• 著者: Adusumilli PS, Cherkassky L, Villena-Vargas J, Colovos C, Servais E, Plotkin J, Jones DR, Sadelain M
  • Corresponding author: Prasad S. Adusumilli, Michel Sadelain (Memorial Sloan Kettering Cancer Center)
  • 雑誌: Science Translational Medicine
  • 発行年: 2014
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25378643

背景

胸膜悪性腫瘍(悪性胸膜中皮腫 [MPM] および転移性胸膜悪性腫瘍)は米国だけで年間15万例以上に及ぶ疾患群であり、MPMは限られた治療選択肢しかない地域侵襲性疾患である。腫瘍浸潤リンパ球量とMPM予後の関連がSuzuki et al. Cancer Immunol Immunother 2011やAnraku et al. J Thorac Cardiovasc Surg 2008で示されており、T細胞ベース免疫療法の有望性が示唆されていた。CAR (chimeric antigen receptor)-T細胞療法はB細胞悪性腫瘍で顕著な成果を上げているが、固形腫瘍への応用には腫瘍内T細胞浸潤の非効率性と機能的持続性の問題が障壁となっていた。メソテリン (MSLN) は上皮型MPMの90%以上で過剰発現し、肺腺癌・トリプルネガティブ乳癌・食道腺癌でも高発現するため、有望なCAR標的抗原である。M28z CAR (MSLN特異的scFv + CD28 + CD3ζ) を用いた皮下中皮腫モデルでの有効性はCarpenito et al. ProcNatlAcadSciUSA 2009などの先行研究で示されていたが、臨床疾患を忠実に再現するオルソトピックモデルでの投与経路比較は行われておらず、固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法の最適な投与経路と作用機序については未解明な点が多かった。特に、局所投与と全身投与の比較におけるT細胞の動態、活性化、持続性、および全身免疫への影響については、詳細な検討が不足していた。

目的

ヒト胸膜疾患の病態を忠実に再現する同所性中皮腫マウスモデルを用いて、M28z CAR-T細胞の静脈内投与 (IV) と胸腔内投与 (IP) を比較し、投与経路が治療効果・T細胞活性化・持続性・全身免疫に及ぼす影響を評価する。さらに、治療効果に必要なT細胞サブセットの役割を解明することを目的とした。本研究は、特にCD4+ T細胞の役割、その細胞傷害性メカニズム、および長期的な免疫記憶の確立における寄与に焦点を当てた。

結果

胸腔内投与が静注の1/30細胞数で長期完全寛解を達成: 同一細胞数 (1×10⁵) の比較では、胸腔内M28z T細胞投与が投与7日後にほぼ完全な腫瘍消退を達成し (BLI背景レベルまで低下)、100日後も中央生存期間は未到達であったのに対し、静注投与では対照P28z T細胞と同程度の効果 (中央生存27日) にとどまった (Fig 1C, D)。30倍多い静注細胞数 (3×10⁶) でも腫瘍増殖は最終的に抑制できず (中央生存86日)、一方で10倍少ない胸腔内投与 (3×10⁵) は200日後も中央生存未到達を達成した (Fig 1E, F)。この結果から、胸腔内投与は静注の30分の1の細胞数で長期完全寛解を実現することが示された。

胸腔内投与によるCD4+ T細胞の迅速な抗原活性化とエフェクター分化が鍵: T細胞BLIにより、胸腔内投与後24時間以内にT細胞シグナルが静注の10倍に達し、M28z T細胞 (抗原特異的) でのみ持続的蓄積が確認された (Fig 2A, B)。フローサイトメトリー解析で、胸腔内投与後の腫瘍内CD4/CD8比は均等に保たれ、CD4+ T細胞の大半がCD62L- (活性化エフェクターメモリー) 表現型を示した一方、静注投与ではCD8+ T細胞蓄積が著明に低下し、CD4+ T細胞の多くがCD62L+ (非活性化) のままであった (Fig 2D, F)。CD28共刺激されたCD4+ M28z T細胞はCD8+ M28z T細胞と比べてTH1サイトカイン (IFN-γ、TNF-α等) を11〜50倍高く産生し、3回繰り返し抗原刺激後に>20倍の増殖能を示した (CD8+の2倍の増殖と対比) (Fig 6A, B)。CD4+ M28z T細胞との共培養により、CD8+ M28z T細胞蓄積が3倍増強された (p<0.001)。さらに、CD4+ M28z T細胞の24時間前活性化によりCD4+、CD8+双方の増殖がさらに促進され、早期CD4+抗原活性化が後続のCD8+ T細胞拡大を誘導するというシーケンシャルな免疫増強機序が明確に示された (Fig 6C, F)。

CD4+ T細胞が独立してCD28依存性granzyme/perforin介在細胞傷害活性を発揮: 直接細胞傷害アッセイで、CD4+ M28z T細胞は18時間後にCD8+ M28z T細胞と同等の細胞傷害活性を達成した (Fig 7A)。CD28共刺激はCD4+ T細胞の細胞傷害活性を13〜16%有意に増強したが (p<0.001)、CD8+への影響は一貫しなかった (Fig 7B)。FasL/FasR阻害は細胞傷害を減弱させなかったが、EGTA (calcium chelator) によるgranzyme放出阻害で細胞傷害が有意に低下し、granzyme/perforin経路への依存性が確認された (Fig 7D)。Granzyme B発現はMSLN+腫瘍刺激後18時間でCD4+、CD8+ M28z T細胞双方に誘導され、特にCD4+ M28zでは後期 (4〜18時間) に著明な上昇 (3.7倍) を示した (Fig 7E)。CD4+ M28z T細胞単独投与 (3×10⁵) でも3×10⁵ CD8+ M28z T細胞単独 (生存111日 vs 28日、p=0.003) を大幅に上回り、200日完全寛解が全マウスで達成され、CD4+ T細胞が固形腫瘍に対して単独で強力かつ持続的な抗腫瘍活性を発揮することが示された (Fig 8B)。

胸腔外腫瘍への全身免疫制御と200日以上の機能的記憶: 胸腔内M28z T細胞投与後15日目のT細胞BLIで、胸腔外MSLN+右脇腹腫瘍へのT細胞蓄積が確認された一方、MSLN-左脇腹腫瘍への蓄積は認められず、抗原特異的全身分布が証明された (Fig 3A)。腫瘍BLIでは胸膜腫瘍と右脇腹MSLN+腫瘍の消退・左脇腹MSLN-腫瘍の増大という明確な抗原特異的制御が示された。87日後の腹腔内腫瘍再チャレンジでは、M28z T細胞治療マウスでMSLN+腫瘍への強力な記憶応答 (MSLN-腫瘍の4倍T細胞増殖) が確認され、長期記憶T細胞が主にeffector memory CD45RA-CD62L-表現型のCD4+ T細胞であることが判明した (Fig 5C, D)。T細胞持続期間は200日以上で、CD28共刺激によりCAR-T細胞の持続性が有意に増強された (p<0.05) (Fig 4B)。

考察/結論

本研究の核心的発見は、固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法において投与経路が治療効果を劇的に変え、「局所分配拠点 (regional distribution center)」からの投与が全身療法を大幅に凌駕するという概念の実証である。胸腔内投与の優位性は3段階のメカニズムで説明できる: (1) 腫瘍近傍での高密度抗原提示によるCD4+ T細胞の迅速・強力な早期活性化、(2) 静注経路で避けられない一過的な肺捕捉・脾臓隔離の回避によるより効率的な腫瘍局所送達、(3) CD4+ T細胞由来サイトカイン環境によるCD8+ T細胞蓄積・増殖の増強という時系列的連鎖である。

先行研究との違い: CD4+ CAR-T細胞が従来考えられてきた「ヘルパー役割」を超え、単独でCD28依存性granzyme/perforin介在細胞傷害活性を発揮し、かつCD8+ T細胞単独よりも高い長期腫瘍制御効果を示すという知見は重要な概念的転換をもたらした。これはMaher et al. NatBiotechnol 2002など、これまでのCAR-T細胞研究でCD8+ T細胞の細胞傷害活性が主に注目されてきたことと対照的である。

新規性: CD4+ M28z T細胞がCD8+ M28z T細胞単独 (生存111日) を大幅に上回る200日完全寛解を達成した事実は、固形腫瘍に対するCAR-T細胞設計においてCD4+ T細胞の役割が過小評価されてきた可能性を提示する。Granzyme B誘導の遅延動態 (4時間の1.5倍から18時間の3.7倍へと後期に著明増強) はCD4+ M28z T細胞が遅延型だが持続的な細胞傷害活性を発揮するメカニズムを示し、CD8+の急速な細胞傷害とは異なる時間的プロファイルを持つことが本研究で初めて示された。

臨床応用: 本研究はヒトT細胞とヒトCARを用いた前臨床研究であり、その知見は臨床応用可能性が高い。本知見に基づきMSKCCでは中皮腫・転移性胸膜悪性腫瘍患者を対象としたMSLN-CAR T細胞胸腔内投与の第1相臨床試験 (安全性評価) が開始された。これはGrupp et al. NEnglJMed 2013Davila et al. SciTranslMed 2014で示された血液腫瘍におけるCAR-T療法の成功を固形腫瘍に拡大する上で、重要な臨床的意義を持つ。

残された課題: 免疫不全マウスモデル (NOD/SCID/γc null) での知見であるため、宿主免疫の存在する臨床環境での効果・安全性については前向きの確認が必要であるという点が残された課題である。また、Maus et al. CancerImmunolRes 2013で報告されたようなCARに対する抗体応答によるアナフィラキシーリスクを低減するため、DiStasi et al. NEnglJMed 2011で示された自殺遺伝子導入や、Kloss et al. NatBiotechnol 2013で提唱されたような組み合わせ抗原認識などの安全対策の検討が今後の研究で求められる。

結論として、メソテリン標的M28z CAR-T細胞の胸腔内局所投与は、静注の30分の1の細胞数で200日以上の長期完全寛解を達成し、CD4+ T細胞の早期抗原活性化・高腫瘍内CD4/CD8比・CD28依存性granzyme/perforin介在細胞傷害活性・サイトカイン補助によるCD8+増殖増強という多層的メカニズムを通じて固形腫瘍制御を実現した。胸腔外腫瘍への抗原特異的全身免疫サーベイランス確立・200日以上の機能的effector memory保持とともに、本研究は固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法を局所投与拠点コンセプトで最適化する概念的・実験的基盤を確立し、中皮腫・胸膜転移性悪性腫瘍に対する臨床第1相試験開始への直接的科学的根拠を提供した。

方法

本研究では、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) で確立された同所性MPM NOD/SCIDマウスモデルを使用した。このモデルは、ヒト疾患の肺・縦隔構造浸潤、リンパ管新生、縦隔リンパ節転移を再現するfirefly luciferase発現MSTO-211H細胞を用いたBLI (bioluminescence imaging) による腫瘍モニタリングを可能とする。使用したCARはM28z CAR (MSLN-CD28-CD3ζ)、Mz CAR (MSLN-CD3ζのみ)、および陰性対照としてのP28z CAR (PSMA特異的) であった。投与経路比較では、単回静脈内投与と単回胸腔内投与 (細胞数1/30) での腫瘍制御を比較した。腫瘍量とT細胞動態はBLI (腫瘍・T細胞両方) によるserial imagingでリアルタイムモニタリングした。フローサイトメトリーにより腫瘍内CD4/CD8比、CD62L発現、T細胞疲弊マーカーを解析した。胸腔外腫瘍 (右脇腹MSLN+、左脇腹MSLN-、腹腔内腫瘍) への全身効果を評価した。CD4+ T細胞の役割解析では、CD28共刺激、細胞傷害メカニズム (granzyme/perforin vs FasL) の解明を行った。T細胞サブセット (CD4+、CD8+、bulk) 単独投与での治療効果を比較した。87〜196日後の長期腫瘍再チャレンジによる免疫記憶評価も実施した。統計解析にはlog-rank testおよびStudent’s t testを用いた。