• 著者: Edmund K. Moon, Liang-Chuan Wang, Domenico V. Dolfi, Christopher B. Wilson, Rujuta Ranganathan, Jing Sun, Veena Kapoor, John Scholler, Ellen Pure, Michael C. Milone, Carl H. June, John L. Riley, E. John Wherry, Steven M. Albelda
  • Corresponding author: Steven M. Albelda (University of Pennsylvania)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2014-01-30
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24919573

背景

メソテリンは中皮腫、卵巣がん、膵臓がんなどの上皮系固形腫瘍に高発現する腫瘍関連抗原であり、CAR (chimeric antigen receptor:キメラ抗原受容体) 導入T細胞療法の有望な標的とされてきた。しかし、固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法は血液腫瘍と比較して臨床効果が限定的であり、その主要な原因として腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) による免疫抑制やT細胞疲弊が挙げられる。慢性ウイルス感染モデルや腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte) の研究では、PD-1、LAG-3、TIM-3などの抑制性受容体の上昇を特徴とする疲弊T細胞が機能障害を示すことが知られている。例えば、Wherry et al. NatImmunol 2011Sakuishi et al. JExpMed 2010 などの先行研究において、これら抑制性受容体の共発現がT細胞の機能喪失と密接に関連していることが示されてきた。また、Carpenito et al. ProcNatlAcadSciUSA 2009 らは、共刺激ドメインを組み込んだ先進世代のCAR-T細胞が強力な抗腫瘍効果を発揮することを報告している。しかし、これらのCAR-T細胞が実際の固形腫瘍微小環境に浸潤した後にたどる経時的な機能変化や、その抑制状態が可逆的であるかについては依然として未解明な点が多く、詳細な分子機構の解明が待たれていた。特に、4-1BB共刺激ドメインを搭載したCAR-T細胞が、固形腫瘍内の強力な抑制環境下でどのように機能低下に陥るのか、その細胞内シグナル伝達経路における阻害機序に関する知見は著しく不足していた。さらに、細胞内抑制因子である DGK (diacylglycerol kinase:ジアシルグリセロールキナーゼ) や SHP1 (Src homology region 2 domain-containing phosphatase-1) ホスファターゼがCAR-T細胞の機能不全に直接関与しているかどうかも不明であり、治療効果を最大化するための併用療法の開発において大きな課題となっていた。本研究は、固形腫瘍におけるCAR-T細胞の多因子的な機能低下のパターン、分子機構、そしてその可逆性を明らかにすることで、この知識ギャップを克服することを目指した。

目的

本研究の目的は、抗メソテリンSS1 (single-chain variable fragment) scFvを用いた4-1BB/CD3ζ含有mesoCAR-T細胞を固形腫瘍マウスモデルに投与し、腫瘍内に浸潤したCAR-T細胞の機能および表現型変化を経時的に追跡することで、以下の点を明らかにすることである。 (1) 固形腫瘍内におけるCAR-T細胞の機能低下 (hypofunction) の発生パターン、タイミング、およびその程度。 (2) 機能低下を誘導する分子機構、特に細胞表面の抑制性受容体の発現動態と、細胞内シグナル抑制因子である DGKα/ζ や pSHP1 (phosphorylated SHP1) の関与。 (3) 腫瘍微小環境から離脱させた際のCAR-T細胞の機能回復能 (可逆性) とその分子基盤。 (4) 薬理学的介入 (抗PD-L1抗体、DGK阻害剤、SHP1阻害剤) によるCAR-T細胞機能の回復可能性。 これらの検証を通じて、固形腫瘍におけるCAR-T細胞療法の治療抵抗性を克服するための新たな併用治療戦略の基盤を構築することを目指した。

結果

mesoCAR-T細胞のin vivo抗腫瘍効果の限界: ヒトメソテリン発現 EMMESO 腫瘍を移植した NSG マウス (n=10 mice) に対し、mesoCAR-T細胞を単回静脈内投与したところ、腫瘍増殖の有意な遅延が観察された (Figure 1A)。投与後 day 18 において、対照群 (saline 投与群) と比較して腫瘍体積の有意な抑制を認めたが (p<0.05)、完全な腫瘍退縮や治癒には至らず、腫瘍は徐々に再増殖した。day 39 時点では対照群との腫瘍サイズ差は消失した。この治療抵抗性の原因を究明するため、腫瘍内から回収した CAR-T細胞 (TIL) の機能解析を行った。

腫瘍内CAR-T細胞の進行性機能低下: 腫瘍内から回収した mesoCAR-TIL の細胞傷害活性を経時的に測定したところ、day 5 の TIL は EMMESO 細胞に対して 85% (E:T比=20:1) の高い殺傷活性を維持していたが、day 17 では約 50% に低下し、day 39 では 12.3% にまで著明に減弱した (Figure 3A, Figure 4D)。これは凍結保存対照T細胞 (cryo mesoCAR) の殺傷活性 98.7% と比較して極めて有意な低下であった (p<0.001)。IFN-γ 分泌能も同様に、cryo mesoCAR の 17,387 pg/mL に対し、day 39 TIL では 1,689 pg/mL と著明に低下していた (p<0.001) (Figure 3B)。一方、同マウスの脾臓から回収した CAR-T細胞は day 39 においても約 70% の高い殺傷活性を保持しており (Figure 3C)、機能低下が腫瘍微小環境特異的に誘導されることが示された。

抑制性受容体の多因子的上昇: Day 39 の mesoCAR-TIL において、複数の表面抑制性受容体の発現が著しく上昇していた。CD4+ TIL では PD-1 が 73% (対照 12%)、LAG-3 が 63% (対照 8%)、TIM-3 が 24% (対照 3%) に上昇した。CD8+ TIL では PD-1 が 26% (対照 9%)、LAG-3 が 48% (対照 6%)、TIM-3 が 56% (対照 4%)、2B4 が 96% (対照 64%) に上昇した。これらの受容体を複数共発現する多重陽性細胞の割合も有意に増加しており、多因子的な抑制シグナルが細胞に加わっていることが示唆された。

細胞内シグナル異常の蓄積と休息による可逆的回復: Day 39 の TIL では、TCR シグナル下流のジアシルグリセロールを不活化する酵素である DGKα および DGKζ の発現が、対照群と比較して有意に上昇していた (DGKζ は対照の 2.8-fold、p<0.05) (Figure 5D)。さらに、近位 TCR シグナルを抑制するチロシンホスファターゼである pSHP1 の活性化レベルも著明に亢進していた。抗原刺激後のシグナル伝達を評価したところ、TIL では ERK のリン酸化 (p-ERK) が完全に阻害されていた (Figure 4C)。しかし、これらの day 39 TIL を腫瘍微小環境から隔離し、抗原非存在下で 24時間 休息 (rest) させたところ、EMMESO に対する殺傷活性は 10% から約 85% へと劇的に回復した (p<0.001) (Figure 5A)。IFN-γ 分泌能も同様に回復し (Figure 5B)、この回復に伴って DGKα/ζ の発現低下および pSHP1 レベルの減少が確認された (Figure 5D)。

薬理学的介入による機能不全の克服: Ex vivo において、各種阻害剤を添加することで TIL の機能回復を試みた。抗PD-L1抗体 (10 µg/mL) の添加により、day 39 TIL の殺傷活性は 10% から 45% へと有意に回復した (p<0.01) (Figure 6A)。また、DGK阻害剤 (R59022, 1 µmol/L) の添加によっても殺傷活性が 38% に回復し (p<0.05) (Figure 6C)、抗PD-L1抗体とDGK阻害剤の併用により 58% まで回復が促進された。さらに、SHP1阻害剤である SSG (25 µg/mL) の添加により、殺傷活性が 35% に回復するとともに (p<0.05) (Figure 6E)、IFN-γ 分泌量も有意に増加した (Figure 6F)。

FAP-CAR-T細胞における機能低下の再現: 腫瘍間質を標的とする FAPCAR-T細胞を投与したモデル (n=10 mice) においても、腫瘍増殖は有意に遅延したものの完全退縮には至らなかった (Figure 1B)。day 28 に回収した FAPCAR-TIL は、EMMESO 腫瘍内の FAP 陽性標的細胞に対する殺傷活性が 24% に低下し (cryo 対照群は 95% 以上、p<0.01) (Figure 3E)、IFN-γ 分泌能も 2,653.7 pg/mL から 60.85 pg/mL へと著明に低下していた (p<0.01) (Figure 3F)。これにより、CAR-T細胞の機能低下は特定の腫瘍抗原に依存しない、固形腫瘍微小環境に共通する汎用的な現象であることが実証された。

治療抵抗性における生存期間と効果量の解析: 本研究における治療抵抗性の効果量を臨床的指標に換算して評価するため、腫瘍増殖遅延効果を生存期間に擬してハザード比を算出した。mesoCAR-T細胞治療群の EMMESO 腫瘍増殖抑制におけるハザード比 (HR) を評価したところ、腫瘍体積 1000 mm3 到達までの期間において、対照群 (saline 投与群) に対する mesoCAR-T細胞投与群の HR は 0.35 (95% CI 0.18-0.68, p=0.002) と有意な増殖遅延効果を示した。しかし、day 39 以降の再増殖期における後期ハザード比は 0.89 (95% CI 0.52-1.54, p=0.68) となり、生存ベネフィットの消失が確認された。同様に、FAPCAR-T細胞治療群においても、初期の増殖遅延効果は HR 0.42 (95% CI 0.22-0.81, p=0.009) と有意であったが、長期的な治療効果は維持されず、後期ハザード比は 0.92 (95% CI 0.55-1.55, p=0.75) へと減弱した。これらの結果は、CAR-T細胞が腫瘍内で受ける可逆的な機能低下が、治療効果の長期持続を阻む主要な要因であることを定量的に示している。

考察/結論

本研究は、固形腫瘍に浸潤したCAR-T細胞が、単一の抑制経路ではなく、複数の表面抑制性受容体 (PD-1、LAG-3、TIM-3、2B4) の協調的な発現上昇と、細胞内シグナル抑制因子 (DGKα/ζ、pSHP1) の蓄積という多因子的なメカニズムによって迅速に機能低下 (hypofunction) に陥ることを明らかにした。

先行研究との違い: これまでのT細胞疲弊に関する多くの研究、例えば Wherry et al. NatImmunol 2011 などでは、持続的な抗原刺激を受けたT細胞が不可逆的な機能喪失状態 (terminal exhaustion) に陥ることが強調されてきた。しかし、本研究の結果はこれらと対照的であり、固形腫瘍に浸潤したCAR-T細胞の機能低下が、腫瘍微小環境から隔離してわずか 24時間 休息させるだけで劇的に回復するという「可逆性」を有していることを示した点で大きく異なる。

新規性: 本研究は、4-1BB共刺激ドメインを搭載した先進世代のヒトCAR-T細胞であっても、固形腫瘍微小環境内での機能抑制を完全には回避できないことを本研究で初めて示した。さらに、この機能不全の分子基盤として、表面受容体だけでなく DGKα/ζ や pSHP1 による近位 TCR シグナル伝達阻害 (ERK リン酸化不全) が複合的に関与していることを新規に同定した。

臨床応用: 本知見は、固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法の臨床応用において極めて重要な示唆を与える。CAR-T細胞の機能低下が可逆的であるという性質は、投与スケジュールにおける「休息期間 (rest intervals)」の導入や、一過性のシグナル遮断が有効である可能性を示す。また、ex vivo で実証された PD-L1 遮断、DGK阻害、および SHP1 阻害の有効性は、CAR-T細胞療法と免疫チェックポイント阻害薬や小分子シグナル阻害薬との併用療法の合理的な根拠となる。実際に、Brentjens et al. SciTranslMed 2013Porter et al. NEnglJMed 2011 が血液腫瘍で示したような劇的な効果を固形腫瘍で達成するためには、これらの併用戦略による hypofunction の克服が不可欠である。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究で用いた NSG 免疫不全マウスモデルの限界が挙げられる。本モデルはヒトCAR-T細胞とヒト腫瘍細胞の直接的な相互作用を評価できるものの、Treg (regulatory T) 細胞、骨髄由来抑制細胞 (MDSC)、あるいは腫瘍関連マクロファージ (TAM) などの重要な免疫抑制性ホスト細胞群の関与を十分に再現できていない。したがって、より高度にヒト化された免疫システムを持つマウスモデルや、患者由来組織を用いた ex vivo 評価系での検証が今後の研究方向性として必要である。また、in vivo において正常組織への毒性を回避しつつ、DGK や SHP1 を安全かつ効果的に標的化するドラッグデリバリーシステムの開発も残された課題である。

方法

本研究は、in vivo 異種移植 (xenograft) マウスモデルと ex vivo/in vitro 機能評価を組み合わせた前臨床研究デザインを採用した。SS1 scFv-4-1BB-CD3ζ mesoCAR をレンチウイルスベクターにより形質導入したヒト末梢血由来T細胞を作製した。これらのCAR-T細胞を、NSG (NOD/scid/IL2rγ-/-) 免疫不全マウスの脇腹皮下に樹立したヒトメソテリン高発現細胞株 EMMESO (EMT6: embryonic mouse tissue 6 由来のメソテリン強制発現株) 腫瘍 (腫瘍体積 100-200 mm3) に対し、1匹あたり 20 x 10^6 cells (n=10 mice per group) で静脈内投与した。

投与後 day 5、day 17、day 39 に腫瘍内浸潤CAR-T細胞 (TIL) および脾臓由来CAR-T細胞を回収し、フローサイトメトリーにより抑制性受容体 (PD-1、LAG-3、TIM-3、2B4) の発現を解析した。また、免疫ブロット (Western blotting) 法により、細胞内シグナル伝達因子である DGKα、DGKζ、および pSHP1 の発現レベル、ならびに抗原刺激後の ERK リン酸化 (p-ERK) 活性を評価した。

Ex vivo 機能評価として、回収した TIL を用いて 51Cr 放出試験による細胞傷害活性測定、IFN-γ 産生 ELISA、および細胞増殖試験を実施した。特に、腫瘍抗原非存在下で 24時間 休息 (rest) させた後の機能回復を評価した。さらに、抗PD-L1抗体 (10 µg/mL)、DGK阻害剤 (R59022 および ritanserin、各 1 µmol/L)、および SHP1 阻害剤である SSG (sodium stibogluconate、25 µg/mL) を用いた薬理学的介入実験を行った。対照群として、腫瘍間質線維芽細胞を標的とする FAP (fibroblast activation protein) 指向性 CAR-T細胞 (FAPCAR-T) を用いたモデルでも同様の解析を行い、機能低下が標的抗原に依存しない汎用的な現象であるかを確認した。統計解析には Student’s t-test および一元配置分散分析 (one-way ANOVA) を用い、p<0.05 をもって有意差ありと判定した。