• 著者: Zeda Zhang, Yu-Jui Ho, Xin Fang, Minseo Kim, Marguerite Li, Wei Luan, Clemens Hinterleitner, Sascha Haubner, Friederike Kogel, Edwin C. Pratt, Elif Ozcelik, Jose Reyes, Qingwen Jiang, Vincent W. Yang, Yu-Jung Chen, Tao Wang, Haijiao Liu, Haonan Hu, Xueqian Zhuang, Jin Park, Stella V. Paffenholz, Kevin Chen, Qing Chang, Amanda Kulick, Jing Zhang, Eric Chan, Eric Rosiek, Ning Fan, Riley A. Williams, Adam C. Wang, Samuel Freeman, Sha Tian, Gertrude Gunset, Andreina Garcia Angus, Nicolas Lecomte, Selma Yeni Yildirim, Emily Ali, Michelle Wu, Ileana C. Miranda, Cristina R. Antonescu, Olca Basturk, Zeynep Tarcan, Natasha Rekhtman, Christina Wilson, Merve Basar, Jennifer L. Sauter, Hikmat A. Al-Ahmadie, Samuel Singer, Christine Iacobuzio-Donahue, Charles Rudin, Elisa de Stanchina, Karuna Ganesh, Paul B. Romesser, Britta Weigelt, Dan Dongeun Huh, Josef Leibold, Judith Feucht, Ignacio Vazquez-Garcia, Matthew J. Bott, Dmitriy Zamarin, Sohrab P. Shah, Jason S. Lewis, Corina Amor, Dana Pe’er, Jorge Mansilla-Soto, Aveline Filliol, Michel Sadelain, Scott W. Lowe
  • Corresponding author: Aveline Filliol (Memorial Sloan Kettering Cancer Center), Michel Sadelain (Columbia University), Scott W. Lowe (Memorial Sloan Kettering Cancer Center)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-03-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 41916312

背景

CAR (chimeric antigen receptor: キメラ抗原受容体) T細胞療法は、血液がんにおいて劇的な治療効果を収め、持続的な寛解をもたらすことが報告されている(Brentjens et al. SciTranslMed 2013June et al. NEnglJMed 2018)。しかし、固形腫瘍におけるCAR T細胞療法の効果は、標的抗原の不均一性や、線維性かつ免疫抑制性のTME (tumor microenvironment: 腫瘍微小環境) による浸潤・機能阻害によって厳しく制限されている。uPAR (urokinase plasminogen activator receptor: ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター受容体) は、細胞外マトリックスの再構築や細胞移動を制御する糖タンパク質であり、慢性炎症や線維化、悪性腫瘍の進行に伴って発現が誘導される。先行研究においては、uPARを標的としたCAR T細胞が線維症モデルにおいて老化細胞を選択的に除去し、臓器機能を回復させることが示されていた。また、がん抑制遺伝子であるTP53の変異やRASシグナルの活性化がuPARの発現と関連する可能性が示唆されていたが、多様ながん種を横断したuPARの網羅的な発現プロファイルや、その分子的背景については未解明な部分が多く残されており、学術的なgapが存在していた。さらに、uPAR陽性細胞が形成する腫瘍ニッチの空間的・細胞学的な特性や、固形腫瘍に対するuPAR CAR T細胞療法の有効性と安全性、さらには治療介入による抗原密度の制御メカニズムに関する系統的な検証は圧倒的に不足していた(Zehir et al. NatMed 2017)。このように、固形腫瘍の治療抵抗性を克服するための汎用的な標的としてのuPARの有用性を確立するには、基礎からトランスレーショナルにわたる多角的な検証が必要とされる状況であったが、これまでの研究では十分な知見が得られておらず、研究が未開拓な領域として残されていた。

目的

本研究の目的は、多様な固形がんにおけるuPARの発現プロファイルとゲノム的背景を系統的に解析し、uPAR陽性腫瘍ニッチの細胞・分子的特性を空間トランスクリプトームや超多重免疫染色を用いて解明することである。さらに、新規に開発したuPAR CAR T細胞の固形腫瘍に対する有効性と安全性を、多様な細胞株移植モデルや自然発症転移モデル、ヒト化免疫系マウスモデルを用いて検証する。加えて、化学療法や放射線照射などの老化誘導療法がuPAR発現に与える影響を評価し、uPAR CAR T細胞療法との相乗的な治療効果を実証することで、固形がんにおける新たな治療パラダイムを確立することを目指す。

結果

uPARの固形がん横断的発現とゲノム変異との相関: TCGAのパンキャンサー解析(n=10,071 patients)において、14がん種中12種でPLAUR遺伝子が有意に高発現していた(Fig 1B)。1,074症例の多色免疫染色(multi-IF)解析では、全腫瘍の約15%が「high(uPAR陽性腫瘍細胞 >50%)」に分類され、特にHGSOC (high-grade serous ovarian cancer: 高悪性度漿液性卵巣がん) では約40%がhighであった(Fig 1A)。ゲノム解析の結果、uPARの高発現はTP53不活化変異およびKRAS/BRAFなどのRASシグナル活性化変異と強く相関していた(Wilcoxon test, p<0.001)。転写プログラム解析では、PLAUR高発現群においてEMT (epithelial-mesenchymal transition: 上皮間葉転換) プログラムが2.5-fold以上富化しており、炎症、線維化、血管新生プログラムの活性化が認められた(Fig 1C)。scRNA-seq (single-cell RNA sequencing) 解析(n=79 patientsの肝がんコホートなど、Xue et al. Nature 2022)でも、PLAUR高発現腫瘍細胞が間葉系および老化関連の転写プログラムを共発現していることが確認された(Fig 1E)。

uPAR陽性収束腫瘍ニッチの空間的同定と免疫抑制環境: 未治療のPDAC検体を用いた10x Xenium空間トランスクリプトーム解析により、uPAR陽性の基底型腫瘍細胞が、uPAR陽性のmyCAF (myofibroblastic cancer-associated fibroblast: 筋線維芽細胞様がん関連線維芽細胞)(ACTA2+SERPINE1+)およびuPAR陽性のSPP1+ TAM (tumor-associated macrophage: 腫瘍随伴マクロファージ)と500μm以内の距離で強く共局在していることが示された(Fig 2B)。このuPAR陽性ニッチは、p16発現やSASP (senescence-associated secretory phenotype: 老化関連分泌表現型)スコアの上昇を伴う老化シグネチャーを示した(Fig 2D)。さらに、5がん種にわたる超多重免疫染色(hyperplex IF, n=350万細胞超)の空間相関解析において、uPAR陽性領域はFAP+ myCAFの増加、ARG1+ TAN (tumor-associated neutrophil: 腫瘍随伴好中球)の増加、およびTreg (regulatory T cell: 制御性T細胞)の浸潤を伴う「線維性・免疫抑制性ニッチ」を形成していた(Fig 2H)。PDACコホート(n=101 cases)の解析では、uPAR陽性領域においてCD4+ T細胞や樹状細胞が有意に減少しており、免疫排除型の特徴が空間的に実証された(Spearman r=-0.45, p<0.001)。

uPAR CAR T細胞の広範な抗腫瘍活性と有効性閾値: 71のヒトがん細胞株を用いた定量フローサイトメトリー解析により、uPARの細胞表面分子数が約1,500分子/細胞以上の閾値において、uPAR CAR T細胞が強力な抗原特異的殺傷活性を示すことが明らかになった(Fig 3B)。in vitroにおいて、uPAR CAR T細胞は標的細胞と共培養した際、対照のCD19 CAR T細胞と比較して有意に高い細胞傷害活性を示した(n=3 replicates, p<0.001)。in vivoのCDXモデル(肺がん、膵がん、卵巣がん)において、単回かつ低用量(2 × 10^6 cells per mouse)のuPAR CAR T細胞(T1-h)の静脈内投与は、迅速かつ持続的な腫瘍退縮を誘導し、生存期間を劇的に延長した(Fig 3D, 3E)。また、Tyk-nuを用いたorthotopic (正位) 卵巣がんモデルにおいて、uPAR CAR T細胞投与群は150日以上の長期にわたり腫瘍フリー生存を維持した(n=10 mice, 生存率 100%)。

腫瘍細胞と支持間質の同時標的化による相乗的制御: 種特異的なuPAR標的化(ヒトuPARを標的とするh.uPAR CAR T細胞と、マウス間質uPARを標的とするm.uPAR CAR T細胞)を用いた実験により、腫瘍細胞と支持間質を同時に標的化する治療的意義を検証した。Tyk-nu orthotopicモデルにおいて、亜治療用量(0.5 × 10^6 cells per mouse)のh.uPAR CAR T細胞単独群では7週間以内に全例が再発したのに対し、m.uPAR CAR T細胞による間質標的化(stromal targeting)を併用した群では、再発が完全に抑制された(Fig 5C)。Sirius red染色による定量解析では、併用群において転移部位の線維化領域が有意に減少していた(n=5 mice, p<0.01)。さらに、患者由来の外科切除検体(HGSOC n=4 patients, LUAD n=1 patient)を用いたex vivo共培養系において、uPAR CAR T細胞はuPAR陽性のEpCAM+腫瘍細胞のみならず、PDPN+ CAFやCD11b+CD15+ MDSC (myeloid-derived suppressor cell: 骨髄由来免疫抑制細胞)を選択的に排除した(Fig 5F-5I)。

ヒト化マウスでの安全性と老化誘導療法との相乗効果: ヒト化免疫系マウスモデル(HSPC移植、n=12 mice)において、uPAR 1XX-CAR T細胞は骨髄中の正常なモノサイトや顆粒球を持続的に枯渇させることなく、安全に腫瘍を排除した(Fig 6I, 6J)。これは、単球前駆細胞(pro-monocytes)がuPARをほとんど発現していないため、迅速な再生が可能であることに起因すると示唆された。次に、cisplatinなどの老化誘導療法がuPAR発現を増強するかを検証した。HGSOC患者のマッチドサンプル(化学療法前後、n=13 patients)のGSEA (gene set enrichment analysis)解析において、治療後にPLAUR発現が有意に上昇していた(Fig 7C)。MPB1自然発症卵巣がんモデルにおいて、cisplatin(3 mg/kg)とuPAR CAR T細胞の併用療法は、各単独療法と比較して劇的な相乗効果を示し、80%超の治療マウスが300日以上腫瘍フリーで生存した(Fig 7K)。これに対し、cisplatin単独群の生存期間中央値は55日であり、全例が死亡した(n=10 mice per group, p<0.001)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、uPAR CAR T細胞の適用範囲を単なる線維症治療から固形腫瘍の微小環境制御へと拡張した点で、これまでの研究と大きく異なる。従来のCAR T細胞療法が腫瘍細胞の特異的抗原のみを標的としていたのに対し、本アプローチは腫瘍細胞とそれを支持するプロ線維化・免疫抑制性の間質細胞(myCAFやSPP1+ TAM)を同時に標的化する。この「収束ニッチ(convergent niche)」の同時標的化という概念は、従来の単一細胞標的療法とは対照的であり、固形腫瘍治療における新たなパラダイムを提示している。

新規性: 本研究は、TP53不活化変異やRASシグナル活性化を伴う難治性固形がんにおいて、uPARが腫瘍細胞および微小環境構成細胞にわたって高度に共発現し、強固な免疫抑制性ニッチを形成していることを本研究で初めて明らかにした。さらに、cisplatinや放射線照射などの老化誘導療法が、腫瘍細胞のuPAR発現密度を人為的に高め、CAR T細胞の治療感受性を劇的に増強するという「one-two punch」戦略の有効性を新規に実証した。

臨床応用: これらの知見は、難治性固形がんに対するuPAR CAR T細胞療法の臨床応用に直結する。臨床的意義として、既存の標準化学療法(cisplatinやirinotecanなど)や放射線療法を「老化誘導剤」として位置づけ、uPAR CAR T細胞と組み合わせることで、治療抵抗性を克服する合理的な併用レジメンを臨床現場に提供できる。また、可溶性uPAR(suPAR)の血中濃度測定や89Zr/64Cuを用いたuPAR PETイメージングは、患者選択や治療効果のリアルタイムな非侵襲的モニタリングを可能にするバイオマーカーとして極めて有用である。

残された課題: 今後の検討課題として、一部のモデルで観察された治療後の再発メカニズムの解明が挙げられる。uPAR抗原の完全な消失による再発は稀であったものの、持続的な抗原刺激に伴うCAR T細胞の疲弊が主要なlimitationとして示されており、1XXシグナル伝達ドメインの最適化や免疫チェックポイント阻害剤との併用など、T細胞の持続性を高めるアプローチが今後の重要な研究方向性となる。また、正常組織における低レベルのuPAR発現に対する長期的な安全性の担保や、老化誘導療法がもたらす微小環境の動的な変化が免疫系に与える潜在的な影響についても、さらなる検証が必要である。

方法

本研究では、TCGA (The Cancer Genome Atlas) の10,000例を超える多がん種ゲノム・転写データ(Cerami et al. CancerDiscov 2012Gao et al. SciSignal 2013)を統合解析し、PLAUR (plasminogen activator, urokinase receptor) 遺伝子の発現とTP53やKRASなどの遺伝子変異との関連を評価した。RNA-seq (RNA sequencing) データのマッピングにはSTAR(Dobin et al. Bioinformatics 2013)、発現定量にはfeatureCounts(Liao et al. Bioinformatics 2014)、差分的発現解析にはDESeq2(Love et al. GenomeBiol 2014)を用いた。患者腫瘍組織におけるuPARタンパク質発現は、1,074症例のTMA (tissue microarray) を用いたmulti-IF (multiplex immunofluorescence) により定量した。空間トランスクリプトーム解析(10x Xenium)を未治療のPDAC (pancreatic ductal adenocarcinoma: 膵管腺がん) 検体で実施し、24プレックスのハイパープレックスIFを用いてPDAC(n=101)、LUAD(肺腺がん、n=55)、LUSC(肺扁平上皮がん、n=49)、CRC(大腸がん、n=137)の腫瘍微小環境を解析した。

uPARのD2-D3 (domain 2 and domain 3) ドメインを選択的に認識するscFv (single-chain fragment variant: 一本鎖可変領域フラグメント) をハイブリドーマおよびファージディスプレイにより同定し、CD28ζ共刺激ドメインを含むCAR T細胞(h.uPAR-T1-h.28z [T1-h] および h.uPAR-A1-h.28z [A1-h])を構築した。in vitroでの細胞傷害活性は、71のヒトがん細胞株(OVCAR8 [human ovarian cancer cell line 8] など)を用いて定量フローサイトメトリーによる抗原密度測定と併せて評価した。in vivoでの有効性検証には、NSG (NOD scid gamma) マウスおよびNOD/SCIDマウスを用い、Tyk-nu (human ovarian cancer cell line Tyk-nu) や COV644 (human mucinous ovarian cancer cell line COV644) などの細胞株を用いたCDX (cell line-derived xenograft) モデル、および患者由来のPDX (patient-derived xenograft) やPDO (patient-derived organoid) モデルを使用した。さらに、MYC過剰発現とTrp53欠損を伴うEPO-GEMM (electroporation-based genetically engineered mouse model) による自然発症卵巣がん転移モデルを構築した。安全性評価には、ヒトHSPC (hematopoietic stem and progenitor cell) を移植したヒト化免疫系マウスモデルを用い、TRAC遺伝子座をCRISPR-Cas9 (clustered regularly interspaced short palindromic repeats-associated protein 9) で編集した1XX-CAR T細胞を投与した。老化誘導療法との併用実験では、cisplatin、放射線照射、またはirinotecanによる前処理を行った。腫瘍の非侵襲的モニタリングには、89Zrまたは64Cu標識uPAR抗体を用いたPET (positron emission tomography) イメージングを実施した。統計解析には、生存曲線の比較にlog-rank検定、多群比較にone-way ANOVA、2群間比較にStudent t-test、相関解析にPearson correlationおよびSpearman correlationを用いた。