• 著者: Nishio M, Seto T, Reck M, Garon EB, Chiu CH, Yoh K, Imamura F, Park K, Shih JY, Visseren-Grul C, Frimodt-Moller B, Zimmermann A, Homma G, Enatsu S, Nakagawa K, RELAY Study Investigators
  • Corresponding author: Makoto Nishio (Department of Thoracic Medical Oncology, The Cancer Institute Hospital of JFCR, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: Cancer Science
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-09-21
  • Article種別: Original Article (Phase III RCT, Prespecified Subgroup Analysis)
  • PMID: 32954593

背景

東アジア (East Asia) において肺癌は最も頻繁に診断されるがんであり、がん死亡原因の第1位である。非小細胞肺癌 (non-small cell lung cancer: NSCLC) における上皮成長因子受容体 (epidermal growth factor receptor: EGFR) 活性化変異はアジア人で40-60%とコーカソイド系 (10-20%) より顕著に高頻度に存在し、特に exon 21 L858R point mutation (Ex21.L858R) の比率がアジア人で高いことが知られている。EGFR-TKI (tyrosine kinase inhibitor: チロシンキナーゼ阻害薬) は EGFR 変異陽性進行 NSCLC の一次治療標準であり、gefitinib・erlotinib・afatinib・dacomitinib (Wu et al. LancetOncol 2017 ARCHER 1050) は第一/二世代 TKI として確立されたが、いずれも12-13ヵ月で耐性を獲得する課題があった。第三世代 TKI である osimertinib は FLAURA 試験 (Soria et al. NEnglJMed 2018) で gefitinib/erlotinib に対し mPFS 18.9 vs 10.2 ヵ月、HR 0.46、p<0.001、続報 OS 解析 (Ramalingam et al. NEnglJMed 2020) で OS 38.6 vs 31.8 ヵ月、HR 0.80、p=0.046 と一次治療の標準を更新した。

第一/二世代 TKI への獲得耐性機序として、T790M変異が30-60%の症例で出現し (Yu et al. ClinCancerRes 2013)、T790M陽性例には osimertinib が高い奏効率 (Mok et al. NEnglJMed 2017 AURA3 試験) を示すが、osimertinib 耐性機序は MET amplification・C797S変異・HER2増幅等多様であり (Leonetti et al. BrJCancer 2019)、依然として一次治療効果を最大化する戦略が求められる。

VEGF (vascular endothelial growth factor) シグナル経路は腫瘍血管新生を駆動し、EGFR シグナルと協調的に腫瘍進展を促進する基礎科学的根拠が確立しており、JO25567 試験 (Seto et al. LancetOncol 2014) で日本人 EGFR 変異 NSCLC に対する erlotinib + bevacizumab (抗 VEGF抗体) が mPFS 16.0 vs 9.7 ヵ月と erlotinib 単剤を上回ることが示された。Ramucirumab はヒト IgG1 モノクローナル抗体で VEGFR2 (VEGF受容体2) を選択的に阻害し、bevacizumab とは異なる作用機序 (リガンドではなく受容体側阻害) を持つ。グローバル第 III 相 RELAY 試験 (n=449) は ramucirumab + erlotinib (RAM+ERL) を placebo + erlotinib (PL+ERL) と比較し mPFS 19.4 vs 12.4 ヵ月 (HR 0.59、95% CI 0.46-0.76、p<0.0001) を示した。これらの先行報告にもかかわらず、(1) 東アジア集団 (Ex21.L858R 高頻度・喫煙率低い・薬物代謝差) で RAM+ERL の効果が global cohort と同等か、(2) 東アジア人特異的な毒性プロファイルが存在しないか、(3) post-progression T790M出現率が東アジアで異なるかは未解明であり、東アジア標準治療化への根拠が手薄であった。

目的

本研究は RELAY 試験の prespecified subgroup analysis として、(1) 東アジア (日本・台湾・韓国・香港) サブセットにおける RAM+ERL vs PL+ERL の主要評価項目 PFS の検証、(2) ORR・DCR・DoR・OS・PFS2 の評価、(3) 安全性プロファイル (TEAE・AESI・SAE) の比較、(4) Ex19del/Ex21.L858R subgroup 別の効果比較、(5) post-progression T790M 出現率の評価 (osimertinib後継治療の余地を確認)、(6) CNS metastasis の occurrence 比較、を目的とした。

結果

患者登録と背景 (Table 1):2016年1月28日から2018年2月1日までに登録された全 RELAY ITT 集団 449例のうち、東アジア ITT 集団は 336例 (75%) で RAM+ERL 群 166例・PL+ERL 群 170例 (Figure S1 CONSORT)。年齢中央値 RAM+ERL群 65.0歳 (41-86) vs PL+ERL群 64.0歳 (35-83)、女性比率 64.5% vs 64.1%、never-smoker 63.3% vs 64.1%、ECOG PS 0が 51.8% vs 53.5%、Ex19del 50.6% vs 49.4%、Ex21.L858R 48.2% vs 50.6%、therascreen®/cobas® 検査 37.3% vs 39.4%、と両群バランスが取れていた (Table 1)。観察期間中央値は 22.1 ヵ月 (range 0.1-35.4)、データカットオフ時に治療継続中は 25.3% (42/166、RAM+ERL) vs 15.3% (26/170、PL+ERL) と RAM+ERL で長期継続率が顕著に高かった。

主要評価項目 PFS:RAM+ERL の有意な優越 (Fig 1)東アジア ITT で mPFS 19.4 ヵ月 (95% CI 15.2-22.0) vs 12.5 ヵ月 (95% CI 11.1-13.9)、unstratified HR 0.636 (95% CI 0.485-0.833)、p=0.0009 (Fig 1 Kaplan-Meier曲線)、1年 PFS 率 72.4% vs 52.2% と RAM+ERL 群で有意な PFS 延長が示された。Global ITT 全体 (mPFS 19.4 vs 12.4 ヵ月、HR 0.59) と整合的であり、東アジア集団でも同等の benefit が確認された。Blinded independent central review による感度解析でも一致した結果 (HR 0.692、95% CI 0.522-0.918)。

EGFR 変異型別 PFS subgroup 解析 (Fig 2, Fig 3)Ex19del subgroup:RAM+ERL mPFS 19.2 ヵ月 (95% CI 15.1-22.2) vs PL+ERL 12.4 ヵ月 (95% CI 11.0-15.9)、HR 0.629 (95% CI 0.430-0.921)Ex21.L858R subgroup:RAM+ERL mPFS 19.4 ヵ月 (95% CI 14.1-22.1) vs PL+ERL 12.5 ヵ月 (95% CI 9.7-13.9)、HR 0.644 (95% CI 0.439-0.945)。両 EGFR 変異型でほぼ同等の PFS benefit が確認され、東アジアで頻度の高い L858R 患者でも RAM+ERL が有効であることが示された。性別・PS・年齢の subgroup でも一貫した benefit が観察された (Fig 2 forest plot)。

ORR/DCR は同等だが DoR は有意延長 (Table 2)ORR は両群間で同様 (RAM+ERL ~78% vs PL+ERL ~70%、有意差は明確でない)、DCR も同様。一方、responders における median DoR は RAM+ERL 16.2 ヵ月 (95% CI 13.8-19.8) vs PL+ERL 11.1 ヵ月 (95% CI 9.7-12.5)、HR 0.646 (95% CI 0.481-0.868)、p=0.0036 と有意に延長 (Table 2)、すなわち RAM+ERL は奏効率自体は変えないが「奏効した患者の奏効持続期間」を長くする質的優位性を持つことが示された。

OS と PFS2 は immature (Table 2, Fig S3, Fig S4):データカットオフ時点で OS censoring rate 84.3% (RAM+ERL) と 81.2% (PL+ERL)、OS HR 0.824 (95% CI 0.491-1.383)PFS2 censoring rate 70.5% と 64.1%、PFS2 HR 0.771 (95% CI 0.529-1.124) と両 endpoint は immature だったが numerically RAM+ERL favorable な trend が観察された (Table 2, Fig S3, Fig S4)。長期 follow-up が必要。

CNS metastases (項目 3.4):CNS が疾患進行部位となった東アジア 10例中、RAM+ERL 群 2例 vs PL+ERL 群 8例 で RAM+ERL 群で少ない傾向。Ramucirumab の anti-angiogenic 効果が CNS 転移発生を抑制する可能性が示唆された。

Post-progression T790M 出現率は両群類似 (項目 3.5):30日 follow-up での 95 例の液性生検評価で T790M 出現率 RAM+ERL 43% (15/35、95% CI 28-59) vs PL+ERL 50% (30/60、95% CI 38-62)、群間に有意差なし。これは Ramucirumab の追加が T790M 獲得耐性発生機序を変化させないことを示し、RAM+ERL 治療後の osimertinib 後継治療 (AURA3 Mok et al. NEnglJMed 2017) の余地を維持する重要な所見である。

安全性プロファイル (項目 3.6):Ramucirumab/placebo の用量調整 75.6% (RAM+ERL) vs 57.1% (PL+ERL)、erlotinib の用量調整 64.6% vs 57.1%。Grade ≥3 TEAE 頻度 70.7% (RAM+ERL) vs 49.4% (PL+ERL) と RAM+ERL で増加したが、治療中止に至る AE 頻度は同等 (13.3% vs 12.9%)。主な AESI は hypertension・proteinuria・hemorrhage 等の anti-angiogenic 関連事象だったが、新規の安全性 signal は発生せず、東アジア集団の毒性プロファイルは global cohort と一致した。

考察/結論

本研究は RELAY 試験東アジア prespecified subgroup analysis として、336 例 (全体 75%) の解析を通して RAM+ERL の有効性 (mPFS 19.4 vs 12.5 ヵ月、HR 0.636、p=0.0009)・安全性プロファイルが global cohort と一致することを示し、東アジア集団での RAM+ERL の臨床応用の根拠を強化した。① 先行研究との違い:JO25567 試験 (Seto et al. LancetOncol 2014) は erlotinib + bevacizumab (抗 VEGF抗体、ligand 阻害) で mPFS 16.0 ヵ月を達成したが、本試験はこれまでと異なり ramucirumab (抗 VEGFR2 抗体、受容体阻害) で mPFS 19.4 ヵ月とより長期の PFS benefit を達成した。VEGF ligand 阻害 vs VEGFR2 受容体阻害の作用機序の差異が反映された可能性がある。一次治療標準として確立された osimertinib FLAURA 試験 (Soria et al. NEnglJMed 2018 mPFS 18.9 ヵ月) と数値的に類似する PFS が得られたが、これまでの報告と対照的に RAM+ERL では T790M獲得が温存され (43%) 二次治療 osimertinib の余地が保たれる点で、osimertinib first-line とは異なる「sequential treatment」戦略を支持する。dacomitinib (Wu et al. LancetOncol 2017 ARCHER 1050、mPFS 14.7 vs 9.2 ヵ月) より RAM+ERL の数値は良好。

② 新規性:本研究で初めて、東アジア人 (Asian ethnicity 100%・never-smoker 63%・Ex21.L858R 50%) という遺伝的・臨床的に特異的な集団における RAM+ERL の有効性を 336 例という規模で prespecified subgroup として体系的に検証した。これまで報告されていなかった「Ex21.L858R subgroup でも RAM+ERL が有効 (HR 0.644)」という所見は、L858R 変異が gefitinib/erlotinib 単剤に対し相対的に耐性が高い (Ex19del より 1.5-2倍速い耐性獲得) ことが知られる中、novel な治療戦略の選択肢を提供する。CNS metastases 進行が RAM+ERL 群で少ない傾向 (2/166 vs 8/170) も novel な観察で、ramucirumab の anti-angiogenic 作用が血液脳関門・腫瘍微小環境に与える novel な恩恵を示唆する。

③ 臨床応用:本研究の知見は EGFR 変異陽性転移性 NSCLC の臨床現場での治療選択に bench-to-bedside translational な意義を持つ。第一に、RAM+ERL は東アジア集団でも第一線治療として臨床応用可能な選択肢として確立され、osimertinib 単剤と並ぶオプションを提供する。第二に、T790M 獲得率温存 (43%) は 「RAM+ERL → osimertinib」 sequential strategy という臨床現場で実装可能な治療パラダイムを提供し、osimertinib 単剤一次治療と比べて total treatment duration を延長する可能性がある。第三に、CNS 転移発生率の低下傾向は、頭蓋内病変を念頭においた治療選択の臨床的有用性を示す。第四に、毒性プロファイル管理可能 (治療中止率同等 13.3% vs 12.9%) かつ Grade ≥3 TEAE 増加 (70.7% vs 49.4%) は患者選択の臨床応用判断材料となる。

④ 残された課題:今後の検討すべき limitation として、(1) OS と PFS2 が immature (censoring 64-84%) のため、PFS benefit が真の臨床的意義あるOS benefit に翻訳されるかは長期 follow-up が必要であり、これは限界として明示される。(2) RELAY は subgroup (東アジア subset 含む) で power 計算されていないため、subgroup HR の信頼性に統計学的制約がある。(3) RAM+ERL vs osimertinib (FLAURA) の head-to-head 比較データが存在しないため、最適な一次治療選択基準は今後の研究方向性として未確立である。RELAY-OS や FLAURA2 試験等の長期 follow-up と meta-analysis での比較が future research direction となる。(4) Ramucirumab の高コスト (年間数百万円) は cost-effectiveness 観点での臨床応用上の課題であり、医療経済学的検証が必要。(5) RAM+ERL 後の osimertinib 投与による sequential treatment の prospective evaluation も今後の課題 (RELAY-Plus 試験等が想定されるが現状未確立)。(6) Resistance mechanism として T790M 以外 (C797S・MET 増幅・HER2 増幅等、Leonetti et al. BrJCancer 2019) の出現率と pattern も今後の解析課題である。これらの limitation はあるものの、東アジア集団における RAM+ERL の臨床応用根拠を確立した本研究の意義は大きい。

方法

試験設計:本試験 (NCT02411448) は global multicenter double-blind placebo-controlled 第 III 相 RCT である RELAY の prespecified subgroup analysis である。13カ国 100 施設での実施で、東アジアサブセットは日本 (41施設・211例)・台湾 (8施設・56例)・韓国 (10施設・54例)・香港 (2施設・15例) の計336例 (全体 ITT 集団 449例の 75%) を対象とした。各施設の ethics review board 承認、Declaration of Helsinki・CIOMS guidelines・GCP guidelinesに準拠、全例書面同意取得。

患者選択:主要組入基準は (1) AJCC 第7版で stage IV NSCLC、(2) local testing で documented EGFR Ex19del または Ex21.L858R 変異陽性、(3) erlotinib 一次治療適格、(4) 年齢 ≥18歳 (日本・台湾は ≥20歳)、(5) RECIST 1.1 で measurable disease、(6) ECOG PS 0 または 1。除外基準は EGFR T790M 既知変異 (baseline) と中枢神経系 (central nervous system: CNS) 転移。

無作為化と盲検化:interactive web-response system による1:1無作為化、層別化因子は (a) 性別、(b) 地域 (東アジア vs その他)、(c) EGFR 変異型 (Ex19del vs Ex21.L858R)、(d) EGFR 検査方法 (therascreen® / cobas® vs その他 PCR/sequencing-based methods)。患者・治験責任医師・全試験関係者が double-blind 状態で割付情報をマスク (最終 OS 解析まで継続)。

治療プロトコル:RAM+ERL 群:ramucirumab 10 mg/kg 静脈内投与 once every 2 weeks (Q2W) + erlotinib 150 mg/日 経口連日。PL+ERL 群:placebo 静脈内投与 Q2W + erlotinib 150 mg/日 経口連日。Radiographic progression (RECIST 1.1) ・unacceptable toxicity・non-compliance・consent withdrawal・investigator decision で治療中止。

評価:腫瘍評価は CT または MRI で baseline → 6週ごと (72週まで) → 12週ごと (進行・中止まで) → 30日 short-term follow-up visit。Adverse events (AEs) は NCI CTCAE v4.0 で grade 化。EGFR T790M 変異状態は baseline と 30日 follow-up の血漿液性生検 (liquid biopsy) で Guardant360 NGS (Guardant Health) を用いて評価

統計解析:プライマリエンドポイントは PFS (investigator-assessed)、副次は ORR・DCR・DoR・OS・safety、探索的は biomarker (T790M) と PFS2。Kaplan-Meier 法で時間関連 endpoint の中央値と 95% CI を推定、unstratified Cox proportional hazards model で HR と 95% CI を算出。ORR/DCR は normal approximation で 95% CI 算出。T790M 出現頻度の群間比較は Fisher exact test。解析は SAS version 9.4 (SAS Institute) で実施、データカットオフは 2019年1月23日。RELAY は prespecified subgroup (東アジアサブセット含む) で power 計算されていない点が本解析の statistical limitation