本試験の知見は、EGFR変異陽性NSCLC患者の一次治療に新たな選択肢を提供する可能性を示唆する。PFS中央値16.0ヶ月という結果は、当時の標準治療と比較して優れたものであり、臨床現場での治療戦略に大きな影響を与える。特に、化学療法を後治療に温存できる可能性も示唆され、患者の長期的な予後改善に繋がる臨床的意義は大きい。ただし、Grade 3以上の高血圧が60%と高頻度で発現したこと、および費用や静脈内投与の利便性の問題から、本試験の知見を大規模な第III相試験で検証する必要があると考えられた。実際に、この結果はNEJ026試験 (日本;erlotinib+bevacizumab vs erlotinib単独;第III相) やIMpower150試験などのその後の第III相試験に引き継がれ、その後の治療ガイドラインに影響を与えている。
残された課題: 本試験は第II相の小規模試験であり、日本人集団に限定されている点がlimitationとして挙げられる。また、OSの最終解析は本報告時点では未成熟であり、長期的な生存ベネフィットについては今後の検討課題である。QOL評価においても、両群間で有意な差は認められず、併用療法のQOLへの影響についてはさらなる詳細な評価が必要である。さらに、EGFR変異検査が中央検査ではなく各施設で実施されたこと、および様々な検査法が用いられたことも限界点として挙げられるが、これらの方法は一般的に一貫した結果を提供すると判断されている。今後の研究では、これらの限界を克服し、併用療法の費用対効果や、耐性メカニズムのさらなる解明、および最適な治療期間の特定などが残された課題となる。
方法
本試験は、日本国内の30施設で実施された多施設共同、無作為化、非盲検の第II相試験 (JapicCTI-111390) である。
患者選択基準: 組織学的または細胞学的に確認されたステージIIIB/IVまたは術後再発の非扁平上皮NSCLC患者で、EGFR遺伝子に活性化変異 (エクソン19欠失またはL858R変異) を有する者が対象とされた。EGFR変異は、各施設でPCRベースの超高感度EGFR変異検査法を用いてスクリーニングされた。具体的な検査法には、ペプチド核酸 (PNA) 法、ロックド核酸 (LNA) PCRクランプ法、PCRインベーダー法、サイクルリープ法などが用いられた。その他の適格基準として、20歳以上、ECOGパフォーマンスステータス (PS) 0または1、十分な血液学的・肝機能・腎機能、および登録時に3ヶ月以上の余命が期待されること、進行期疾患に対する前治療歴がないこと (術後補助療法または術前補助療法で6ヶ月以上前に終了している場合は許容)、RECIST 1.1に基づく測定可能病変が1つ以上存在することなどが含まれた。
主要除外基準: T790M変異の確認、脳転移の存在、喀血または血痰の既往・存在、凝固障害、主要血管への腫瘍浸潤または隣接、間質性肺疾患の合併または既往、EGFR阻害薬またはVEGF受容体阻害薬の治療歴。
無作為化と盲検化: 患者はerlotinib+bevacizumab群とerlotinib単独群に1:1で動的割付法により無作為に割り付けられた。中央無作為化は臨床研究機関 (EPS Corporation, 東京, 日本) が実施した。層別化因子は、性別 (男性 vs 女性)、病期 (ステージIIIB vs ステージIV vs 術後再発)、喫煙歴 (非喫煙者または元軽喫煙者 vs その他)、およびEGFR変異型 (エクソン19欠失 vs L858R変異) であった。本試験は非盲検で実施されたため、患者および治験責任医師は治療割り付けを知っていた。
治療プロトコル: Erlotinib+bevacizumab群の患者は、erlotinib 150 mg/日を連日経口投与し、bevacizumab 15 mg/kgを21日サイクルの1日目に静脈内投与した。Erlotinib単独群の患者は、erlotinib 150 mg/日を連日経口投与した。治療は病勢進行または許容できない毒性が発現するまで継続された。有害事象によるerlotinibまたはbevacizumabの用量変更はプロトコルに従って許可された。erlotinibは最大2段階 (100 mg/日、50 mg/日) の減量が許容され、bevacizumabは体重変化による調整を除き減量されなかった。
評価項目: 主要評価項目は、独立評価委員会によって判定されたPFSであった。副次評価項目は、OS、RECIST 1.1に基づく腫瘍反応 (ORR、DCR、DoR)、QOL (FACT-Lスケール)、および安全性プロファイルであった。腫瘍病変はベースライン、4週、7週、その後18ヶ月まで6週ごと、それ以降は病勢進行まで12週ごとに放射線学的に評価された。有害事象はNCI-CTCAE v4.03に基づき評価された。
統計解析: Erlotinib単独群のPFS中央値を13ヶ月と仮定し、erlotinib+bevacizumab群でハザード比 (HR) 0.7を検出するために、片側有意水準0.2、検出力0.8で89イベントが必要と見積もられた。脱落を考慮し、目標症例数は150例 (各群75例) と設定された。PFSはKaplan-Meier法で推定され、非層別ログランク検定で群間比較された。HRは非層別Cox比例ハザードモデルで算出された。安全性解析には少なくとも1回の治験薬投与を受けた全患者が含まれ、有効性解析には少なくとも1回の治験薬投与を受け、かつ無作為化後に少なくとも1回の腫瘍評価を受けた全患者 (modified intention-to-treat集団) が含まれた。統計解析はSAS version 9.2を用いて実施された。