• 著者: Koichi Takayama, Shinji Atagi, Fumio Imamura, Hiroshi Tanaka, Koichi Minato, Toshiyuki Harada, Nobuyuki Katakami, Takuma Yokoyama, Kozo Yoshimori, Yuichi Takiguchi, Osamu Hataji, Yuichiro Takeda, Keisuke Aoe, Young Hak Kim, Soichiro Yokota, Hiroshi Tabeta, Keisuke Tomii, Yasuo Ohashi, Kenji Eguchi, Koshiro Watanabe
  • Corresponding author: Koichi Takayama (Kyoto Prefectural University of Medicine)
  • 雑誌: Supportive Care in Cancer
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-03-22
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27003901

背景

癌関連の体重減少 (body weight loss, BW loss) は進行癌患者に高頻度でみられる臨床所見であり、主に筋肉消耗 (muscle wasting) を介して身体機能・performance status (PS) ・quality of life (QOL) の低下をもたらす。これまでの研究のうち O’Gorman et al. は進行消化器癌で体重・食欲・PS・炎症の経時的低下を示し、体重減少が予後因子であることを報告した。Evans et al. (2008) は悪液質を「基礎疾患に伴う代謝症候群であり、脂肪量減少の有無にかかわらず筋肉量の喪失を特徴とする」と定義し、食欲不振・炎症・インスリン抵抗性・性腺機能低下・貧血が複合的に関与すると整理した。Fearon et al. (2011) はこれを国際コンセンサスとして体系化し、悪液質を前悪液質・悪液質・refractory cachexia の3病期に区分した。さらに DeWys et al. (1980) の古典的研究や Ross et al. (2004) の肺癌コホートにより、肺癌では BW loss の頻度が他の悪性腫瘍を上回り、過去30年間一貫して高率であることが示されてきた。しかし、これら先行研究の蓄積にもかかわらず、肺癌領域において癌関連の体重減少に焦点を当てた大規模前向き研究はこれまで存在せず、知見が手薄であった (gap in knowledge)。とりわけ、分子標的薬をはじめとする新規治療が大きく進歩した現代の NSCLC 治療下で、BW loss の臨床的不利益が依然として成立するか否かを検証したエビデンスが不足していた。この空白を埋めるべく、日本の全国規模・多施設の前向き観察研究が企図された。

目的

日本の全国75施設で実施される前向き多施設観察研究 JNUQ-LC (Japan Nutrition and QOL survey in patients with advanced NSCLC) Study / TORG0912 として、治療未施行の進行 NSCLC 患者における BW loss とその関連臨床因子 (QOL・握力・KPS・生化学指標・全生存) との関係を明らかにすること、ならびに癌悪液質を構成する中心的因子を主成分分析により同定することを目的とした。あわせて、現代の抗がん薬治療下でも BW loss の予後・QOL への悪影響が維持されるかを検証した。

結果

体重減少と QOL 悪化の有意な相関:2010年2月から7月に466例が登録され、BW データ欠損の60例を除く406例 (男性280例、女性126例、mean ± SD 年齢 67.0 ± 10.1 歳、中央値67歳、range 33-87) が解析対象となった (Table 1)。406例を BW loss 量で4分位に分割し (第1四分位 ≤2.3%・第2四分位 2.3-6.1%・第3四分位 6.1-10.9%・第4四分位 >10.9%、各 n=100 前後)、MDASI-J スコア変化との回帰係数は -0.0291 (P=0.0002) で、BW loss が大きいほど QOL が有意に悪化した (Fig 1)。MDASI-J の4サブスケールすべてで有意な相関がみられ、症状重症度 -0.5268 (P=0.0007) ・日常活動障害 -0.3795 (P=0.0003) ・倦怠感 -0.2596 (P=0.0077) ・食欲不振 -0.2652 (P=0.0038) であった。

QOL-ACD・KPS・握力との一貫した相関:別の QOL 尺度 QOL-ACD でも全体スコアの回帰係数 0.0631 (P<0.0001) と有意な相関を示し、4サブスケール (日常活動 0.1234・身体状態 0.2238・心理状態 0.1700・社会性 0.1509、すべて P≤0.0017) および全般 QOL を評価する face scale (0.8457、P<0.0001) でも一貫した関連が確認された。KPS 変化との回帰係数は 0.0363 (P<0.0001) であり、BW loss が大きいほど PS が悪化した。HGS 変化との回帰係数は非利き手 0.4363 (P<0.0001) ・利き手 0.3915 (P<0.0001) で、特に非利き手で強い握力低下を伴った。

生化学指標との相関と炎症・低栄養の関与:BW loss は複数の生化学指標と有意に相関し、リンパ球数 0.1312 (P<0.0001) ・hemoglobin 0.7364 (P<0.0001) ・albumin 2.2637 (P<0.0001) ・triglycerides 4.6048 (P=0.0011) ・IGF-1 0.0218 (P=0.0023) ・leptin 10.8947 (P=0.00358) と正相関し、CRP -1.2260 (P=0.0016) とは逆相関した。一方、IL-6・acyl-ghrelin・des-acyl-ghrelin・副甲状腺ホルモン関連蛋白 (parathyroid hormone-related protein) とは相関がみられず、これは一部に症例数の少なさが寄与したと考えられた。これらの結果は全身炎症・低栄養・貧血が不随意の体重減少の共因子であることを支持する。

病勢進行が体重減少を駆動し発生は持続的:BW loss に関連する因子として病勢進行 (progressive disease, PD) ・抗がん薬治療・栄養療法を検討した。PD 群は非 PD 群より BW loss が高頻度で生じ、relative risk 1.30 (95% CI 1.08-1.58、P=0.0254) であった。抗がん薬の種類 (プラチナ併用・非プラチナ・分子標的) による差は認めなかった。52週の観察期間を4期に分けると ≥5% の BW loss 発生率は第1期0.248・第2期0.280・第3期0.263・第4期0.288と各期でほぼ均等で、第1期を基準とした発生率比はいずれも有意差を認めず (第2期1.127・第3期1.059・第4期1.158、すべて P>0.05) であり、体重減少が治療開始早期から52週を通じて持続的に発生することを示した (Table 2)。

生存への独立した悪影響と悪液質中心4因子の同定:全体の median survival (median OS) は 1.15年 (中央追跡1.06年、N=384) で、BW loss 4分位間で OS が有意に異なった (第1 vs 第3四分位 P=0.0011、第1 vs 第4四分位 P<0.0001) (Fig 2)。Cox 比例ハザードモデルで BW loss と mGPS はいずれも独立した予後不良因子と確認された。一方、登録6か月前の事前 BW loss (約7.4%) では OS に有意差を認めなかった (P=0.1524)。主成分分析では、impact の高い4因子として食欲不振 0.825・倦怠感 0.749・BW loss 0.654・握力低下 0.592 が抽出され (Table 3)、GEE 解析でこれら4因子の進行が QOL 悪化に強く寄与した (すべて P<0.01)。

考察/結論

本研究は、進行 NSCLC 患者における BW loss・QOL 悪化・予後不良の相互関連を国内最大規模の前向き観察研究として実証した。BW loss は QOL・KPS・握力・生化学指標のすべてで悪化と一貫して関連し、mGPS とは独立した予後因子であることが Cox モデルで確認された。これまでの研究では肺癌に焦点を当てた大規模前向きデータが存在せず、DeWys らや Ross らの後方視的知見にとどまっていたのに対し、本研究は前向き設計で体重減少の臨床的影響を定量した点で既報と異なる。新規性として、分子標的薬を含む現代の抗がん薬治療下においても BW loss の不利益が変わらないことを本研究で初めて大規模前向きに示し、これまで報告されていない持続的・均等な発生動態を明らかにした。主成分分析で同定された「食欲不振・倦怠感・BW loss・握力低下」の4つの悪液質中心因子は、Evans および Fearon らの国際的悪液質定義と整合的でありながら、日本人 (Asian) 集団の実証データとして独自の価値を持つ。Fearon らは BMI <20 kg/m^2 を含む体格依存の診断基準を提唱したが、Asian は欧米人より痩せ型・小柄であるため基準の検証が必要である点も本研究は指摘する。臨床応用の観点では、体重は安価かつどこでも測定可能であり、refractory cachexia に進む前の早期モニタリングと早期介入の根拠となる。早期緩和ケアが NSCLC 患者の生存を延長した報告とも整合し、bench-to-bedside の橋渡しとして新規抗悪液質薬 (アナモレリン等) の開発を支持する。限界 (limitation) として、化学療法毒性と悪液質症状の識別困難、栄養療法施行例の少数による効果評価不足、BW loss の寄与度を定量できていない点が挙げられる。今後の課題として、GEE や反復測定 ANOVA による寄与度の定量と、予防的介入が各因子の悪化を抑制しうるかの検証が残された。本試験は、同一研究グループによるアナモレリン日本開発プログラム (Katakami et al. Cancer 2018Takayama et al. SupportCareCancer 2016) の背景エビデンスとして重要な位置を占め、悪液質の体系的マネジメント指針 (Roeland et al. JClinOncol 2020Arends et al. ESMOOpen 2021) や分子病態の理解 (Argiles et al. NatRevCancer 2014) へとつながる。

方法

多施設共同・前向き・観察研究であり、UMIN-CTR (University Hospital Medical Information Network Clinical Trial Registry) に登録番号 UMIN000003630 として登録された。対象は UICC 第7版に基づく病理学的に確認された stage IV の NSCLC 患者で、20歳以上・化学療法未施行・ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) 0-2 を適格とした。手術予定例、QOL 質問票や握力測定 HGS (handgrip strength) が不能な例、重度消化器疾患・コントロール不良の糖尿病/精神疾患を有する例は除外した。ベースライン (治療開始前2週間以内) と治療開始後4週ごと52週間にわたり、体重・HGS・QOL 質問票 MDASI-J (Japanese version of the M.D. Anderson Symptom Inventory) および QOL-ACD (QOL questionnaire for cancer patients treated with anticancer drugs) ・Karnofsky Performance Scale (KPS) ・生化学指標 (albumin・C-reactive protein, CRP・hemoglobin・triglycerides・insulin-like growth factor-1, IGF-1・leptin 等) を測定した。栄養状態の炎症ベース指標として modified Glasgow prognostic score (mGPS) を CRP と albumin から算定した。統計解析では、BW 変化と各パラメータの関係を単純・重回帰分析 (simple and multiple linear regression) と構造方程式モデリング (structural equation modeling) で評価し、悪液質の中心因子抽出に主成分分析 (principal component analysis) を、QOL 悪化との時系列関連に一般化推定方程式 (generalized estimating equation, GEE) を用いた。生存解析には Kaplan-Meier 法・log-rank 検定・Cox 比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) を、群間比較に Fisher の正確検定を適用した。p<0.05 を有意とし、解析は SAS version 9.2/9.3 で実施した。McDonald の適合度指標 >0.95 を選択基準とし、検出力80%・脱落率30%を見込んで目標症例数を440例とした。