• 著者: Vamsidhar Velcheti, Kurt A Schalper, Daniel E Carvajal, Valsamo K Anagnostou, Konstantinos N Syrigos, Mario Sznol, Roy S Herbst, Scott N Gettinger, Lieping Chen, David L Rimm
  • Corresponding author: David L Rimm (Department of Pathology, Yale University School of Medicine)
  • 雑誌: Laboratory Investigation
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2013-11-11
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24217091

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) は、米国における癌関連死の主要な原因であり、その予後は依然として不良である。転移性NSCLCの5年生存率は5%未満、早期NSCLC患者でも50%未満に留まることが報告されている (Detterbeck et al., 2009)。過去10年間で、EGFR変異やALK再配列などの癌遺伝子ドライバー変異の同定により、特定のNSCLC患者サブタイプにおける治療成績は改善された (Petrelli et al., 2009)。しかし、大部分の肺癌患者には標的可能な分子異常が存在せず、新たな治療戦略が求められていた。

近年、免疫療法が臨床試験で注目されており、特にPD-1/PD-L1経路を標的とする免疫チェックポイント阻害薬は、NSCLCを含む複数のがん種で有望な抗腫瘍活性を示している (Sznol et al., 2013; Brahmer et al. NEnglJMed 2012)。腫瘍細胞におけるPD-L1タンパク質発現は、PD-1/PD-L1経路を標的とする治療に対する臨床的奏効を予測するバイオマーカーとして期待されているが、その評価には多くの課題が残されていた。

NSCLCにおけるPD-L1発現の頻度と予後的役割に関する既存のデータは限られており、結果は一貫しないため、この分野には知識のギャップが存在した。一部の小規模な先行研究では、PD-L1発現が不良な予後と関連すると報告されているが (Mu et al., 2011; Konishi et al., 2004; Chen et al., 2012)、他の研究では予後との関連が認められていない (Boland et al., 2013)。このような結果の不一致は、従来のクロモジェニック免疫組織化学 (IHC) を用いたPD-L1評価における課題に起因すると考えられる。具体的には、PD-L1陽性度の評価基準が明確に定義されておらず、使用する抗体やアッセイの変動性、さらには解釈の主観性が問題視されていた。市販されている抗体の特異性や再現性も十分に評価されておらず、客観的かつ再現性の高い測定方法の確立が不足していた。これらの課題は、PD-L1発現を客観的かつ再現性高く測定するための標準化された方法論の確立が不足していることを示唆している。

本研究は、これらの課題を克服するため、定量的免疫蛍光 (QIF) 法とin situ mRNAハイブリダイゼーション (RNAscope法) という、検証済みの再現性の高いアッセイを開発し、2つの独立した大規模NSCLCコホートでPD-L1タンパク質およびmRNA発現の頻度、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) との関連、および予後的意義を系統的に評価することを目的とした。これにより、NSCLCにおけるPD-L1の生物学的役割と臨床的意義をより明確に理解し、将来の免疫療法におけるバイオマーカーとしての可能性を探る基盤を確立することが期待された。

目的

本研究の目的は、非小細胞肺癌 (NSCLC) におけるPD-L1発現を評価するための、検証済み定量的免疫蛍光 (QIF) アッセイ (AQUA法) およびin situ mRNAハイブリダイゼーション法 (RNAscope法) を開発することである。さらに、この確立された方法論を用いて、2つの独立したNSCLCコホートにおいてPD-L1タンパク質およびmRNAの発現頻度、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) との関連性、および全生存期間 (OS) に対する予後的意義を客観的かつ再現性高く評価することを目的とした。これにより、NSCLCにおけるPD-L1の生物学的役割と臨床的意義をより深く理解し、将来の免疫療法におけるバイオマーカーとしての可能性を検討する。

結果

PD-L1抗体およびmRNAアッセイの検証: QIF (定量的免疫蛍光) ベースのPD-L1タンパク質測定法を検証するため、4種類のPD-L1抗体を内因性コントロールおよび細胞株トランスフェクタントで試験した。その結果、5H1抗体のみが、ヒト胎盤の栄養芽細胞層における膜状染色、PD-L1形質導入Mel624細胞における陽性染色、および親株Mel624細胞における陰性染色という特異性基準を満たした (Figure 1a, b)。他の3抗体 (29E.2A3、MIH1、Abcam製ポリクローナル抗体) はこのパターンを示さず、特異性が不十分と判断された。抗原賦活化には、Tris-EDTAバッファー (pH 9.0) と0.05% Tweenを用いた102℃、20分間の加圧沸騰処理という特殊な条件のみが、一貫した染色結果を提供した。PD-L1 mRNAのin situ検出にはRNAscope法が用いられ、PD-L1形質導入Mel624細胞とヒト胎盤でのみ高発現が確認され、陰性対照である細菌DapB mRNAは全例で低シグナルであった (Figure 1a, b)。ラン間再現性は線形回帰係数R² > 0.7と高く、アッセイの堅牢性が確認された。しかし、同じ症例の異なるTMAコア間の線形回帰係数は0.53および0.59であり、PD-L1発現における腫瘍内異質性の存在が示唆された (Figure 2a, bのインセット)。

PD-L1発現頻度と臨床病理学的特徴との関連: PD-L1タンパク質発現は、ギリシャコホートの評価可能303例中75例 (24.8%)、イェールコホートの評価可能155例中56例 (36.1%) で高発現と判定された (Table 1)。PD-L1 mRNA高発現は、ギリシャコホートで53.2% (314例中167例)、イェールコホートで50.8% (173例中88例) に認められ、タンパク質発現頻度よりも高かった (Table 2)。これは、翻訳後制御機構の存在を示唆する。イェールコホートでは、PD-L1タンパク質発現と組織型との間に有意な関連が認められ (p=0.004)、扁平上皮癌で腺癌よりも高頻度であった (56.7% vs 27.5%)。ギリシャコホートでは、病期III/IVの症例でPD-L1発現が低頻度の傾向を示した (p=0.011)。PD-L1発現は、年齢、性別、喫煙状況とは関連がなかった (Table 1)。

PD-L1発現と腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の関連: PD-L1タンパク質高発現群は、両コホートにおいてTILスコア高値 (inflammation score 2-3) と有意に相関した (ギリシャコホート p=0.03、イェールコホート p<0.001) (Table 1)。同様に、PD-L1 mRNA高発現群もTIL増多と有意に相関した (ギリシャコホート p=0.0002、イェールコホート p=0.001) (Table 2)。これらの結果は、活性化CD8+ T細胞からのIFN-γシグナルによってPD-L1発現が誘導されるという「適応免疫抵抗性 (adaptive immune resistance)」仮説と整合する。

PD-L1発現と全生存期間 (OS) との関連: PD-L1タンパク質高発現群のOSは、ログランク検定で有意に良好であった。ギリシャコホートでは、PD-L1高発現群のOS中央値は未到達であったのに対し、低発現群では31ヶ月であり (ログランク p=0.028) (Figure 3a)、Cox単変量解析ではハザード比 (HR) 0.61 (95% CI 0.39-0.95, p=0.031) と39%のリスク減少を示した。イェールコホートでも同様に、PD-L1高発現群のOS中央値は60ヶ月に対し、低発現群では27.8ヶ月であり (ログランク p=0.037) (Figure 3b)、HR 0.63 (95% CI 0.40-0.98, p=0.043) と37%のリスク減少が認められた。

PD-L1 mRNA高発現群も同様に、両コホートで有意に良好なOSと関連した (ギリシャコホート ログランク p=0.012、イェールコホート ログランク p=0.003) (Figure 3c, d)。Cox単変量解析では、ギリシャコホートでHR 0.64 (95% CI 0.46-0.90, p=0.011)、イェールコホートでHR 0.50 (95% CI 0.30-0.82, p=0.006) と、それぞれ36%および50%のリスク減少を示した。高TIL (inflammation score 2-3) 群も、両コホートで有意に良好な予後と関連した (ギリシャコホート ログランク p=0.015、イェールコホート ログランク p=0.009) (Figure 3e, f)。多変量Cox比例ハザード解析では、PD-L1タンパク質発現は病期およびTILから独立した予後因子であることが確認された (p=0.05およびp=0.06)。PD-L1 mRNA発現は、イェールコホートでは病期、組織型、TILから独立した因子であったが (p<0.001)、ギリシャコホートでは独立した因子ではなかった (p=0.214)。

PD-L1タンパク質とmRNAの相関: 同一症例内でのPD-L1タンパク質とmRNAの相関は、Spearman相関係数0.33 (ギリシャコホート、p<0.001) および0.18 (イェールコホート、p=0.04) と中等度であった (Figure 2c, dのインセット)。mRNA高発現率がタンパク質高発現率よりも約20-25%高いことから、翻訳効率の差、翻訳後修飾、またはタンパク質分解経路を含む多段階の転写後制御の存在が示唆された。

考察/結論

本研究は、非小細胞肺癌 (NSCLC) におけるPD-L1発現の客観的かつ再現性の高い定量プロトコルを確立し、その予後的意義を大規模な2つの独立コホートで評価した。従来の免疫組織化学 (IHC) が使用抗体や抗原賦活化条件によって結果が大きく変動するという課題に対し、本研究は特異性検証済み5H1抗体と定量的免疫蛍光 (QIF)-AQUA法、およびRNAscope in situ mRNA法を用いることで、これらの課題を克服した。

先行研究との違い: 過去の小規模研究ではPD-L1発現が不良な予後と関連すると報告されたものも存在したが (Mu et al., 2011; Konishi et al., 2004)、本研究の結果はこれらと対照的であり、PD-L1発現が両コホートで一貫して良好な全生存期間 (OS) と関連することを示した。この違いは、先行研究における抗体特異性の欠如、アッセイの再現性の問題、および発現の異質性の評価不足に起因する可能性が高い。例えば、Dong et al. NatMed 2002はB7-H1 (PD-L1) がT細胞のアポトーシスを促進し免疫回避に寄与することを示唆したが、本研究はNSCLCにおいてPD-L1発現がむしろ良好な予後と関連することを示し、がん種特異的な生物学的文脈の存在を示唆する。

新規性: 本研究で初めて、検証済み5H1抗体を用いたQIF-AQUA法とRNAscope in situ mRNA法により、NSCLCにおけるPD-L1タンパク質およびmRNA発現を客観的かつ定量的に評価する再現性の高いアッセイを確立した。また、PD-L1発現が腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の増加と有意に相関し、病期や組織型から独立して良好な予後因子であることを、2つの大規模独立コホート (計544例) で一貫して再現性高く示した点は新規性がある。これは、PD-L1発現が「適応免疫抵抗性 (adaptive immune resistance)」のサイン、すなわち既存の抗腫瘍免疫応答の存在を示すマーカーとして機能しているという仮説を強く支持する。Taube et al. SciTranslMed 2012Spranger et al. SciTranslMed 2013もメラノーマにおいて同様の適応免疫抵抗性メカニズムを示唆しており、本研究はNSCLCにおいてもこのメカニズムが機能していることを裏付けた。

臨床応用: 本研究の知見は、PD-1/PD-L1経路を標的とする免疫チェックポイント阻害薬の臨床応用において重要な含意を持つ。PD-L1発現腫瘍が良好な予後を示すことは、これらの腫瘍が既存の免疫応答を受けており、チェックポイント阻害薬によってその応答が強化される可能性が高いことを示唆する。したがって、PD-L1発現は、後のTopalian et al. NEnglJMed 2012Brahmer et al. NEnglJMed 2012といった臨床試験でPD-L1 IHCがコンパニオン診断薬として開発される基盤を提供した。本研究で確立されたQIF-AQUAベースのPD-L1定量法は、将来の臨床試験におけるバイオマーカー評価の標準化に貢献し、患者選択の精度向上に繋がる臨床的有用性を持つ。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、本研究はレトロスペクティブに収集されたサンプルと情報のみを含んでおり、治療法の変動による潜在的なバイアスが残された課題である。しかし、異なる大陸の2つのコホートで結果が一致したことは、この観察が治療に依存しない可能性を示唆する。第二に、TMAを用いた研究であるため、腫瘍内異質性を過小評価する可能性がある。単一のコア評価では限界があるため、今後の研究では全切片を用いた評価や、視野ごとの異質性測定により、PD-L1発現をより正確に代表する評価方法を確立する必要がある。第三に、PD-L1タンパク質とmRNAの相関が完全ではない (Spearman相関係数0.33-0.18) ことから、翻訳後制御の存在が確認された。タンパク質とmRNAのどちらが臨床的に優れたバイオマーカーであるか、さらなる比較検討が今後の課題である。これらの課題を克服することで、PD-L1がNSCLC患者の予後予測および免疫療法への奏効予測におけるバイオマーカーとしての価値をさらに明確にできるだろう。

方法

本研究では、ギリシャコホート (340例、1991-2001年にソティリア総合病院などで収集) とイェールコホート (204例、1988-2003年にイェール大学で収集) の2つの独立した非小細胞肺癌 (NSCLC) FFPE組織コホートを用いた。これらの組織は0.6 mm径の組織マイクロアレイ (TMA) フォーマットに組み込まれた。

抗体検証とアッセイ開発: 試薬の滴定、アッセイの検証、および再現性評価のために、PD-L1形質導入Mel624細胞、親株Mel624細胞、ヒト胎盤、扁桃、および既知のPD-L1陽性NSCLC症例を含む「インデックス」TMAを構築した。PD-L1検出には、Abcam製ウサギポリクローナル抗体ab58810、Ebioscience製MIH1、Biolegend製29E.2A3、およびLieping Chen研究室製マウスモノクローナル抗体5H1の4種類の抗体をスクリーニングした。特異性検証基準は、PD-L1形質導入Mel624細胞での陽性染色、親株Mel624細胞での陰性染色、および胎盤絨毛膜栄養芽細胞層での膜状染色とした。その結果、5H1抗体のみがこれらの基準を満たし、その後の評価に使用された。抗原賦活化には、Tris-EDTAバッファー (pH 9.0) と0.05% Tweenを含む溶液中で、102℃で20分間の加圧沸騰処理という特殊な条件が、一貫した染色結果をもたらすことが判明した。

定量的免疫蛍光 (QIF) 測定: 5H1抗体を用いてAQUA法によるQIF測定を実施した。腫瘍細胞区画は、パンサイトケラチン (AE1/AE3) 抗体による共染色で同定された。PD-L1 AQUAスコアは、定義された細胞区画内のPD-L1ピクセル強度をその区画の面積で割ることにより算出された。画像取得時の露光時間とビット深度でスコアを正規化し、異なる露光時間で収集されたスコアを比較可能とした。

in situ mRNAハイブリダイゼーション: PD-L1 mRNAのin situ検出は、RNAscopeアッセイ (Advanced Cell Diagnostics) を用いて蛍光検出と組み合わせて実施された。5μm厚の切片を脱パラフィン後、前増幅試薬で15分間沸騰させ、プロテアーゼ消化後にヒトPD-L1、陽性対照としてユビキチンC (UbC)、陰性対照として細菌遺伝子DapBの標的プローブ混合物と2時間ハイブリダイゼーションさせた。ハイブリダイゼーションシグナルはCy5-チアミドで検出され、広域スペクトルウサギ抗ウシサイトケラチン抗体 (Dako) とAlexa-546結合ヤギ抗ウサギ二次抗体で腫瘍細胞を同定した。核はDAPIで染色された。UbCスコアが100未満の症例は、mRNA分解の可能性から解析から除外された。

腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 評価: TILの程度は、ヘマトキシリン・エオシン染色されたTMA標本上で、2人の病理医が盲検下で4段階スケールを用いて半定量的にスコアリングした。

PD-L1発現のカットオフ: PD-L1タンパク質発現のカットオフは、正常肺組織および陰性対照FFPEサンプルにおける最初のシグナル検出閾値を超えるAQUAスコアとして定義された。PD-L1 mRNA発現のカットオフは、陰性対照であるDapB細菌mRNAの平均AQUAスコアを基準とした。

再現性と異質性: ラン間再現性は、独立した実行間の線形回帰係数 (R² > 0.7) で確認された。腫瘍内異質性は、同じ症例の異なるTMAコア (少なくとも3mm離れた場所から採取) 間の測定値の相関により評価された。

統計解析: 患者特性は、連続変数にはt検定、カテゴリ変数にはχ²検定を用いて比較された。高PD-L1群と低PD-L1群間のOSは、ログランク検定を用いて比較された。PD-L1がOSに及ぼす影響を検討するため、病期、組織型、およびTILで調整した多変量Cox比例ハザードモデルが構築された。統計解析にはSPSSバージョン19が使用された。