- 著者: Park JH, Riviere I, Gonen M, Wang X, Senechal B, Curran KJ, Sauter C, Wang Y, Santomasso B, Mead E, Roshal M, Maslak P, Davila M, Brentjens RJ, Sadelain M
- Corresponding author: Michel Sadelain (Memorial Sloan Kettering Cancer Center)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (第1相臨床試験)
- PMID: 29385376
背景
再発または難治性のB細胞急性リンパ芽球性白血病 (B-ALL: B-cell acute lymphoblastic leukemia) を発症した成人患者の予後は極めて不良であり、標準的な化学療法レジメンを施行した場合の完全寛解率は18%から45%にとどまり、全生存期間の中央値は3ヶ月から9ヶ月ときわめて短い。近年、二重特異性抗体であるblinatumomabや抗体薬物複合体であるinotuzumab ozogamicinといった新規の標的治療薬が導入され、従来の化学療法と比較して高い奏効率と生存期間の延長が報告されているものの、全生存期間の中央値は依然として7.7ヶ月と不十分な成績にとどまっている。このような背景のもと、患者自身のT細胞を遺伝子改変してCD19抗原を標的とするキメラ抗原受容体 (CAR: chimeric antigen receptor) を発現させるCAR-T細胞療法が開発された。
先行研究において、CD19特異的CAR-T細胞療法は小児および成人の再発・難治性B-ALL患者を対象とした複数の臨床試験において70%から90%という極めて高い完全寛解率を示すことが報告されている。例えば、Brentjens et al. Blood 2011 や Brentjens et al. SciTranslMed 2013、さらに Davila et al. SciTranslMed 2014 などの初期研究により、その高い有効性と安全性が示されてきた。しかしながら、これまでに公表された臨床試験の多くは初期の治療反応性に焦点を当てたものであり、追跡期間が比較的短期間であったため、長期的な寛解を予測するための臨床的因子や患者背景、腫瘍側の特性についての詳細な解析は十分に行われていなかった。限定的な追跡期間の臨床試験においても21%から45%の再発率が報告されている一方で、一部の患者では長期にわたる持続的な寛解が観察されており、どのような臨床的要因がこの耐久性のある治療効果に寄与しているのかは依然として未解明であり、解明のためのデータが著しく不足しているという課題が存在した。このように、CAR-T細胞療法の長期的な有効性と安全性を規定する予測因子に関する知見は著しく不足しており、長期追跡データに基づく詳細な解析が強く求められていた。
目的
本研究の目的は、成人再発・難治性B-ALL患者を対象として、CD28とCD3ζの細胞内シグナル伝達ドメインを有する第2世代のCD19特異的CARである19-28z CAR-T細胞を投与した第1相臨床試験の長期追跡データを解析することである。具体的には、治療の安全性評価項目としてサイトカイン放出症候群 (CRS: cytokine release syndrome) および神経毒性 (neurotoxicity) の発現頻度と重症度を評価し、有効性評価項目として完全寛解率、無イベント生存期間 (EFS: event-free survival)、および全生存期間 (OS: overall survival) を評価する。さらに、これらの安全性および長期有効性と、患者の人口統計学的特性、臨床的背景、治療前の腫瘍量 (disease burden)、前治療歴、リンパ球除去化学療法のレジメン、および体内におけるCAR-T細胞の増殖・持続動態との関連性を明らかにし、長期生存を予測する因子を同定することを目的とする。
結果
高い完全寛解率とMRD陰性化の達成: 本試験において、19-28z CAR-T細胞の投与を受けた53例 (n=53) の成人再発・難治性B-ALL患者のうち、44例 (83%; 95% CI 70-92) が完全寛解を達成した (Fig. 1A)。MRDの評価が可能であった48例のうち、32例 (67%; 95% CI 52-80) がMRD陰性の完全寛解を達成した。CAR-T細胞の体内における最大増殖ピーク値 (ピークベクターコピー数) は、MRD陰性完全寛解の達成と極めて強く相関していた (p<0.001) (Fig. 1B)。一方で、完全寛解の達成率は、事前の同種造血幹細胞移植 (HSCT: hematopoietic stem-cell transplantation) の有無、前治療の回数 (2回、3回、4回以上でそれぞれ90%、85%、74%)、リンパ球除去化学療法の種類、年齢、およびCAR-T細胞の投与量による有意な差は認められなかった (Fig. 1C)。フィラデルフィア染色体 (Ph: Philadelphia chromosome) 陽性患者16例のうち、T315I変異を有する5例を含む10例がponatinib抵抗性であったが、この極めて難治性のサブグループにおいても高い完全寛解率が維持された。
治療前の腫瘍量による毒性リスクの層別化: 全患者53例のうち45例 (85%; 95% CI 72-93) に何らかのGradeのCRSが認められ、重症CRS (Grade 3以上) は14例 (26%; 95% CI 15-40) に発生した。治療前の腫瘍量による層別化解析において、重症CRSの発生率は高腫瘍量群で41% (95% CI 25-61) であったのに対し、低腫瘍量群ではわずか5% (95% CI 0-25) であり、高腫瘍量群において有意に高頻度であった (p=0.004) (Fig. 2A)。また、神経毒性は全体でGrade 3が19例 (36%)、Grade 4が3例 (6%) に認められたが、Grade 5や脳浮腫の発生は観察されなかった。神経毒性の発生率も腫瘍量と強く相関しており、高腫瘍量群の 59% (95% CI 39-75) vs 低腫瘍量群の 14% (95% CI 3-38) と、低腫瘍量群で有意に低かった (p=0.002) (Fig. 2B)。多変量ロジスティック回帰分析の結果、治療前腫瘍量とCAR-T細胞 of 最大増殖ピーク値の両方が、重症神経毒性の独立した予測因子であることが示された (それぞれp=0.01)。
治療前腫瘍量に基づく長期生存期間の差異: 追跡期間中央値29ヶ月において、全患者53例におけるEFS中央値は6.1ヶ月 (95% CI 5.0-11.5)、OS中央値は12.9ヶ月 (95% CI 8.7-23.4) であった (Fig. 3A, 3B)。MRD陰性完全寛解を達成した32例では、EFS中央値が12.5ヶ月 (95% CI 6.3-20.1)、OS中央値が20.7ヶ月 (95% CI 15.3-未到達) と良好な成績を示した (Fig. 3C, 3D)。治療前の腫瘍量による比較では、低腫瘍量群のEFS中央値は 10.6 months (95% CI 5.9-未到達) vs 高腫瘍量群の 5.3 months (95% CI 3.0-9.0) であり、低腫瘍量群で有意に延長していた (HR 0.45, 95% CI 0.22-0.92, p=0.01) (Fig. 4A)。同様に、低腫瘍量群のOS中央値は 20.1 months (95% CI 8.7-未到達) vs 高腫瘍量群の 12.4 months (95% CI 5.9-20.7) であり、低腫瘍量群で有意に優れていた (HR 0.48, 95% CI 0.23-0.98, p=0.02) (Fig. 4B)。なお、完全寛解後に同種HSCTへ移行した17例と、追加治療を行わずに経過観察した26例との間で、EFSおよびOSに統計学的な有意差は認められなかった (EFS: p=0.64, OS: p=0.89) (Fig. 3E, 3F)。
CAR-T細胞増殖量と腫瘍量の比率による予測: 長期生存を規定する因子をさらに探索するため、CAR-T細胞の絶対的な最大増殖ピーク値と治療前の腫瘍量との比率 (T細胞/腫瘍比) を解析した。その結果、絶対的なCAR-T細胞の増殖量そのものやCAR-T細胞の体内持続期間 (中央値14日) は長期生存と有意な相関を示さなかったが、T細胞/腫瘍比が高い患者群では、EFSおよびOSが有意に良好であることが示された。低腫瘍量の患者においては、CAR-T細胞の絶対的な増殖量が中等度であっても、標的となる白血病細胞に対する比率が高くなるため、重篤な毒性を引き起こすことなく効率的な腫瘍排除と長期的な生存ベネフィットが得られることが定量的に示された。この知見は、腫瘍量と免疫細胞の活性化比率が治療効果を規定するという免疫療法の基本原理を裏付けるものである。
患者背景とベースライン特性の要約: 本試験に登録された53例 (n=53) の患者背景として、年齢中央値は44歳 (範囲 23-74) であり、36例 (68%) が3回以上の前治療歴を有する極めて重度な前治療歴を持つ集団であった (Table 1)。また、19例 (36%) が同種HSCTの治療歴を有し、13例 (25%) がblinatumomabによる治療歴を有していた。さらに、フィラデルフィア染色体陽性例が16例 (30%) 含まれており、そのうち5例は難治性のT315I変異を有していた。治療開始前の腫瘍量に関しては、32例 (60%) が高腫瘍量群に分類され、21例 (40%) が低腫瘍量群に分類されていた。このような極めて予後不良かつ難治性の患者背景を有する集団において、本治療法が評価された。
考察/結論
本研究は、成人再発・難治性B-ALL患者に対する19-28z CAR-T細胞療法の長期追跡結果を示した極めて重要な報告である。本研究の最も核心的な知見は、CAR-T細胞療法における初期の治療反応性 (完全寛解およびMRD陰性化) を予測する因子と、長期的な生存予後 (EFSおよびOS) を予測する因子が明確に異なるという点である。初期の強力な抗腫瘍効果と重症神経毒性の発現はCAR-T細胞の最大増殖ピーク値と強く相関していたが、長期的な無イベント生存および全生存を規定する最重要因子は治療前の腫瘍量であった。
先行研究との違い: 本研究の結果は、CAR-T細胞の体内における長期的な持続性が持続寛解に必須であると報告した先行研究である Maude et al. NEnglJMed 2014 や Lee et al. Lancet 2015 の知見と対照的である。本試験で使用された19-28z CAR-T細胞は、CD28共刺激ドメインの特性により、急速な増殖と強力なエフェクター機能を発揮した後に速やかに体内から消失する自己制限的な動態を示す Zhao et al. CancerCell 2015。本研究は、このような一過性の持続期間 (中央値14日) であっても、治療前の腫瘍量が低い患者においては、同種HSCTによる地固め療法を追加することなく長期的な持続寛解を維持できることを示した。
新規性: 本研究は、CAR-T細胞の絶対的な増殖量ではなく、治療前の腫瘍量に対するCAR-T細胞の増殖比率 (T細胞/腫瘍比) が長期的な生存アウトカムの最良の予測因子であることを本研究で初めて明らかにした。この概念は、固形がんにおける免疫チェックポイント阻害薬の治療効果がT細胞の再活性化度と治療前腫瘍量の比率に相関することを示した Huang et al. Nature 2017 の報告と概念的に一致しており、細胞治療においても同様の免疫学的ダイナミクスが働いていることを新規に示したものである。
臨床応用: 本研究の臨床的意義は極めて大きい。治療前の腫瘍量が高腫瘍量群 (骨髄芽球5%以上) の患者では、重症CRSや神経毒性のリスクが著しく高く、長期生存率も劣ることから、CAR-T細胞輸注前に化学療法や標的治療薬を用いて可能な限り腫瘍量を低減させる (debulking) アプローチが臨床現場における治療最適化に直結することが示唆される。また、低腫瘍量群 (骨髄芽球5%未満) の患者においては、重篤な毒性を回避しながらOS中央値20.1ヶ月という極めて優れた長期生存が得られるため、再発初期やMRD陽性期の早期段階でCAR-T細胞療法を導入する臨床的有用性が強く支持される。
残された課題: 今後の検討課題として、CAR-T細胞輸注前の積極的なdebulking治療が、高腫瘍量患者の長期予後を実際に改善できるかどうかを前向き臨床試験で検証する必要がある。また、本研究は単施設における第1相試験であり、症例数が53例と限定的であるため、より大規模な多施設共同コホートでの検証が望まれる。さらに、MRD陰性完全寛解を達成した後に再発した症例の解析において、CD19陰性化による免疫逃避メカニズムや、CAR-T細胞消失後の再発に対する最適な後治療の確立が残された課題として存在している。
結論として、19-28z CAR-T細胞療法は成人再発・難治性B-ALLに対して83%という高い完全寛解率をもたらす極めて強力な治療法である。治療前の低腫瘍量は、重篤な毒性リスクの劇的な低減と、長期生存期間の顕著な延長 (OS中央値20.1ヶ月) をもたらす最重要因子であり、本知見は今後の個別化医療および治療戦略の設計に確固たる科学的根拠を提供するものである。
方法
本研究は、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) において実施された単施設オープンラベル第1相臨床試験 (NCT01044069) である。対象は18歳以上の再発または難治性のCD19陽性B-ALL患者であり、患者自身の末梢血単核球から製造した19-28z CAR-T細胞の単回静脈内投与を受けた。19-28z CARは、抗CD19単鎖可変領域フラグメント、CD28共刺激ドメイン、およびCD3ζシグナル伝達ドメインから構成される。CAR-T細胞の製造は、MSKCCの細胞プロセシング施設においてDynabeads CD3/CD28を用いて実施された。
患者はCAR-T細胞輸注の前に、リンパ球除去化学療法としてcyclophosphamide単独、またはcyclophosphamideとfludarabineの併用投与を受けた。治療前の腫瘍量は、骨髄中の芽球割合および髄外病変の有無に基づき、高腫瘍量群 (骨髄芽球5%以上または髄外病変あり) と低腫瘍量群 (骨髄芽球5%未満かつ髄外病変なし) に分類された。完全寛解は、骨髄芽球が5%未満、末梢血中の芽球消失、および髄外病変の消失と定義され、微小残存病変 (MRD: minimal residual disease) はマルチパラメーターフローサイトメトリーを用いて感度0.01%未満をMRD陰性と定義した。CRSの重症度はMSKCC独自のグレーディングシステムを用いて評価され、Grade 3以上を重症CRSと定義した。神経毒性はCTCAE v4.03を用いて評価された。
統計解析にはRソフトウェア (version 3.3.1) が使用され、生存曲線はKaplan-Meier法を用いて推定され、群間比較にはlog-rank検定が用いられた。毒性の予測因子の同定には多変量ロジスティック回帰分析が適用され、生存期間の解析にはCox比例ハザードモデルが用いられた。また、カテゴリ変数の比較にはFisher’s exact検定が、連続変数の比較にはWilcoxon rank-sum検定がそれぞれ適用された。