- 著者: Joachim von Pawel, Robert Jotte, David R. Spigel, Mary E. R. O’Brien, Mark A. Socinski, Jörg Mezger, Martin Steins, Léon Bosquée, Jeffrey Bubis, Kristiaan Nackaerts, José M. Trigo, Philip Clingan, Wolfgang Schütte, Paul Lorigan, Martin Reck, Manuel Domine, Frances A. Shepherd, Shaoyi Li, Markus F. Renschler
- Corresponding author: Joachim von Pawel (Asklepios Fachkliniken München-Gauting, Gauting, Germany)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-11-03
- Article種別: Original Article
- PMID: 25385727
背景
小細胞肺癌 (SCLC: small-cell lung cancer) は肺癌の中でも特に悪性度が高く、過去30年間で治療成績の改善は限定的である。初回プラチナベース化学療法後の再発SCLCに対する二次治療は、患者の初回治療に対する感受性(感受性再発、抵抗性、不応性)によって予後が大きく異なることが知られている。現在、トポイソメラーゼI阻害薬であるトポテカンが、初回治療に感受性のある再発SCLCに対する二次治療として米国食品医薬品局 (FDA: Food and Drug Administration) に承認されている唯一の薬剤である。しかし、トポテカンの奏効率 (ORR: overall response rate) は感受性再発で14-24%、不応性で3-6%と低く、全生存期間 (OS: overall survival) 中央値も5.8-8.0ヶ月に留まることが報告されている vonPawel et al. JClinOncol 1999、OBrien et al. JClinOncol 2006、Eckardt et al. JClinOncol 2007。
一方、アムルビシン (AMR) は完全合成9-アミノアントラサイクリン系の強力なトポイソメラーゼII阻害薬であり、日本では再発SCLCに対する適応が承認されている。先行する複数の第II相試験において、AMRは再発SCLC患者に対し有望な活性を示してきた。例えば、プラチナ不応性SCLC患者を対象とした第II相試験では、AMRはORR 21%、OS中央値6ヶ月という結果を報告し Ettinger et al. JClinOncol 2010、またプラチナ感受性SCLC患者を対象としたランダム化第II相試験では、AMRがトポテカンと比較して有意に高いORR (44% vs 15%) と長いOS (9ヶ月 vs 7.6ヶ月) を示した Jotte et al. JClinOncol 2011。これらの結果は、AMRがトポテカンに代わる、あるいはトポテカンよりも優れた二次治療薬となる可能性を示唆していた。しかし、AMRの欧米での承認には、大規模なランダム化第III相試験による有効性と安全性の検証が不可欠であった。再発SCLCに対するAMRとトポテカンを直接比較した大規模な第III相試験はこれまで実施されておらず、その臨床的有用性については依然として未解明な点が残されていた。本試験ACT-1 (Amrubicin Controlled Trial 1) は、AMRの欧米での標準治療としての位置付けを確立することを目指し、再発SCLCに対するAMRとトポテカンを比較する唯一の大規模ランダム化第III相試験として実施された。
目的
初回プラチナベース化学療法後に再発したSCLC患者において、アムルビシン単剤療法のトポテカン単剤療法に対する全生存期間 (OS) における優越性を検証すること。副次的に、無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival)、奏効率 (ORR)、安全性、および生活の質 (QOL: quality of life) を評価することも目的とした。
結果
患者背景とランダム化: 2007年12月から2010年1月にかけて、欧州、カナダ、オーストラリア、米国にある116施設から合計637例の患者が登録され、AMR群 (n=424) とトポテカン群 (n=213) に2:1でランダムに割り付けられた。治療を受けた患者は605例であった (Figure 1)。ITT集団における患者背景およびベースラインの疾患特性は両群間で概ね均衡していたが、AMR群では予後不良因子がわずかに多く認められる傾向があった (Table 1)。年齢中央値はAMR群62歳、トポテカン群61歳であり、男性が約58-60%を占めた。初回治療に対する感受性は、AMR群で感受性53.1%、不応性46.9%、トポテカン群で感受性54.9%、不応性45.1%であった。
主要評価項目 (OS、全体コホート): ITT集団におけるOS中央値は、AMR群で7.5ヶ月 (95% CI 6.8-8.5ヶ月)、トポテカン群で7.8ヶ月 (95% CI 6.6-8.5ヶ月) であった。ハザード比 (HR) は0.880 (95% CI 0.733-1.057) であり、P値は.170であった (Figure 2A)。この結果は、AMRのトポテカンに対するOSにおける優越性を統計学的に証明するには至らなかった。事後解析による非劣性解析では、両群のOSは少なくとも同等であると結論付けられた。また、CPHMを用いた多変量解析では、AMR群でOSに対する治療効果が統計学的に有意であると示唆された (HR 0.82, P=.036)。PP集団におけるOS中央値は、AMR群で8.0ヶ月、トポテカン群で7.5ヶ月であり、HR 0.806 (95% CI 0.654-0.994, P=.043) とAMR群で有意な延長が認められた。
無増悪生存期間 (PFS) および奏効率 (ORR): ITT集団におけるPFS中央値は、AMR群で4.1ヶ月 (95% CI 3.5-4.3ヶ月)、トポテカン群で3.5ヶ月 (95% CI 2.9-4.2ヶ月) であり、AMR群で統計学的に有意な延長が認められた (HR 0.802, 95% CI 0.667-0.965, P=.018) (Figure 3A)。また、全奏効率 (ORR; 完全奏効 [CR: complete response] または部分奏効 [PR: partial response]) は、AMR群で31.1% (CR 1.7%, PR 29.5%)、トポテカン群で16.9% (CR 0.5%, PR 16.4%) と、AMR群で有意に高かった (オッズ比 2.223, P<.001) (Table 3)。奏効期間中央値は両群ともに0ヶ月であった (Figure 3B)。
不応性SCLC患者における有効性: 事前規定の不応性SCLC患者 (n=239) において、OS中央値はAMR群で6.2ヶ月 (95% CI 5.5-6.7ヶ月)、トポテカン群で5.7ヶ月 (95% CI 4.1-7.0ヶ月) であり、AMR群で統計学的に有意なOS延長が認められた (HR 0.766, 95% CI 0.589-0.997, P=.047) (Figure 2C)。不応性患者におけるORRは、AMR群で20.1%、トポテカン群で9.4%と、AMR群で有意に高かった (オッズ比 2.432, P=.024)。PFS中央値は両群で類似しており、AMR群2.8ヶ月、トポテカン群2.6ヶ月であった (HR 0.934, P=.6110)。
感受性SCLC患者における有効性: 感受性SCLC患者 (n=398) において、OS中央値はAMR群で9.2ヶ月 (95% CI 8.5-10.6ヶ月)、トポテカン群で9.9ヶ月 (95% CI 8.5-11.5ヶ月) であり、両群間でOSに統計学的な有意差は認められなかった (HR 0.936, 95% CI 0.724-1.211, P=.615) (Figure 2B)。PFS中央値はAMR群で5.5ヶ月、トポテカン群で4.3ヶ月と、AMR群で有意な延長が認められた (HR 0.671, P=.0023)。ORRはAMR群で40.9%、トポテカン群で23.1%と、AMR群で有意に高かった (オッズ比 2.306, P=.001)。
安全性プロファイル: グレード3以上の治療関連有害事象 (TEAEs: treatment-emergent adverse events) の発生率は、AMR群で74.0%、トポテカン群で89.3%と、AMR群で有意に低かった (P<.001)。最も頻度の高いグレード3以上の血液毒性は好中球減少症であり、AMR群で41.4%、トポテカン群で53.8%であった (P=.004)。貧血 (AMR 15.9% vs TPO 30.5%, P<.001)、白血球減少症 (AMR 15.2% vs TPO 21.8%, P=.044)、血小板減少症 (AMR 21.1% vs TPO 54.3%, P<.001) は、いずれもAMR群で有意に低頻度であった (Table 4)。一方、発熱性好中球減少症はAMR群で10.0%、トポテカン群で3.0%と、AMR群で高頻度であった (P=.003)。グレード3以上の感染症はAMR群で15.7%、トポテカン群で9.6%と、AMR群で有意に高頻度であった (P=.043)。輸血を必要とした患者の割合は、AMR群で32.1%、トポテカン群で52.8%と、AMR群で有意に低かった (P<.001)。グレード3以上の心臓関連TEAEsは両群で同程度であり (AMR 5.1% vs TPO 4.6%, P=.759)、AMRによる累積心毒性は臨床的に有意なレベルでは観察されなかった (Appendix Fig A1)。治療関連死はAMR群で19例 (4.5%)、トポテカン群で4例 (1.9%) であった。
NQO1遺伝子多型解析: NQO1 (NAD(P)H quinone oxidoreductase 1) 遺伝子多型解析は、637例中341例の患者で実施された (Table 2)。NQO1遺伝子多型がAMRの有効性 (OS、ORR) や安全性 (有害事象、好中球絶対数) に与える影響は、本試験では明確に示されなかった。変異ホモ接合体 (*2/*2) の患者数が少なかったため、このサブグループでの詳細な解析は困難であった。
考察/結論
ACT-1試験は、再発SCLCに対する二次治療としてアムルビシン (AMR) とトポテカンを比較した最大規模のランダム化第III相試験である。本試験の主要評価項目であるITT集団におけるOSにおいて、AMRはトポテカンに対する優越性を統計学的に証明できなかった (HR 0.880, P=.170)。この結果は、AMRの欧米での承認申請を阻む決定的な要因となった。
先行研究との違い: しかし、本試験のサブグループ解析では、プラチナ不応性SCLC患者においてAMRがトポテカンと比較してOSを統計学的に有意に延長することを示した (中央値6.2ヶ月 vs 5.7ヶ月; HR 0.766, P=.047)。この結果は、過去の第II相試験 Ettinger et al. JClinOncol 2010 で報告された不応性SCLCにおけるAMRの活性と一貫しており、予後不良なこのサブセットにおけるAMRの臨床的有用性を確証するものである。一方、プラチナ感受性SCLC患者では、先行する第II相試験 Jotte et al. JClinOncol 2011 でAMRがトポテカンに対してORRおよびOSで優位性を示唆していたのと異なり、本第III相試験ではOSに有意差は認められなかった (HR 0.936, P=.615)。この差異は、第II相試験における選択バイアスやサンプルサイズの限界、あるいは第III相試験におけるトポテカン群の予期せぬ良好な成績 (ORR 23.1% vs 以前の報告の15%) に起因する可能性が考えられる。
新規性: 本研究は、再発SCLC全体コホートにおいてAMRとトポテカンのOSを直接比較した初の第III相試験であり、AMRがトポテカンと比較して有意に高いORR (31.1% vs 16.9%, P<.001) とPFS (4.1ヶ月 vs 3.5ヶ月, P=.018) を示す一方で、全体OSの優越性には至らないという、これまで報告されていない詳細な有効性プロファイルを明らかにした。奏効率で明確な優位性がありながらOS延長に結びつかなかった背景には、奏効持続期間の短さや、AMR治療後のサルベージ治療へのアクセス、特に感受性再発患者におけるプラチナ再投与の強い活性などが影響した可能性が考察される。
臨床応用: 本試験の結果は、不応性SCLC患者においてAMRがトポテカンと比較してOS延長の可能性を示唆した点で臨床的意義がある。不応性SCLCは治療選択肢が極めて限られており、AMRがこの難治性サブグループにおいて有効な治療選択肢となり得ることを示唆する。しかし、全体コホートでのOS優越性が示されなかったため、AMRは日本以外の国では承認されていない。現在の臨床現場では、lurbinectedin (2020年FDA承認) やtarlatamab (2024年DLL3 BiTE承認) など、SCLC二次治療における新規薬剤が登場しており、AMRの位置付けはさらに限定的となっている。
残された課題: 今後の検討課題として、不応性SCLCにおけるAMRの最適な使用ポジション (lurbinectedinやtarlatamabとのシーケンス)、およびAMRの感受性を予測するバイオマーカー (例: SLFN11、トポイソメラーゼIIα発現、NQO1遺伝子多型など) の探索が挙げられる。本試験ではNQO1遺伝子多型とAMRの有効性・安全性との明確な相関は示されなかったが、これは変異ホモ接合体患者の少なさが一因である可能性があり、さらなる研究が必要である。
方法
本試験は、国際多施設共同オープンラベルランダム化第III相試験として実施された。対象患者は、組織学的または細胞学的に確認されたSCLC、プラチナベースの一次治療を2-6サイクル完了後に再発した患者 (感受性再発または不応性再発を含む)、Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status (ECOG PS) 0-2、測定可能病変、および適切な臓器機能を有する18歳以上の成人であった。主要な除外基準には、治療開始前28日以内の胸部放射線療法、アントラサイクリン系薬剤、トポテカン、イリノテカンによる前治療歴、既往の脳転移、症候性中枢神経系転移などが含まれた。
合計637例の患者が、アムルビシン (AMR) 群 (n=424) とトポテカン群 (n=213) に2:1の割合でランダムに割り付けられた。AMR群の患者には、AMR 40 mg/m²が21日サイクルで1日目から3日目まで静脈内投与された。トポテカン群の患者には、トポテカン 1.5 mg/m²が21日サイクルで1日目から5日目まで静脈内投与された。治療は最大6サイクルまで継続され、6サイクル終了時点で病勢安定 (SD: stable disease) 以上の効果が得られた患者はさらに6サイクル追加で治療を受けることが可能であった。ランダム化の層別化因子は、初回治療に対する感受性 (感受性 vs 不応性)、ECOG PS (0-1 vs 2)、および地域であった。
主要評価項目はOSであり、ランダム化からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。主要な副次評価項目には、治験責任医師判定による固形がんの治療効果判定基準 (RECIST: Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) (version 1.0) に基づくORR、治験責任医師判定によるPFS、奏効期間、および安全性 (NCI 有害事象共通用語規準 [CTCAE: Common Terminology Criteria for Adverse Events] version 3.0に基づく有害事象の評価) が含まれた。
サンプルサイズは、AMR群のOS中央値を8.7ヶ月、トポテカン群のOS中央値を6.0ヶ月 (ハザード比 [HR] 0.69) と仮定し、α=0.05 (両側)、検出力97.5%でOSにおける統計学的有意差を検出するために490イベントが必要と算出された。追跡不能患者や行政的打ち切りを考慮し、約620例の患者が必要とされた。プロトコル改訂により、両治療群の全サイクルで予防的顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF: granulocyte-colony stimulating factor) など造血成長因子の使用が義務付けられ、感染症リスクの高い患者には予防的抗菌薬が推奨された。腫瘍評価は、スクリーニング時および2サイクルごとにCTまたはMRIを用いて実施された。
統計解析には、Intent-to-Treat (ITT) 集団が主要な解析対象集団とされ、Per-Protocol (PP) 集団はITT集団の解析を支持する目的で用いられた。時間-イベント変数にはCox比例ハザードモデル (CPHM) 回帰が、カテゴリカル変数にはロジスティック回帰が用いられた。NAD(P)H quinone oxidoreductase 1 (NQO1) 遺伝子多型解析も探索的に実施された。