- 著者: Sun Min Lim, Hye Ryun Kim, Jong-Seok Lee, Ki Hyeong Lee, Yun-Gyoo Lee, Young Joo Min, Eun Kyung Cho, Sung Sook Lee, Bong-Seog Kim, Moon Young Choi, Hyo Sup Shim, Jin-Haeng Chung, Yoon La Choi, Min Jeong Lee, Maria Kim, Joo-Hang Kim, Siraj M. Ali, Myung-Ju Ahn, Byoung Chul Cho
- Corresponding author: Byoung Chul Cho (Yonsei Cancer Center, Division of Medical Oncology, Yonsei University College of Medicine, Seoul, Republic of Korea)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-05-18
- Article種別: Original Article
- PMID: 28520527
背景
ROS1転座は非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の1〜2%に認められる重要なドライバー変異であり、ROS1キナーゼドメインが融合タンパク質に保持されることで構成的な活性化を示す Rikova et al. Cell 2007。ROS1とALKのキナーゼドメインは高い相同性を持つため、ALK阻害剤がROS1陽性NSCLCにも有効であることが前臨床研究で示されてきた McDermott et al. CancerRes 2008。特に、第1世代ALK/ROS1阻害剤であるcrizotinibは、PROFILE 1001試験において客観的奏効率 (ORR) 72%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値19.2ヶ月という優れた成績を示し、ROS1転座陽性NSCLCの標準治療として確立された Shaw et al. NEnglJMed 2014。
しかしながら、crizotinib治療後には多くの患者が最終的に薬剤耐性を獲得する。耐性機序としては、ROS1依存性変異 (例: G2032R、D2033N) やROS1非依存性経路の活性化 (例: EGFR経路活性化) など、多様なメカニズムが報告されている Awad et al. NEnglJMed 2013。また、crizotinibは血液脳関門の透過性が低く、中枢神経系 (CNS) への薬剤移行が不十分であるため、CNS再発率が高いことが臨床上の大きな課題であった。このため、crizotinib耐性後の治療選択肢は限られており、新たな治療薬の開発が強く求められていた。特に、crizotinib耐性後の治療選択肢は依然として不足しており、この知識のギャップを埋める必要があった。
Ceritinib (LDK378) は、ALKを主標的とする第2世代の選択的チロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) である。前臨床研究では、HCC78細胞株で50 nM、ROS1導入Ba/F3細胞株で180 nMというナノモルレンジのIC50値を示し、ROS1に対しても強力な阻害活性を持つことが報告されている。さらに、ceritinibは血液脳関門を約15%の脳/血液曝露比で通過することが示されており、crizotinib耐性例やCNS病変を有するROS1転座陽性NSCLC患者に対する代替治療薬として期待されていた。しかし、ROS1転座陽性NSCLC患者におけるceritinibの臨床的有効性および安全性プロファイルは、これまで前向きに検討されたことがなく、その役割は未解明であった。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的として、ROS1転座陽性NSCLC患者におけるceritinibの臨床的活性を評価したものである。
目的
本研究の主要目的は、ROS1転座陽性進行NSCLC患者(大半はcrizotinib未治療)に対するceritinib 750 mg/dayの有効性、特に客観的奏効率 (ORR) を評価することであった。副次目的としては、病勢コントロール率 (DCR)、奏効期間 (DoR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性プロファイル (毒性) を評価した。さらに、ROS1転座の検出方法として用いられる蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH)、免疫組織化学 (IHC)、次世代シーケンシング (NGS) 間の一致率も探索的に評価した。本試験は、crizotinib耐性後の治療選択肢が不足している状況において、ceritinibが新たな治療選択肢となりうるかを検証することを意図している。
結果
奏効と疾患コントロール: 全32例中28例が独立中央判定 (IRC) による奏効評価が可能であった (4例は早期進行、死亡、または有害事象による中止のため評価不能)。全患者におけるORRは62% (95% CI 45-77%) であり、内訳は完全奏効 (CR) 1例、部分奏効 (PR) 19例であった。crizotinib未治療患者 (n=30) に限定した場合のORRは67% (95% CI 48-81%) であった。全患者における病勢コントロール率 (DCR) は81% (95% CI 65-91%)、crizotinib未治療患者では87% (95% CI 70-95%) であった。評価可能であった28例中24例 (75%) でベースラインからの腫瘍縮小が認められた (Figure 1)。
生存期間: 全患者におけるPFS中央値は9.3ヶ月 (95% CI 0-22ヶ月) であった。crizotinib未治療患者に限定した場合のPFS中央値は19.3ヶ月 (95% CI 1-37ヶ月) と、より良好な結果を示した (Figure 2)。crizotinib未治療患者における奏効期間 (DoR) 中央値は21.0ヶ月 (95% CI 17-25ヶ月) であった (Figure 3)。全患者におけるOS中央値は24ヶ月 (95% CI 5-43ヶ月) であり、6ヶ月OS率は84% (95% CI 68-93%)、12ヶ月OS率は56% (95% CI 39-72%) であった。データカットオフ時点 (2016年10月30日) で、14例 (43%) の患者が治療を継続中であった。
頭蓋内効果: ベースライン時に脳転移を有する8例の患者について頭蓋内効果を解析した。IRC判定によると、測定可能脳病変を有する2例のうち1例でPR (腫瘍縮小率66%)、もう1例で安定 (SD) (腫瘍縮小率2.3%) が認められた。非測定可能病変を有する3例では、1例でCR、2例で非CR/非PDが確認された。頭蓋内ORRは25% (95% CI 7-59%、2/8例)、頭蓋内DCRは63% (95% CI 31-86%、5/8例) であった (Table A4)。CRを達成した1例は、ceritinib開始2ヶ月前に脳放射線療法を受けていたが、ceritinib開始8週後にCRを達成し、70週以上奏効が持続した。この頭蓋内DCRは、全身奏効率とほぼ一致する結果であった (Table A5)。
ROS1転座検出方法の一致率とNGS解析: FISH陽性であった32例中、組織検体が入手可能であった29例でIHCが実施された。その結果、25例がIHC陽性、4例がIHC陰性であり、FISHとIHCの一致率は86.2%であった。探索的解析としてNGSが実施された15例のうち、11例でROS1融合遺伝子 (CD74-ROS1 2例、EZR-ROS1 7例、SLC34A2-ROS1 2例) が確認された (Table A8)。NGS陰性であった4例のうち1例はIHCも陰性であり、ceritinib開始後1ヶ月以内に進行したため、FISHの偽陽性が示唆された。しかし、NGS陰性であった他の2例はceritinibに臨床的奏効を示しており、腫瘍組織量の不足によるNGSの偽陰性が考えられた。NGSでROS1融合が確認された患者は、評価不能な1例を除き全例で疾患制御を達成した。
安全性プロファイル: 全32例の患者が何らかの有害事象 (AE) を経験した (Table 3)。重篤な有害事象 (SAE) は16例 (50%) に発生し、そのうち薬剤関連SAEは7例 (22%) であった。グレード3以上の毒性は12例 (37%) に認められた。最も頻度の高い非血液毒性 (大半がグレード1-2) は、下痢 (78%)、悪心 (59%)、食欲不振 (56%)、嘔吐 (53%)、咳嗽 (47%) であった。最も頻度の高いグレード3-4毒性は疲労 (16%) であった。検査値異常としては、血清クレアチニン上昇 (41%)、ALT上昇 (31%)、AST上昇 (28%) が頻繁に認められたが、これらも大半がグレード1-2であった。AEによる投与中止は1例 (3%) のみであり (グレード3の全身倦怠感と食欲不振)、治療関連死亡は認められなかった (3例の死亡はいずれも治療とは無関係と判断された)。患者の68%が1回以上の減量、72%が1回以上の休薬を経験した。ceritinibの曝露期間中央値は27.0週 (IQR 13.1-40.9週) であった。
考察/結論
本第II相試験は、ROS1転座陽性NSCLC患者に対するceritinibの有効性を初めて前向きに評価した研究であり、ORR 62%、DoR 21.0ヶ月、crizotinib未治療例でのPFS 19.3ヶ月という臨床的に意義のある強力な活性を示した。このORRは、先行研究であるPROFILE 1001試験におけるcrizotinibのORR 72% Shaw et al. NEnglJMed 2014と同程度であり、ceritinibがROS1転座陽性NSCLC患者に対するcrizotinibの代替治療選択肢となりうることを示唆している。
新規性: 特に重要な点として、crizotinib未治療例におけるPFS中央値19.3ヶ月は、当時のcrizotinibのPFS中央値19.2ヶ月と同等であり、ceritinibが一次治療としても検討可能な有効性を持つ可能性が本研究で初めて示された。また、脳転移を有する患者における頭蓋内DCR 63%は、血液脳関門透過性が低いcrizotinibでは得られにくい効果であり、ceritinibのCNS浸透性 (脳/血液曝露比約15%) が臨床的に機能していることを示唆する新規の知見である。これは、CNS転移がNSCLC患者の主要な予後不良因子であり、治療が困難な残された課題である現状において、臨床的意義が大きい。
先行研究との違い: 本研究の患者背景として、中央値年齢62歳、3ライン以上の化学療法歴が53%と、複数ラインの化学療法後に投与された重症例が多い点が、過去のROS1阻害剤の臨床試験と比較して特徴的である。このような重治療歴を有する患者集団においても高い奏効率が得られたことは、ceritinibの強力な抗腫瘍活性を裏付けるものである。これは、これまでのROS1阻害剤の試験が比較的治療歴の少ない患者を対象としていたのと対照的である。
臨床応用: 安全性プロファイルについては、消化器毒性が主体であり、下痢 (78%)、悪心 (59%)、食欲不振 (56%) が高頻度で認められた。これらの有害事象は、適切な支持療法と用量減量によって管理可能であった。crizotinibとの直接比較はできないものの、下痢や悪心の頻度はcrizotinibより高い傾向にあるが、いずれもグレード3-4の重篤なものは稀であった。有害事象による治療中止率は3%と低く、実臨床での継続投与可能性を支持する。これらのデータは、ROS1転座陽性NSCLC患者の治療選択肢を拡大する臨床的有用性を持つ。
残された課題: 本試験の限界としては、単国 (韓国) での実施であるため、結果の一般化には慎重な解釈が必要であること、比較対照群のない単腕試験であること、およびcrizotinib耐性後のceritinibの有効性は本試験では十分に評価できていないこと (crizotinib前治療例2例は奏効評価不能) が挙げられる。crizotinib耐性後のceritinibの有効性については、今後の検討課題として別途の検証が必要である。しかし、本研究はcrizotinibに次ぐ第2世代TKIとしてのceritinibのROS1転座陽性NSCLCにおける役割を確立する重要なエビデンスを提供するものであり、この知見はROS1転座陽性NSCLC患者の治療選択肢を拡大する臨床的有用性を持つ。
方法
本研究は、多施設共同、非盲検、第II相試験 (NCT01964157) として、韓国国内の10施設で実施された。組み入れ基準は、FISH法によりROS1転座陽性と診断された進行NSCLC患者、20歳以上、標準治療後に進行した局所進行または転移性NSCLC、ECOG PS 0-2、RECIST 1.1に基づく測定可能病変を有することであった。ROS1 FISH陽性は、腫瘍細胞の15%以上でsplitまたはisolated signalが検出された場合と定義された。IHC (rabbit monoclonal, clone D4D6) はスクリーニングおよびFISHとの一致率評価に用いられ、Hスコア100以上または75%以上の染色範囲かつ2+または3+の強度を陽性と定義した。探索的解析として、15例の患者組織サンプルでFoundation Medicine社の包括的ゲノムプロファイリングアッセイを用いたNGSも実施された Frampton et al. NatBiotechnol 2013。
試験デザインはSimonの二段階最小化デザインを採用し、検出力80%、片側有意水準10% (α=0.10、β=0.20) で設計された。帰無仮説はORR 40% (P=0.40)、対立仮説はORR 60% (P=0.60) と設定された。必要サンプル数は28例と算出され、ドロップアウト率10%を考慮して合計32例が登録された。第1段階では16例を組み入れ、6例以下の奏効であれば試験を早期中止する。最終的に14例以下の奏効であれば、薬剤の開発は不要と判断される。
患者はceritinib 750 mgを1日1回、2時間の絶食後に経口投与され、28日を1サイクルとして疾患進行または不忍容性まで治療を継続した。有害事象はCTCAE version 4.03に基づき評価された。用量調整はグレード3以上の有害事象発生時に許可され、最大3段階の減量 (1段階あたり150 mg/日) が可能であった。奏効評価はRECIST 1.1に基づき、独立中央委員会 (IRC) および担当医判定の両者で実施されたが、主要有効性解析にはIRC判定が採用された。
患者背景 (2013年6月7日〜2016年2月1日登録) は、中央値年齢62歳 (範囲35〜79歳)、女性75% (24例)、非喫煙者84% (27例) であった。全例が腺癌であり、前治療ライン数の中央値は3 (範囲2〜7) で、53%の患者が3ライン以上の化学療法歴を有していた。診断からceritinib開始までの中央値期間は18.3ヶ月 (範囲2〜96ヶ月) であった。ベースライン時に脳転移を有する患者は8例 (25%) であった。当初はcrizotinib前治療例も組み入れ可能であったが、プロトコル改訂によりcrizotinib未治療例に対象が絞られ、最終的にcrizotinib前治療歴のある患者は2例のみであった。統計解析はKaplan-Meier法を用いて行われ、SPSS version 20.0ソフトウェアが使用された。