• 著者: Ricciuti B, Kravets S, Dahlberg SE, Umeton R, Albayrak A, Subegdjo SJ, Johnson BE, Nishino M, Sholl LM, Awad MM
  • Corresponding author: Awad MM (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA)
  • 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30922388

背景

進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) は、初回化学療法に対して高い奏効を示すものの、ほぼ全ての患者で再発をきたし、5年生存率は5%未満と極めて予後不良な疾患である。過去数十年にわたり、SCLCに対する有効な全身療法開発は限定的であった。近年、Antonia et al. LancetOncol 2016によって実施されたCheckMate 032試験では、PD-1阻害薬ニボルマブ単剤およびニボルマブとCTLA-4阻害薬イピリムマブの併用療法が、再発・難治性SCLC患者の一部で有望な抗腫瘍活性を示すことが報告された。具体的には、ニボルマブ単剤で11%、併用療法で23%の客観的奏効割合 (ORR) が認められ、2年全生存率 (OS) はそれぞれ14%および26%であった。これらの結果に基づき、ニボルマブ単剤はプラチナ製剤ベースの化学療法後に病勢進行したSCLC患者に対して迅速承認された。さらに、Ott et al. JClinOncol 2017によるKEYNOTE-028試験では、PD-L1陽性SCLC患者24例に対するPD-1阻害薬ペムブロリズマブのORRが33%であった。また、Horn et al. NEnglJMed 2018によるIMpower133試験では、ES-SCLCの初回治療としてPD-L1阻害薬アテゾリズマブとプラチナ/エトポシド併用化学療法の追加がOSを改善することが示された。しかし、これらの免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療から恩恵を受けるSCLC患者を特定するための臨床的に利用可能なバイオマーカーは、依然として不足しているのが現状である。

非小細胞肺癌 (NSCLC) や悪性黒色腫、尿路上皮癌など、いくつかの腫瘍タイプでは、非同義体細胞変異の数が多い、すなわち腫瘍変異負荷 (TMB) が高い癌は、免疫細胞によって認識・標的化されるネオアンチゲン量が多く、ICIに対する奏効割合が高いことが報告されている Rizvi et al. Science 2015Snyder et al. NEnglJMed 2014LeDung et al. Science 2017。SCLCは喫煙との関連が強く、癌種の中でも最も高い変異負荷を示すことが知られている Alexandrov et al. Nature 2013Hellmann et al. CancerCell 2018によるCheckMate 032試験の探索的解析では、全エクソームシーケンシング (WES) で評価された高TMBがSCLCにおけるICI奏効と相関することが示された。しかし、WESは高度な情報科学的専門知識とペアとなる正常検体のシーケンシングを必要とするため、臨床現場での実装は困難であるという課題が残されている。一方、標的次世代シーケンシング (NGS) は、TMBを推定するための比較的迅速で費用対効果の高い、臨床的に利用可能なツールであり、NGSとWESによるTMB評価の間には良好な相関があることが報告されている Chalmers et al. GenomeMed 2017Zehir et al. NatMed 2017。しかし、標的NGSによって評価されたTMBが、SCLC患者におけるICIの有効性と関連するかどうかは、これまで未解明であった。SCLCにおけるICIの有効性を予測するバイオマーカーは依然として不足しており、臨床的に利用可能なTMB評価法の確立が喫緊の課題である。

目的

本研究の目的は、再発または難治性の小細胞肺癌 (SCLC) 患者において、Dana-Farber Cancer Institute (DFCI) のOncoPanel標的次世代シーケンシング (NGS) プラットフォームによって評価された腫瘍変異負荷 (TMB) が、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療の有効性 (客観的奏効割合 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)) と関連するかどうかを検証することである。また、TMBがICI治療に特異的な予測バイオマーカーであるかを評価するため、ICI治療を受けていないSCLC患者コホートにおけるTMBと臨床転帰の関連性も検討する。最終的に、標的NGSがSCLC患者におけるICIの恩恵を予測する臨床的に利用可能なツールとして活用できるかを明らかにすることを目指す。本研究は、SCLC患者におけるICI治療の最適な層別化戦略を確立するための重要なステップとなることを期待する。

結果

患者特性とTMB分布: ICI治療コホート (n=52) の患者中央値年齢は65歳 (範囲: 43〜84歳) であり、94.2%が現在または過去の喫煙者であった。ECOG PSは0〜3の範囲であった。TMBの中央値は9.78 mut/Mb (範囲: 1.33〜31.18) であった。ベースラインの臨床病理学的特性は、TMB high群 (n=26) とTMB low群 (n=26) の間でバランスが取れていた (Table 1)。全コホート134例のTMB中央値は9.68 mut/Mbであった。

TMBとICI奏効の関連: ICI治療コホート (n=52) における全体の客観的奏効割合 (ORR) は15.4% (95% CI: 6.9〜28.1%)、病勢コントロール率 (DCR) は38.5% (95% CI: 25.3〜53.0%) であった。中央フォローアップ期間は24.9ヶ月 (95% CI: 15.9-NR) で、無増悪生存期間 (PFS) 中央値は1.7ヶ月 (95% CI: 1.3〜2.4)、全生存期間 (OS) 中央値は5.9ヶ月 (95% CI: 2.7〜13.2) であった。TMB high群 (n=26) とTMB low群 (n=26) の間でORRに統計的に有意な差は認められなかった (23.1% vs 7.7%、p=0.25) (Figure 1b)。しかし、DCRはTMB high群で有意に高く (57.7% vs 19.2%、p=0.01) (Figure 1b)。最良客観的奏効 (BOR) が部分奏効 (PR) であった患者は、病勢進行 (PD) であった患者と比較して、TMB中央値が有意に高値であった (14.83 mut/Mb vs 8.47 mut/Mb)。PRまたは安定病変 (SD) を達成した患者群は、PDであった患者群と比較して、TMB中央値が有意に高かった (12.74 mut/Mb vs 8.47 mut/Mb、p<0.01) (Figure 1a)。

TMBとPFSの関連: 無増悪生存期間 (PFS) は、TMB high群で3.3ヶ月 (95% CI: 2.0〜5.5) と、TMB low群の1.2ヶ月 (95% CI: 1.1〜1.6) と比較して有意に延長した (HR: 0.37, 95% CI: 0.20〜0.69, p<0.01) (Figure 2a)。TMBを連続変数として解析した場合でも、TMBの上昇はPFSの延長と有意に相関した (HR: 0.91, 95% CI: 0.85〜0.96, p<0.01)。

TMBとOSの関連: 全生存期間 (OS) もTMB high群で有意に延長した。ICI治療開始日から算出したOS中央値は、TMB high群で10.4ヶ月 (95% CI: 8.5-NR) であったのに対し、TMB low群では2.5ヶ月 (95% CI: 1.6〜6.8) であり、4倍以上の差が観察された (HR: 0.38, 95% CI: 0.19〜0.77, p<0.01) (Figure 2b)。初回SCLC病理診断日から算出したOSでも同様の差が認められ、TMB high群で33.9ヶ月、TMB low群で15.6ヶ月であった (HR: 0.39, 95% CI: 0.19〜0.79, p<0.01)。多変量解析において、年齢 (<70歳 vs ≥70歳) およびECOG PS (0-1 vs ≥2) で調整後も、TMB highはOSの有意な延長と関連した (HR: 0.47, 95% CI: 0.22〜0.97, p=0.04)。TMBを連続変数として解析した場合でも、TMBの上昇はOSの延長と有意に相関した (HR: 0.89, 95% CI: 0.83〜0.96, p<0.01)。

TMB三分位解析による用量反応性: ICI治療コホートをTMBの三分位に層別化すると、TMBの増加に伴いPFSおよびOSが段階的に改善する傾向が認められた (Figure 3a, 3b)。PFS中央値は、TMB lower群で1.3ヶ月 (95% CI: 0.9〜2.7)、TMB middle群で1.5ヶ月 (95% CI: 1.0〜9.6)、TMB upper群で3.8ヶ月 (95% CI: 1.6-NR) と増加した (p=0.03)。同様に、OS中央値は、TMB lower群で2.5ヶ月 (95% CI: 2.1〜6.8)、TMB middle群で8.0ヶ月 (95% CI: 1.6〜14.1)、TMB upper群で10.5ヶ月 (95% CI: 5.9-NR) と増加した (p=0.02)。1年PFS率はそれぞれ7.1%、11.1%、37.1%であり、1年OS率は7.1%、40.7%、47.2%であった。

非ICIコホートにおけるTMBと予後: ICI治療を受けなかった進展型SCLC患者61例を対象とした解析では、TMBとPFS (6.2ヶ月 vs 6.2ヶ月, HR: 0.72, 95% CI: 0.40〜1.30, p=0.28) およびOS (11.7ヶ月 vs 10.4ヶ月, HR: 0.84, 95% CI: 0.45〜1.57, p=0.58) の間に有意な関連は認められなかった (Figure 2c, 2d)。この結果は、TMBの予測能がICI治療に特異的であり、SCLCにおけるTMBが予後因子ではなく予測因子として機能することを示唆する。さらに、ICI治療コホートにおける初回化学療法後のPFSにおいても、TMB high群とTMB low群の間で有意差は認められなかった (6.2ヶ月 vs 5.6ヶ月, HR: 0.59, 95% CI: 0.34〜1.04, p=0.07)。TMBを連続変数とし、免疫療法を受けたか否かとの交互作用項を含むCoxモデルでは、高TMBがOS延長に及ぼす影響は免疫療法を受けた患者に限定され、免疫療法を受けなかった患者では生存に影響を与えないことが示された (p=0.04)。

考察/結論

本研究は、再発・難治性SCLC患者において、標的次世代シーケンシング (NGS) によって評価された腫瘍変異負荷 (TMB) が、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療後の無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) の有意な延長を予測することを初めて示した。高TMB群では、低TMB群と比較してPFS中央値が3.3ヶ月 vs 1.2ヶ月 (HR: 0.37, 95% CI: 0.20-0.69, p<0.01)、OS中央値が10.4ヶ月 vs 2.5ヶ月 (HR: 0.38, 95% CI: 0.19-0.77, p<0.01) と、それぞれ2.5倍から4倍以上の生存期間延長が観察された。TMBを三分位に分けた解析でも、TMBの増加に伴いPFSおよびOSが段階的に改善する用量反応性が認められ、1年PFS率 (7.1%から37.1%) および1年OS率 (7.1%から47.2%) の改善が示された。

先行研究との違い: 重要な点として、ICI治療を受けていないSCLC患者コホートではTMBと生存期間の間に有意な関連が認められなかった。この結果は、TMBがSCLCにおける予後因子ではなく、ICI治療に特異的な予測因子として機能するという本研究の仮説を強力に支持するものであり、これまでのICIの有効性予測バイオマーカーに関する研究とは対照的な知見である。先行するHellmann et al. CancerCell 2018によるCheckMate 032試験のWES解析による探索的データと本研究の結果は一致しており、高TMBがSCLCにおけるICIの有効性を予測するという概念を裏付けている。

新規性: 本研究の新規性は、WESではなく、より臨床実装が容易な標的NGSを用いてTMBを評価し、その予測能をSCLCで初めて実証した点にある。標的NGSは、日常の臨床診断で既に広く利用されているため、本知見はSCLC患者の治療選択においてTMBを迅速かつ容易に評価する道を開くものである。PD-L1発現がSCLCにおけるICI有効性を予測しないことは複数の試験で確認されており、Horn et al. NEnglJMed 2018によるIMpower133試験のサブグループ解析でも血液TMBとの相関が認められなかったことから、TMBがより有望なバイオマーカーとなりうる可能性が示唆される。

臨床応用: 本研究の知見は、SCLC患者におけるICI治療の臨床応用において重要な意義を持つ。TMBを標的NGSで評価することで、ICIから最も恩恵を受ける可能性のある患者を特定し、治療の層別化に役立つ可能性がある。SCLCは治療選択肢が限られているため、TMBが低い患者からICIを差し控えるべきではないが、より効果的な治療選択肢が利用可能になった際には、TMBが治療順序を決定する有用なバイオマーカーとなる可能性がある。ICIによる前例のない持続的な奏効がSCLC患者で期待できることから、高TMB腫瘍を迅速に特定するための標的NGSの利用は、患者を遅滞なく免疫療法で治療すべきかを判断する上で極めて有用である。

残された課題: 本研究は後方視的解析であり、比較的小規模なコホートを対象としている点、また異なるPD-1阻害薬単剤またはCTLA-4阻害薬との併用療法など、治療内容の異質性が存在した点がlimitationとして挙げられる。TMB high群とTMB low群の間でORRに有意差が認められなかった点 (23.1% vs 7.7%、p=0.25) は、サンプルサイズ (各26例) の限界による可能性も残されている。今後の検討課題として、前向き試験によるTMBの最適なカットオフ値の確立、WESと標的NGS間でのTMBカットオフ値の統一化、および化学療法と免疫療法の併用療法におけるTMBの役割のさらなる評価が必要である。

方法

本研究は、2014年7月から2018年7月までの期間にDana-Farber Cancer Institute (DFCI) でOncoPanel標的次世代シーケンシング (NGS) を施行された再発または難治性SCLC患者を対象とした後方視的コホート研究である (DF/HCC protocol 02-180)。合計134例のSCLC患者がTMB評価可能な標的NGSを受け、そのうち52例 (38.8%) がICI治療を受けたコホート (ICI治療コホート) に含まれた。残りの82例 (61.2%) はICI治療を受けていない非ICI比較コホートとされた。ICI治療コホートの内訳は、抗PD-1単剤療法 (ニボルマブ24例、ペムブロリズマブ7例) が31例 (59.6%)、ニボルマブとイピリムマブの併用療法が21例 (40.4%) であった。ICI治療は22例 (42.3%) で臨床試験として、30例 (57.7%) で市販薬として投与された。

腫瘍変異負荷 (TMB) は、DFCI OncoPanel NGSプラットフォームを用いて、ゲノムのメガベース (Mb) あたりの体細胞性、コーディング領域の塩基置換および挿入・欠失変異の数として算出された。TMBの中央値は9.68 mut/Mb (範囲: 1.21-31.18) であった。TMB high群は50パーセンタイル超 (>9.68 mut/Mb)、TMB low群は50パーセンタイル以下 (≤9.68 mut/Mb) と定義された。さらに、TMBは三分位に分類され、TMB upper (>12.10 mut/Mb)、TMB middle (8.36〜12.10 mut/Mb)、TMB lower (<8.36 mut/Mb) とされた。

臨床転帰の評価には、RECIST (Response Evaluation Criteria In Solid Tumors) バージョン1.1が用いられ、専門の胸部腫瘍医によって画像がレビューされた。無増悪生存期間 (PFS) は、免疫療法または化学療法開始日から病勢進行または死亡までの期間と定義された。全生存期間 (OS) は、免疫療法開始日から死亡までの期間と定義された。補完的な解析として、OSは初回SCLC病理診断日からも算出された。TMBの予測的性質を検証するため、ICI治療を受けていない患者コホートにおけるTMBと生存転帰の関連性も評価された。

統計解析には、連続変数の記述的要約には中央値と範囲、カテゴリ変数の記述的要約にはパーセンテージが用いられた。連続変数の群間差の検定にはWilcoxon-Rank Sum検定およびKruskal-Wallis検定が、カテゴリ変数の関連性の検定にはFisher’s exact検定が用いられた。イベント発生までの期間分布の推定にはKaplan-Meier法が、標準誤差の推定にはGreenwoodの公式が用いられた。イベント発生までの期間分布の群間差の検定にはログランク検定が用いられ、ハザード比 (HR) の推定にはCox比例ハザードモデルが単変量および多変量解析で適用された。全てのp値は両側検定であり、95%信頼区間 (CI) が用いられ、統計的有意性はp ≤ 0.05と定義された。