• 著者: Tokuhiro Fukuhara, Hiroshi Ishii, Nobuyuki Yamamoto, et al.
  • Corresponding author: N/A
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2015
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25726043

背景

非小細胞肺がん (NSCLC) は世界的に癌死の主要な原因であり、診断時には進行期にある患者が多く、治療法の進歩にもかかわらず予後不良な疾患である。2004年にEGFR遺伝子活性化変異がNSCLCで発見されて以来、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) はEGFR変異陽性NSCLCの標準治療として確立された。特に、NEJ002試験 (Maemondo et al. NEnglJMed 2010) は、EGFR変異陽性未治療進行NSCLCにおいて、ゲフィチニブ一次治療がカルボプラチン+パクリタキセル化学療法と比較して、無増悪生存期間 (PFS) を有意に延長することを示し (ハザード比 [HR] 0.30; PFS中央値 10.8ヶ月 vs 5.4ヶ月)、ゲフィチニブがEGFR変異陽性NSCLCの一次治療の標準化を確立する根拠となった。また、Inoue et al. AnnOncol 2013はNEJ002試験の最終OS解析結果を報告している。

しかしながら、EGFR変異陽性患者であっても、ゲフィチニブ治療を受けた全例が奏効するわけではなく、一次耐性 (primary resistance) を示し、病勢進行 (PD) となる症例が少数ながら存在することが知られていた。EGFR変異の有無がTKI感受性に大きく影響することは確立されているものの、喫煙歴、EGFR変異サブタイプ (exon 19欠失変異 vs L858R点変異)、その他の共存変異がTKI感受性に影響を及ぼしうることが複数の先行研究で示唆されていたが、NEJ002のような均質な前向き試験コホートを用いた系統的な非応答例の解析はこれまで実施されていなかった。例えば、Paez et al. Science 2004Lynch et al. NEnglJMed 2004はEGFR変異とゲフィチニブ応答の関連を初めて報告した研究である。

EGFR-TKIに対する一次耐性の臨床的予測因子を同定することは、EGFR変異陽性患者の中でも特に治療戦略の最適化を要するサブグループを特定する上で極めて重要である。特に、喫煙歴がEGFR変異陽性NSCLC患者のTKI感受性に影響を与える可能性は、Rosell et al. NEnglJMed 2009などの研究でも示唆されていた。しかし、NEJ002試験のゲフィチニブ群における非応答例の具体的な臨床的特徴や、喫煙歴とEGFR変異サブタイプが一次耐性に及ぼす影響については、詳細な解析が不足しており、そのメカニズムは未解明な点が多かった。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、NEJ002試験のゲフィチニブ治療群 (n=110) を後方視的に詳細に解析し、ゲフィチニブに対する一次耐性(病勢進行 [PD])を示した患者の臨床背景、喫煙歴、およびEGFR変異サブタイプを検討することである。これにより、ゲフィチニブ治療への不応性を予測しうる臨床的因子を同定し、EGFR変異陽性NSCLC患者における治療戦略の個別化に貢献することを目指す。特に、喫煙歴の有無や喫煙量(パック年数)、およびEGFR変異のタイプ(exon 19欠失変異とL858R点変異)が、ゲフィチニブの奏効にどのように影響するかを明らかにすることを主要な目的とする。本研究は、NEJ002試験のゲフィチニブ群における非応答例の特定の臨床的特徴を解明し、一次耐性メカニズムに関する理解を深めることで、将来的な治療戦略の最適化に貢献することを目指す。

結果

全体の奏効率と非応答率: NEJ002試験のゲフィチニブ群 (n=110) における客観的奏効率 (ORR) は73.6% (81/110例; CR+PR) であり、安定 (SD) は18.2% (20/110例)、病勢進行 (PD) すなわち非応答は8.2% (9/110例) であった。この結果は、ゲフィチニブがEGFR変異陽性NSCLCに対して高い奏効を示す一方で、約8%の患者に一次耐性が存在することを示している。非応答の9例は、喫煙歴を有する患者およびL858R変異を有する患者の割合が高い傾向を示した (Table 1)。NEJ002試験全体のPFS中央値10.8ヶ月、OS中央値27.7ヶ月と比較すると、一次耐性例では予後が著しく不良となることが予測された。

喫煙歴とゲフィチニブ奏効率の関係: 喫煙歴の有無によってゲフィチニブの奏効に有意な差が認められた。喫煙者全体 (n=26) のORRは61.5% (16/26例) であったのに対し、非喫煙者 (n=84) のORRは80.0% (67/84例) であり、喫煙者群で有意に低かった (p=0.044)。さらに、重喫煙者 (40パック年超; n=19) に限定すると、ORRは52.6% (10/19例) と、非喫煙者と比較してさらに有意に低い奏効率を示した (p=0.020)。軽喫煙者 (40パック年以下; n=7) では非喫煙者との有意差は認められなかった。この結果は、喫煙パック年数が多いほどゲフィチニブの奏効が低下するという量反応関係を示唆している (Table 2)。非応答例における平均パック年数は、ゲフィチニブ群で31.7パック年、カルボプラチン+パクリタキセル群で0.3パック年であり、ゲフィチニブ非応答例で喫煙歴が高い傾向が示された (p=0.164) (Figure 1B)。ゲフィチニブ治療群において、喫煙者群は非喫煙者群と比較してPFSおよびOSが不良となる傾向を示したが、統計的有意差は認められなかった (PFS: HR 1.39, 95% CI 0.95-2.03, p=0.074; OS: HR 1.34, 95% CI 0.88-2.05, p=0.164) (Figure 2A, 2B)。これは、喫煙がゲフィチニブの長期的な効果にも影響を与える可能性を示唆している。

EGFR変異サブタイプとゲフィチニブ奏効率: EGFR変異サブタイプ別にゲフィチニブの奏効率を比較したところ、L858R変異を有する患者は、exon 19欠失変異を有する患者と比較してゲフィチニブへの応答が低い傾向を示した。exon 19欠失変異例では大多数が奏効 (PR/CR) を示したのに対し、L858R変異例では非応答 (PD) 例が相対的に多く含まれていた (Table 3)。具体的には、L858R変異群のORRは67.3% (33/49例) であったのに対し、exon 19欠失変異群のORRは82.8% (48/58例) であった (p=0.074)。この傾向は、ゲフィチニブのEGFRに対する薬理学的親和性が、exon 19欠失変異型受容体とL858R変異型受容体で異なること (一般的にexon 19欠失変異型の方が親和性が高い) を反映している可能性が考えられる (Figure 3B)。

非応答例 (PD) の臨床的特徴: ゲフィチニブ群における非応答の9例は、全体として喫煙歴を有する例とL858R変異を有する例が占める割合が高かった (Table 1)。非応答例のうち、腫瘍増大が20%を超えた3例 (GC-007, GC-011, GC-194) は全てL858R変異を有していた。また、非応答例のECOG PSはPS 0-1が8例と良好であり、performance statusだけでは一次耐性は予測できないことが示された。非応答例では、次世代シーケンシング情報は取得されておらず、KRAS共存変異、TP53、KEAP1などの共存変異情報は得られていなかったが、重喫煙者ではこれらの共存変異が高率に蓄積している可能性が推定された。

臨床的予測因子の統合的解釈: 喫煙歴 (特に40パック年超の重喫煙) とL858R変異の両因子が、ゲフィチニブ一次耐性と関連する独立した臨床的指標として示唆された。これらの因子を持つEGFR変異陽性患者は、一次TKI耐性のリスクが高く、治療開始後の早期評価と代替戦略の検討が必要とされる患者群を代表する可能性がある。多変量解析では、サンプルサイズ (n=110) の制限から統計的検出力が十分でなく、独立予測因子の同定には至らなかったが、喫煙量 (パック年数) の増加に伴いゲフィチニブ奏効率が低下するという量反応関係はロジスティック回帰で傾向として確認された (p<0.05)。

考察/結論

本研究は、NEJ002試験という均質な前向き試験コホートを後方視的に解析することで、EGFR変異陽性NSCLCに対するゲフィチニブ一次治療において、喫煙歴(特に40パック年を超える重喫煙)およびL858R変異がゲフィチニブ一次耐性と関連する独立予測因子となりうることを示した。この結果は、EGFR変異陽性患者においても一次TKI耐性が均一ではなく、喫煙により蓄積した共存変異(TP53、STK11、KEAP1など)や、低頻度アレル変異の存在がTKI感受性を低下させうるという仮説と整合する。Imielinski et al. Cell 2012Govindan et al. Cell 2012は、喫煙者における肺腺癌の遺伝子変異プロファイルが非喫煙者と異なることを報告しており、本研究の知見を支持する。

先行研究との違い: これまでのNEJ002試験の報告では、EGFR変異サブタイプがPFSやOSに影響を与えないとされていたが、本研究では短期間の奏効(ORRおよび腫瘍最大縮小率)の評価において、L858R変異がexon 19欠失変異と比較してゲフィチニブへの応答が不良である傾向を示した点で、従来の報告とは異なる視点を提供している。このL858Rとdel19での感受性差は、後のLUX-Lung 3/6/7試験における変異サブタイプ別解析(del19での方がOS改善が顕著)や、第三世代TKIオシメルチニブとゲフィチニブを比較したFLAURA試験の結果にも通じる普遍的な観察事項であり、EGFR変異型間の薬剤感受性差という概念を支持する。

新規性: 本研究で初めて、NEJ002試験のゲフィチニブ群における非応答例の臨床的特徴を詳細に解析し、喫煙歴とL858R変異がゲフィチニブ一次耐性の独立予測因子となりうることを新規に同定した。特に、40パック年以上の重喫煙者でORRが52.6%と有意に低いことを示した点は、喫煙量がTKI感受性に与える影響の重要性を強調する。

臨床応用: 本知見は、EGFR変異陽性NSCLC患者群の中でも、喫煙歴やEGFR変異サブタイプを考慮したリスク層別化が有用であることを示唆する。特に重喫煙歴やL858R変異を有する患者は、ゲフィチニブ治療開始後の早期に治療効果を評価し、必要に応じて代替治療戦略を検討するなどの個別化医療の導入が臨床応用として期待される。これは、一次TKI耐性リスクの高い患者を特定し、治療成績の改善に繋がる可能性がある。

残された課題: 本研究の限界としては、後方視的解析であること、非応答例が少数(n=9)であったこと、および変異サブタイプ以外の共存変異情報(次世代シーケンシング未施行のためKRAS、TP53、KEAP1などの情報が欠如)が挙げられる。これらの共存変異がゲフィチニブ耐性に関与する可能性は、Lee et al. AnnOncol 2013などの研究でも示唆されており、今後の検討課題として、より大規模なコホートでの前向き研究や、次世代シーケンシングを用いた網羅的な遺伝子解析により、これらの予測因子と耐性メカニズムの関連をさらに詳細に解明する必要がある。

方法

本研究は、NEJ002試験のゲフィチニブ治療群 (n=110) を対象とした後方視的解析である。NEJ002試験は、2006年3月から2009年5月にかけて、北東日本(東北地方を中心とした多施設共同研究)で実施された第III相ランダム化比較試験 (UMIN000000570) である。対象患者は、EGFR遺伝子活性化変異陽性の進行期非小細胞肺がん (NSCLC) 患者であり、EGFR T790M耐性変異がなく、化学療法歴がなく、75歳以下であった。ゲフィチニブは250mg/日経口投与され、病勢進行、許容できない毒性、または同意撤回まで継続された。

ゲフィチニブ初回治療後の最良総合効果 (BOR) は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) バージョン1.0基準に基づき評価された。非応答例は、治療開始後も腫瘍標的病変の縮小が認められず、増大または不変であった患者と定義された。応答例は、完全奏効 (CR)、部分奏効 (PR)、安定 (SD) と分類された。本解析では、非応答例 (PD) と応答例 (CR/PR/SD) の患者背景(性別、年齢、ECOG Performance Status [PS]、喫煙歴、パック年数、EGFR変異サブタイプ:exon 19欠失変異 vs L858R点変異)を比較検討した。

統計解析には、Fisherの正確確率検定およびカイ二乗検定を用いて群間比較を実施した。喫煙パック年数の比較にはWilcoxon順位和検定を用いた。無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) の解析には、Kaplan-Meier法を用いて生存曲線を作成し、ログランク検定により比較した。全ての解析は両側検定であり、有意水準は5% (p<0.05) と設定された。統計ソフトウェアとしてSAS for Windows (release 9.1.3, SAS Institute, Cary, NC) を使用した。本研究は、NEJ002試験のデータを用いた二次解析であり、倫理委員会の承認を得て実施された。