• 著者: Asao T, Watanabe S, Tanaka T, Morita S, Kobayashi K
  • Corresponding author: Watanabe S (Department of Respiratory Medicine and Infectious Diseases, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata, Japan)
  • 雑誌: BMC Cancer
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-11-01
  • Article種別: Protocol
  • PMID: 36333680

背景

小細胞肺癌 (SCLC: small-cell lung cancer) は全肺癌の12-15%を占める高悪性度腫瘍であり、米国SEERデータベースの解析では肺癌特異的2年生存率が男性11%、女性17%と極めて不良であることが報告されている Howlader et al. NEnglJMed 2020。肺癌は世界におけるがん関連死亡の主要な原因であり Bray et al. CACancerJClin 2018、特に広範病期小細胞肺癌 (ES-SCLC: extensive-stage small-cell lung cancer) では診断時に多くの患者が全身状態 (PS: performance status) 不良を呈している。先行研究によれば、SCLC患者の約35%がECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) PS 2-3の不良な全身状態にあるとされる。

長年、ES-SCLCの一次治療はプラチナ製剤とエトポシドまたはイリノテカンの併用療法が標準であり、良好なPS 0-1患者における客観的奏効率 (ORR: objective response rate) は60-80%に達するものの、全生存期間 (OS: overall survival) 中央値は10-13か月に留まっていた Noda et al. NEnglJMed 2002。PS 2-3の不良PS患者に対しては、JCOG (Japan Clinical Oncology Group) 9702試験においてカルボプラチン+エトポシド (CE: carboplatin and etoposide) 療法が標準治療の一つとして確立されたが、OS中央値は8.3か月と依然として極めて不良であった Okamoto et al. BrJCancer 2007

近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI: immune checkpoint inhibitor) の上乗せ効果が実証され、CASPIAN試験ではデュルバルマブ併用によりOS中央値が13.0 vs 10.3か月 (HR 0.73 [95% CI 0.59-0.91, p=0.0047]) へと有意に延長し Paz-Ares et al. Lancet 2019、IMpower133試験でもアテゾリズマブ併用によるOS延長 (12.3 vs 10.3か月, HR 0.70 [95% CI 0.54-0.91, p=0.007]) が示された Horn et al. NEnglJMed 2018。しかし、これらの大規模第III相試験はいずれもPS 0-1の良好な患者のみを対象としており、PS 2-3の不良PS患者は除外されていた。したがって、PS不良ES-SCLC患者に対するICI併用化学療法の安全性と有効性は未解明であり、臨床現場におけるエビデンスが著しく不足しているという重大なgapが残されている。

目的

本研究の目的は、化学療法未治療のPS 2-3を有するES-SCLC患者を対象として、カルボプラチン+エトポシド+デュルバルマブ (CE-D: carboplatin and etoposide plus durvalumab) 併用療法の忍容性および有効性を前向きに評価することである。具体的には、主要評価項目として4サイクルのCE-D治療完遂率を検証し、副次評価項目として1年生存率、ORR、無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival)、OS、PS改善割合、および安全性を評価することを目的とする。これにより、これまで治療開発から取り残されていた全身状態不良なES-SCLC患者に対する新たな治療選択肢の確立を目指す。

結果

本論文はスタディプロトコールであり、現時点で患者登録および追跡が進行中であるため、生存率や奏効率などの最終的な臨床成績データは未報告である。しかし、プロトコール設計段階における主要な設定根拠および安全性・有効性の評価指標について以下の通り規定されている。

主要評価項目としての治療完遂率の規定: 本試験の主要評価項目は、導入期におけるCE-D療法の4サイクル完遂率 (忍容性) である (Fig. 1)。JCOG 9702試験において、高齢者または不良リスクのES-SCLC患者に対するCE療法の4サイクル完遂率は63%であったが、本試験の対象はさらに全身状態が不良なPS 2-3患者に限定されているため、より低い完遂率が予想される。そのため、本試験では治療が忍容可能であると判断する閾値完遂率を50%と設定した。PS 2群 (n=41) およびPS 3群 (n=12) の各サブグループにおいて、この閾値を上回るかどうかが正確二項分布を用いて検証される。

適応的用量調整による安全性と有効性の両立設計: 本試験の最大の特徴は、化学療法の初回投与量を低用量 (カルボプラチン AUC 4、エトポシド 80 mg/m²) から開始し、第2サイクル以降で患者個々の忍容性に応じて適応的に用量を調整するデザインである (Table 1)。前サイクルで重篤な骨髄抑制 (Grade 4以上の好中球減少が4日以上持続、またはGrade 4以上の血小板減少) や発熱性好中球減少症、Grade 3以上の非血液毒性が認められた場合は、カルボプラチン AUC 3、エトポシド 60 mg/m²へと減量する。一方で、重篤な毒性がない場合は、カルボプラチン AUC 5、エトポシド 100 mg/m²への増量を可能とすることで、治療効果の最大化を図る (Fig. 1)。

段階的登録と厳格な安全性モニタリング: 極めて全身状態が不良なPS 3患者における安全性を担保するため、本試験では段階的な登録プロセスを採用している。まず、比較的全身状態が保たれているPS 2患者を先行して6例登録し、独立した効果安全性評価委員会による初期安全性のレビューを実施する。この委員会において安全性が確認された後に、PS 3患者の登録を開始する手順がプロトコール上で厳格に規定されている。また、ICI併用療法で特に懸念される薬剤性肺障害のリスクを低減するため、胸部CTでUIPパターンまたは probable UIPパターンを呈する間質性肺炎合併患者は適格基準から除外されている (Table 1)。

副次評価項目による多角的な治療効果の検証: 本試験では、主要評価項目である忍容性に加え、有効性およびQOL改善効果を多角的に評価するための副次評価項目が設定されている。最も重要な副次評価項目である1年生存率については、全登録患者 (n=53) において期待値26% vs 閾値13% (片側α=0.1) として検証される。さらに、RECIST v1.1に基づくORR、PFS、OS、および治療前後のECOG PSの変化に基づくPS改善割合が評価される。良好なPS 0-1患者を対象としたCASPIAN試験では、デュルバルマブ併用によるOS延長効果として HR 0.73 (95% CI 0.59-0.91, p=0.0047) が示されており (Fig. 1)、IMpower133試験でもアテゾリズマブ併用によるOS延長効果として HR 0.70 (95% CI 0.54-0.91, p=0.007) が報告されている (Table 2)。本試験は、これらの大規模試験から除外されたPS 2-3の不良PS患者集団において、同様の治療開発の可能性を探索するものである。

考察/結論

先行研究との違い: 本試験は、良好な全身状態 (PS 0-1) の患者のみを対象としてICI併用療法の有用性を検証したCASPIAN試験やIMpower133試験などの先行研究と異なり、これまで臨床試験から一貫して除外されてきたPS 2-3の不良PS患者のみを対象としている点で決定的に異なる。非小細胞肺癌 (NSCLC: non-small-cell lung cancer) 領域では、PS 2以上の患者に対するICI治療のリアルワールドデータが報告されているが、化学療法への依存度が極めて高いSCLC領域においては、PS不良患者に対するICI併用療法の前向きデータは存在しない。

新規性: 本研究は、未治療のPS 2-3を有するES-SCLC患者を対象に、カルボプラチン+エトポシド+デュルバルマブ併用療法の忍容性と有効性を検証する世界初の多施設共同前向き第II相試験であり、極めて高い新規性を有する。特に、初回は低用量から開始し、第2サイクル以降で毒性に応じて増減量を決定する「適応的用量調整デザイン」を導入した点は、安全性と治療強度の最大化を両立させるための革新的なアプローチであり、本研究で初めて実臨床における不良PS患者への免疫療法の安全な導入スキームを提示するものである。

臨床応用: 本試験の臨床的意義は極めて大きい。もし主要評価項目である4サイクル完遂率が閾値の50%を上回り、良好な忍容性と有効性が示されれば、現在PS不良ES-SCLC患者の標準治療であるCE療法に代わり、CE-D療法が新たな標準治療として臨床現場に導入される可能性が高い。また、化学療法による迅速な腫瘍縮小がPSの改善をもたらし、それが抗腫瘍免疫を活性化するという治療コンセプトが実証されれば、他の予後不良な固形がんにおける治療開発にも大きな臨床的含意をもたらし、がん治療の臨床応用の幅を広げる。

残された課題: 今後の検討課題および本試験のlimitationとして、単アームの非ランダム化試験であるため、標準治療であるCE単独療法との直接的な比較対照群を欠いている点が挙げられる。そのため、有効性の解釈においては、JCOG 9702試験などの過去のヒストリカルコントロールデータとの慎重な比較が必要となる。また、多施設共同試験 (31施設) であるものの、日本国内の患者集団に限定されているため、国際的な一般化可能性については今後の残された課題として位置づけられる。

結論: NEJ045A試験は、PS 2-3の未治療ES-SCLC患者56例を対象に、カルボプラチン+エトポシド+デュルバルマブ療法の忍容性を評価する世界初の前向き第II相試験である。適応的用量調整と段階的登録による安全設計を備えた本プロトコールは、未充足ニーズの極めて高い全身状態不良患者に対する新たな治療パラダイムを切り拓く可能性を秘めている。

方法

試験デザインと登録目標: 本試験 (NEJ045A) は、北東日本研究グループ (NEJSG: North East Japan Study Group) 加盟の31施設が参加する多施設共同、非無作為化、非盲検、単アームの第II相臨床試験である。日本臨床試験登録システム (jRCT: Japan Registry of Clinical Trials) に登録されている (試験ID: jRCTs031200319)。登録目標数は計56例であり、内訳はPS 2患者43例、PS 3患者13例である。登録期間は24か月、追跡期間は12か月と設定されている。

適格基準: 主な包含基準は、組織学的または細胞学的に確認されたES-SCLC、化学療法未治療、ECOG PS 2または3、年齢20歳以上、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1に基づく測定可能病変の存在、および十分な臓器機能 (好中球数 ≥1500/mm³、ヘモグロビン ≥9.0 g/dL、血小板数 ≥10.0 × 10⁴/mm³、血清クレアチニン <1.5 mg/dL またはクレアチニンクリアランス ≥45 mL/min、SpO₂ ≥93%) である。 主な除外基準は、胸部CTでの通常型間質性肺炎 (UIP: usual interstitial pneumonia) パターンまたは probable UIPパターンを呈する間質性肺炎、髄膜癌腫症、原発巣への放射線治療歴、ドレナージを要する胸水・心嚢水・腹水、自己免疫疾患の合併、重篤な合併症 (活動性感染症、コントロール不良の高血圧、不安定狭心症など)、および5年以内の他のがんの既往である。

治療プロトコールと用量調整: 導入期 (最大4サイクル、3-4週ごと) において、デュルバルマブは1500 mgをDay 1に固定用量で投与する。化学療法の初期用量は、安全性を考慮してカルボプラチン AUC (area under the curve) 4 (Day 1) およびエトポシド 80 mg/m² (Day 1-3) で開始する。第2サイクル以降は、前サイクルの毒性プロファイルに基づき適応的に用量を調整する。前サイクルでGrade 4以上の好中球減少 (4日以上持続)、発熱性好中球減少症、Grade 4以上の血小板減少、またはGrade 3以上の非血液毒性が認められた場合は、カルボプラチン AUC 3およびエトポシド 60 mg/m² (前回用量の75%) に減量する。毒性が認められない場合は、カルボプラチン AUC 5およびエトポシド 100 mg/m²への増量を許容する。G-CSF (granulocyte colony-stimulating factor) の一次・二次予防的投与は許容される。維持期では、デュルバルマブ 1500 mgを4週ごとに病勢進行 (PD: progressive disease) または許容不能な毒性発現まで継続投与する。

統計解析: 主要評価項目である4サイクル完遂率 (忍容性) の閾値は50%と設定された。JCOG 9702試験におけるCE療法の完遂率63%を参考に、PS 2群 (n=41) では期待完遂率50%、閾値33%、片側α=0.1、β=0.2とし、PS 3群 (n=12) では期待完遂率50%、閾値20%、片側α=0.1、β=0.2として、正確二項分布に基づき必要症例数を算出した。副次評価項目である1年生存率については、全解析対象 (n=53) において期待値26%、閾値13%、片側α=0.1で検出力85%を確保するよう設計されている。生存時間解析にはKaplan-Meier法を用いる。