• 著者: Kirstine Jacobsen, Jordi Bertran-Alamillo, Miguel Angel Molina, Cristina Teixidó, Niki Karachaliou, Martin Haar Pedersen, Josep Castellví, Mónica Garzón, Carles Codony-Servat, Jordi Codony-Servat, Ana Giménez-Capitán, Ana Drozdowskyj, Santiago Viteri, Martin R. Larsen, Ulrik Lassen, Enriqueta Felip, Trever G. Bivona, Henrik J. Ditzel, Rafael Rosell
  • Corresponding author: Trever G. Bivona (Department of Medicine, Division of Hematology and Oncology, University of California, San Francisco, CA, USA), Henrik J. Ditzel (Department of Cancer and Inflammation Research, Institute of Molecular Medicine, University of Southern Denmark, Odense, Denmark)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28871105

背景

肺がん、特に非小細胞肺がん (NSCLC) において、表皮成長因子受容体 (EGFR) 遺伝子変異陽性例に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) 治療は劇的な臨床効果をもたらす。これについては、Rosell et al. NEnglJMed 2009Rosell et al. LancetOncol 2012などの大規模臨床試験によって広く実証されている。また、EGFR変異が抗アポトーシス経路を活性化し、TKI感受性を規定する分子機序もSordella et al. Science 2004によって報告されている。しかし、ほぼすべての患者が治療開始後1〜2年以内に獲得耐性を生じ、病勢進行に至る。この獲得耐性の機序は極めて多様であり、EGFR T790M二次変異 (Kobayashi et al. NEnglJMed 2005Pao et al. PLoSMed 2005) のほか、MET遺伝子増幅、AXLやEphA2 (ephrin type-A receptor 2) などのRTK (receptor tyrosine kinase: 受容体型チロシンキナーゼ) の活性化、EMT (epithelial-to-mesenchymal transition: 上皮間葉転換) などが知られている。このように耐性機序が多岐にわたり、かつ個々の患者においてどの機序が作動するかを事前に予測することが困難である点が、耐性克服に向けた新規治療戦略開発における最大の障壁であった。複数の耐性機序が同一腫瘍内で共存するケースも報告されており、単一の上流受容体を標的とするアプローチでは十分な効果が得られない。多様な耐性機序を横断して共通して活性化している下流のシグナル伝達経路、すなわち「収束した耐性駆動因子 (convergent resistance feature)」が存在するかどうかは、これまで十分に解明されておらず、大きな課題が残されている。特に、細胞の生存や増殖、アポトーシス抵抗性を制御する中心的なハブであるAkt (PI3K/Akt/mTOR) 経路が、多様な上流耐性機序からシグナルを統合する収束点として機能しているかについての体系的な検証は不足している。この知識ギャップを埋めることが、個別化治療の限界を克服し、広範な耐性株に適用可能な汎用的治療法を確立するために極めて重要である。

目的

本研究の目的は、多様な獲得耐性機序 (T790M変異、AXL、MET、EphA2、FGFR1などの過発現や活性化、およびEMT) を個別に、あるいは複合的に有する複数のEGFR-TKI耐性NSCLC細胞株モデルを用いて、Akt経路の活性化がこれら多様な耐性機序を横断する共通の「収束したシグナルハブ」として機能しているかを検証することである。さらに、EGFR-TKIとAkt阻害薬の併用療法が、これら多様な耐性背景を持つモデルにおいて相乗的な増殖抑制およびアポトーシス誘導効果を発揮するかをin vitroおよびin vivoの異種移植モデルで明らかにする。最後に、実際のEGFR変異陽性NSCLC患者から採取された臨床検体を用いて、EGFR-TKI治療前後におけるpAkt (phosphorylated Akt: リン酸化Akt) 発現の動態を解析し、治療前のpAkt発現が初期治療効果や予後に与える影響、および耐性獲得時におけるpAkt亢進の頻度を評価することで、Akt活性化の臨床的意義とバイオマーカーとしての有用性を確立することを目指す。

結果

PC9および11-18由来耐性株における多様な上流耐性機序の同定: 樹立された耐性株は、親株と比較してEGFR-TKIに対する感受性が著しく低下し、IC50値は親株のナノモル濃度域から4 - 29 μMへと大幅に上昇した。分子解析の結果、PC9由来の6株 (GR1〜GR5、ER) および11-18由来の6株 (GR1〜GR6) は、それぞれ極めて多様で不均一な耐性プロファイルを示した (Fig. 1)。PC9-GR1およびPC9-GR4の2株 (n=2 cells) ではEGFR T790M二次変異が検出されたが、他の株はT790M陰性であった。T790M陰性株では、AXLの過発現 (PC9-ER、PC9-GR2、PC9-GR3、PC9-GR5など)、FGFR1の過発現、EphA2の活性化、METの活性化、およびE-cadherinの低下とvimentinの上昇を伴うEMT変化など、複数の耐性機序が複雑に共存していた (Fig. 1)。11-18由来の耐性株でも、T790M変異は認められず、AXL、MET、FGFR1、MERの過発現が多様に観察された (Fig. 5)。このように、同一の親株から誘導された耐性株であっても、獲得された上流の耐性機序は極めて不均一であった。

定量的プロテオーム解析によるAkt経路活性化の同定: PC9親株とerlotinib耐性株PC9-ER (n=3 replicates) を対象としたSILAC定量的質量分析により、3535個のタンパク質が同定された (Fig. 2)。発現量が2-fold以上変化した357個のタンパク質 (247個が上昇、110個が低下) を解析した結果、耐性株においてPI3K-Akt-mTORシグナル伝達経路が著しく活性化していることが判明した。具体的には、mTORタンパク質の発現が7-fold上昇していたほか、Akt経路を活性化するMID1 (Midline 1) や、チロシンキナーゼシグナルの収束点であるCRKL (v-crk avian sarcoma virus CT10 oncogene homolog-like) の発現上昇が確認された (Fig. 2)。さらに、Western blotting解析により、PC9由来の全6株および11-18由来の全6株において、それぞれ異なる上流耐性機序を有しているにもかかわらず、EGFR-TKI存在下でpAkt (Ser473) およびその下流因子であるpPRAS40 (proline-rich Akt substrate of 40 kDa) (Thr246) のレベルが一貫して高度に維持・亢進していることが実証された (Fig. 2、Fig. 5)。これは、多様な上流耐性機序が最終的にAkt活性化へと収束していることを示している。

EGFR-TKIとAkt阻害薬の併用による相乗的な増殖抑制とアポトーシス誘導: 全12種の耐性細胞株において、EGFR-TKI (gefitinibまたはerlotinib) 単剤、あるいはAkt阻害薬 (GSK2141795またはAZD5363) 単剤での治療は十分な増殖抑制効果を示さなかったが、両者の併用は極めて強力な相乗的抑制効果を発揮した (Fig. 3、Fig. 5)。crystal violet生存アッセイ (n=4 replicates) およびBrdU増殖アッセイ (n=3 replicates) において、併用療法はすべての耐性株で単剤群と比較して有意に細胞増殖を阻害した (one-way ANOVA、p<0.05)。さらに、DNA断片化アッセイにおいて、併用療法は耐性株におけるアポトーシスを有意に誘導した (Fig. 3)。T790M陽性株であるPC9-GR4 (n=7 replicates) においては、osimertinib (0.1 - 0.2 μM) とAkt阻害薬の併用により、同様に強力な相乗的増殖抑制が確認された (Fig. 6)。シグナル解析では、併用療法のみがpEGFR、pPRAS40、およびpFOXO1/3a (forkhead box O1/3a) のリン酸化を同時に完全に抑制することが示された (Fig. 4)。

in vivo異種移植モデルにおける腫瘍増殖の相乗的抑制: PC9-ER細胞を皮下移植したCB17 SCIDマウス (n=9 mice per group) を用いたin vivo治療実験において、erlotinib単剤群 (25 μg/g) またはGSK2141795単剤群 (10 μg/g) は、対照群 (vehicle) と比較して緩徐な腫瘍増殖抑制効果しか示さなかった (Fig. 7)。これに対し、erlotinibとGSK2141795の併用投与群は、極めて強力な腫瘍増殖抑制効果を示した。投与開始21日目 (Day 36) における摘出腫瘍体積の比較において、併用群は対照群と比較して有意な腫瘍縮小効果を示した (p=0.0017)。さらに、併用群の腫瘍体積は、erlotinib単剤群 (p=0.03) およびGSK2141795単剤群 (p=0.0295) のいずれと比較しても有意に縮小しており、in vivoにおける両剤の相乗的な抗腫瘍効果が実証された (Fig. 7)。

臨床検体におけるpAkt発現の予後的意義と獲得耐性時の亢進: ファーストラインEGFR-TKI治療を受けたEGFR変容陽性NSCLC患者 (n=75 patients) の治療前生検組織において、pAkt陽性 (H-score ≥ 62) は8例 (11%) に認められた (Fig. 8)。pAkt陽性患者は、pAkt陰性患者 (n=67 patients) と比較して、PFS (progression-free survival: 無増悪生存期間) が有意に短縮しており (6.1 vs 14.5 months、HR 0.341 [95% CI 0.159-0.731, p=0.0057])、OS (overall survival: 全生存期間) も同様に著しく短縮していた (15.2 vs 34.5 months、HR 0.276 [95% CI 0.118-0.646, p=0.003]) (Fig. 8)。さらに、EGFR-TKI治療後に耐性を獲得した再生検組織 (n=15 patients) の解析では、9例 (60%) がpAkt陽性であり、治療前 (11%) と比較して陽性率が著しく上昇していた (Fig. 8)。これらの臨床データは、Akt活性化がEGFR-TKIに対する初期治療抵抗性および獲得耐性の双方において、極めて重要な役割を果たしていることを臨床的に裏付けるものである。

考察/結論

先行研究との違い: 従来の獲得耐性研究は、EGFR T790M変異やMET増幅、AXL活性化といった個々の「上流」受容体や遺伝子異常を同定し、それぞれに対する個別的な阻害薬を開発することに主眼が置かれていた。これに対し、本研究は個々の上流変化を追うのではなく、下流の共通シグナルハブであるAkt経路に着目した点で、これまでのアプローチと大きく異なる。先行研究では、EGFR-TKIに対する初期感受性とAkt抑制の相関は示されていたが、獲得耐性株におけるAkt活性化の普遍性については十分に検証されていなかった。本研究は、多様な耐性機序を持つ複数の耐性モデルにおいて、Akt活性化が一貫して維持されていることを示し、耐性克服の標的としてのAktの重要性を浮き彫りにした。

新規性: 本研究は、EGFR-TKIに対する多様な獲得耐性機序 (T790M、AXL、MET、EphA2、FGFR1、およびEMT) を横断して、Aktリン酸化の亢進が共通して生じる「収束した耐性駆動因子 (convergent resistance feature)」であることを世界で初めて実証した。定量的プロテオーム解析と複数の耐性株パネルを用いることで、上流の不均一性にかかわらず、細胞生存シグナルが最終的にAkt/mTOR経路に収束するという新規の分子パラダイムを提示した。

臨床応用: 本研究の知見は、EGFR変異陽性NSCLC治療におけるバイオマーカー選定および新規併用療法の臨床応用に直結する。臨床的意義として、治療前の高pAkt発現がEGFR-TKI単剤療法の不良な予後 (短いPFSおよびOS) を予測する強力な因子であることを明らかにした。この結果は、治療開始時にpAkt陽性である患者、あるいは耐性獲得時にpAkt亢進が認められる患者 (再生検例の60%) に対し、EGFR-TKIとAkt阻害薬の併用療法を導入するという、個別化医療の次のステップとなる治療戦略を臨床現場に提供するものである。

残された課題: 今後の検討課題として、Akt阻害薬とEGFR-TKIの併用療法における毒性プロファイルの管理が挙げられる。Akt経路は正常細胞の糖代謝や生存にも関与するため、臨床応用においては、有効性と安全性を両立する最適な投与スケジュールや用量の確立が必要である。また、本研究のlimitationとして、臨床検体における治療前後のペアサンプルの症例数が15例と限定的であった点が挙げられる。より大規模な前向き臨床試験において、pAkt発現を指標としたEGFR-TKIとAkt阻害薬の併用療法の有効性を検証することが、今後の重要な研究方向性である。

方法

本研究では、EGFR exon 19 deletion変異を有するヒトNSCLC細胞株PC9、およびEGFR L858R変異を有する11-18細胞株を親株として使用した。これらの親株に対し、低濃度から段階的に濃度を上昇させたgefitinibまたはerlotinibを長期曝露することにより、それぞれ6種ずつの独立した獲得耐性亜株 (PC9由来gefitinib耐性株PC9-GR1〜GR5、erlotinib耐性株PC9-ER、および11-18由来gefitinib耐性株11-18 GR1〜GR6) を樹立した。 耐性機序の同定には、FISH (fluorescence in situ hybridization: 蛍光in situハイブリダイゼーション)、IHC (immunohistochemistry: 免疫組織化学)、qRT-PCR (quantitative real-time polymerase chain reaction: 定量リアルタイムPCR)、およびWestern blottingを用いた。 さらに、PC9親株とerlotinib耐性株PC9-ERのプロテオームを網羅的に比較するため、SILAC (stable isotope labeling by amino acids in cell culture: 細胞培養アミノ酸安定同位体標識) 法を用いた定量的質量分析を実施した。可溶性画分と膜結合画分に分離したタンパク質サンプルをHILIC (hydrophilic interaction liquid chromatography: 親水性作用液体クロマトグラフィー) により10画分に分画し、LC-MS/MS (liquid chromatography tandem mass spectrometry: 液体クロマトグラフィー質量分析) にて解析した。 細胞生存・増殖アッセイとして、crystal violet染色法 (8日間培養)、CellTiterBlueアッセイ、およびBrdU (bromodeoxyuridine: ブロモデオキシウリジン) 取り込みアッセイ (48時間および96時間) を実施した。アポトーシスは、Annexin-V染色およびDNA断片化ELISA (enzyme-linked immunosorbent assay: 酵素結合免疫吸着測定法) を用いて評価した。薬剤には、EGFR-TKI (gefitinib、erlotinib、osimertinib) およびAkt阻害薬 (GSK2141795、AZD5363) を用いた。 in vivo評価では、16週齢の雌性CB17 SCID (severe combined immunodeficiency: 重症複合免疫不全) マウスの両側側腹部にPC9-ER細胞 (1.5 x 10^6 cells) を皮下移植し、腫瘍が触知可能となった時点で、erlotinib (25 μg/g)、GSK2141795 (10 μg/g)、併用群、または対照群 (15% Captisol) にランダム化し、週5日、3週間経口投与した。 臨床検体解析では、ファーストラインEGFR-TKI治療を受けたEGFR変異陽性NSCLC患者75例の治療前生検組織、および耐性獲得後の再生検組織15例を用いて、pAkt (Ser473) のIHC解析をH-score (histoscore: ヒストスコア) 法により実施した。 統計解析にはSAS version 9.3を使用し、生存曲線はKaplan-Meier (カプラン・マイヤー) 法で推定し、log-rank (ログランク) 検定で群間比較を行った。予後因子の解析にはCox regression (コックス比例ハザード回帰モデル) を適用し、in vitroおよびin vivoの多群間比較にはone-way ANOVA (一元配置分散分析) を用いた。