• 著者: Shaw AT, Solomon BJ, Chiari R, Riely GJ, Besse B, Soo RA, Kao S, Lin CC, Bauer TM, Clancy JS, Thurm H, Martini JF, Peltz G, Abbattista A, Li S, Ou SI
  • Corresponding author: Alice T. Shaw (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Boston, MA, USA)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-10-24
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31669155

背景

ROS1再構成は、非小細胞肺癌(NSCLC)患者の約1〜2%に認められる特定の分子サブセットであり、ROS1融合タンパク質の構成的キナーゼ活性が腫瘍のドライバーとなることが知られている。ROS1のキナーゼドメインはALKと高い相同性を持つため、一部のALK阻害薬(ALK-TKI)はROS1に対しても活性を示す。例えば、マルチターゲット型チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であるクリゾチニブは、ALK、ROS1、METを標的とし、多くの国でROS1陽性NSCLCの治療薬として承認されている。これまでの複数の臨床試験、特にPROFILE 1001試験では、クリゾチニブがROS1陽性NSCLC患者において高い客観的奏効率(ORR)72〜87%および無増悪生存期間(PFS)中央値15〜19ヶ月という優れた有効性を示すことが報告されている Shaw et al. NEnglJMed 2014

しかしながら、クリゾチニブ治療を受けたほぼすべての患者が最終的に薬剤耐性を獲得し、病勢が再発・進行することが大きな課題である。ROS1耐性の最も一般的な機序の一つは、ROS1キナーゼドメイン内の溶媒フロント変異Gly2032Argであり、この変異は立体障害によりクリゾチニブの結合を阻害すると考えられている。また、ROS1陽性NSCLC患者では、診断時または治療経過中に30〜40%の割合で脳転移が発生することが報告されており、血液脳関門透過性が低いクリゾチニブでは、脳転移のコントロールが不十分であることが臨床上の重要な課題として残されている Davies et al. ClinCancerRes 2012。このような状況下で、クリゾチニブ耐性後の治療選択肢は限られており、多くの場合、細胞傷害性化学療法や放射線療法が選択されるが、これらの治療法では効果が限定的であるか、忍容性に問題がある場合も少なくない。

ロルラチニブは、高い脳移行性を持つように設計された第3世代のALK/ROS1 TKIである。この薬剤は、P糖蛋白1(P-gp1)を介した薬剤排出を最小限に抑えることで、血液脳関門を効率的に通過する能力を持つ Zou et al. CancerCell 2015。ロルラチニブは、ALK陽性NSCLCにおいて、第2世代ALK阻害薬に対する耐性を克服する活性が既に示され、2018年には米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けていた Solomon et al. LancetOncol 2018。しかし、ROS1陽性NSCLCにおけるロルラチニブの系統的な有効性と安全性評価は、これまで不足しており、特にクリゾチニブ耐性後の患者や脳転移を有する患者における臨床的有用性は未解明であった。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的として実施された。

目的

本第1-2相試験(NCT01970865)は、進行ROS1陽性非小細胞肺癌(NSCLC)患者を対象に、ロルラチニブの有効性(客観的奏効率 [ORR]、頭蓋内ORR、無増悪生存期間 [PFS]、奏効期間 [DOR])および安全性を評価することを目的とした。特に、ROS1 TKI未治療患者、クリゾチニブ(crizotinib)前治療のみの患者、およびその他のROS1 TKI前治療歴のある患者という各サブグループにおけるロルラチニブの臨床的意義を明らかにすることを目指した。本試験は、ロルラチニブの脳転移に対する活性、および既知のROS1耐性変異に対する効果についても探索的に評価することを目的とした。これにより、クリゾチニブ耐性後の治療選択肢が限られているROS1陽性NSCLC患者に対する新たな治療戦略の確立に貢献する知見を得ることを目指した。

結果

2014年1月22日から2016年10月2日までに364名の患者がスクリーニングされ、ROS1陽性NSCLC患者69名が登録され、抗腫瘍活性および安全性解析の対象となった。内訳は、TKI未治療患者21名(30%)、クリゾチニブ前治療のみの患者40名(58%)、非クリゾチニブROS1 TKIを1剤以上またはROS1 TKIを2剤以上前治療歴のある患者8名(12%)であった。患者のベースライン特性として、年齢中央値は54.0歳(IQR 44.0-61.0)、女性が39名(57%)、アジア人が22名(32%)であった。ECOGパフォーマンスステータスは0が27名(39%)、1が40名(58%)であった。ベースライン時に脳転移を有する患者は39名(57%)であり、そのうち19名(49%)が脳照射歴を有していた(Table 1)。追跡期間中央値は21.1ヶ月(IQR 15.2-30.3)であった。

TKI未治療患者における有効性: TKI未治療患者21名において、IRC評価によるORRは62%(95% CI 38-82)であり、13名(62%)が客観的奏効を達成した(完全奏効 [CR] 2名、部分奏効 [PR] 11名)(Table 2, Figure 1A)。奏効までの期間中央値は1.4ヶ月(IQR 1.4-1.4)と速やかであった。奏効期間(DOR)中央値は25.3ヶ月(95% CI 7.5-31.9)であり、データカットオフ時点で13名の奏効患者のうち6名(46%)で奏効が継続中であった。無増悪生存期間(PFS)中央値は21.0ヶ月(95% CI 4.2-31.9)であった(Figure 1C)。ベースライン時に脳転移を有するTKI未治療患者11名における頭蓋内ORRは64%(95% CI 31-89)であり、7名(64%)が頭蓋内奏効を達成した(CR 5名、PR 2名)。頭蓋内DOR中央値は未到達(95% CI 5.7-NR)であった。

クリゾチニブ前治療患者における有効性: クリゾチニブ前治療のみの患者40名において、IRC評価によるORRは35%(95% CI 21-52)であり、14名(35%)が客観的奏効を達成した(CR 2名、PR 12名)(Table 2, Figure 1B)。奏効までの期間中央値は2.1ヶ月(IQR 1.4-2.8)であった。DOR中央値は13.8ヶ月(95% CI 9.7-NR)であり、データカットオフ時点で14名の奏効患者のうち8名(57%)で奏効が継続中であった。PFS中央値は8.5ヶ月(95% CI 4.7-15.2)であった(Figure 1D)。ベースライン時に脳転移を有するクリゾチニブ前治療患者24名における頭蓋内ORRは50%(95% CI 29-71)であり、12名(50%)が頭蓋内奏効を達成した(CR 9名、PR 3名)。頭蓋内DOR中央値は未到達(95% CI 11.0-NR)であった。この高い頭蓋内活性は、ロルラチニブの血液脳関門透過性の高さを臨床的に裏付けるものである。

ROS1 Gly2032Arg変異とロルラチニブの活性: cfDNA(循環腫瘍DNA)解析により、クリゾチニブ前治療患者のうち6名でROS1 Gly2032Arg変異が検出された。これらのGly2032Arg陽性患者6名におけるロルラチニブに対する最良効果は、5名が安定病変(SD)、1名が病勢進行(PD)であり、CRまたはPRを達成した患者はいなかった(Figure 2)。SDを達成した患者のSD期間は2.9ヶ月から9.6ヶ月と短く、ロルラチニブはROS1 Gly2032Arg変異を有する患者において臨床的に意義のある抗腫瘍活性を示さないことが示唆された。一方、ROS1 Lys1991Glu変異を有する患者1名とSer1986Phe変異を有する患者1名では、それぞれ11.1ヶ月と23.3ヶ月(データカットオフ時継続中)のDORを伴うPRが認められた。これは、ロルラチニブが一部のROS1変異に対しては活性を保持することを示す。

その他のROS1 TKI前治療患者における有効性: 非クリゾチニブROS1 TKIを1剤以上、またはROS1 TKIを2剤以上前治療歴のある患者8名では、ORRは25%(2/8名)であった。これらの患者の治療歴と抗腫瘍活性の詳細は補足資料に記載されている。

安全性プロファイル: 全体で69名の患者のうち66名(96%)が少なくとも1つの治療関連有害事象(TRAE)を経験した(Table 4)。最も一般的なグレード3-4のTRAEは、高トリグリセリド血症が13名(19%)、高コレステロール血症が10名(14%)であった。その他の一般的なTRAE(グレード1-2を含む)には、浮腫(39%)、末梢神経障害(35%)、認知機能障害(26%)、体重増加(16%)、気分変動(16%)などが含まれた。重篤なTRAEは5名(7%)で発生したが、治療関連死は報告されなかった。TRAEによる一時的な治療中断は25名(36%)、減量は17名(25%)で報告された。最も一般的な中断・減量の原因は高トリグリセリド血症、浮腫、末梢神経障害であった。ロルラチニブの治療関連で永続的に中止した患者は1名(1%)のみであり、グレード2のトランスアミナーゼ上昇が原因であった。これらの結果から、ロルラチニブは全体的に忍容性が良好であると判断された。

考察/結論

本第1-2相試験は、進行ROS1陽性NSCLCに対するロルラチニブの初の系統的な臨床評価であり、TKI未治療患者およびクリゾチニブ前治療患者の両方において、その有効性と安全性が示された。TKI未治療患者ではORR 62%(95% CI 38-82)、PFS中央値21.0ヶ月という高い一次治療活性が認められた。また、クリゾチニブ前治療患者においてもORR 35%(95% CI 21-52)、PFS中央値8.5ヶ月という後治療活性が確認された。特に、両群において頭蓋内ORRがそれぞれ64%(95% CI 31-89)および50%(95% CI 29-71)と顕著な頭蓋内活性を示したことは、ロルラチニブの高いCNS移行性を臨床的に実証するものであり、ROS1陽性NSCLCで高頻度に発生する脳転移に対する有効な治療手段となる可能性を示唆する。

先行研究との違い: 既存のROS1 TKIであるクリゾチニブの一次治療におけるPFS中央値が19.3ヶ月(Shaw et al. AnnOncol 2019)であることと比較して、本研究のTKI未治療群におけるPFS中央値21.0ヶ月は同等以上の成績であり、ロルラチニブが一次治療においても強力な選択肢となりうることが示された。また、セリチニブやエントレクチニブといった他のROS1 TKIはクリゾチニブ耐性ROS1陽性NSCLCにおいて臨床的活性を示さないと報告されているのに対し、ロルラチニブはクリゾチニブ前治療患者においても有意な奏効を示した点で、これまでの薬剤とは対照的である。

新規性: 本研究で初めて、ROS1陽性NSCLCにおけるロルラチニブの包括的な有効性プロファイルが、TKI治療歴の有無および脳転移の有無にかかわらず詳細に評価された。特に、クリゾチニブ耐性後の患者に対するロルラチニブの臨床活性、およびその強力な脳転移抑制効果は、これまで報告されていない重要な新規知見である。さらに、ROS1 Gly2032Arg変異がロルラチニブに対する耐性メカニズムとして機能することを臨床的に同定した点も新規性が高い。

臨床応用: 本知見は、ROS1陽性NSCLCの治療戦略に大きな臨床的意義を持つ。特に、クリゾチニブ耐性後の患者、および脳転移を有する患者において、ロルラチニブが重要な次治療薬となる可能性が示された。ロルラチニブの高いCNS移行性は、脳転移の予防および治療において極めて有用であり、患者のQOL向上と予後改善に貢献することが期待される。ただし、ROS1 Gly2032Arg変異を有する患者ではロルラチニブの活性が限定的であるため、治療前に分子診断を行い、Gly2032Arg変異の有無を確認することが臨床現場で重要となる。Gly2032Arg陽性例に対しては、レポトレクチニブ(repotrectinib)やタレトレクチニブ(taletrectinib)など、この変異を克服できる可能性のある次世代TKIの選択肢を検討する必要がある。

残された課題: 本研究の主要な限界は、第1-2相の単アーム試験であり、対照群との比較がないこと、および各サブグループ(特にTKI未治療群21名)のサンプルサイズが小さいことである。ROS1陽性NSCLCが希少なサブタイプであるため、大規模なランダム化比較試験の実施は困難であるが、より大規模なコホートでの検証が望まれる。また、ROS1 Gly2032Arg変異の解析は主にcfDNAに基づいており、組織生検による確認と比較して感度や特異度に差がある可能性がある。さらに、cfDNA解析におけるROS1変異の検出頻度が既報よりも低い可能性も指摘された。フォローアップ期間中央値21.1ヶ月は、OSや長期的なDORの評価にはまだ不十分であり、長期的なアウトカムデータが今後の検討課題として残されている。ROS1融合パートナーやブレークポイントの特性評価は本研究では行われておらず、これらの分子学的特徴とロルラチニブの奏効との関連性も今後の研究で明らかにする必要がある。

方法

本研究は、多施設共同、非盲検、単アームの第1-2相試験(NCT01970865)として実施された。ROS1陽性NSCLC患者は、本試験のROS1拡大コホート(第1相、第2相、日本先行コホート [Japan-LIC]、および薬物相互作用 [DDI] サブスタディの統合データ)に登録された。世界12カ国の28病院が参加した。

患者選択基準: 組織学的または細胞学的にROS1再構成が確認された進行NSCLC患者が対象とされた。ROS1陽性は、FISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)、RT-PCR、または次世代シーケンシング(NGS)による局所検査で確立された。年齢は18歳以上、ECOGパフォーマンスステータスは0〜2(第1相のみ≤1)とされた。無症候性の治療済みまたは未治療の脳転移を有する患者も組み入れ可能であった。RECIST v1.1に基づき、少なくとも1つの測定可能な病変(体外病変またはDDIサブスタディのみ頭蓋内病変)を有することが求められた。以前の治療歴については、進行期設定でのTKI未治療患者、および少なくとも1回のROS1阻害薬治療歴(第1相)または任意の数の前治療(化学療法またはROS1阻害薬治療、第2相、Japan-LIC、DDI)後に病勢進行した患者が対象とされた。髄膜癌腫症または軟髄膜疾患を有する患者も、MRIで視覚化されるか、ベースラインの脳脊髄液(CSF)細胞診が陽性であれば、第2相試験で適格とされた。十分な骨髄、膵臓、腎臓、肝機能が必須であった。

除外基準: 免疫療法歴、脊髄圧迫、活動性かつ臨床的に有意な感染症、臨床的に有意な心血管疾患、急性膵炎の素因、広範な間質性肺疾患、重度の精神疾患、過去3年以内の悪性疾患(NSCLC以外)、活動性炎症性消化器疾患、重度の下痢、症候性憩室疾患、胃切除術歴、胃バンド、または異常な左室駆出率(LVEF)などが含まれた。

治療プロトコル: ロルラチニブは、連続21日サイクルで経口投与された。第1相では10mg 1日1回から100mg 1日2回までの漸増投与が行われたが、第2相、Japan-LIC、DDIでは100mg 1日1回が開始用量とされた。治療は、治験責任医師が判断した病勢進行、許容できない毒性、同意撤回、または死亡まで継続された。病勢進行後も臨床的利益が認められる場合は、治験責任医師の裁量で治療継続が許可された。

評価項目: 主要評価項目は、独立中央画像診断レビュー(IRC)によるRECIST v1.1に基づく客観的奏効率(ORR)および頭蓋内ORRであった。頭蓋内病変は最大5個まで評価対象に含める修正RECISTが用いられた。副次評価項目には、奏効期間(DOR)、頭蓋内DOR、初回奏効までの期間、無増悪生存期間(PFS)、CNS進行、非CNS進行、または死亡の初回イベント発生確率、および安全性が含まれた。探索的解析として、血漿中の循環腫瘍DNA(cfDNA)を用いた次世代シーケンシング(Guardant360パネルv2.10)により、ROS1キナーゼドメイン変異(特にGly2032Arg)などの分子バイオマーカーが解析された。

統計解析: 本解析は、様々な前治療歴と投与量で本研究の各パートに参加したROS1陽性患者全体に基づいて実施された。そのため、全体のサンプルサイズは事前に定義されておらず、統計的仮説に基づくものでもなかった。抗腫瘍活性と安全性解析は、ロルラチニブを少なくとも1回投与されたすべての患者を対象とした。分子解析は事前に規定され、ROS1再構成が確認され、ロルラチニブを少なくとも1回投与され、かつ少なくとも1つの分子バイオマーカー(ROS1キナーゼ変異を含む)が腫瘍またはcfDNAサンプルから分析されたすべての患者を対象とした。抗腫瘍活性と分子解析は、TKI未治療、クリゾチニブ前治療のみ、またはその他のROS1 TKI前治療(非クリゾチニブROS1 TKIを1剤以上、またはROS1 TKIを2剤以上)の治療ライン別に、CNS転移の有無にかかわらず、すべての患者およびCNS転移を有する患者について要約された。ORRの95%信頼区間(CI)は、二項分布に基づく正確法を用いて算出された。奏効期間、PFS、頭蓋内進行までの期間などのイベント発生までの期間の評価項目は、カプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)法による中央値とその95% CIを用いて解析された。初回イベントがCNS進行、非CNS進行、または死亡である確率の推定には、競合リスクモデルを用いた累積発生率が用いられた。データカットオフ日は2018年2月2日であった。すべての解析はSAS(バージョン9.4)を用いて実施された。