- 著者: Wen-Zhao Zhong, Qun Wang, Wei-Min Mao, et al.
- Corresponding author: Yi-Long Wu (Guangdong Lung Cancer Institute, Guangdong General Hospital, Guangzhou, China)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: 2017-11-21
- Article種別: Original Article
- PMID: 29174310
背景
ステージII-IIIAの完全切除可能非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者に対する標準治療は、シスプラチンベースの補助化学療法であり、全生存期間 (OS) の改善が確立されている。しかし、これらの患者の5年生存率は依然として14〜30%と低く、治療成績の改善が強く求められていた。特に、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCにおいては、進行期患者に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) の一次治療としての優越性が複数の臨床試験で確立されている。例えば、Mok et al. NEnglJMed 2009、Mitsudomi et al. LancetOncol 2010、Rosell et al. LancetOncol 2012、Zhou et al. LancetOncol 2011などの試験がその有効性を示している。
切除後NSCLCに対する補助TKI療法の検討は、過去にも行われてきた。例えば、RADIANT試験 (Kelly et al. JClinOncol 2015) では、エルロチニブとプラセボが比較されたが、EGFRタンパク発現で患者が選択されており、EGFR遺伝子変異による事前選択は行われていなかったため、無病生存期間 (DFS) の改善は認められなかった。また、BR19試験 (Goss et al. J Clin Oncol 2013) ではゲフィチニブが評価されたが、ほとんどの患者がEGFR野生型であり、同様に有意な効果は示されなかった。これらの先行研究では、EGFR変異陽性患者に特化した補助TKI療法の有効性は未解明のままであった。
しかし、後方視的解析や、前向き第II相SELECT試験 (Pennell et al. Proc Am Soc Clin Oncol 2014) のような予備的データは、EGFR変異陽性切除後NSCLC患者において補助EGFR-TKIが有効である可能性を示唆していた。特に、アジア人集団ではEGFR変異頻度が高いことが報告されており (Shi et al. J Thorac Oncol 2014)、この集団における補助TKIの潜在的な有用性が注目されていた。このような背景から、中国胸部腫瘍研究グループ (CTONG) 主導のADJUVANT/CTONG1104試験は、EGFR変異陽性患者を前向きに選択した初の補助TKIに関する第III相試験として計画された。従来の補助化学療法と比較して、EGFR変異陽性切除後NSCLC患者における補助EGFR-TKIの有効性、安全性、および患者報告アウトカム (QOL) を評価することは、このアンメットニーズに対応するための重要な課題であった。これまでの研究では、EGFR変異陽性患者に特化した補助TKIの有効性に関する強力なエビデンスが不足していた。
目的
本研究の主要な目的は、完全切除 (R0) されたEGFR遺伝子変異陽性 (エクソン19欠失またはエクソン21 L858R変異) のステージII-IIIA (N1-N2) NSCLC患者 (中国人集団) において、補助ゲフィチニブ (250mg/日、24ヶ月間経口投与) と標準的な補助化学療法であるビノレルビン (25mg/m²、1日目および8日目) +シスプラチン (75mg/m²、1日目) の3週毎4サイクル静脈内投与の無病生存期間 (DFS) を比較することであった。DFSはintention-to-treat (ITT) 集団において主要評価項目として設定された。
副次評価項目としては、全生存期間 (OS) (データは未成熟)、3年および5年DFS率、5年OS率、安全性および忍容性、ならびに患者の健康関連QOL (HRQoL) が含まれた。本試験は、EGFR変異陽性切除後NSCLC患者に対する補助TKI療法の有効性を、標準化学療法と比較して前向きに評価する初の第III相試験であり、この治療選択肢の臨床的意義を確立することを目指した。特に、N1またはN2病期の患者に限定することで、再発リスクの高い集団における補助TKIの潜在的なベネフィットを明確にすることを意図した。
結果
患者登録と治療状況: 2011年9月19日から2014年4月24日までに483例がスクリーニングされ、222例のEGFR変異陽性NSCLC患者が1:1で無作為化された (ゲフィチニブ群 n=111、ビノレルビン+シスプラチン群 n=111)。ITT集団の患者背景は両群間でバランスが取れていた (Table 1)。中央年齢はゲフィチニブ群58歳、化学療法群60歳、女性が両群で約59%、非喫煙者が約75%であった。病理病期はステージIIAが約30%、IIBが約4%、IIIAが約65%であり、NステージはN1が約35%、N2が約65%であった。EGFR変異の内訳は、エクソン19欠失が約52%、L858R変異が約48%であった。治療開始に至らなかった患者は、ゲフィチニブ群で5例、ビノレルビン+シスプラチン群で24例であった。化学療法群で治療開始に至らなかった患者の主な理由は化学療法拒否 (n=15) であった。修正ITT (mITT) 集団および安全性集団には、ゲフィチニブ群106例、ビノレルビン+シスプラチン群87例が含まれた (Figure 1)。ゲフィチニブの治療期間中央値は21.9ヶ月 (範囲 0.1-25.4) であり、1年以上治療を受けた患者は84例 (79%)、18ヶ月以上は72例 (68%) であった。化学療法群では、87例中73例 (84%) が4サイクルを完遂した。
主要評価項目 (DFS) の有意な延長: 中央追跡期間は36.5ヶ月 (IQR 23.8-44.8) であった。ITT集団におけるDFS中央値は、ゲフィチニブ群で28.7ヶ月 (95% CI 24.9-32.5) であり、ビノレルビン+シスプラチン群の18.0ヶ月 (95% CI 13.6-22.3) と比較して有意に延長した (HR 0.60, 95% CI 0.42-0.87; p=0.0054) (Figure 2A)。ゲフィチニブは補助化学療法に対してDFSを有意に改善し、主要評価項目を達成した。DFSイベントは、ゲフィチニブ群で65例 (59%)、ビノレルビン+シスプラチン群で59例 (53%) に発生した。Kaplan-Meier曲線は、約12ヶ月時点で両群が分離し、ゲフィチニブ治療終了後の約36ヶ月時点で収束する傾向が観察された。mITT集団におけるDFS中央値も、ゲフィチニブ群で28.7ヶ月 (95% CI 24.9-32.5) vs ビノレルビン+シスプラチン群19.3ヶ月 (95% CI 14.8-23.9) と有意な延長が認められた (HR 0.70, 95% CI 0.49-0.99; p=0.044) (Figure 2B)。3年DFS率は、ITT集団でゲフィチニブ群34% (95% CI 24-45) vs 化学療法群27% (95% CI 16-38) であったが、統計的有意差は認められなかった (HR 0.74, 95% CI 0.42-1.32; p=0.37)。
サブグループ解析におけるDFSベネフィット: 事前に規定されたサブグループ解析では、ゲフィチニブはすべてのサブグループで一貫したDFSベネフィットを示した (Figure 3)。特に、N2病期の患者 (n=143) においては、ゲフィチニブ群でDFSの顕著な改善が認められた (HR 0.52, 95% CI 0.34-0.80; p=0.0032)。一方、N1病期の患者 (n=77) では有意な差は認められなかった (HR 0.89, 95% CI 0.45-1.76; p=0.743)。EGFR変異サブタイプ別では、エクソン19欠失患者 (n=115) で有意なDFS改善が認められた (HR 0.55, 95% CI 0.33-0.92; p=0.024)。L858R変異患者 (n=106) では同方向の傾向が見られたものの、統計的有意差はなかった (HR 0.62, 95% CI 0.37-1.04; p=0.071)。性別では、女性 (HR 0.58, 95% CI 0.37-0.92; p=0.020) および男性 (HR 0.60, 95% CI 0.33-1.09; p=0.094) ともにゲフィチニブの優位性が示唆された。腺癌患者 (n=207) では有意なDFS改善が認められた (HR 0.58, 95% CI 0.40-0.84; p=0.0039)。
全生存期間 (OS) データ: データカットオフ時点 (2017年3月9日) で、OSデータは未成熟であった (イベント発生率34%)。死亡イベントは、ゲフィチニブ群で41例、ビノレルビン+シスプラチン群で35例に発生した。治療関連死は両群ともに報告されなかった。疾患増悪による死亡は、ゲフィチニブ群で40例、ビノレルビン+シスプラチン群で33例であった。後続のOS解析 (2019年NEJM Evidence掲載) では、最終的なOSに有意差は認められなかった (OS中央値: ゲフィチニブ群75.5ヶ月 vs 化学療法群62.8ヶ月; HR 0.92, 95% CI 0.62-1.36; p=0.68)。これは、ゲフィチニブ投与終了後の再発加速がOSの差を相殺したためと考えられた。
安全性プロファイル: 安全性集団において、あらゆるグレードの有害事象 (AE) の発生率は、ゲフィチニブ群で58% (61/106例) であったのに対し、ビノレルビン+シスプラチン群では80% (70/87例) と高かった (Table 2)。ゲフィチニブ群で最も多く報告されたAE (全グレード) は、発疹 (41%)、ALT上昇 (27%)、下痢 (26%) であった。一方、ビノレルビン+シスプラチン群で多く報告されたAEは、好中球減少 (53%)、貧血 (51%)、白血球減少 (47%)、悪心 (44%)、嘔吐 (41%)、食欲不振 (23%) であった。
グレード3または4のAEの発生率は、ゲフィチニブ群で11% (12/106例) であったのに対し、ビノレルビン+シスプラチン群では48% (42/87例) と顕著に高かった。ゲフィチニブ群で最も多く報告されたグレード3または4のAEは、ALT上昇 (2%) およびAST上昇 (2%) であった。ビノレルビン+シスプラチン群では、好中球減少 (34%) (グレード3が28%、グレード4が7%)、白血球減少 (16%)、嘔吐 (9%) が主なグレード3または4のAEであった。
重篤な有害事象 (SAE) は、ゲフィチニブ群で7% (7/106例) に発生したのに対し、ビノレルビン+シスプラチン群では23% (20/87例) に発生した。ゲフィチニブ群で報告されたSAEは、一過性脳虚血、放射線肺炎、肺炎、呼吸不全、気胸、頭痛、骨痛 (各1%) であった。ビノレルビン+シスプラチン群で最も多く報告されたSAEは、好中球減少 (11%)、白血球減少 (5%)、血栓形成 (2%) であった。ゲフィチニブ群での間質性肺疾患の報告はなかった。治療関連死は両群ともに0例であった。用量減量はゲフィチニブ群で11% (12例)、ビノレルビン+シスプラチン群で33% (29例) に必要とされた。薬剤関連による治療中止は、ゲフィチニブ群で3% (3例)、ビノレルビン+シスプラチン群で6% (5例) であった。
QOL (患者報告アウトカム) の改善: HRQoLは安全性集団で評価された。TOI (Treatment Outcome Index) スコアは、ゲフィチニブ群でベースラインから33週目にかけて有意に高値を示し (p=0.012)、化学療法群と比較してQOLが良好に維持された。FACT-LおよびLCSSの改善率に関するロジスティック回帰分析では、すべてのスコアでゲフィチニブ群が有意に高い改善率を示した (p<0.05)。ゲフィチニブ群では治療期間中に皮膚症状が認められたものの、全体的なQOLは化学療法群よりも良好であった。
考察/結論
ADJUVANT/CTONG1104試験は、EGFR変異陽性 (エクソン19欠失/L858R) ステージII-IIIA (N1-N2) の完全切除後NSCLC患者において、補助ゲフィチニブ24ヶ月間投与が標準的なシスプラチン系補助化学療法と比較して、無病生存期間 (DFS) を有意に改善すること (HR 0.60, 95% CI 0.42-0.87; p=0.0054) を第III相試験として初めて示した。この結果は、EGFR変異陽性切除後NSCLCに対する補助TKI療法という治療概念に重要なエビデンスを提供した。
先行研究との違い: 過去のRADIANT試験 (Kelly et al. JClinOncol 2015) やBR19試験 (Goss et al. J Clin Oncol 2013) では、EGFR変異による患者選択が十分でなかったため、補助TKIの有効性は示されなかった。本研究は、EGFR変異陽性患者を前向きに選択し、標準化学療法と直接比較した点で、これまでの研究とは異なるアプローチを採用した。また、N1またはN2病期の患者に限定することで、再発リスクの高い集団における補助TKIのベネフィットを明確に評価した点も特徴である。
新規性: 本研究で初めて、EGFR変異陽性切除後NSCLC患者において、補助ゲフィチニブが標準化学療法と比較してDFSを統計学的に有意に延長し、毒性を軽減し、QOLを改善することを示した。この知見は、この患者集団における補助TKIの有効性に関する強力なエビデンスを新規に提供するものである。特に、N2病期の患者で顕著なDFS改善が認められたことは、高リスク患者に対する補助TKIの有用性を示唆する。
臨床応用: 本研究の結果は、EGFR変異陽性ステージII-IIIA (N1-N2) NSCLC患者に対する補助治療として、ゲフィチニブが潜在的な治療選択肢となり得ることを示唆する。DFSの優越性、毒性の低減、およびQOLの改善は、臨床現場での患者管理において重要な臨床的意義を持つ。しかし、ゲフィチニブ投与終了後にDFS曲線が収束する傾向が観察されたこと、および最終的な全生存期間 (OS) の改善が示されなかったことは、24ヶ月という投与期間の限界を示唆する。
残された課題: 本試験の主な限界は、中国人集団に限定されたこと、およびOSデータが未成熟であったことである。最終的なOS解析では有意差が認められなかったことから、補助TKIの最適な投与期間や、治療終了後の再発リスク管理が今後の検討課題として残されている。この限界は、その後のADAURA試験 (osimertinib 3年補助;ステージIB-IIIA;DFS HR 0.17;OS HR 0.49) によって解消され、オシメルチニブ補助療法が現在の標準治療として確立された。ADJUVANT試験と同時期に実施されたEVIDENCE試験 (erlotinib補助;中国;DFS HR 0.40) もゲフィチニブと同様の結果を示しており、これらの試験が補助EGFR-TKIの有効性の基盤を形成した。今後の研究では、より長期的なOSデータ、異なるTKIの比較、および個別化された治療期間の検討が必要である。
方法
本研究は、中国国内の27施設で実施された無作為化非盲検第III相試験 (ClinicalTrials.gov登録番号: NCT01405079) である。2011年9月19日から2014年4月24日の期間に患者登録が行われた。
患者選択基準: 適格患者は、18歳から75歳で、完全切除 (R0) された病理学的ステージII-IIIA (N1-N2) のNSCLC患者であった。EGFR遺伝子変異 (エクソン19欠失またはエクソン21 L858R変異) は、中央検査室での増幅抵抗性変異システムPCR (ARMS-PCR) によって確認された。患者は肺葉切除または全肺切除と、少なくとも6つのリンパ節ステーション (N2リンパ節3ステーションとN1リンパ節3グループを含む) の系統的リンパ節郭清を受けている必要があった。ECOGパフォーマンスステータスは0または1であり、十分な血液学的および生化学的検査値を有し、ゲフィチニブまたはシスプラチン+ビノレルビン化学療法に必要な前投薬に対する既知の過敏症がないことが条件とされた。過去にエルロチニブ、ゲフィチニブ、セツキシマブ、トラスツズマブ、化学療法、または全身性抗腫瘍療法を受けた患者、および放射線療法、過去6ヶ月以内の心筋梗塞、狭心症、心疾患、間質性肺炎の既往がある患者は除外された。
無作為化と層別化: 適格性スクリーニング後、患者は1:1の比率でゲフィチニブ群またはビノレルビン+シスプラチン群に無作為に割り付けられた。無作為化はPocock and Simon最小化法を用いて行われ、Nステージ (N1 vs N2) とEGFR変異サブタイプ (エクソン19欠失 vs エクソン21 L858R) で層別化された。治療割り付けは医師および患者に非盲検であった。
治療プロトコル: ゲフィチニブ群の患者には、250mgの経口ゲフィチニブが1日1回、24ヶ月間投与された。ビノレルビン+シスプラチン群の患者には、ビノレルビン25mg/m² (1日目および8日目) とシスプラチン75mg/m² (1日目) が3週毎に4サイクル (合計12週間) 静脈内投与された。治療は完全切除後21〜42日以内に開始され、研究完了、疾患再発、死亡、または許容できない毒性発現まで継続された。ゲフィチニブの治療中断基準は、間質性肺疾患の徴候、グレード2以上のALTまたはAST上昇、またはグレード3以上の有害事象であった。化学療法群では、グレード4の白血球減少または好中球減少、グレード4の血小板減少、出血を伴うグレード3の血小板減少、または38℃以上の発熱を伴うグレード3の好中球減少の場合に用量減量が行われた。
評価項目: 主要評価項目は、治験責任医師が評価したDFSであり、無作為化から文書化された疾患再発または死亡までの期間と定義された。副次評価項目は、OS、3年DFS率、5年DFS率、5年OS率、安全性および忍容性、ならびにHRQoLであった。安全性評価は、NCI-CTCAE v4.0に基づき、すべての治験訪問時に実施された。HRQoLは、FACT-L (Functional Assessment of Cancer Therapy-Lung Cancer) のTrial Outcome Index (TOI) およびLung Cancer Symptom Scale (LCSS) を用いて評価された。
統計解析: DFSの検出には、ゲフィチニブ群がビノレルビン+シスプラチン群と比較してDFSを40%改善 (ハザード比 [HR] 0.6) することを検出するために、80%の検出力と両側5%の有意水準で122イベントが必要とされた。ビノレルビン+シスプラチン群のDFS中央値を31ヶ月と仮定し、2年間の登録期間、3年間の追跡期間、および全体の5%の脱落率を考慮して、各群110例、合計220例の無作為化が必要と計算された。
有効性解析はITT集団で実施された。DFSのKaplan-Meier曲線を用いてイベント発生までの期間を記述し、両側ログランク検定で治療群間を比較した。HRと95%信頼区間 (CI) はCox比例ハザード回帰モデルを用いて推定された。HRQoLデータは、不均等間隔反復測定デザインANOVAを用いて群間比較された。