- 著者: Karen Kelly, Fumihiko Suminoe, Gregory J. Riely, et al.
- Corresponding author: N/A
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2015
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 26324372
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) は年間診断される肺癌の20%から25%を占めるが、外科的切除後5年生存率は約60%に留まる。切除可能なNSCLC患者における術後補助化学療法、特に白金製剤ベースのレジメンは、病理学的Stage IIおよびIIIの患者において生存期間の有意な改善を示すことが、過去10年間の複数のランダム化比較試験およびメタアナリシスによって確立されている Arriagada et al. NEnglJMed 2004、Winton et al. NEnglJMed 2005、Douillard et al. LancetOncol 2006、Strauss et al. JClinOncol 2008。しかし、これらの化学療法は有意な毒性を伴うため、その使用は制限される場合がある。
一方、上皮成長因子受容体 (EGFR) チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) は、進行期NSCLCにおいてその有効性が確立されている。特に、EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者に対するEGFR-TKIは劇的な奏効を示すことが、EURTAC試験などで報告されている Rosell et al. LancetOncol 2012。この成功に基づき、切除後のEGFR変異陽性患者において、EGFR-TKIの術後補助療法が再発防止に有用であるという仮説が立てられた。
RADIANT試験のプロトコル設計時点では、EGFR-TKIの奏効予測因子として、EGFRタンパク質の発現 (免疫組織化学; IHC) や遺伝子増幅 (蛍光in situハイブリダイゼーション; FISH) が有望視されていた。BR.21試験の探索的解析では、EGFR IHC陽性、高ポリソミー、またはFISH陽性の腫瘍を有する患者において、erlotinib治療による生存期間延長が示唆された Shepherd et al. NEnglJMed 2005。しかし、その後の研究では、IHCやFISHによるEGFR発現がEGFR-TKIの奏効を予測する確固たるバイオマーカーではないことが明らかになり、EGFR遺伝子変異の存在が最も強力な予測因子であることが示された。この知見は、当時の患者選択基準に大きな課題が残されていることを示唆した。
このような背景から、RADIANT (Randomized Double-Blind Trial in Adjuvant NSCLC With Tarceva) 試験は、EGFR IHCまたはFISH陽性という選択基準で切除後NSCLC患者を選択し、erlotinibの術後補助投与とプラセボを比較した最初の大規模な国際共同二重盲検ランダム化Phase III試験として実施された。本試験の設計段階ではEGFR変異スクリーニングが一般的でなかったため、EGFR変異解析は探索的に実施された。この試験は、切除後NSCLCにおけるEGFR-TKIの役割を評価する上で重要な一歩であったが、当時の知識の限界により、患者選択基準に不十分な点が残されていた。特に、EGFR変異ステータスに基づく層別化が設計段階で未解明であったため、erlotinibの真の有効性を評価する上でギャップが存在した。
目的
本試験の主要目的は、EGFRタンパク質過発現 (免疫組織化学; IHC) またはEGFR遺伝子増幅 (蛍光in situハイブリダイゼーション; FISH) を有する完全切除Stage IB-IIIAの非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象に、erlotinibの術後補助療法 (2年間) がプラセボと比較して無病生存期間 (DFS) を改善するかどうかを評価することであった。
副次目的としては、ITT (intent-to-treat) 集団における全生存期間 (OS) の評価、およびEGFR活性化変異陽性 (EGFR m-positive) サブグループにおけるDFSとOSの評価、ならびに安全性プロファイルの評価が含まれた。特に、EGFR m-positiveサブグループにおけるerlotinibの有効性は、探索的解析として注目された。本試験は、術後補助療法におけるEGFR-TKIの役割を確立するための重要な臨床的意義を持つと位置づけられた。
結果
患者背景: 合計2,500名の患者がスクリーニングされ、973名がランダムに割り付けられた (erlotinib群 n=623、プラセボ群 n=350) (Figure 1)。患者背景は両群間でバランスが取れていた (Table 1)。ITT集団の約59%が男性、中央年齢は62歳であった。組織型は腺癌が約59%、扁平上皮癌が約32%を占めた。Stage IBが約51%、Stage IIA/IIBが約33%、Stage IIIAが約15%であった。約53%の患者が術後補助化学療法を受けていた。EGFR活性化変異陽性サブグループは全患者の16.5% (n=161) であり、erlotinib群に102名、プラセボ群に59名が割り付けられた。このサブグループでは、女性、非喫煙者、アジア人患者の割合が高かった。
主要エンドポイント (DFS・全体集団) は達成せず: 2013年4月のデータカットオフ時点で、410件 (42%) のDFSイベントが発生し、277件 (15%) の死亡が確認された。追跡期間中央値は47ヶ月であった。ITT集団全体 (N=973) におけるDFS中央値は、erlotinib群で50.5ヶ月、プラセボ群で48.2ヶ月であり、両群間に統計学的に有意な差は認められなかった (HR 0.90; 95% CI 0.74 to 1.10; p=0.324) (Figure 2A)。この結果は、erlotinibが主要エンドポイントを達成しなかったことを示すネガティブな結果であった。層別化因子によるサブグループ解析でも、一貫してHRが0.90前後であり、全体結果の頑健性が確認された (Table 2)。
EGFR変異陽性サブグループにおけるDFSの延長傾向: 事前設定された探索的解析として、EGFR活性化変異陽性患者161名を対象にDFSを解析した。erlotinib群 (n=102) のDFS中央値は46.4ヶ月、プラセボ群 (n=59) のDFS中央値は28.5ヶ月であり、erlotinib群でDFSの延長傾向が認められた (HR 0.61; 95% CI 0.38 to 0.98; p=0.039) (Figure 2B)。erlotinib群の2年DFS率は75%、プラセボ群は54%であった。このp値は名目上有意であったが、階層的検定手順により統計学的な有意性は達成されなかった。プラセボ群におけるDFS中央値がITT集団全体よりも短かったことは、EGFR変異陽性患者の予後がEGFR IHC/FISH陽性だが変異陰性の患者と比較して異なる可能性を示唆する。EGFR変異サブタイプ別 (del19およびL858R) の解析では、いずれのサブタイプでもerlotinib群で数値的な改善傾向が示されたが、検出力不足のため統計的有意差は認められなかった (del19: HR 0.68; 95% CI 0.36 to 1.28; L858R: HR 0.55; 95% CI 0.27 to 1.12)。
OSデータは未成熟: OSデータはデータカットオフ時点で未成熟であり、ITT集団全体で28%の死亡イベントしか発生していなかった。ITT集団全体におけるOSは、erlotinib群とプラセボ群の間で統計学的な有意差は認められなかった (HR 1.13; 95% CI 0.88 to 1.45; p=0.335)。EGFR変異陽性サブグループにおいても、OSデータは未成熟であり (35件の死亡、22%)、erlotinib群で数値的な改善傾向はあったものの、統計学的な有意差には到達しなかった (HR 1.09; 95% CI 0.55 to 2.16; p=0.815)。
安全性および毒性プロファイル: 治療を受けた患者954名 (98%) を対象に安全性解析が実施された。有害事象 (AE) の発現率はerlotinib群で98.0%、プラセボ群で89.5%であった。erlotinib群では、発疹 (86.4% vs 32.1%) と下痢 (52.2% vs 15.7%) がプラセボ群と比較して高頻度で認められた (Table 3)。Grade 3以上のAEはerlotinib群で68%、プラセボ群で21%と、erlotinib群で高い毒性負担が明らかになった。主なGrade 3以上のAEは、発疹 (erlotinib群22.3% vs プラセボ群0.3%)、下痢 (erlotinib群6.2% vs プラセボ群0.3%)、掻痒症 (erlotinib群1.3% vs プラセボ群0.0%) であった。薬剤関連の重篤なAEはerlotinib群で2.5%、プラセボ群で1.5%に発生した。治療期間中または最終投与後30日以内の死亡はerlotinib群で2.0%、プラセボ群で0.9%であったが、治療関連死は報告されなかった。AEによる永続的な治療中止はerlotinib群で33.6%、プラセボ群で8.5%に発生した。erlotinib群では、用量減量 (44.4% vs 3.8%) や一時中断 (18.5% vs 6.7%) がプラセボ群よりも多く実施された。
服薬遵守と治療期間: ITT集団における治療期間中央値は、erlotinib群で11.9ヶ月、プラセボ群で21.9ヶ月であった。計画された2年間の治療を完遂した患者の割合は、erlotinib群で40.6%、プラセボ群で56.3%であった。erlotinib群での早期中断の主な原因は有害事象であった。EGFR変異陽性サブグループでは、erlotinib群の治療期間中央値は21.2ヶ月、プラセボ群は21.9ヶ月であり、全体集団と比較してerlotinib群の治療期間が長かった。これは、EGFR変異陽性患者がEGFR-TKI治療からより大きな恩恵を受けるという認識が、試験中に浸透したため、有害事象が発生しても治療継続が奨励された可能性が示唆される。
KRAS変異解析: KRAS変異は828検体のうち17% (n=143) で検出された。腺癌患者578名のうち120名 (21%) にKRAS変異が認められた。KRAS変異ステータスは、予後因子としてもerlotinibの治療効果予測因子としても、本試験では有意な役割を示さなかった。
再発部位の傾向: ITT集団およびEGFR変異陽性サブグループにおいて、最も一般的な再発部位は肺であった。EGFR変異陽性腫瘍で再発を経験した66名の患者のうち、erlotinib群では脳転移の割合が高く (13名; 37.1% vs プラセボ群4名; 1.9%)、骨転移の割合は低かった (5名; 14.3% vs プラセボ群9名; 29.0%)。この所見は、erlotinibの脳移行性に関するさらなる研究の必要性を示唆する。
考察/結論
RADIANT試験は、EGFR IHCまたはFISH陽性の切除Stage IB-IIIA NSCLC患者全体において、erlotinibの術後補助療法がDFSを統計学的に有意に延長しないというネガティブな結果 (HR 0.90; 95% CI 0.74 to 1.10; p=0.324) に終わった。この結果は、当時のプロトコル設計時にEGFR-TKIの奏効予測因子としてIHCやFISHが期待されたものの、その後の研究でEGFR遺伝子変異がより強力な予測因子であることが明らかになったことと整合する。
先行研究との違い: 本研究は、EGFR IHC/FISH陽性という広範な患者選択基準を用いた点で、EGFR変異陽性患者に限定したその後の試験とは対照的である。この広範な選択基準により、EGFR変異陰性患者が多数混入し、erlotinibの真の治療効果が希釈された可能性が高い。また、erlotinibが第一世代のEGFR-TKIであり、T790M変異などの耐性メカニズムを克服できない点も、微小転移病変の抑制において限界があったと考えられる。
新規性: 本試験の最も重要な新規性は、探索的解析として実施されたEGFR変異陽性サブグループにおけるDFSの延長傾向 (HR 0.61; 95% CI 0.38 to 0.98; p=0.039) をデータとして示した点である。この結果は、階層的検定手順により統計的有意性には達しなかったものの、切除後EGFR変異陽性NSCLC患者に対するEGFR-TKI術後補助療法の概念的妥当性を示唆するものであり、本研究で初めて示された重要な知見であった。この示唆的な所見は、その後のより厳格な患者選択 (EGFR変異スクリーニング) と、より強力な第三世代EGFR-TKIであるosimertinibを用いたADAURA試験の設計と実施に直接的な根拠を提供した。
臨床応用: RADIANT試験の失敗は、術後補助療法におけるバイオマーカーに基づく患者選択の重要性を強く示唆する。本試験の結果は、EGFR変異陽性患者に特化した治療戦略の必要性を浮き彫りにし、臨床現場での精密医療の推進に貢献した。特に、EGFR変異陽性サブグループにおけるDFS改善の傾向は、将来の臨床試験の方向性を決定づける上で重要な臨床的意義を持つ。
残された課題: 本試験の主なlimitationは、EGFR変異ステータスによる患者層別化が設計段階で不可能であったことである。これにより、EGFR変異陽性サブグループのサンプルサイズが小さく、統計的検出力が不足していた。また、erlotinibの毒性プロファイル、特に発疹や下痢といったGrade 3以上の有害事象が比較的高頻度で発生し、2年間の治療完遂率がプラセボ群よりも低かったことも課題として残された。今後の検討課題として、術後補助療法における最適なEGFR-TKIの用量設定や治療期間、および長期的なOSへの影響を評価する必要がある。また、脳転移の再発率がerlotinib群で高かったという探索的所見は、EGFR-TKIの脳移行性に関するさらなる研究の必要性を示唆する。
方法
RADIANT試験 (NCT00373425) は、国際多施設共同のランダム化二重盲検プラセボ対照Phase III試験として実施された。2007年11月から2010年7月にかけて、19カ国の204施設で患者登録が行われた。
患者選択基準: 対象患者は、完全切除 (R0) されたStage IBからIIIA (AJCC第6版) のNSCLC患者であり、腫瘍組織が中央検査室でEGFR IHC陽性 (≥1%染色) および/またはFISH陽性 (EGFR遺伝子増幅または高ポリソミー) と判定された。術後3ヶ月以内、または術後補助化学療法を受けた場合は最終サイクルから6ヶ月以内に試験治療を開始する必要があった。Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) Performance Statusは0-2、十分な臓器機能を有することが求められた。術前全身療法や術後放射線療法は許可されなかった。全ての患者から書面によるインフォームドコンセントを取得し、各施設の治験審査委員会/倫理委員会がプロトコルを承認した。
無作為化と盲検化: 患者はerlotinib 150 mg 1日1回投与群とプラセボ群に2:1の比率で無作為に割り付けられた。治療期間は2年間であった。層別化因子は、病期、組織型、術後補助化学療法の有無、喫煙状況、EGFR FISHステータス、および国であった。無作為化にはPocock and Simonの適応的無作為化法が用いられた。
評価項目: 主要評価項目は、無作為化から再発または死亡までの期間と定義されるITT集団におけるDFSであった。主要な副次評価項目には、ITT集団におけるOS、EGFR活性化変異陽性サブグループにおけるDFSおよびOS、ならびに安全性が含まれた。
統計解析: 本試験は、erlotinib群でDFS中央値が33%改善 (ハザード比 [HR] 0.75) することを検出するために、80%の検出力を持つように設計された (両側ログランク検定、有意水準5%)。最終DFS解析は410イベント発生時に実施される計画であった。中間解析は、必要なDFSイベントの75% (308イベント) が発生した時点で計画され、Lan-DeMets α消費関数とO’Brien-Fleming境界を用いて全体としてのα水準0.05を維持した。主要DFS解析が統計学的に有意であった場合、ITT集団におけるOS、EGFR m-positiveサブグループにおけるDFS、EGFR m-positiveサブグループにおけるOSの順に、階層的に副次評価項目が検定されることになっていた。EGFRおよびKRAS遺伝子変異ステータスは、中央検査室でWAVE HSおよびSangerシーケンスを用いて決定された。