- 著者: Robert C, Thomas L, Bondarenko I, O’Day S, Weber J, Garbe C, Lebbe C, Baurain JF, Testori A, Grob JJ, Davidson N, Richards J, Maio M, Hauschild A, Miller WH Jr, Gascon P, Lotem M, Harmankaya K, Ibrahim R, Francis S, Chen TT, Humphrey R, Hoos A, Wolchok JD
- Corresponding author: Jedd D. Wolchok, MD, PhD (Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2011
- Epub日: 2011-06-05
- Article種別: Original Article
- PMID: 21639810
背景
転移性黒色腫は、その診断後の予後が極めて不良であり、2011年時点での2年生存率はわずか10〜20%に留まっていた。この疾患に対する標準的な一次治療として長年ダカルバジン (DTIC) が使用されてきたが、ランダム化比較試験において生存期間の有意な改善を示すことはできていなかった。高用量インターロイキン-2 (IL-2) 療法は一部の患者に持続的な完全奏効をもたらすものの、その適用は限定的であり、重篤な毒性を伴うことが課題であった。したがって、転移性黒色腫の治療成績を向上させる新たな治療戦略が強く求められていた。このような背景から、既存の治療法では不十分であり、新たなアプローチが切望されていた。
イピリムマブは、T細胞の抑制性受容体であるCTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4) をブロックする完全ヒト型IgG1モノクローナル抗体であり、T細胞の活性化と増殖を増強することで抗腫瘍免疫応答を誘導する。2010年に発表されたMDX010-20試験 (Hodi et al. NEnglJMed 2010)では、既治療転移性黒色腫患者において、イピリムマブ3mg/kg単剤療法が対照群と比較して全生存期間 (OS) 中央値を10.0ヶ月 vs 6.4ヶ月 (ハザード比 [HR] 0.68) と有意に改善することが示され、CTLA-4阻害薬として初めて米国食品医薬品局 (FDA) の承認を得た。この結果は、免疫チェックポイント阻害薬が転移性黒色腫の治療に革命をもたらす可能性を示唆するものであった。
しかし、MDX010-20試験は既治療患者を対象としており、未治療 (一次治療) の転移性黒色腫患者に対するイピリムマブの有効性と安全性は未検証であり、この点が未解明なギャップとして残されていた。また、イピリムマブと化学療法薬であるダカルバジンの併用療法に関する予備的な第II相試験では、イピリムマブ高用量 (10mg/kg) とダカルバジンの組み合わせが持続的な奏効と許容可能な安全性プロファイルを示すことが報告されていた (Hersh et al. Invest New Drugs 2011)。この併用療法の理論的根拠として、化学療法が誘導する腫瘍免疫原性細胞死 (immunogenic cell death) がイピリムマブの免疫賦活効果と相乗的に作用し、より強力な抗腫瘍応答を引き起こすという仮説が提唱されていた (Zitvogel et al. Nat Rev Immunol 2008)。当時の治療選択肢が限られていた状況において、新たな治療法が患者の予後を改善できるかどうかが注目されていたが、未治療患者における免疫療法の有効性データが不足していた。本試験は、この不足を補い、未治療転移性黒色腫患者におけるイピリムマブとダカルバジンの併用療法の有効性と安全性を評価することを目的とした (NCT00324155)。
目的
本研究の目的は、未治療の切除不能なStage IIIまたはStage IV転移性黒色腫患者を対象に、イピリムマブ (10 mg/kg) とダカルバジン (850 mg/m²) の併用療法が、ダカルバジン (850 mg/m²) とプラセボの併用療法と比較して、全生存期間 (OS) を有意に改善するかどうかを多国間無作為化二重盲検第III相試験で評価することである。
主要評価項目はOSとし、副次評価項目として無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、病勢制御率 (DCR)、奏効持続期間、および安全性を評価した。本試験は、イピリムマブが一次治療の転移性黒色腫患者において化学療法単独と比較してOS優越性を示すか否かを検証することを目的とした。また、イピリムマブとダカルバジンの併用療法における安全性プロファイル、特に免疫関連有害事象 (irAE) の発生頻度と管理可能性を詳細に評価することも重要な目的であった。本研究は、転移性黒色腫の一次治療におけるイピリムマブ併用療法の有効性と安全性を確立し、新たな標準治療の可能性を検討することを意図した。
結果
全生存期間 (OS) の有意な改善: イピリムマブとダカルバジンの併用療法群は、ダカルバジン単独療法群と比較して、全生存期間 (OS) を有意に延長した。イピリムマブ併用群のOS中央値は 11.2ヶ月 (95% CI 9.4-13.6) であったのに対し、ダカルバジン単独群では 9.1ヶ月 (95% CI 7.8-10.5) であった。死亡のハザード比 (HR) は 0.72 (95% CI 0.59-0.87, p<0.001) であり、イピリムマブ併用により死亡リスクが28%減少したことを示す。長期生存率もイピリムマブ併用群で優れており、1年生存率は 47.3% vs 36.3%、2年生存率は 28.5% vs 17.9%、3年生存率は 20.8% vs 12.2% であった (Figure 1A)。OS曲線は初回評価時点であるweek 12以降に両群間で分離し始め、長期追跡においてイピリムマブ特有の「ロングテール」パターンが明確に観察された。年齢、性別、ECOG PS、ベースラインLDH値、転移病期といった全てのサブグループにおいて、イピリムマブ併用群のOS改善傾向は一貫していた (Figure 2)。この結果は、イピリムマブとダカルバジンの併用が未治療転移性黒色腫患者の予後を大幅に改善する可能性を示唆する。
無増悪生存期間 (PFS) と奏効持続期間の延長: 無増悪生存期間 (PFS) もイピリムマブ併用群で有意に延長され、ハザード比は 0.76 (95% CI 0.63-0.93, p=0.006) であった (Figure 1B)。ただし、最初の腫瘍評価がweek 12であったため、PFS中央値は両群で近似していた。客観的奏効率 (ORR) は、独立中央審査委員会評価でイピリムマブ併用群が 15.2% (完全奏効 [CR] 1.6%、部分奏効 [PR] 13.6%) であったのに対し、ダカルバジン単独群は 10.3% であった (p=0.09)。病勢制御率 (CR+PR+SD) は、イピリムマブ併用群で33.2%、ダカルバジン単独群で30.2%と、有意差は認められなかった (p=0.41)。奏効持続期間中央値は、イピリムマブ併用群で 19.3ヶ月 (95% CI 12.1-26.1) と、ダカルバジン単独群の 8.1ヶ月 (95% CI 5.2-19.8) と比較して有意に長かった (p=0.03) (Figure 1C)。一部の患者では、治療開始から6ヶ月以上経過後に部分奏効から完全奏効への移行が確認された。これは、イピリムマブによる免疫応答が遅発性かつ持続的である可能性を示唆している。
安全性プロファイルと免疫関連有害事象 (irAE): グレード3または4の有害事象(原因不問)は、イピリムマブ併用群で 56.3% (n=99がグレード3: 40.1%、n=40がグレード4: 16.2%) に発生したのに対し、ダカルバジン単独群では 27.5% (p<0.001) であった (Table 3)。免疫関連有害事象 (irAE) は、イピリムマブ併用群で全グレードが 77.7%、グレード3または4が 38.1% に発生したのに対し、ダカルバジン単独群ではそれぞれ38.2%、4.4%であった。特に注目すべきは肝毒性であり、アラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT) 上昇はイピリムマブ併用群で全グレードが33.2% vs 5.6%、グレード3または4が 21.9% (グレード3: 16.2%、グレード4: 5.7%) vs 0.8%と高頻度で認められた。アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST) 上昇も同様に、イピリムマブ併用群で全グレードが29.1% vs 5.6%、グレード3または4が18.2% vs 1.2%であった。免疫介在性肝炎 (グレード3または4) はイピリムマブ併用群の78例 (31.6%) に発生し、そのうち80.8%にステロイドまたは他の免疫抑制剤が使用された。肝機能値の正常化は67.9%の患者で達成され、正常化までの中央値は9.9週であった。消化管毒性に関しては、下痢 (グレード3または4) は4.0% vs 0%、大腸炎 (グレード3または4) は1.6% vs 0%と、先行するイピリムマブ単剤試験と比較して低率であった。本試験では、薬剤関連死および消化管穿孔はイピリムマブ併用群で報告されなかった。下垂体炎も報告されなかった。維持療法フェーズでは、イピリムマブ群の43例が維持療法を受け、グレード3または4の有害事象は少数であった。これらの有害事象は、確立されたガイドラインに従って管理可能であることが示された。
考察/結論
本第III相試験は、イピリムマブ10mg/kgとダカルバジンの併用療法が、未治療転移性黒色腫患者においてダカルバジン単独療法と比較して、全生存期間 (OS) を有意に改善することを示した画期的な研究である。OSのハザード比は 0.72 (95% CI 0.59-0.87, p<0.001) であり、3年OS率はイピリムマブ併用群で20.8%に達した。これは、CTLA-4阻害薬が一次治療においても化学療法に対してOS優越性を持つことを初めて証明したものであり、転移性黒色腫治療における免疫療法の地位を確立する上で歴史的な意義を持つ。
先行研究との違い: 先行するMDX010-20試験 (Hodi et al. NEnglJMed 2010)と比較すると、本試験の毒性プロファイルには顕著な相違点が見られた。特に、消化管穿孔がゼロであったこと、および消化管毒性(下痢、大腸炎)の発生率がMDX010-20試験のイピリムマブ単剤療法(3mg/kg)よりも低かったことは予想外の所見であり、これまでの報告とは対照的であった。これは、肝毒性管理のために早期に全身性ステロイドが介入されたことが、消化管毒性の抑制に寄与した可能性が考えられる。一方で、肝毒性(グレード3または4のALT上昇21.9%)は、ダカルバジンの既知の肝毒性とイピリムマブによる免疫性肝炎の相乗効果により、想定以上の高率で発生した。しかしながら、薬剤関連死がゼロであったことは、この併用療法の毒性が適切に管理可能であることを示唆している。
新規性: 本研究で初めて、イピリムマブとダカルバジンの併用療法が未治療転移性黒色腫患者のOSを統計学的に有意に改善することを実証した。特に、奏効持続期間中央値が19.3ヶ月と長く、3年OS率が20.8%に達する「ロングテール」パターンは、従来の化学療法では達成できなかった免疫記憶による持続的な抗腫瘍応答を示すものであり、質的に異なる治療効果を新規に提示した。これは、免疫チェックポイント阻害薬が長期的な生存ベネフィットをもたらす可能性を明確に示した最初のデータの一つである。
臨床応用: 本知見は、転移性黒色腫の一次治療における免疫療法の臨床応用への道を開いた。イピリムマブとダカルバジンの併用療法は、従来の化学療法単独と比較して患者の生存期間を延長する新たな選択肢を提供した。しかし、本試験ではBRAF変異の評価が行われておらず(試験期間中にベムラフェニブが未承認であったため)、その後の実臨床におけるBRAF変異陽性患者への影響は限定的であった。また、本試験で採用されたイピリムマブ10mg/kgという高用量は肝毒性が顕著であったため、最終的に承認された用量は3mg/kgとなった。この用量設定の判断は、後続の研究設計に影響を与えた。
残された課題: 今後の検討課題として、イピリムマブの最適用量(10mg/kgと3mg/kgの比較)の最終的な決着、肝毒性の予測バイオマーカーの同定、およびBRAF変異の有無に応じた免疫療法と分子標的療法の最適なシーケンス戦略が挙げられる。本試験の発表以降、黒色腫の免疫療法は急速に進化し、ニボルマブとイピリムマブの併用療法(CheckMate 067)やPD-1単剤療法(ペムブロリズマブ、ニボルマブ)が、より高いORRと管理可能な毒性プロファイルを示し、一次治療の主流となった。イピリムマブとダカルバジンの併用療法が標準治療として定着しなかった主な要因は、その高頻度な肝毒性にあるが、本試験がCTLA-4阻害薬の一次治療における生存改善可能性を初めて証明した科学的・歴史的意義は不変である。
方法
試験デザインと患者選択: 本試験は、21カ国以上の多施設で実施された無作為化二重盲検第III相試験である (NCT00324155)。2006年8月から2008年1月にかけて、合計502名の患者が登録された。対象患者は、18歳以上の未治療の切除不能なStage IIIまたはStage IV転移性黒色腫患者で、測定可能な病変を有し、脳転移がなく、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) Performance Status (PS) が0または1であった (Oken et al. Am J Clin Oncol 1982)。ベースラインの血清乳酸脱水素酵素 (LDH) 値は適格基準に影響しなかった。M1c病期(内臓転移またはLDH高値)の患者が57.2%を占め、LDH高値の患者は両群で約40%であった。アジュバント療法としてのインターフェロンなどの前治療歴がある患者は除外されなかった(約26%に施行済み)。免疫抑制剤の併用や長期的な全身性グルココルチコイドの使用は禁止された。
割り付けと治療: 患者はイピリムマブ10mg/kg + ダカルバジン850mg/m²群 (n=250) またはダカルバジン850mg/m² + プラセボ群 (n=252) に1:1で無作為に割り付けられた。治療は導入期として、week 1, 4, 7, 10にイピリムマブ(またはプラセボ)とダカルバジンを併用投与し、その後week 22まではダカルバジン単剤を3週ごとに投与した。導入期終了後、病勢安定 (SD) 以上で用量制限毒性がない患者は、維持療法としてweek 24以降、イピリムマブ(またはプラセボ)を12週ごとに病勢進行、毒性発現、または試験終了まで投与された。
評価項目: 当初、主要評価項目は無増悪生存期間 (PFS) として設計されたが、イピリムマブの他の試験からのデータに基づき、従来の病勢進行の定義が全生存期間を完全に反映しない可能性が示唆されたため (Wolchok et al. ClinCancerRes 2009)、盲検解除前にFDAの承認を得て全生存期間 (OS) に変更された。副次評価項目にはPFS、客観的奏効率 (ORR)、病勢制御率 (DCR)、奏効持続期間、および安全性が含まれた。腫瘍評価は、ベースライン、week 12、その後は病勢進行がない患者に対してweek 16, 20, 24、そしてweek 48までは6週ごと、それ以降は12週ごとに実施された。奏効判定は、改訂された世界保健機関 (WHO) 基準に基づき、独立中央審査委員会によって行われた。有害事象はNational Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events (NCI-CTCAE) version 3.0を用いて評価された。免疫関連有害事象 (irAE) は事前に定義された炎症関連有害事象として報告された。
統計解析: 主要解析は、414例の死亡イベントが発生した時点で実施された。これは最終登録患者から約37ヶ月後に相当する。統計学的検出力は、イピリムマブ併用群でOS中央値11ヶ月、対照群で8ヶ月を検出するために90%に設定され、ハザード比 (HR) 0.727を想定した。OSの解析には、メタスタシス病期とECOG PSで層別化されたログランク検定が用いられた。主要評価項目および副次評価項目は、階層的検定手順に従って解析された。OS、PFSのハザード比と95%信頼区間 (CI) は、層別Cox比例ハザードモデルを用いて推定された。生存曲線はカプラン・マイヤー法により推定された。3年生存率は事後解析として評価された。