• 著者: Proto C, Ganzinelli M, Manglaviti S, Imbimbo M, Galli G, Marabese M, Lo Russo G, Garassino MC et al.
  • Corresponding author: Dr Claudia Proto (Fondazione IRCCS Istituto Nazionale dei Tumori, Milan, Italy)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-06-08
  • Article種別: Original Article (Phase II Trial)
  • PMID: 38857846

背景

胸腺上皮腫瘍 (TET) は、年間発症率が10万人あたり0.15例と極めて稀な前縦隔に発生する腫瘍である。TETにはthymoma (WHO分類: type A、AB、B1、B2、B3) と胸腺癌 (TC) が含まれ、TCは最も攻撃的な組織型として知られている Travis et al. JThoracOncol 2015。進行・転移性TCに対する薬物療法では、カルボプラチンとパクリタキセルの2剤併用療法が一次治療の標準的選択肢として広く用いられてきた。しかし、TC単独に絞った質の高い前向き試験はほとんど存在せず、有効な新規治療の開発が喫緊の課題であった。

既報の第II相試験では、未治療TC23例においてカルボプラチンとパクリタキセルの併用療法が奏効率 (ORR) 21.7%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値5.0ヶ月、全生存期間 (OS) 中央値20.0ヶ月を示したと報告されている Lemma et al. JClinOncol 2011。より大規模なWJOG4207L試験 (TC 39例) では、ORR 36%、PFS中央値7.5ヶ月、1年OS率85%が報告された Hirai et al. AnnOncol 2015。これらの結果は一定の有効性を示すものの、進行性TCの予後不良性を考慮すると、さらなる治療成績の改善が求められており、既存の治療法では十分な効果が得られないという課題が残されていた。特に、TCは血管新生が腫瘍の浸潤性や進行度と関連することが示唆されており、抗血管新生療法が有効な治療戦略となる可能性が指摘されていた Serpico et al. AnnOncol 2015

Ramucirumabは血管内皮増殖因子受容体2 (VEGFR2) の細胞外ドメインに対する組換えヒトIgG1モノクローナル抗体であり、VEGFR2結合により下流の血管新生促進シグナルを遮断する。TETsにおいてはVEGFの過剰発現と新生血管密度が腫瘍の浸潤性・進行度と関連することが報告されており、抗血管新生療法の有用性が示唆されていた。Ramucirumabは非小細胞肺癌 (NSCLC) の第III相REVEL試験において、ドセタキセルとの併用で二次治療としての有効性が示されており、パクリタキセルとの相乗効果も報告されている Garon et al. Lancet 2014。さらに、複数の抗血管新生薬 (スニチニブ、ソラフェニブ、レンバチニブ) が、前治療歴のあるTC患者において活性を示すことが報告されている Thomas et al. LancetOncol 2015Sato et al. LancetOncol 2020。こうした生物学的根拠に基づき、イタリアのTYME network (Italian Collaborative Group for the ThYmic MalignanciEs) を中心としたグループが、未治療の進行・転移性TCに対する一次治療として、ramucirumabとカルボプラチン・パクリタキセルの3剤併用療法の有効性と安全性を評価する研究者主導第II相試験RELEVENT (NCT003921671) を立案した。この併用療法は、TCの治療成績を向上させる新たな選択肢となる可能性を秘めているが、その有効性と安全性は未解明であり、大規模な前向き試験による検証が不足していた。

目的

本研究の主要な目的は、未治療の進行・転移性胸腺癌 (TC) 患者を対象に、ramucirumabとカルボプラチン・パクリタキセルの3剤併用療法を一次治療として用いた際の抗腫瘍活性、特に担当医による局所判定に基づく客観的奏効率 (ORR) を評価することである。

副次評価項目として、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性を評価した。また、プロトコル規定の盲検中央放射線学的判定を専門放射線科医がRECIST v1.1とITMIG-mRECIST (International Thymic Malignancy Interest Group-modified RECIST) の両基準に従って後方視的に実施し、局所判定との比較も行った。これらの評価を通じて、本併用療法が未治療進行性TCに対する有効かつ忍容性の高い一次治療選択肢となり得るか否かを明らかにすることを目指した。

結果

患者登録と解析対象: 2018年11月から2023年6月の間に52例がスクリーニングを受け、41例が試験に登録された (Figure 1)。中央病理診断によりTET以外と診断された3例、異なるTET組織型と診断された8例を含む合計11例が除外された。また、適格基準違反の6例を除いた35例 (85%) が有効性および生存解析の対象となった。患者背景は、年齢中央値60.8歳 (Q1-Q3: 44.5-69.9歳)、男性25例 (71.4%)、白人31例 (91.2%) であった。ECOG PS 0が24例 (68.6%)、ECOG PS 1が11例 (31.4%) であった。Masaoka-Koga病期はStage IVAが5例 (14.3%)、Stage IVBが30例 (85.7%) であった。全例がTCと診断され、扁平上皮癌30例 (85.7%)、肉腫様癌1例 (2.9%)、リンパ上皮腫様癌1例 (2.9%)、低分化癌3例 (8.5%) であった (Table 1)。

治療状況: データカットオフ (2023年10月13日) 時点で、10例 (28.6%) が治療継続中であり、うち4例がcombination phase、6例がmaintenance phaseであった。25例が治療中止となり、そのうち4例はcombination phaseを中止 (2例は毒性、2例は外科的適応)、3例は6サイクルのcombination phaseを完了したがmaintenance phaseへ移行しなかった (2例は病勢進行 (PD)、1例は毒性)。maintenance phaseを中止した18例のうち、13例はPD、3例は毒性、2例は外科的適応によるものであった。施行サイクル数中央値は、化学療法phaseで6サイクル (最小2、最大6)、maintenance phaseで10.5サイクル (Q1-Q3: 4.5-24.0) であった。

主要評価項目 (ORR・局所判定): 担当医による局所判定では、35例中28例が部分奏効 (PR) を達成し、ORRは80.0% (95% CI 63.1%-91.6%、二項検定p<0.0001) であった。残る7例 (20.0%) は安定疾患 (SD) が最良効果であった。主要エンドポイントを達成するために必要な18例以上の奏効 (実際は28例) が確認され、試験は統計的に陽性と判定された。奏効期間 (DOR) 中央値は15.7ヶ月 (95% CI 12.5-50.8ヶ月) であった (Figure 3A)。単変量ロジスティック回帰モデルでは、年齢、性別、Masaoka-Koga病期はORRに統計的に有意な影響を示さなかった。

中央放射線学的判定によるORR: 35例中33例が中央判定の評価対象となり (2例はベースラインCT上の標的病変欠如で除外)、RECIST v1.1によるORRは57.6% (95% CI 39.2%-74.5%、p<0.0001) であり、疾患コントロール率 (DCR) は100% (95% CI 89.4%-100.0%) であった。ITMIG mRECISTによるORRは60.6% (95% CI 42.1%-77.1%、p<0.0001) であり、DCRも同様に100%であった。局所判定と中央判定のORRの差 (80.0% vs. 57.6%) は、希少疾患特有の施設間評価差を反映していると考えられる。mRECISTとRECIST v1.1の結果が近似していたことは、TETs特有の評価系の等価性を示した。

PFS・OS: 追跡期間中央値31.6ヶ月 (95% CI 24.0-40.9ヶ月) において、19例 (54.3%) が死亡または疾患進行、11例 (31.4%) が死亡した。PFS中央値は18.1ヶ月 (95% CI 10.8-52.3ヶ月) であり (Figure 3B)、OS中央値は43.8ヶ月 (95% CI 31.9ヶ月-未到達) であった (Figure 3C)。これらの生存期間は、既存のカルボプラチンとパクリタキセル単独試験のPFS 5.0-7.5ヶ月、OS 20.0ヶ月を大幅に上回る成績であり、本レジメンの一次治療における高い有効性を示唆している。

中央病理診断の重要性: スクリーニングされた52例中11例 (21.2%) で、中央病理診断によりTCが確認されなかった。このうち約6% (3/52例) はTET以外の診断であった。この高い不一致率は、TCの正確な病理診断のために専門施設での中央判定が不可欠であることを示した。

安全性プロファイル: 全518件の有害事象 (AE) のうち、薬剤関連有害事象 (AR) は267件であった。グレード別では、G1が168件 (62.9%)、G2が68件 (25.5%)、G3が22件 (8.2%)、G4が9件 (3.4%) であった。Ramucirumab関連ARは138件で、G1 88件 (63.8%)、G2 35件 (25.4%)、G3 9件 (6.5%)、G4 6件 (4.4%) であった。35例中32例 (91.4%) に少なくとも1件のARが発生し、17例 (48.6%) にGrade 3以上のARが発生した。最も多いGrade 1以上のARは、末梢感覚神経障害 (45.7%)、血小板減少 (42.9%)、疲労感 (40.0%)、貧血 (31.4%)、好中球減少 (31.4%) であった。Grade 3以上では、好中球減少 (20.0%)、高血圧 (8.6%)、末梢感覚神経障害 (5.7%)、発熱性好中球減少症 (5.7%) が主要であった (Figure 4)。深刻な有害事象 (SAE) は5例で8件が発生し、うちramucirumab関連と判定されたSAEは4件 (急性心筋梗塞G3が2件、肺塞栓症G4が1件、動脈性出血G3が1件、好中球減少G4が1件) であった。治療関連死は認められなかった。

考察/結論

先行研究との違い: RELEVENT試験は、未治療転移性胸腺癌 (TC) に対してramucirumabを化学療法に上乗せした初のプロスペクティブ試験であり、その独自性は明確である。本試験で得られた局所判定ORR 80.0% (95% CI 63.1%-91.6%、p<0.0001) および中央判定ORR 57.6% (95% CI 39.2%-74.5%、p<0.0001) は、歴史的対照となるカルボプラチンとパクリタキセル単独試験 (例えば Lemma et al. JClinOncol 2011 のORR 21.7%・PFS 5.0ヶ月、Hirai et al. AnnOncol 2015 のORR 36%・PFS 7.5ヶ月) を大幅に上回る成績であった。PFS中央値18.1ヶ月 (95% CI 10.8-52.3ヶ月) およびOS中央値43.8ヶ月 (95% CI 31.9ヶ月-未到達) も、従来の治療と比較して約2〜3倍の延長を示しており、これまでの治療成績と大きく異なっている。RELEVENTの対象は全例がStage IVのTC (88.6%がStage IVB) であり、予後不良な集団においてこれほどの成績が得られたことは臨床的に極めて重要である。

新規性: 本研究は、抗血管新生薬であるramucirumabとカルボプラチン・パクリタキセルの併用療法が、未治療進行性TCの一次治療として高い抗腫瘍活性と良好な生存期間を示すことを初めて実証した。TETsではVEGFの過発現と血管密度増加が浸潤性・進行病期と関連することが複数の研究で示されており、VEGFR2を介した血管新生経路が胸腺癌の増殖維持に重要な役割を果たすと考えられる。RamucirumabによるVEGFR2遮断は、腫瘍微小環境の免疫抑制解除にも寄与する可能性があり、パクリタキセルとの相乗的抗血管新生効果も示唆されている (REVEL試験に基づく生物学的根拠)。この新規の併用療法は、これまで治療選択肢が限られていたTC患者にとって、新たな治療戦略を提示するものである。

臨床応用: RELEVENT試験の結果は、ramucirumabとカルボプラチン・パクリタキセルの3剤併用療法を未治療転移性TCの一次治療として考慮することを強く支持する。48.6%の患者でGrade 3以上のARが発生したものの、治療関連死は認められず、忍容性は許容範囲内であった。Ramucirumab関連のSAEとして心筋梗塞や肺塞栓症が報告されたが、胸腺癌は心大血管との解剖学的近接性を有するため、血管新生阻害薬非依存性の心血管イベントリスクが内在する点に注意が必要である。抗血管新生薬の禁忌患者 (大血管浸潤・血栓塞栓症既往・未コントロール高血圧) を適切に除外した患者選択が重要であり、治療前・治療中の心血管モニタリングが求められる。本知見は、希少疾患であるTCの臨床現場において、より効果的な治療選択肢を提供する点で臨床的意義が大きい。

残された課題: 本試験は単群デザインであり、対照群がないことが限界として挙げられる。また、COVID-19パンデミックの影響で計画された55例を達成できず35例に留まったため、信頼区間の幅が比較的広い。局所判定と中央判定のORRに大きな差があること (80.0% vs. 57.6%) も課題の一つである。ただし、試験デザインの事前規定による主要評価項目達成は担保されており、希少疾患における現実的な制約の中で得られた成績として高く評価される。今後の検討課題として、現在進行中のSWOG試験 (カルボプラチンとパクリタキセル±ramucirumabをランダム化第II相として評価中、PFSを主要評価項目) の結果が、RELEVENT試験の成績を確認し、本レジメンの標準化を後押しする可能性がある。さらに、組織・血液バイオマーカー (ゲノムランドスケープ・循環miRNAプロファイル) の探索的解析は進行中であり、ramucirumab感受性の予測因子同定が期待される。これらの研究を通じて、より個別化された治療戦略の確立が今後の方向性となる。

方法

試験デザインと患者選択: 本試験は、研究者主導の前向き、単群、非盲検、第II相試験として実施された。Green-Dahlberg統計デザイン (2段階デザイン) を採用し、第1段階では30例を登録し、奏効数が4例以下であれば試験中止、それ以上であれば第2段階へ移行して合計55例を目標とする計画であった。帰無仮説ORR 20%を棄却するには、55例中18例以上の奏効が必要と設定された。適格規準は、年齢18歳以上、中央病理診断でTCまたはcarcinoma成分を有するtype B3 thymoma (TC with carcinoma areas) と確認された転移性・再発性または切除不能進行病変で転移性疾患に対する未治療例、RECIST v1.1による測定可能病変あり、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status) 0-1であった。未治療の脳転移または抗血管新生薬への主要禁忌を有する例は除外された。

実施施設: イタリアのTYME network (Italian Collaborative Group for the ThYmic MalignanciEs) 参加6施設 (Fondazione IRCCS Istituto Nazionale dei Tumori Milan、Humanitas Research Hospital Rozzano、Federico II University Naples、A.O.U. Ospedali Riuniti Ancona、A.O.U. Pisana Pisa、IRCCS Istituto Oncologico Veneto Padova) で実施された。試験は、各施設の倫理委員会およびイタリアの管轄当局の承認を得て、ヘルシンキ宣言およびICH-GCP (International Conference on Harmonization Guidelines on Good Clinical Practice) に従って実施された。患者はREDCap (Research Electronic Data Capture) 電子データ収集ツールを用いて中央登録された。本研究はClinicalTrials.govにNCT03921671として登録されている。

治療プロトコル: 中央病理診断による適格確認後、ramucirumab 10 mg/kg (30分点滴静注) → paclitaxel 200 mg/m² (i.v.) → carboplatin AUC 5 (i.v.) を21日毎1日目に投与し、最大6サイクルを施行した。6サイクル完了後に病勢コントロールを確認した症例では、ramucirumab単剤によるmaintenance療法を疾患進行または許容できない毒性まで継続した。第1・2回目のramucirumab投与後に1時間の観察期間が設けられた。

評価項目: 主要評価項目は担当医による局所判定ORR (RECIST v1.1) であった。副次評価項目はPFS、OS、安全性であった。プロトコル規定の盲検中央放射線学的判定は、専門放射線科医がRECIST v1.1とITMIG-mRECISTの両基準に従って後方視的に実施した。有害事象 (AE) はNCI CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) v4.0に基づき評価された。

統計解析: ORRはexact binomial法で95%信頼区間 (CI) を算出した。PFSおよびOSはKaplan-Meier法で推定された。単変量ロジスティック回帰モデルを用いて、ORRと組織型、バイオマーカーの状態、病理組織学的特徴との関係を探索した。すべての解析はSASソフトウェア、バージョン9.4を用いて実施された。探索的評価項目として、ゲノムランドスケープおよび循環miRNAプロファイルの評価が計画された。