• 著者: Justin F. Gainor, Diane Tseng, Satoshi Yoda, Ibiayi Dagogo-Jack, Luc Friboulet, Jessica J. Lin, Harper G. Hubbeling, Leila Dardaei, Anna F. Farago, Katherine R. Schultz, Lorin A. Ferris, Zofia Piotrowska, James Hardwick, Donghui Huang, Mari Mino-Kenudson, A. John Iafrate, Aaron N. Hata, Beow Y. Yeap, Alice T. Shaw
  • Corresponding author: Alice T. Shaw (Massachusetts General Hospital, Boston, MA)
  • 雑誌: JCO Precision Oncology
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-08-16
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29333528

背景

ROS1転座は非小細胞肺癌 (NSCLC) の1〜2%に認められる分子サブタイプであり、この転座を有する患者はALK/ROS1/MET阻害剤であるcrizotinibによる標的療法に感受性を示すことが知られている。ROS1は未分化リンパ腫キナーゼ (ALK) と系統発生的に関連しており、両者はcrizotinibに対する感受性を共有する。PROFILE 1001試験では、ROS1陽性NSCLC患者においてcrizotinibが72%の客観的奏効率 (ORR) と19.2ヶ月の中央値無増悪生存期間 (PFS) を示した。しかし、この有望な結果にもかかわらず、最終的には多くの患者がcrizotinib耐性を獲得することが課題として認識されていた。

ROS1陽性NSCLCにおける転移パターンの特徴やcrizotinib耐性機序に関するデータは、当時まだ限られており、特にALK陽性NSCLCと比較した詳細な解析は不足していた。マサチューセッツ総合病院 (MGH) の研究グループは、ROS1陽性患者でcrizotinib治療により特に胸腔内限局例 (M1a病期) において持続的な奏効が得られることを臨床的に観察しており、ROS1とALK転座では転移パターンに違いがあるという仮説を立てた。具体的には、ALK陽性NSCLCが脳転移を高頻度で発生させるという先行研究の報告があり、ROS1陽性NSCLCにおいても同様の傾向があるのか、あるいは異なる転移パターンを示すのかを明らかにすることは重要な課題であった。例えば、Shaw et al. JClinOncol 2009Kwak et al. NEnglJMed 2010はALK陽性NSCLCの臨床的特徴を報告しているが、ROS1陽性NSCLCの転移パターンに関する系統的なデータは不足していた。

また、crizotinib耐性後の組織再生検からROS1依存性耐性変異を同定することは、次世代ROS1チロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) 開発の根拠となる重要な課題であった。crizotinib耐性機序に関する知見は、ALK陽性NSCLCでは進んでいたものの、ROS1陽性NSCLCでは散発的な症例報告や前臨床研究に限られており、大規模なコホートでの解析は未解明な点が多かった。例えば、Shaw et al. NEnglJMed 2014はcrizotinibのROS1陽性NSCLCに対する有効性を示したが、耐性機序の詳細は不明であった。これらの知識ギャップを埋めることは、ROS1陽性NSCLC患者の治療戦略を最適化し、耐性克服のための新規薬剤開発を加速させる上で極めて重要であると考えられた。既存の治療法では、ROS1陽性NSCLC患者の長期的な予後改善には限界があり、特に獲得耐性という課題が残されていた。このため、転移パターンと耐性機序の詳細な理解は、個別化医療の推進と新たな治療標的の発見に不可欠である。

目的

本研究の目的は以下の2点である。(1) 初発転移部位の分布をROS1陽性NSCLCとALK陽性NSCLCで比較し、両者の転移パターンの違いを評価すること。特に、ALK陽性NSCLCで高頻度に報告される脳転移について、ROS1陽性NSCLCとの比較を通じてその発生率と経時的変化を明らかにすることを目指した。これにより、ROS1陽性NSCLCにおける脳転移の頻度と進行リスクを定量的に評価し、CNS活性を有する次世代ROS1阻害剤の必要性を検証する。 (2) crizotinib治療後に病勢進行したROS1陽性NSCLC患者の再生検組織を解析し、crizotinib耐性機序、特にon-target ROS1変異の同定を行うこと。これにより、ROS1陽性NSCLCにおける主要な耐性ドライバー変異を特定し、次世代ROS1阻害剤の開発に向けた分子学的根拠を提供することを目的とした。特に、ALK陽性NSCLCで報告されている耐性変異と比較し、ROS1陽性NSCLCにおける耐性変異のスペクトラムと頻度の特徴を明らかにすることも目的とした。これらの知見は、ROS1陽性NSCLCの個別化医療を推進し、耐性克服戦略を確立するための基盤となる。

結果

転移パターンと脳転移発生率: 初発転移部位の分布は、ALK陽性NSCLCとROS1陽性NSCLCで多くの点で類似していたが、重要な違いが認められた。特に、初診時の脳転移率はROS1陽性患者で19.4%であったのに対し、ALK陽性患者では39.1%と有意に高かった (p=0.033) (Table 1, Figure 2C)。また、胸腔外転移の総発生率もROS1陽性患者で59.0%であったのに対し、ALK陽性患者では83.2%と有意に低かった (p=0.002) (Figure 2D)。経時的な脳転移の発生率を評価した結果、全患者における5年累積脳転移発生率はALK陽性患者で73%であったのに対し、ROS1陽性患者では34%と有意に低かった (p<0.001) (Figure 3A)。初診時に脳転移がなかった患者に限定しても、5年累積脳転移発生率はALK陽性患者で56% vs ROS1陽性患者で22%と、同様にROS1陽性患者で有意に低かった (p=0.001) (Figure 3B)。ALK陽性患者では、crizotinib治療後に次世代ALK阻害剤 (ceritinib 40%、alectinib 27%、brigatinib 3%) が58%の患者で使用されていたが、これらの薬剤の93%は脳転移出現後に開始されており、脳転移発生に対する保護効果として機能した可能性は低いと考えられた。これらの結果は、ALK陽性腫瘍がROS1陽性腫瘍と比較して脳に対する高い親和性 (CNS tropism) を持つことを強く示唆する。

Crizotinib治療成績: crizotinib治療を受けた患者 (ROS1陽性 n=30、ALK陽性 n=175) における中央値PFSは、ROS1陽性患者で11.0ヶ月、ALK陽性患者で7.9ヶ月であり、ROS1陽性患者で有意に長かった (HR 0.60, 95% CI 0.42-0.86, p=0.007) (Figure 1A)。最も一般的な治療ラインであった2次治療としてcrizotinibを投与された患者群においても、ROS1陽性患者の中央値PFSは11.5ヶ月、ALK陽性患者では8.8ヶ月と、ROS1陽性患者で長い傾向が認められたが、統計的有意差は境界域であった (p=0.086) (Figure 1B)。crizotinib開始からのOS中央値は、ALK陽性患者で3.0年 (95% CI 2.5-3.7年)、ROS1陽性患者で2.5年 (95% CI 1.0年-到達せず) であり、両群間に有意差は認められなかった (p=0.786) (Figure 1C)。M1a病期の患者に限定すると、ROS1陽性患者のcrizotinib PFSはALK陽性患者よりも有意に長く (HR 0.367, 95% CI 0.15-0.92, p=0.024) (Appendix Figure A1)、M1b病期の患者では差は認められなかった (HR 1.21, 95% CI 0.73-2.00, p=0.49)。このことから、ROS1陽性患者におけるcrizotinibのPFS延長は、M1a病期の患者におけるより大きな治療効果に一部起因する可能性が示唆された。

Crizotinib耐性機序: crizotinib進行後に再生検を施行したROS1陽性患者16例 (17検体) の解析では、中央値crizotinib PFSは8.70ヶ月 (範囲2.8〜60.6ヶ月) であった (Figure 4A)。すべての検体で元のROS1転座の持続が確認された。ROS1耐性変異は9検体 (53%、9/17) で同定され、最も頻度が高かったのはG2032R変異で7例 (41%) であった (Figure 4B, Table 2)。その他にD2033N変異が1例 (6%)、S1986F変異が1例 (6%) で検出された。G2032RとD2033N変異は、ATP結合部位のsolvent-front領域に位置し、ALKのG1202RとD1203N変異に相当する。非CNS生検 (14検体) に限定すると、ROS1耐性変異の検出率は64%に上昇し、G2032R変異が50%を占めた (Appendix Figure A2)。一方、3検体のCNS生検ではROS1耐性変異は検出されず、これはcrizotinibのCNS薬物動態学的失敗を反映している可能性が考えられた。興味深いことに、1例 (MGH9018) では肝生検がNGS陰性であったにもかかわらず、同時期のGuardant360 cfDNA検査でROS1 G2032R変異が0.5%の変異頻度で検出された。

標的NGS (12検体) による追加解析では、TP53変異が最も頻繁に認められ (5例、42%)、EGFR、KRAS、KIT、その他の既知の癌遺伝子のホットスポット変異は検出されなかった。高レベルのコピー数変化も認められなかった。1例では上皮間葉転換 (EMT) を示唆する多形癌が認められたが、腺癌の系譜は保持されていた。小細胞肺癌への形質転換は認められなかった。これらのデータは、ROS1陽性NSCLCにおけるcrizotinib耐性の主要なメカニズムがROS1耐性変異、特にG2032R変異であることを示唆する。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、ROS1陽性NSCLCとALK陽性NSCLCが共通の臨床的特徴を持つ一方で、転移パターンにおいて重要な違いを示すことを初めて系統的に明らかにした。先行研究と異なり、ALK転座はROS1転座に比べ著明に高い脳転移発生率を示し (初診時39.1% vs 19.4%、5年累積73% vs 34%)、ALK陽性腫瘍が脳への特別な親和性 (CNS tropism) を持つことを強く示唆する。この差異の生物学的基盤は依然として不明であるが、ALK融合タンパクの異なる細胞内局在、下流シグナル活性化パターン、融合パートナーの違い、あるいは共変異の差異などが考えられる。ROS1陽性NSCLCにおいてもcrizotinib治療中の脳転移は5年累積34%と無視できない頻度であり、CNS活性を有する次世代TKIの必要性が支持される。

新規性: 本研究で初めて、ROS1陽性NSCLCにおけるcrizotinib耐性機序を大規模コホートで解析し、非CNS生検においてROS1変異 (主にG2032R) が64%と高頻度に認められることを新規に同定した。これは、crizotinibがROS1に対してALKよりも強力であるため (Ba/F3細胞での比較でcrizotinibのROS1に対する効力はALKの約5倍)、選択圧がより集中しやすいことを反映していると考えられる。ALK陽性NSCLCでも耐性変異は生じるが、ALKのG1202RがALK耐性変異全体の20〜25%であるのに対し、ROS1のG2032Rは41%と主要変異として集中して観察された点が特徴的である。

臨床応用: 臨床応用として、G2032R変異を克服できる次世代ROS1 TKIの開発が最重要課題である。本論文公開当時、lorlatinib、entrectinib、TPX-0005 (repotrectinib)、DS-6051b (taletrectinib)、cabozantinibなどが前臨床・臨床評価段階にあった。特にG2032Rはsolvent-front変異として立体障害によりcrizotinibとの結合を阻害し、ceritinibやbrigatinibでも克服困難であることが課題として指摘された。本研究は、crizotinib後治療として有効な次世代薬の臨床開発を加速させるための根拠となった重要な報告であり、ROS1陽性NSCLC患者の個別化治療戦略に臨床的意義を持つ。

残された課題: 残された課題として、複数のNGSプラットフォームの使用や、MGH SNaPshotパネルがROS1 exon 38のみをカバーしているため、他のexonの変異を見逃す可能性が挙げられる。また、一部の患者では耐性機序を同定できておらず、ROS1変異以外のバイパス経路の活性化など、さらなる検討が必要である。CNS転移の解析において、ALK群における次世代ALK阻害剤の使用が結果に影響を与えた可能性もlimitationとして考慮されるべきである。今後の研究では、より大規模なコホートでの耐性機序の網羅的解析や、G2032R変異を標的とする新規ROS1阻害剤の臨床的有効性の検証が求められる。

方法

本研究は、マサチューセッツ総合病院 (MGH) における後ろ向き単施設コホート研究として実施された。この研究は、機関審査委員会 (IRB) の承認を得たプロトコルに基づいて行われた。MGHの機関データベースから、2008年9月から2016年1月の期間に診断された転移性ROS1陽性NSCLC患者39例とALK陽性NSCLC患者196例が同定された。ROS1転座の確認には、蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) が82.5%、次世代シーケンシング (NGS) が12.8%、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応 (RT-PCR) が2.6%の割合で用いられた。ALK転座はFISH、NGS、免疫組織化学 (IHC) で確認された。

転移部位は、カルテレビューによって収集され、Goldstraw et al. JThoracOncol 2007に基づいて分類された。神経画像検査 (脳MRIまたは頭部CT) は、ROS1陽性患者の82%およびALK陽性患者の76%で施行されており、脳転移の有無および経時的発生が評価された。crizotinib治療アウトカム (PFSおよび全生存期間 [OS]) はKaplan-Meier法を用いて推定され、群間比較にはログランク検定が用いられた。脳転移の累積発生率は、死亡を競合リスクとするFineとGrayの競合リスクモデルで算出され、Grayの検定で比較された。すべてのP値は両側検定に基づき、StatXact version 6.2.0ソフトウェア (Cytel, Cambridge, MA) を用いて正確な計算が実施された。

crizotinib耐性機序の解析には、2012年7月から2016年12月の期間にcrizotinib治療後に病勢進行し、再生検を施行したROS1陽性患者16例 (計17検体) が対象とされた。生検は進行部位 (非中枢神経系 [CNS] 14検体、CNS 3検体) から採取された。ROS1耐性変異の検出には、Sangerシーケンシング、ディープシーケンス、および複数のNGSプラットフォームが使用された。特に、MGH NGSプラットフォームはROS1 exon 38をカバーし、SangerシーケンシングおよびディープシーケンスはROS1のキナーゼドメイン全体 (exon 36〜42) を評価した。12検体では、複数遺伝子 (AmpliSeqパネル) の標的NGSも施行され、バイパス経路の活性化やその他の既知の癌遺伝子変異が探索された。

患者背景 (転移パターン解析対象) は、ALK陽性群とROS1陽性群で年齢 (中央値51歳 vs 50歳)、性別、人種、喫煙歴、組織型 (腺癌がROS1群で100%、ALK群で96%)、ECOGパフォーマンスステータスに有意差は認められなかった。初診時のステージIV疾患の割合も両群で同等であった (ALK 84% vs ROS1 85%)。この研究は後ろ向きコホート研究であり、特定の介入試験ではなく、既存の臨床データを収集・解析するデザインであった。