- 著者: A. Inoue, K. Kobayashi, M. Maemondo, S. Sugawara, S. Oizumi, H. Isobe, A. Gemma, M. Harada, H. Yoshizawa, I. Kinoshita, Y. Fujita, S. Okinaga, H. Hirano, K. Yoshimori, T. Harada, Y. Saijo, K. Hagiwara, S. Morita, T. Nukiwa for the North-East Japan Study Group
- Corresponding author: A. Inoue (Department of Respiratory Medicine, Tohoku University Hospital, Sendai, Japan)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2013
- Epub日: 2012-08-10
- Article種別: Original Article
- PMID: 22967997
背景
EGFR遺伝子のkinase domain活性化変異を有する進行非小細胞肺癌 (NSCLC) に対して、gefitinibをはじめとするEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) は、高い奏効率と良好な無増悪生存期間 (PFS) をもたらすことが複数の第II/III相試験で示されてきた。特に、Lynch et al. NEnglJMed 2004やPaez et al. Science 2004といった先駆的な研究により、EGFR変異がgefitinibへの感受性と強く相関することが明らかになった。これを受けて、EGFR変異陽性NSCLCに対する個別化治療の有効性を示す多くの第II相試験が実施され、その有望な結果が報告されてきた。例えば、Inoue et al. (2006) の第II相試験では、EGFR変異陽性患者に対する初回gefitinib治療で高い奏効率が示された。
NEJ002試験は、EGFR sensitive mutation陽性の化学療法未治療進行NSCLC患者を対象に、ファーストライン治療としてgefitinibとカルボプラチン/パクリタキセル (CBDCA/PTX) を直接比較した初期の第III相試験である。2010年の初回報告では、gefitinib群がCBDCA/PTX群と比較してPFSにおいて明確な優位性を示した(中央値10.8ヶ月 vs 5.4ヶ月、ハザード比 0.296, 95% CI 0.215–0.408)。この結果は、Mok et al. NEnglJMed 2009によるIPASS試験やMitsudomi et al. LancetOncol 2010によるWJTOG3405試験など、他の第III相試験でもEGFR-TKIの優位性が確認され、EGFR-TKIがEGFR変異陽性NSCLCの標準的なファーストライン治療として世界的に認識される基盤を築いた。これらの試験は、EGFR変異の有無に基づく個別化医療の重要性を確立したと言える。
しかし、初回報告時点では、全生存期間 (OS) は副次評価項目であり、イベント数が全患者の40%未満と追跡期間が不十分であったため、長期生存データに基づくEGFR-TKIファーストライン戦略の正当性は未確立であった。また、CBDCA/PTX群からgefitinibへのクロスオーバーがOSに与える影響についても議論されており、長期フォローアップによるOS解析が臨床的判断において極めて重要であると考えられた。特に、ファーストラインでプラチナ製剤併用療法を使用すべきという保守的な意見も存在し、EGFR-TKIが使用されるラインに関わらず同様に有効である可能性を示唆するレトロスペクティブ解析も報告されていた(Rosell et al. NEnglJMed 2009)。これらの背景から、EGFR変異陽性NSCLCの最適な治療戦略に関する知識ギャップを埋めるため、本研究はNEJ002試験の更新されたOS解析を実施し、後続治療 (post-protocol chemotherapy) がOSに与える影響を詳細に検討することを目的とした。特に、初回治療後の治療シーケンスがOSに与える影響については、まだ十分に解明されていない点が残されており、この点が重要な検討課題であった。
目的
NEJ002試験の全intent-to-treat集団 (n=228) において、より長期間のフォローアップデータ (2010年12月データカットオフ) に基づき、PFS、OS、および安全性データを更新すること。具体的には、ファーストラインのgefitinibとCBDCA/PTX間のOS差を評価するとともに、プロトコール治療後の後続化学療法 (クロスオーバー、プラチナ製剤、ペメトレキセド/ドセタキセル [PEM/DOC]) がOSに与える影響を後方視的に詳細に検討することを目的とした。これにより、EGFR変異陽性NSCLCに対する最適なファーストライン治療戦略と、その後の治療シーケンスの臨床的意義を明確にすることを目指した。特に、高頻度のクロスオーバーがOS評価に与える影響を定量的に評価し、実臨床における最適な治療選択の根拠を提供することが本研究の重要な目的の一つであった。また、複数の主要薬剤の組み合わせが長期生存に与える影響を解析することで、治療シーケンスの最適化に関する知見を得ることも意図された。
結果
更新されたPFS: 評価可能な224名の患者において、gefitinib群とCBDCA/PTX群の更新されたPFS中央値はそれぞれ10.8ヶ月 vs 5.4ヶ月であり、初回報告と同様の統計的に有意な優位性が維持された (HR 0.322, 95% CI 0.236–0.438, p<0.001)。最終データカットオフ (2010年12月) 時点でのPFSイベント数は、gefitinib群で98名 (86%)、CBDCA/PTX群で101名 (92%) であり、PFSイベント率は初回報告の83%から88%にわずかに上昇した。1年PFS率はgefitinib群で43.8%、CBDCA/PTX群で4.2%であった (Table 1)。この結果は、初回治療としてのgefitinibのPFSにおける強力な有効性を再確認するものであった。
更新されたOS: 最終データカットオフ時点 (中央値704日、範囲30-1659日) で、両治療群ともに69名の死亡イベントが確認された。OSイベント率は初回報告の36%から61%に増加した (Table 1)。全生存期間中央値 (MST) はgefitinib群で27.7ヶ月、CBDCA/PTX群で26.6ヶ月であり、ハザード比は0.887 (95% CI 0.634–1.241, p=0.483) となり、統計的に有意な差は認められなかった (Figure 1)。1年OS率はgefitinib群85.0% vs CBDCA/PTX群86.8%、2年OS率は57.9% vs 53.7%と、両群間で同等であった。
OSのサブグループ解析: サブグループ解析 (年齢、性別、PS、喫煙歴、組織型、EGFR変異タイプ [exon 19欠失 vs L858R vs その他]) においても、治療とサブグループ間のOSに対する有意な交互作用は認められなかった (Figure 2)。例えば、70歳以上の患者群ではHRが0.91と、70歳未満の患者群のHR 0.88と類似しており、年齢による治療効果の差は認められなかった。また、EGFR exon 19欠失変異を有する患者群とL858R変異を有する患者群の間でも、OSに対する治療効果の差は観察されなかった。
後続化学療法レジメンの概要: NEJ002試験における治療レジメンの概要をTable 2に示す。後続レジメンの数に関して、患者の50%以上が3次治療以上を受けており、これは日本の一般的な臨床実地と一致する結果であった (Figure 3A)。Gefitinib群の114名中82名 (72%) が少なくとも1つの後続レジメンを受け、そのうち74名 (65%) がプラチナ併用療法 (CBDCA/PTXへのクロスオーバー59名 [52%] を含む) を受けた。12名がgefitinibの再投与を受け、32名 (28%) がerlotinibを後続治療で受けた。一方、CBDCA/PTX群の114名中113名 (99%) が少なくとも1つの後続レジメンを受け、そのうち112名 (98.2%) がgefitinibへクロスオーバーした。このクロスオーバー率は極めて高かった。Gefitinib群では、20名の患者 (18%) がPSの悪化や間質性肺炎、併存疾患の悪化などの理由で後続治療を受けられなかった。
主要薬剤のOSへの影響解析: EGFR変異陽性NSCLC患者のOSに対するプラチナ製剤の影響を検討するため、治療期間中にgefitinibとプラチナ製剤の両方を受けた患者群 (n=186) と、プラチナ製剤を一度も受けなかった患者群 (n=40) のOSを比較した。両群間でOSに統計的に有意な差は認められなかった (Figure 3B)。プラチナ製剤は受けたがgefitinibを受けなかった患者はNEJ002試験ではわずか2名であった。次に、標準的な2次治療薬であるPEMとDOCのOSへの影響を評価した。3次治療以上を受けた患者 (n=131) を、EGFR-TKI、プラチナ製剤、PEMまたはDOCの全てを受けたP/D群 (n=76) と、EGFR-TKI、プラチナ製剤は受けたがPEMもDOCも受けなかったno P/D群 (n=55) に分類した。P/D群のMSTはno P/D群よりも有意に長く (34.8ヶ月 vs 22.6ヶ月, p=0.003)、約3年のMSTを達成したことが示された (Figure 3C)。この結果は、複数の有効な薬剤を適切にシーケンシャルに投与することが長期生存に寄与する可能性を示唆する。
安全性: 初回報告以降、新たな重篤な有害事象 (NCI-CTC grade ≥3) は両群ともに報告されなかった。Gefitinib群で最も多く報告された有害事象は発疹と下痢であり、CBDCA/PTX群では食欲不振、末梢神経障害、骨髄抑制が主体であった。重篤な有害事象の複合発生率は、CBDCA/PTX群で71.7%であったのに対し、gefitinib群では41.2%と、gefitinib群で有意に低かった (p<0.001)。この安全性プロファイルの差は、初回治療選択において重要な考慮事項となる。
考察/結論
NEJ002試験の更新された解析は、ファーストラインのgefitinibがCBDCA/PTXと比較してOSにおいて非劣性であることを示した。しかし、OSに統計的に有意な差が認められなかった最大の要因は、CBDCA/PTX群からgefitinibへのクロスオーバー率が98.2%という極めて高い値であったと考えられる。これは実地臨床で達成することが困難な水準であり、例えばIPASS試験では、ファーストラインCBDCA/PTX群からの後続EGFR-TKI移行率は51.5%にとどまっていた(Mok et al. NEnglJMed 2009)。
ファーストラインでgefitinibを使用する意義は、以下の複数の利点から強く支持される。第一に、PFSの圧倒的な優位性 (HR 0.322, 95% CI 0.236–0.438, p<0.001) が維持されたこと。第二に、先行報告で示されたQOLの有意な改善。第三に、高い奏効率と迅速な症状改善効果。第四に、CBDCA/PTXと比較して安全性の優位性 (重篤な有害事象発生率41.2% vs 71.7%, p<0.001) である。これらの要素を総合すると、EGFR変異陽性NSCLCに対するファーストライン治療としてgefitinibが依然として強く推奨される。
新規性: 本研究のpost-hoc解析における最も重要な新規の発見は、EGFR-TKI、プラチナ製剤、およびPEM/DOCの3系統の主要薬剤全てを受けられた患者で、MSTが34.8ヶ月という長期生存が得られた点である (Figure 3C)。これは、PSが良好で多くの治療ラインを完遂できた患者における選択バイアスの可能性も否定できないが、EGFR変異陽性NSCLCの長期マネジメント戦略を示唆する重要な知見である。これまで、これらの薬剤の組み合わせがOSに与える具体的な影響を定量的に示した報告は限られていたため、本研究で初めてその重要性が示された。
先行研究との違い: 従来のプラチナ製剤併用療法をファーストラインとする保守的な意見は、OSにおけるEGFR-TKIの優位性を示す前向き試験が不足していることに基づいていた。しかし、本研究の結果は、CBDCA/PTX群からの高頻度なクロスオーバーにもかかわらず、ファーストラインgefitinib群のOS曲線が非劣性であったことを示しており、これは従来の考え方と対照的な知見である。また、プラチナ製剤のOSへの影響がEGFR-TKIよりも大きくない可能性を示唆するpost-hoc解析の結果も、従来の化学療法の位置付けに関する議論に新たな視点を提供する。
臨床応用: 本知見は、EGFR変異陽性NSCLC患者に対する最適な治療シーケンスを決定する上で重要な臨床的意義を持つ。ファーストラインで最も有効な薬剤であるEGFR-TKIを使用する機会を逃すリスクを考慮すると、初回治療としてgefitinibを強く推奨することが、患者のQOLとPFSを最大化し、結果的に長期生存に寄与する可能性が高い。また、EGFR-TKI、プラチナ製剤、PEM/DOCの3系統の薬剤を適切に組み合わせることで、約3年という長期生存が期待できるという知見は、実臨床における治療計画の指針となる。
残された課題: 本解析にはいくつかの限界がある。第一に、NEJ002試験のサンプルサイズはOSの差を検出するには統計的検出力が不足していた可能性がある。また、約3分の1の死亡イベントが未発生であるため、最終的なOS曲線が本報告から変化する可能性も残されている。EGFR変異陽性NSCLCにおけるEGFR-TKIとプラチナ併用療法の比較に関する複数の第III相試験のメタアナリシスが望まれる。第二に、後続化学療法に関するpost-hoc解析は、プロトコールで規定されていない非計画解析であり、選択バイアスの可能性を否定できない。しかし、これらの治療パターンは日本の一般的な臨床実地と非常に類似していた。今後の検討課題として、PSの悪化、間質性肺炎、併存疾患などの理由で後続化学療法に移行できなかったgefitinib群の約18%の患者に対するOS改善の余地が残されている。筆者らは、ファーストラインのgefitinibとCBDCA/PEMの併用療法を検討するNEJ009試験 (UMIN000002789) を進めており、これは残された課題への取り組みを示唆する。
方法
NEJ002試験の対象患者は、化学療法未治療の進行NSCLC患者で、高感度ペプチド核酸-ロックド核酸PCRクランプ法により検出されたEGFR sensitive mutationを有する患者であった。患者はgefitinib 250 mg/日群またはCBDCA (AUC 6.0)/paclitaxel (200 mg/m², day 1, 3週毎、最大6コース) 群に1:1で無作為に割り付けられた。主要評価項目はPFSの優位性であり、副次評価項目には奏効率 (RR)、OS、QOL、および安全性が含まれた。本研究は、ヘルシンキ宣言および各参加施設の倫理委員会の承認を得て実施された。
本更新解析では、2010年12月をデータカットオフとして、全intent-to-treat集団 (n=228) のPFS、OS、および安全性データが再評価された。生存曲線はKaplan–Meier法を用いて作成され、両群間の比較には両側非層別ログランク検定が用いられた (有意水準0.05)。ハザード比 (HR) およびその両側95%信頼区間 (CI) は、治療群のみを共変量とするCox回帰分析により算出された。OSのサブグループ解析は、年齢、性別、パフォーマンスステータス (PS)、喫煙歴、組織型、およびEGFR変異タイプ (exon 19欠失 vs L858R vs その他) 別にフォレストプロットで実施された。これらのサブグループ解析は探索的解析として実施され、多重比較の調整は行われなかった。
プロトコール治療後の後続化学療法に関する詳細情報 (治療ライン数、プラチナ製剤の使用、PEM/DOCの使用、gefitinibへのクロスオーバーの有無など) は、すべての患者の医療記録から後方視的に収集された。主要薬剤のOSへの影響を評価するため、以下の2つの解析が実施された。
- Gefitinibを投与された患者のうち、治療期間中にプラチナ製剤を投与された群 (n=186) と、プラチナ製剤を一度も投与されなかった群 (n=40) のOSを比較した。この解析は、プラチナ製剤の追加がOSに与える影響を評価することを目的とした。
- 3次治療以降を受けた患者 (n=131) を対象に、EGFR-TKI、プラチナ製剤、およびPEMまたはDOCの全てを投与された群 (P/D群, n=76) と、EGFR-TKI、プラチナ製剤は投与されたがPEMもDOCも投与されなかった群 (no P/D群, n=55) のOSを比較した。この解析は、標準的な2次治療薬であるPEM/DOCの寄与を評価することを目的とした。
これらの解析は、SAS for Windows release 9.1 (SAS Institute Inc., Cary, NC, USA) を用いて実施された。統計学的有意差は両側p値が0.05未満と定義された。