- 著者: Sakuishi K, Apetoh L, Sullivan JM, Blazar BR, Kuchroo VK, Anderson AC
- Corresponding author: Vijay K. Kuchroo / Ana C. Anderson (Center for Neurological Diseases, Brigham and Women’s Hospital, Harvard Medical School)
- 雑誌: Journal of Experimental Medicine
- 発行年: 2010
- Epub日: 2010-09-27
- Article種別: Original Article
- PMID: 20819927
背景
T細胞疲弊 (T cell exhaustion) は、T細胞が増殖能、細胞傷害能、およびサイトカイン産生能を喪失する機能不全状態を指す。この現象は、慢性リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス (LCMV) 感染マウスモデルで初めて詳細に記述された (Zajac et al. 1998)。以来、PD-1 (programmed cell death 1) は、疲弊したCD8+ T細胞の代表的な表面マーカーとして広く認識されてきた。PD-1とそのリガンドであるPD-L1 (PD-1 ligand) との相互作用を遮断することで、慢性ウイルス感染モデルにおいてT細胞機能が部分的に回復することが示されている (Barber et al. Nature 2006)。ヒトにおいても、HIV、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス (HCV) などの慢性感染患者のCD8+ T細胞でPD-1の高発現が報告されており、PD-1/PD-L経路の遮断がin vitroでのT細胞機能回復に寄与することが示されている (Day et al. 2006; Petrovas et al. 2006; Trautmann et al. 2006; Urbani et al. 2006)。
がん免疫においても、PD-1/PD-L経路はT細胞疲弊に深く関与することが複数の証拠から示唆されている。第一に、多くの固形腫瘍において、腫瘍浸潤CD8+ T細胞 (TILs) にPD-1発現が認められる (Blank et al. 2006; Ahmadzadeh et al. 2009)。第二に、これらのPD-1陽性T細胞は機能不全状態にあることが多い。第三に、PD-L1は様々な種類のがん細胞で高発現しており、腫瘍におけるPD-L1の高発現は予後不良と強く関連することが報告されている (Dong et al. NatMed 2002; Thompson et al. 2006)。第四に、PD-1/PD-Lシグナル伝達の阻害は、いくつかの癌モデルにおいて臨床的転帰を改善し、機能的なT細胞応答を回復させることが示されている (Blank et al. 2006; Yamamoto et al. 2008; Zhang et al. 2009)。
しかしながら、PD-1/PD-L1経路の単独遮断では、T細胞疲弊の完全な回復には至らない場合があることが指摘されている (Blackburn et al. 2008; Gehring et al. 2009)。また、PD-1発現が必ずしも疲弊表現型と関連しないケースも報告されており (Petrovas et al. 2006; Fourcade et al. 2009)、T細胞疲弊には他の分子も関与している可能性が示唆されている。例えば、慢性LCMV感染モデルでは、LAG-3 (lymphocyte activation gene 3) とPD-1の共発現がより深い疲弊を規定し、両者の同時遮断が単独遮断よりも効果的にT細胞機能を回復させることが報告されている (Blackburn et al)。この知見は、多重経路を標的とすることの重要性を示唆するものであった。
T細胞免疫グロブリンムチン-3 (Tim-3) は、もともとIFN-γ産生Th1/Tc1細胞に選択的に発現する共抑制分子として同定された (Monney et al. 2002)。Tim-3とそのリガンドであるガレクチン-9との相互作用は、Tim-3陽性T細胞のアポトーシスを誘導することが知られている。HIV慢性感染患者において、CD8+ T細胞上でのTim-3発現上昇が報告され、Tim-3遮断がT細胞の増殖とサイトカイン産生を回復させることが示されている (Jones et al. 2008)。HCV感染患者においても、Tim-3とPD-1を共発現するCD8+ T細胞が最も豊富な集団であり、両分子の遮断がT細胞機能不全を改善することが報告された (Golden-Mason et al. 2009)。しかし、固形腫瘍におけるTim-3の役割、特にPD-1との共発現がT細胞疲弊の程度に与える影響や、両経路の同時遮断による抗腫瘍免疫回復効果については、依然として未解明な点が多かった。PD-1単独遮断の限界を克服するためには、T細胞疲弊に関与する他の分子や抑制経路を特定し、多重経路を標的とする戦略が不足している状況であった。
目的
本研究の目的は、固形腫瘍マウスモデルにおいて、腫瘍浸潤T細胞 (TILs) におけるTim-3の発現パターンを詳細に解析することである。特に、Tim-3とPD-1の共発現がT細胞疲弊の程度にどのような影響を与えるかを、サイトカイン産生能、増殖能、および細胞周期進行といった多角的な機能指標を用いて機能的に検証することを目的とした。さらに、Tim-3とPD-1の両経路を同時に遮断する併用療法が、単独療法と比較して抗腫瘍免疫をどの程度効果的に回復させ、腫瘍増殖を抑制できるかをin vivoおよびin vitroで評価し、その治療的有効性を確立することを目的とした。この研究は、PD-1単独遮断では不十分なT細胞疲弊の克服に向けた新たな併用免疫療法の理論的根拠を提供することを目指した。
結果
Tim-3とPD-1の共発現が固形腫瘍浸潤T細胞の主要集団を構成: CT26大腸腺癌担癌BALB/cマウスのCD8+ TILsにおいて、Tim-3とPD-1を共発現する細胞が主要な画分を占め、その割合は約50%であった (n=5 mice)。PD-1単独陽性細胞は約30%、Tim-3およびPD-1ともに陰性の細胞は約20%を構成した (Fig 1A, B)。同様のパターンは4T1乳腺腺癌担癌マウスでも観察され、Tim-3+PD-1+細胞が約50% (n=6 mice)、PD-1単独陽性細胞が約25%、陰性細胞が約15%であった。B16F10メラノーマ担癌C57BL/6マウスでは、これら3つのCD8+ TILs集団がほぼ均等な頻度で存在した (n=9-10 mice)。特筆すべきは、これら3つの腫瘍モデル全てにおいて、Tim-3単独陽性 (PD-1陰性) のCD8+ TILsは全く観察されなかった点である。これは、腫瘍微小環境においてTim-3の発現がPD-1との共発現を必須とすることを示唆する。脾臓におけるCD8+ Tim-3+細胞の頻度は、腫瘍担持マウスでナイーブマウスと比較して増加傾向を示したが (p<0.001)、腫瘍内のようなPD-1との顕著な共発現は認められず、Tim-3+PD-1+の共発現が腫瘍微小環境特有の機序により誘導される可能性を示唆した。脾臓ではTim-3lowとTim-3highの2集団が識別され、Tim-3low細胞がPD-1を共発現していたことから、これらがTim-3+PD-1+ TILsの前駆体である可能性が示唆された (Fig S1)。
Tim-3+PD-1+ TILsは最も重度の機能障害を示す: CT26モデルにおいて、CD8+ TILsの3つの画分 (Tim-3+PD-1+、Tim-3-PD-1+、Tim-3-PD-1-) のサイトカイン産生能をex vivoで直接評価した (n=5 mice)。Tim-3+PD-1+ CD8+ TILsは、IL-2、TNF、IFN-γの産生がいずれも著明に低下しており、最も重度の疲弊表現型を示した (一方向ANOVA + Tukey検定でTim-3-PD-1+およびTim-3-PD-1-のいずれと比較してもp<0.05〜p<0.001)。驚くべきことに、Tim-3-PD-1+細胞は3群の中でIFN-γ産生が最も高く、PD-1単独陽性細胞が活性化エフェクター細胞を含む機能的混合集団であることが明らかになった (Fig 3A)。サイトカイン非産生TILs中のTim-3+PD-1+細胞の比率は、IL-2産生細胞中の比率と比較して3〜4倍高く、TNF産生細胞中でも同様の傾向が見られたが統計的有意差には達しなかった (Fig 3B)。このパターンは、T細胞疲弊の確立された階層 (IL-2産生能の喪失が先行し、次いでTNF、最後にIFN-γ) に従うものであり、Tim-3+PD-1+細胞が最も初期に疲弊が進行した集団であることを示唆した。
Tim-3+PD-1+ TILsの増殖能の著しい障害: Ki-67とTO-PRO-3 iodideによる細胞周期解析では、Tim-3+PD-1+ TILsがG0期 (静止期・細胞周期停止) に最も多く集積しており、Tim-3-PD-1+ TILsと比較してG0期での比率が5倍高かった (p<0.05, n=6 replicates)。G1期およびS-M期への進行に伴い、Tim-3+PD-1+細胞の比率は急減し、Tim-3-PD-1+細胞は増加するパターンが観察された (Fig 4A)。この結果は、Tim-3+PD-1+細胞の増殖能が著しく障害されていることを定量的に証明した。これらのデータは、Tim-3とPD-1の共発現が、増殖能およびIL-2、TNF、IFN-γ産生能の全面的喪失を伴う、最も疲弊したTILs集団を規定することを強く支持する。
Tim-3とPD-L1の併用遮断による劇的な抗腫瘍効果と免疫機能回復: CT26担癌マウスを用いた治療実験 (2回の独立実験、各群n=3〜6 mice) では、抗Tim-3単独投与は腫瘍増殖にほとんど効果がなく、抗PD-L1単独投与は腫瘍増殖遅延の傾向を示したが、実験間で効果が一定せず統計的有意差には達しなかった。これに対し、抗Tim-3と抗PD-L1の併用投与は劇的な腫瘍増殖抑制をもたらし、両実験で担癌マウスの約50%が完全な腫瘍退縮を達成した (p<0.01 vs. 対照群および抗Tim-3単独群; 2番目の実験では抗PD-L1単独群に対してもp<0.05) (Fig 5)。完全退縮した個体は、腫瘍再チャレンジに対しても抵抗性を示した。B16F10メラノーマモデルでも、抗Tim-3+抗PD-L1併用群が対照群および単独群と比較して生存期間の延長を示した。CT26腫瘍細胞はPD-L1を発現するがTim-3は発現しないことが確認されており (Fig S2)、抗PD-L1抗体の直接的な腫瘍増殖抑制効果はin vitro培養実験で否定された (Fig S3)。in vitroでのTIL機能評価では、CT26 TILsを抗CD3刺激下で抗Tim-3と抗PD-L1で処理した際のIFN-γ産生増加は、単剤の効果を一貫して上回り、末梢血T細胞のIFN-γ産生においても同様の相加的効果が観察された (Fig 6, Fig S4)。これらの結果は、Tim-3とPD-1経路の併用遮断が、抗腫瘍免疫を回復させる上で非常に有効であることを明確に示している。
考察/結論
本研究は、固形腫瘍マウスモデルにおいてTim-3 (T cell immunoglobulin mucin-3) とPD-1 (programmed cell death 1) の共発現がCD8+ TILs (tumor-infiltrating lymphocytes) の最も重度の疲弊状態を規定することを、サイトカイン産生能、細胞周期進行、および増殖能といった多面的な機能指標を用いて初めて実証した。この発見は、PD-1単独陽性細胞がIFN-γ産生において3群中最高値を示すという結果と対照的であり、PD-1発現だけでは真の疲弊状態を同定するには不十分であるという、これまでの概念を根本から覆すものである。本研究で初めて、Tim-3とPD-1の共発現こそが真の疲弊を定義し、Tim-3がより深い疲弊状態への進行の決定的なマーカーとして機能することが確立された。
先行するBlackburn et alによるLAG-3 (lymphocyte activation gene 3) とPD-1の慢性LCMV感染モデルにおける相乗的共遮断効果の報告と異なり、本研究は固形腫瘍に同様の多重チェックポイント遮断戦略を適用し、CT26モデルでの約50%の完全腫瘍退縮という著明な抗腫瘍効果を示した最初のin vivo証拠を提供した。この知見は、「PD-1単独遮断では疲弊T細胞の完全な機能回復は不十分である」という概念を固形腫瘍の文脈で確立し、LAG-3、TIGIT、VISTAなどの第二世代チェックポイント阻害薬開発の理論的根拠として、現在も引き続き機能している。
本研究の新規性として、疲弊T細胞の「量的・質的パラメータの同時定量」と「腫瘍モデル横断性」が挙げられる。CT26、4T1、B16F10という3つの異なる腫瘍種およびマウス系統で、Tim-3+PD-1+細胞が主要な疲弊T細胞集団として一貫して存在し、その機能障害が再現されたことは、この現象の普遍性を支持する。G0期でのTim-3+PD-1+細胞の比率がTim-3-PD-1+細胞の5倍であったという際立った差は、Tim-3+PD-1+細胞の増殖停止が増殖低下ではなく、本質的な細胞周期停止であることを示唆する。また、IL-2、TNF、IFN-γの順にサイトカイン産生能が喪失するという疲弊のヒエラルキーが腫瘍モデルでも再現された点も独自の貢献である。
残された課題としては、Tim-3+PD-1+二重陽性細胞が「真の終末疲弊 (terminal exhaustion)」なのか、それとも「完全な終末化の前段階」なのかという機能的定義の問題が残る。本研究後にWherryらやSharpeらの研究でPD-1+TCF1+「幹細胞様疲弊T細胞 (precursor exhausted T cells; Tpex)」の概念が確立されたことで、Tim-3とPD-1の共発現が疲弊の階層のどこに位置するかの再評価が今後の検討課題である。また、Tim-3のリガンドであるガレクチン-9によるTim-3+細胞の誘導的アポトーシスと、疲弊状態でのこれらの細胞の持続機序の両立、およびガレクチン-9の腫瘍微小環境と末梢組織での役割の相違も未解決である。さらに、CD4+ Tim-3+PD-1+ TILsが調節性T細胞なのか、あるいは疲弊したエフェクターT細胞なのかという問いも今後の研究で明らかにする必要がある。臨床的意義として、本研究の知見は、Tim-3標的抗体sabatolimab (MBG453) とPD-1/PD-L1阻害薬との併用療法が、骨髄腫瘍や固形腫瘍において現在進行中の複数の臨床試験で評価されていることからも、その前臨床的根拠としての重要性は14年後の現在も継続している。
方法
本研究では、6〜8週齢のメスBALB/cマウスにCT26大腸腺癌細胞 (5×10⁵細胞) または4T1乳腺腺癌細胞を皮下移植し、C57BL/6マウスにB16F10メラノーマ細胞を皮下移植した。全ての実験は、ハーバードメディカルエリア動物管理委員会によって承認された動物実験プロトコル#04555の下で実施された。腫瘍が特定のサイズに達した後、腫瘍組織からCollagenase D処理 (2.5 mg/ml) とPercoll不連続密度勾配法を用いて腫瘍浸潤リンパ球 (TILs) を単離した。単離されたTILsは、フローサイトメトリー (FACS) 解析により、CD8+およびCD4+ T細胞におけるTim-3およびPD-1の発現を評価した。死細胞は7AAD染色により除外した。抗体はCD4 (RM4-5)、CD8 (53–6.7)、PD-1 (RMP1-30)、CD44 (IM7)、CD62L (MEL-14; BioLegend)、Tim-3 (8B.2C12; eBioscience) を使用した。
T細胞の機能評価のため、CT26担癌マウスから単離したCD8+ TILsを、Tim-3+PD-1+、Tim-3-PD-1+、Tim-3-PD-1-の3つの画分にソーティングした。これらの画分について、PMA (50 ng/ml) とイオノマイシン (1 µg/ml) 刺激後に細胞内サイトカイン染色を行い、IL-2 (JES6-5H4)、TNF (MP6-XT22)、IFN-γ (XMG1.2) の産生能を解析した。増殖能の評価には、Ki-67 (細胞周期進入マーカー) とTO-PRO-3 iodide (DNA含量) の二重染色を用いた。これにより、G0期、G1期、S-M期の細胞周期における各CD8+ TIL画分の分布を定量的に比較した。特に、Tim-3+PD-1+画分とTim-3-PD-1+画分間の比率を評価した。
in vivoでの治療効果を評価するため、CT26担癌BALB/cマウスを4つの治療群に無作為に割り付けた (各群n=3〜6 mice)。治療群は、対照IgG (Rat IgG1およびRat IgG2b)、抗Tim-3抗体 (クローン8B.2C12、100 μg、腹腔内投与、0、2、4日目)、抗PD-L1抗体 (クローン10F.9G2、200 μg、腹腔内投与、0、3、6、9、12日目)、および抗Tim-3抗体と抗PD-L1抗体の併用投与とした。腫瘍体積はキャリパーを用いて定期的に測定した。B16F10メラノーマモデルにおいても、同様の治療プロトコルで生存期間を評価した。
in vitroでのT細胞機能回復の評価として、CT26担癌マウスから単離したTILs (1–3 × 10⁵ cells/well) を、可溶性抗CD3抗体 (5 µg/ml) 刺激下で、抗Tim-3抗体、抗PD-L1抗体、両抗体の併用、または対照IgGと共に96時間培養した。培養上清中のIFN-γ産生量は、サイトメトリックビーズアレイ (BD) を用いて定量した。統計解析には、一方向ANOVAとTukeyの多重比較検定、またはStudentのt検定を用いた。腫瘍細胞におけるPD-L1およびTim-3の発現は、FACS解析とin vitro培養実験で確認した。