- 著者: Renier J. Brentjens, Jean-Baptiste Latouche, Elmer Santos, Francesc Marti, Michael C. Gong, Clay Lyddane, Philip D. King, Steven Larson, Mark Weiss, Isabelle Rivière, Michel Sadelain
- Corresponding author: Michel Sadelain (Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, Department of Medicine / Immunology Program / Gene Transfer and Somatic Cell Engineering Laboratory, New York)
- 雑誌: Nature Medicine
- 発行年: 2003
- Epub日: 2003-02-10
- Article種別: Original Article
- PMID: 12579196
背景
allogeneic donor leukocyte infusion (DLI) は、移植後の慢性骨髄性白血病 (CML) 再発例において持続的な寛解を誘導し、またエプスタイン・バーウイルス (EBV) 関連リンパ増殖性疾患ではドナー由来のEBV特異的T細胞株が治癒性を示すなど、抗腫瘍T細胞療法の実現可能性は限定的に立証されていた (Collins et al. 1997, Papadopoulos et al. 1994)。しかし、この戦略を自家移植の状況で応用するには、複数の生物学的要件を満たす必要があった。具体的には、(i) 腫瘍特異的T細胞のレパートリー獲得、(ii) 臨床用量へのin vitroでの増幅、(iii) 増幅後の細胞傷害性機能の保持、(iv) in vivoでの生着と腫瘍部位への遊走、(v) アポトーシス抵抗性、といった課題が挙げられる (Melief et al. 2000)。当時の技術では、これらの要件のいずれもが十分に解決されておらず、特にin vivoでのT細胞の持続性と抗腫瘍効果の維持が大きな課題として残されていた。
キメラ抗原受容体 (CAR) を用いたT細胞の遺伝子改変は、主要組織適合性複合体 (MHC) 非依存的な腫瘍認識を可能にする戦略として提案されていた (Eshhar et al. 1996, Sadelain et al. 2003)。しかし、CAR-T細胞がin vivoで播種性腫瘍を効果的かつ持続的に制御できるかについては、まだ実証されていなかった点が未解明であった。特に、T細胞のin vivoでの生存と機能維持には、適切な共刺激シグナルとサイトカイン環境が不可欠であることが示唆されていたが、その最適な組み合わせや分子メカニズムについては知識が不足していた。従来のT細胞増幅プロトコルでは、in vitroでの細胞傷害性は得られるものの、in vivoでのT細胞の急速な排除やアポトーシスによる機能不全が問題となっていた。この知識のギャップを埋めることが、効果的な養子免疫療法の開発において重要であった。
目的
本研究の目的は、B細胞性悪性腫瘍(慢性リンパ性白血病 (CLL)、急性リンパ性白血病 (ALL)、B細胞リンパ腫)の大部分に発現するCD19を標的とする第一世代CAR (CD3ζ単独シグナル伝達、19z1) をヒト末梢血T細胞にレトロウイルスで導入し、その治療可能性を検証することである。具体的には、CD19とCD80を発現する人工抗原提示細胞 (AAPC) と外来性インターロイキン-15 (IL-15) を組み合わせたex vivo拡張プロトコルを用いて、重症複合免疫不全 (SCID)-Beigeマウスに播種したRaji Burkittリンパ腫を治療できるか否かを検証する。
さらに、以下の点を詳細に評価することを目的とした。(i) in vivoにおけるCD80共刺激とIL-15が抗腫瘍効果に与える影響、(ii) CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の抗腫瘍活性における役割の比較、(iii) CLL患者由来T細胞における19z1 CAR-T細胞の機能性、特に自家腫瘍細胞に対する溶解能力を評価する。これらの検証を通じて、遺伝子改変T細胞を用いた養子免疫療法の臨床応用における生物学的要件を満たすための最適なT細胞増幅戦略とin vivoでの機能維持メカニズムを解明することを目指した。
結果
Ex vivoでの19z1+ T細胞の選択的拡張: 3T3(CD19+CD80+) AAPCとIL-15を組み合わせた増幅プロトコルは、19z1+ T細胞の5~6サイクルで3 logを超える選択的拡張を達成した (Fig. 2a, b)。最終的に、ほぼ全ての細胞が19z1+となる高純度な集団が得られた。対照的に、CD80を欠くAAPC (3T3(CD19+)) とIL-15の組み合わせ、またはIL-15を欠く条件 (3T3(CD19+CD80+)とIL-2 (20 U/ml)) では、T細胞の拡張は1 log未満に留まり、IL-2の高用量条件では3サイクル後にT細胞死が顕著となった。この結果は、CD80共刺激とIL-15の組み合わせが、CAR-T細胞の効率的なin vitro増幅に不可欠であることを示している。
in vitroでのCD19特異的細胞傷害性: 19z1+ T細胞は、CD19+ EL4細胞およびヒトCD19+細胞株 (Raji、Sup-B15、Daudi、NALM-6) を用量依存的に溶解した (Fig. 1d, e)。E/T比25:1において、Raji細胞に対する溶解率は80%を超えた。一方、CD19陰性株 (PSMA+ EL4) には作用せず、Pz1+対照T細胞は逆の特異性を示した。このことは、構築された19z1 CARがHLA非依存的なCD19特異的細胞傷害活性を有することを示している。
SCID-Beigeマウスにおける播種性Raji腫瘍の根絶: SCID-Beigeマウスに5×10⁵個のRaji Burkittリンパ腫細胞を静脈内投与すると、4~5週間で後肢麻痺を発症し、PETおよびFACS解析により骨髄を主体とする播種が確認された (Fig. 3a-c)。Raji細胞投与6日後にIL-15+AAPCで増幅した19z1+ T細胞を単回投与した群 (n=10 mice) は、Pz1+対照群 (n=10 mice) と比較して有意な生存延長 (p<0.00002) を示し、50%の長期生存 (>300日) を達成した (Fig. 3e)。連続2日投与では、75%の長期生存 (p<0.0003) が達成された (Fig. 3f)。対照治療群 (Pz1+ T細胞) は全例が4~5週間で麻痺を発症した。治療6ヶ月後のPETスキャンにより、腫瘍の陰性化が確認された (Fig. 3d)。これは、遺伝子改変ヒトT細胞がin vivoで確立された全身性腫瘍を治癒させた最初の実証である。
CD4+およびCD8+ T細胞サブセットの役割: 精製したCD8+ 19z1+ T細胞 (2×10⁷ cells) 単独投与で50%の長期生存が得られた (p=0.00005)。CD4+ 19z1+ T細胞単独でも有意な延命効果 (p=0.0008) を得たが、CD8+単独に劣った (p=0.0026)。CD4+とCD8+の混合 (各1×10⁷ cells) は、CD8+単独2×10⁷細胞よりも劣り (p=0.03)、CD4+ T細胞の追加が抗腫瘍効果を増強しないことが示された (Fig. 3g)。この結果から、CD8+ 19z1+ T細胞がin vivoでの腫瘍根絶を主に担うエフェクター集団であることが示唆された。
ex vivo増幅プロトコルのin vivo効果への影響: 従来のOKT3と高用量IL-2 (500 U/ml) で増幅した19z1+ T細胞、または3T3(CD19+CD80+)とIL-2 (IL-15なし) で増幅した群は、in vitro細胞傷害性は同等であったが、in vivoでは延命効果に留まり、全例が最終的に麻痺を発症した (Fig. 3h)。これに対し、AAPCとIL-15で増幅した群 (n=13 mice) は、13例中5例が60日時点で疾患フリーであり、OKT3/IL-2群 (n=7 mice) と比較して有意に優れていた (p=0.0004)。骨髄でのT細胞回収量は、IL-15群でOKT3/IL-2群の3~10倍、肺で10倍に達した。このことは、IL-15がin vivoでのT細胞の持続性と機能に極めて重要であることを示している。
IL-15による抗アポトーシス機構: IL-15は、OKT3刺激T細胞においてBcl-xL、Bcl-2、およびc-FLIPの発現を誘導した (Fig. 3i)。特にBcl-xLの発現増加が顕著であった。CD28共刺激の追加は、IL-15単独で誘導される抗アポトーシス蛋白の発現をさらに増強することはなかった。この結果は、IL-15がT細胞のアポトーシスを抑制し、in vivoでの持続性を高める分子メカニズムを説明するものである。
in vivo共刺激の重要性: CD80などの共刺激分子を発現しないNALM-6腫瘍細胞を用いたモデルでは、19z1+ T細胞治療は延命効果に留まり、全例が最終的に麻痺を発症した (Fig. 4a)。しかし、CD80を導入したNALM-6(CD80+)腫瘍細胞を用いた場合、19z1+ T細胞治療は有意な腫瘍進行遅延に加え、40%の長期生存を達成した (p<0.00001) (Fig. 4b)。このことは、in vivoでのCD80を介した共刺激が、T細胞の抗腫瘍活性をさらに増強するために必要であることを示している。
CLL患者由来T細胞の機能性: CLL患者由来のT細胞を19z1で形質導入し、自家腫瘍細胞に対する溶解活性を評価した。未治療および強力な前治療歴のある患者の両方から得られたT細胞は、in vitroで自家CLL腫瘍細胞を効率的に溶解した (Fig. 5a, c)。E/T比0.7:1で12時間後の溶解率は77%に達した (Fig. 5d)。これは、CLL患者のT細胞機能不全が報告されているにもかかわらず、本戦略が臨床応用可能であることを裏付けるものである。
考察/結論
本研究は、遺伝子改変されたヒトT細胞がSCID-Beigeマウスにおいて播種性の全身性B細胞腫瘍を治癒 (>300日間の疾患フリー) させた最初の前臨床的実証であり、現在のCD19 CAR-T療法 (tisagenlecleucel、axicabtagene ciloleucelなど) の科学的基盤となる先駆的研究である。著者らはこの後の臨床第I相試験 (NCT00466531、Memorial Sloan-Kettering、CLL/ALL対象) を経て、第2世代 (CD28共刺激ドメイン含有)、第3世代 (CD28+4-1BB共刺激ドメイン含有) CARへの発展を主導し、BrentjensとSadelainはCAR-T領域の中心的研究者となった。
先行研究との違い: これまでの研究では、in vitroで高い細胞傷害性を示すT細胞を生成できても、in vivoでのT細胞の急速な消失や機能不全が課題であった。本研究は、IL-15とCD80による共刺激が、T細胞のin vivoでの生存と抗腫瘍活性を維持するために不可欠であることを示し、この点でこれまでの報告と対照的な結果を示した。特に、IL-15が抗アポトーシス経路を介してT細胞の持続性を高めるという知見は、T細胞養子免疫療法の効果を最大化するための重要な戦略となる。
新規性: 本論文の最も重要な新規性は、(i) CD80とIL-15を組み合わせたAAPCによるex vivo増幅が、臨床用量のT細胞をin vivoでの持続性と機能性を両立させて生成できることを初めて示した点である。これにより、従来のOKT3と高用量IL-2による増幅プロトコルと比較して、in vivoでのT細胞の生着と抗腫瘍効果が劇的に改善された。また、(ii) IL-15がBcl-xL、Bcl-2、c-FLIPなどの抗アポトーシス分子の発現を誘導することでT細胞のアポトーシスを抑制し、in vivoでの持続性を高める分子メカニズムを提示した点も新規である。さらに、(iii) CD8+ T細胞単独で十分な抗腫瘍効果が得られることを示し、CD4+ T細胞のヘルプが必須ではないことを明らかにした。
臨床応用: 本知見は、B細胞性悪性腫瘍に対するCD19を標的としたCAR-T療法の臨床応用可能性を強く支持するものである。CLL患者由来のT細胞が自家腫瘍細胞を効率的に溶解する能力を示したことは、患者自身のT細胞を用いた治療が実現可能であることを示唆する。また、in vivoでのCD80共刺激の重要性は、腫瘍細胞が共刺激分子を発現するか、あるいはCAR自体に共刺激ドメインを組み込むこと (例: Maher et al. NatBiotechnol 2002, Haynes et al. Blood 2002) が臨床的有用性を高める可能性を示唆している。
残された課題: 今後の検討課題として、(i) CD3ζ単独の第一世代CARは、当時の臨床試験でin vivoでの持続性が限定的であり、後年、4-1BBやCD28などの共刺激ドメインを内蔵した第二世代、第三世代CARへの移行が必要であった。これは、CAR設計の最適化が依然として重要であることを示している。(ii) CD19抗原エスケープによる再発、(iii) サイトカイン放出症候群 (CRS) や神経毒性といった臨床的課題が挙げられる。これらは現在、デュアルターゲットCAR、アーマードCAR、同種ユニバーサルCAR-Tなどの戦略で解決が進められている。また、正常B細胞の枯渇によるB細胞無形成症は、免疫グロブリン補充療法で管理可能であるものの、自殺遺伝子導入によるT細胞の制御も検討されるべき課題である。
方法
CAR構築とレトロウイルスベクター: CD19特異的scFv (single-chain variable fragment) (モノクローナル抗体SJ25C1由来) を、(Gly3Ser)4リンカー、CD8ヒンジ/膜貫通ドメイン、およびCD3ζ細胞質ドメインと融合させ、19z1 CARを構築した。これをSFGレトロウイルスベクターにサブクローニングした (Fig. 1a)。対照として、前立腺特異的膜抗原 (PSMA) 特異的Pz1 CARを使用した。レトロウイルス粒子は、ギボン類白血病ウイルスシュードタイプを用いて産生された。
T細胞の分離、形質導入、およびex vivo増幅: ヒト末梢血単核球 (PBL) は健常ボランティアから書面による同意を得て分離した。CLL患者由来T細胞は、ニューラミニダーゼ処理ヒツジ赤血球とのロゼット形成により濃縮した。T細胞はフィトヘマグルチニン (PHA) で48時間活性化後、レトロネクチンコートプレート上でギボン類白血病ウイルスシュードタイプウイルス上清を用いて3日間スピンキュレーションにより形質導入した。形質導入後、T細胞はCD19およびCD80を発現する3T3線維芽細胞由来AAPC (artificial antigen-presenting cell) (3T3(CD19+CD80+)) 上で、20 U/mlのIL-2および10 ng/mlのIL-15存在下で5~6サイクル増幅した。比較のため、OKT3抗体と高用量IL-2 (500 U/ml) を用いた従来の増幅プロトコルも実施した。
in vitro細胞傷害性試験: 標準的な51Cr放出アッセイを用いて、19z1+ T細胞の細胞傷害活性を評価した。標的細胞としては、CD19+ EL4細胞、ヒトCD19+細胞株 (Raji、Sup-B15、Daudi、NALM-6)、およびCD19-対照株 (PSMA+ EL4) を使用した。エフェクター対標的 (E/T) 比は、CD8+ 19z1+またはPz1+ T細胞の総数に基づいて算出した。
in vivo試験: 8~12週齢のFox Chase C.B-17 SCID-Beigeマウスに、5×10⁵個のRaji Burkittリンパ腫細胞またはNALM-6前駆B細胞ALL細胞を尾静脈から静脈内投与した。腫瘍播種が確認された後、19z1+またはPz1+ T細胞を静脈内投与した (2×10⁷ cells/mouse)。治療効果は、後肢麻痺の発症までの期間を指標とした生存曲線 (Kaplan-Meier法) で評価し、ログランク検定 (log-rank analysis) で統計解析を行った。腫瘍の生着とT細胞の分布は、蛍光活性化セルソーティング (FACS) (骨髄、肺) および陽電子放出断層撮影 (PET) (¹⁸F-FDG) で追跡した。
抗アポトーシス蛋白評価: OKT3刺激T細胞におけるBcl-2、Bcl-xL、FLICE様阻害蛋白 (c-FLIP) の発現をウェスタンブロット解析で評価した。IL-15または高用量IL-2の存在下、およびCD28共刺激の有無による影響を比較した。
患者検体: CLL患者由来の末梢血単核球 (PBL) を19z1で形質導入し、自家腫瘍細胞に対する溶解活性を評価した。患者のRai病期、リンパ球数、および前治療歴を記録した (Table 1)。