- 著者: Sato J, Satouchi M, Itoh S, Okuma Y, Niho S, Mizugaki H, et al.
- Corresponding author: Noboru Yamamoto (National Cancer Center Hospital, Tokyo)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2020
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (Phase 2 Trial)
- PMID: 32502444
背景
胸腺癌は稀な悪性腫瘍であり、その発生率は約0.02/10万人年と極めて低い。進行・転移性胸腺癌患者の約30%は診断時にすでに進行期にあり、予後不良である。このような患者群において、細胞傷害性化学療法は病勢コントロールの延長に用いられてきたが、プラチナベース化学療法後の標準二次治療は未確立であった。複数の後向き研究および第2相試験により、細胞傷害性薬剤、免疫チェックポイント阻害薬、分子標的薬の有効性が探索されてきたが、いずれも前向き試験の規模が小さく、胸腺癌に特異的な強固な前向きエビデンスは不足していた。
血管内皮増殖因子 (VEGF) は腫瘍血管新生において重要な役割を担い、様々な癌種で予後不良因子として知られている。VEGF受容体 (VEGFR) は主にVEGFR1、VEGFR2、VEGFR3に分類され、VEGFR2の発現はVEGF誘導性血管新生の重要なメディエーターである。胸腺癌においては、VEGFR2およびPDGFR-αの活性化が報告されており、VEGFRを標的とする治療法への期待が高まっていた。実際、マルチキナーゼ阻害薬であるスニチニブマレートは、胸腺癌患者23例を対象とした第2相試験において、客観的奏効率 (ORR) 26% (Thomas et al. LancetOncol 2015) を示すなど、一定の抗腫瘍活性が確認されていた。しかし、これらの先行研究は小規模であり、胸腺癌に特化した大規模な前向き試験は不足していた。
レンバチニブは、VEGFR1-3、FGFR1-4、RET、c-KIT、PDGFRαを標的とする経口マルチターゲットキナーゼ阻害薬であり、複数の癌種で抗腫瘍活性を示している。放射性ヨウ素治療抵抗性甲状腺癌では、SELECT試験により承認・推奨用量24 mg/日が確立されており、高血圧や蛋白尿などの主要な有害事象が用量調整により管理可能であることが示されていた。本REMORA試験は、2014年6月の試験計画時点でレンバチニブの胸腺癌に対する前向き試験が皆無であったことを確認した上で立案された、胸腺癌に特化した初の多施設共同第2相試験である。これにより、プラチナ既治療の進行・転移性胸腺癌に対する新たな治療選択肢を確立するための重要なギャップを埋めることが期待された。これまでの治療選択肢が限られており、新たな治療モダリティの導入が切望されていた状況において、レンバチニブの有効性と安全性を前向きに評価することは、臨床的意義が大きいとされた。
目的
本REMORA試験の目的は、プラチナベース化学療法後に増悪した進行性または転移性胸腺癌患者を対象として、レンバチニブ24 mg/日経口投与の抗腫瘍活性と安全性を評価することである。主要評価項目は、独立中央判定による客観的奏効率 (ORR) と設定された。副次評価項目として、局所医師判定によるORR、病勢コントロール率 (DCR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性が評価された。本試験は、標準治療が確立されていない胸腺癌の二次治療において、レンバチニブが新たな治療選択肢となる可能性を検証することを目的とした。特に、稀少癌である胸腺癌において、前向き試験によるエビデンスが不足している現状を鑑み、レンバチニブの臨床的有用性を明確にすることが本研究の重要な目標であった。
結果
主要エンドポイント (ORR・DCR): 全42名の患者がITT解析対象となった。独立中央判定による主要エンドポイントである客観的奏効率 (ORR) は38% (90% CI 25.6-52.0, p<0.0001) であり、試験の事前設定主要エンドポイントを達成した。最良総合効果の内訳は、部分奏効 (PR) 16例 (38%)、安定 (SD) 24例 (57%)、病勢進行 (PD) 2例 (5%) であり、完全奏効 (CR) は認められなかった。病勢コントロール率 (DCR) は95% (95% CI 83.8-99.4) であった。局所医師判定によるORRも38% (95% CI 23.6-54.4) と独立中央判定の結果と一致した。SWOG 2段階デザインの第1段階では、登録された20名中7例 (35%) がPRを達成し、第2段階への移行基準(1例以上の奏効)を満たした。ウォーターフォールプロットでは、大多数の患者で腫瘍縮小が確認された (Figure 1)。
奏効持続性と生存アウトカム: 奏効例における初回奏効までの期間中央値は2.0ヶ月 (IQR 1.1-3.9) であり、奏効持続期間中央値は11.6ヶ月 (95% CI 5.8-18.0) であった。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は9.3ヶ月 (95% CI 7.7-13.9) であり、12ヶ月PFS確率は41% (95% CI 25.8-54.7) であった。全生存期間 (OS) 中央値はデータカットオフ時点(2019年2月22日)で未到達であった (95% CI 16.1-NR)。12ヶ月OS確率は83% (95% CI 68.2-91.7) と良好な結果を示した (Figure 4)。追跡期間中央値は15.5ヶ月 (IQR 13.1-17.5) であり、データカットオフ時点で14例 (33%) がレンバチニブ投与を継続中であった。治療サイクル数中央値は9.5 (range 2-24)、治療期間中央値は8.8ヶ月 (IQR 5.6-15.6) であった。28例 (67%) が病勢進行により治療を中止し、そのうち15例 (36%) が死亡した。
患者背景と治療前歴: 登録された42名の患者の年齢中央値は55.5歳 (IQR 49.0-65.0) で、男性が29例 (69%) を占めた。ECOG PS 1の患者が29例 (69%) であった。組織型では扁平上皮癌が30例 (71%) と最も多く、次いで腺癌5例 (12%)、未分化癌4例 (10%)、その他の稀な胸腺癌3例 (7%) であった。Masaoka-Koga分類による病期は、IVbが22例 (52%)、IVaが13例 (31%)、IIIbが3例 (7%)、I-IIIaが4例 (10%) であった。前治療歴として、手術歴のある患者が14例 (33%)、放射線治療歴のある患者が17例 (40%) であった。一次治療としては、カルボプラチンとパクリタキセルの併用療法が30例 (71%) で最も多く用いられていた。2ライン以上の化学療法歴がある患者は25例 (60%) であり、免疫チェックポイント阻害薬の前治療歴がある患者は3例 (7%) であった。全患者がレンバニブ開始時にVEGFR標的薬の前治療歴はなかった (Table 1)。
安全性プロファイルと用量管理: 全グレードの治療関連有害事象として、高血圧が37例 (88%)、手足症候群が29例 (69%)、血小板減少が22例 (52%)、下痢が21例 (50%)、ALT上昇が11例 (26%)、AST上昇が12例 (29%) が頻度上位を占めた。グレード3以上の主な有害事象は、高血圧27例 (64%)、手足症候群3例 (7%)、好中球減少2例 (5%) であった。グレード3の薬剤性肺臓炎が1例 (2%) に発生したが、ステロイド投与により改善した。大腸穿孔、左心室機能障害、肺臓炎、腹痛、電解質異常、肺炎などを含む重篤な有害事象が8例 (19%) に発生した。治療関連有害事象による死亡は0例であった。有害事象による投与中止は7例 (17%) であり、その原因には腸管穿孔、心室機能障害、肺臓炎、関節痛、気胸などが含まれた。全患者が少なくとも1段階の用量減量(24→20→14→10→8→4 mg/日の6段階)を経験しており、主な理由は高血圧、蛋白尿、手足症候群であった。柔軟な用量減量スキームが治療継続性を支え、全患者が試験を継続できたことが示唆された (Table 3, Table 4)。
サブグループ解析と患者特性別活性: 事前に規定されたサブグループ解析では、年齢(65歳以上 vs 未満)において、ORRは65歳以上で4/11例 (36%, 95% CI 10.9-69.2)、65歳未満で12/31例 (39%, 95% CI 21.8-57.8) と同等の活性が示された。体重別(58 kg未満 vs 58 kg以上)でも、ORRは58 kg未満で5/14例 (36%, 95% CI 12.8-64.9)、58 kg以上で11/28例 (39%, 95% CI 21.5-59.4) と同様の傾向が認められた。事後サブグループ解析では、扁平上皮癌 (n=30, 71%) と非扁平上皮癌 (n=12, 29%) の間でも一貫した抗腫瘍活性が確認された。ウォーターフォールプロット (Figure 1) およびスパイダープロット (Figure 2) では、ほとんどの患者で何らかの腫瘍縮小効果が確認され、その効果が持続していることが示された。登録からレンバチニブ投与開始までの平均期間は1.2日 (SD 1.3) と短く、迅速な治療導入が可能であった。関節リウマチを有する1例 (2%) や免疫チェックポイント阻害薬既治療の3例 (7%) を含む集団全体で、レンバチニブの活性は維持された。
考察/結論
本REMORA試験は、プラチナ既治療の進行・転移性胸腺癌に対するレンバチニブの有効性と安全性を評価した初の多施設共同第2相試験である。主要評価項目であるORR 38% (p<0.0001) を達成し、DCR 95%、PFS中央値9.3ヶ月、12ヶ月OS確率83%という総合的なアウトカムは、二次治療における臨床的に意義のある抗腫瘍活性を示している。
先行研究との違い: これまでの胸腺癌に対する分子標的薬の試験と比較すると、スニチニブが胸腺癌患者においてORR 26% (Thomas et al. LancetOncol 2015)、ペムブロリズマブがORR 22.5% (Giaccone et al. LancetOncol 2018) を示したのに対し、レンバチニブのORR 38%は同等以上の有望な結果である。特に、既報の多くが後向き研究や単施設試験であったのに対し、本試験は独立中央判定に基づく前向き評価であり、胸腺癌に対するより確実なエビデンスを提供した点で意義が大きい。本研究は、これまでの小規模な試験とは異なり、多施設共同で一定のサンプルサイズを確保した点で、より信頼性の高いデータを提供した。
新規性: 本研究で初めて、レンバチニブがプラチナ既治療の進行・転移性胸腺癌患者において、持続的な抗腫瘍活性を示すことを前向きに実証した。特に、ウォーターフォールプロットで示されたように、ほとんどの患者で腫瘍縮小が認められたことは、レンバチニブが幅広い胸腺癌患者に効果をもたらす可能性を示唆する新規の知見である。このことは、特定のバイオマーカーに依存しない幅広い有効性を示唆する点で、これまでの報告されていない重要な発見である。
臨床応用: 安全性プロファイルについては、グレード3の高血圧が64%に発生したものの、用量減量による管理が全例で可能であり、治療関連死亡は0例であった。有害事象による投与中止率17%は、レンバチニブが既に承認されている他のがん種における報告と概ね一致しており、管理可能なプロファイルであることが確認された。治療継続のための柔軟な用量管理スキームが、治療期間中央値8.8ヶ月という持続的な治療を可能にしたことは、臨床現場での有用性を示す重要な要素である。これらの結果は、レンバチニブがプラチナ既治療の進行・転移性胸腺癌に対する新たな標準二次治療選択肢となる可能性を強く示唆する。
残された課題: 本試験の限界として、サンプルサイズが少数 (n=42) であり、稀少疾患の制約を反映していること、単アーム試験でありランダム化比較対照がないこと、OS中央値が未到達のままデータカットオフを迎えていること、日本単国での試験であり他地域への一般化に注意が必要であること、が挙げられる。今後の検討課題として、OSの成熟データの確認、他のVEGFR-TKI(ソラフェニブ、パゾパニブなど)や免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブ、ニボルマブなど)との直接比較、およびレンバチニブと免疫療法の併用療法の可能性の検討が挙げられる。血管新生阻害が免疫反応に与える影響が示唆されており、レンバチニブとペムブロリズマブの併用療法は、甲状腺癌や肝細胞癌、子宮内膜癌などで検討されており、胸腺癌においても有望な治療開発候補となる可能性がある。本試験の結果は、2020年以降の国際ガイドラインにおいて、胸腺癌二次治療選択肢の一つとしてレンバチニブが位置付けられる根拠となっている。
方法
本試験は、日本国内の8施設(癌センター5施設、大学病院2施設、公立病院1施設)で実施された単アーム第2相試験である(JMACCT JMA-IIA00285、UMIN000026777)。組み入れ基準は、病理学的に確認された切除不能な進行性または転移性胸腺癌(Masaoka-Koga分類ステージIIIa-IVb)、少なくとも1レジメンのプラチナベース化学療法後の病勢進行、年齢20歳以上、ECOG PS 0-1、RECIST v1.1で定義される測定可能病変の存在、および十分な臓器機能(好中球数≥1500/mm³、ヘモグロビン≥9.0 g/dL、血小板≥10.0×10⁴/mm³、総ビリルビン≤1.8 mg/dL、AST/ALT≤100 U/L、血清クレアチニン≤1.5 mg/dLなど)であった。VEGFR標的薬の前治療歴は除外された。
患者にはレンバチニブ24 mg/日を4週サイクルで経口投与し、病勢進行または忍容不能な有害事象が発生するまで継続した。有害事象管理のため、レンバチニブの用量減量段階は24 mgから20 mg、14 mg、10 mg、8 mg、4 mg/日の6段階が設定された。抗腫瘍効果の評価は、主要評価項目である独立中央判定によるORR(RECIST v1.1 Eisenhauer et al. EurJCancer 2009)に基づき実施された。奏効は初回評価から少なくとも4週間後に確認された。副次評価項目には、局所医師判定によるORR、独立中央判定によるDCR、局所医師判定によるPFS、OS、および安全性が含まれた。有害事象はCTCAE v4.03に基づき評価された。
統計解析にはSWOG 2段階デザインが適用された。閾値ORRを10%、期待ORRを25%、検出力80%、片側αエラー5%と設定し、第1段階で20名の患者を登録し、少なくとも1例の奏効が認められた場合に第2段階へ移行し、合計40名の患者を治療することとした。不適格または未治療の患者を考慮し、最終的に合計42名の患者が登録される計画であった。登録期間は2017年4月21日から2018年2月22日までであり、データカットオフは2019年2月22日であった。ORR、DCR、PFS、OSの解析はITT集団で実施され、安全性解析はレンバチニブを1回以上投与された患者を対象とした。ORRの90%および95%信頼区間はClopper-Pearson法を用いて推定され、PFSおよびOSの中央値はカプラン・マイヤー法により推定された。サブグループ解析は、年齢(65歳以上 vs 未満)および体重(58 kg未満 vs 58 kg以上)について事前に規定され、組織型(扁平上皮癌 vs 非扁平上皮癌)については事後解析が実施された。