- 著者: Friedman CF, Proverbs-Singh TA, Postow MA
- Corresponding author: Michael A. Postow, MD (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
- 雑誌: JAMA Oncology
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-06-30
- Article種別: Review
- PMID: 27367787
背景
抗CTLA-4抗体イピリムマブが転移性メラノーマにFDA承認され、続いて抗PD-1抗体ニボルマブおよびペムブロリズマブがメラノーマ、非小細胞肺癌 (NSCLC)、腎細胞癌へと適応が拡大したことで、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) による免疫関連有害事象 (irAE) の管理が実臨床の大きな課題として浮上した。irAEは、通常の化学療法毒性とは発生機序、発現臓器、時間軸、管理法がすべて異なり、自己免疫性のメカニズムにより皮膚、消化管、肝臓、内分泌腺、肺、神経系など全身の臓器に生じうる。特に、抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体の二重ICI療法ではGrade 3/4の重篤なirAEが55%に達することが判明し、より体系的かつ臓器特異的な管理アルゴリズムの整備が緊急課題となっていた。
先行研究では、イピリムマブの有効性がHodi et al. NEnglJMed 2010やRobert et al. NEnglJMed 2011によって報告され、ニボルマブやペムブロリズマブの安全性と有効性もTopalian et al. NEnglJMed 2012、Robert et al. NEnglJMed 2015、Garon et al. NEnglJMed 2015などで示されてきた。しかし、これらの画期的な治療法に伴うirAEの適切な管理に関する包括的なガイドラインは、2016年時点ではまだ十分に確立されておらず、多くの点で未解明な部分が残されていた。特に、irAEの早期認識と適切な介入が患者の罹患率と死亡率を防ぐ上で極めて重要であるにもかかわらず、そのための統一された指針が不足していた。
本論文は、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) の豊富な臨床経験を基盤として、FDA承認ICIのirAE管理に関する実臨床に即したガイドを提供することを目的に執筆された。irAEの病態生理は複雑であり、その多様な臨床像から診断と治療が困難な場合がある。特に、ステロイド抵抗性のirAEに対するセカンドライン治療の選択肢や、特定のirAE(例:肝炎に対するインフリキシマブの禁忌)に関する詳細な情報が未解明な点も多く、実用的なアルゴリズムの必要性が高まっていた。
目的
FDA承認ICI(イピリムマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ)による主要なirAEの発生率、臨床的特徴、および段階的な管理アルゴリズム(コルチコステロイド、インフリキシマブ、ミコフェノール酸モフェチルなどの使用基準)を臓器別に整理し、実臨床での管理指針を提供すること。特に、各irAEの重症度に応じた治療選択肢、ステロイド抵抗性の場合の対応、およびICI治療の継続・中止基準を明確にすることを目的とする。本レビューは、irAEの早期認識と適切な介入を促進し、患者の罹患率と死亡率を低減するための実践的な情報を提供することを目指す。
結果
irAE全体の発生率と重症度分布: irAEの頻度はICIの種類と組み合わせによって大きく異なる。Phase 3データに基づくGrade 3/4 irAE発生率は、ニボルマブ単剤で16%、イピリムマブ単剤で27%、ニボルマブとイピリムマブの併用療法では55%であった(CheckMate 067試験)。この結果は、併用療法が単剤療法と比較して約2倍の重篤な毒性頻度を示すことを示している。同様の傾向は、ペムブロリズマブとイピリムマブを比較したKEYNOTE-006試験でも確認され、ペムブロリズマブはイピリムマブに比してGrade 3/4の有害事象率が有意に低かった。異なるがん腫間でも、抗PD-1単剤のGrade 3/4 irAEは20%未満と比較的一定していた。治療関連死は2%以下と稀であるが、irAEが死亡の原因となる場合は、適切な管理の遅延または不履行が主因であることが強調された。irAEが発現しても一時的な免疫抑制療法はICIの治療効果を損なわないことが後ろ向き解析で示されており、適切なirAE管理はICI継続・再開の観点からも重要である。
皮膚毒性(最多、早期に発現): 皮膚毒性はirAEの中で最も頻度が高く、発疹と掻痒が主症状である。発生率はイピリムマブ単剤で約50%、ニボルマブ/ペムブロリズマブ単剤で約40%、ニボルマブとイピリムマブの併用療法で約60%と報告されている。Grade 3/4の皮膚毒性は10%未満と比較的低率である。発疹は通常、淡い紅斑性、網状、丘疹状を呈し、四肢と体幹に分布し、治療開始後2週以内に出現しうる。管理は、Grade 1-2では中〜高力価の外用ステロイド、抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン、ヒドロキシジン)、冷湿布、オートミール入浴が推奨される。Grade 3以上では、プレドニゾン1 mg/kg/日(経口)を開始し、Grade 1以下に改善するまでICIを保留する。Grade 4(Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症)の場合、プレドニゾン1〜2 mg/kg/日またはメチルプレドニゾロン1〜4 mg/kg/日での入院管理と永続的なICI中止が必要となる。12週以上の支持療法でも改善しない場合は、インフリキシマブ、ミコフェノール酸モフェチル、シクロホスファミドの追加を検討する。白斑はペムブロリズマブ投与例の10%未満(イピリムマブでは2%)に出現し、治療奏効との関連が示唆されている。皮膚毒性の身体診察所見はFigure 2に示されている。
消化器毒性(大腸炎・下痢): 大腸炎はirAEの中で最も生命を脅かすリスクのある毒性の一つである。Grade 3/4大腸炎の発生率は、CTLA-4阻害薬で7%、PD-1阻害薬で1.8%、ニボルマブとイピリムマブの併用療法では9.3%(Grade 3/4下痢)と報告されている。イピリムマブ使用例での発症中央値は治療開始後6〜8週である。腹部CTでは、軽度の広汎腸壁肥厚または憩室症合併部位への分節性大腸炎像が認められる場合がある(Figure 1A)。管理の第一歩として、クロストリジウム・ディフィシルなどの感染性原因を除外することが必須である。軽症(Grade 1)ではロペラミドなどの止瀉薬を使用する。中等症以上かつ3日以上持続する場合、または腸炎所見がある場合は、プレドニゾン1〜2 mg/kg/日(または静注メチルプレドニゾロン2 mg/kg/日×2回)を開始し、Grade 1以下に改善するまでICIを保留する。ステロイド抵抗性(72時間で改善なし)の場合、インフリキシマブ5 mg/kgを2週間ごとに投与する(TNF-α阻害薬)。重症例では入院と輸液管理が必要となる。あるICI(イピリムマブ)で大腸炎を発症した患者に別のICI(ニボルマブ)を投与しても大腸炎が再燃しなかった例が報告されており、異なるICIへの切り替えが禁忌とはならない可能性が示唆されている。大腸炎による死亡は近年の試験では皆無であり、適切な早期認識と管理の重要性が示されている。予防的ブデソニドは有意な効果がなかった。
肝毒性(肝炎): ICI関連肝炎はAST、ALT、ビリルビン上昇として発現し、通常は無症状で治療開始後8〜12週に出現することが多い。CTLA-4阻害薬での発生率が10%未満と最も高く、PD-1阻害薬は比較的低率であるが、ニボルマブとイピリムマブの組み合わせではさらに高頻度となる。管理の際には、まずウイルス性肝炎(HBV、HCV)および他の薬剤性肝炎を除外する。Grade 1-2ではICIを保留し、肝機能検査頻度を増やすが、Grade 1以下に改善すれば再開可能である。Grade 3以上の場合、プレドニゾン1〜2 mg/kg/日またはメチルプレドニゾロン0.5〜1 mg/kg/日を開始する。最重要な禁忌として、肝炎へのインフリキシマブ使用は禁忌である(インフリキシマブ自体の肝毒性リスクのため)。ステロイド抵抗性例では、ミコフェノール酸モフェチル500〜1000 mgを12時間ごとに投与するか、タクロリムスを使用する。難治例には、抗胸腺細胞グロブリン1.5 mg/kgを2日間、ステロイドとミコフェノール酸モフェチルに追加した成功例が報告されている(MSKCC経験)。肝毒性は1ヶ月以上かかることがあり、免疫抑制終了後もリバウンド増悪に注意が必要である。
内分泌毒性(下垂体炎・甲状腺機能異常・副腎不全): 内分泌irAEは他のirAEと異なり、非特異的症状(倦怠感、頭痛、悪心、抑うつ)で発現するため診断が困難である。下垂体炎と甲状腺機能異常はCTLA-4阻害薬使用例の最大10%に発生し、PD-1阻害薬では1%未満(メラノーマ)から最大6.9%(NSCLC)と報告差がある。下垂体炎は脳MRIでの下垂体増大・造影増強、血中ACTH、TSH、LH、FSH、GH、プロラクチン低下によって診断される。管理として、急性症状を呈する下垂体炎にはプレドニゾン1〜2 mg/kg/日(高用量)を投与する。甲状腺機能亢進症にはβ遮断薬と急性甲状腺炎ではステロイドを使用する。甲状腺機能低下症(より一般的)には甲状腺ホルモン補充療法が必要であり、多くは長期継続が必要となる。最も重篤な内分泌irAEは急性副腎不全(副腎クリーゼ)であり、ストレスドーズステロイドと入院管理(重篤な脱水、電解質異常〔高カリウム血症、低ナトリウム血症〕、低血圧、ショック管理)が必要である。内分泌irAEの特徴的な点は、多くが完全に回復せず永続的なホルモン補充療法を要することであり、生殖年齢の患者には将来の妊孕性への影響について十分な説明が必要である。内分泌専門医へのコンサルトと継続的な経過観察が推奨される。
肺毒性(肺臓炎): 肺臓炎は稀(10%未満)だが生命を脅かす可能性のあるirAEであり、抗PD-1薬でイピリムマブより高頻度に発生する。NSCLCでは治療関連死亡例がより多く報告されており、特に注意が必要である。胸部CTでは、Cryptogenic organizing pneumonia (COP) パターン(両側の胸膜周囲・肺底部の浸潤影)またはNon-specific interstitial pneumonia (NSIP) パターン(すりガラス影と胸膜周囲分布の小葉間隔壁肥厚)を示す。管理として、上気道感染、新規咳嗽、息切れ、低酸素(SpO2 <90%)を呈する患者では直ちに胸部CTを施行する。軽〜中等症ではプレドニゾン1〜2 mg/kg/日またはメチルプレドニゾロン0.5〜1 mg/kg/日を開始する。感染性原因除外のため気管支鏡が推奨される場合がある。重症の場合、入院と高用量メチルプレドニゾロン2〜4 mg/kg/日、およびミコフェノール酸モフェチル、シクロホスファミド、インフリキシマブの追加免疫抑制が投与される。中等症以上では、その後のICI追加投与は不可である。肺サルコイドーシス様肉芽腫性反応などの他の肺irAEも同様に管理される。
神経毒性: 神経irAEは稀(5%未満)だが多彩な症候を呈する。感覚性ニューロパチー(四肢のしびれ、感覚障害)から、無菌性髄膜炎、側頭動脈炎、重症筋無力症様症候群、ギラン・バレー症候群まで幅広い。ギラン・バレー症候群は、イピリムマブ補助療法試験で1例の死亡例を出した特に重篤な毒性として注目される。管理として、早期認識が不可欠である。腰椎穿刺(白血球増多、リンパ球優位所見が免疫媒介病態を示唆)が診断に役立つ場合がある。高用量メチルプレドニゾロン2 mg/kgと血漿交換、IVIGを考慮する。重症筋無力症様症候群にはピリドスチグミンなどの対症療法薬を使用する。Grade 3/4の神経毒性ではICIを永続的に中止する。
稀少irAE(膵炎・血液毒性): 膵炎はアミラーゼ・リパーゼ上昇として検出されることが多いが、無症状の酵素上昇のみではステロイド介入は不要である(偽陽性が多いため)。臨床診断が確立した場合はプレドニゾン1 mg/kgを投与する。Figure 1Bには、アミラーゼとリパーゼの上昇を伴う膵臓のFDG取り込みが示されているが、臨床症状は認められない。血液学的irAEは貧血(5%未満〜10%未満)、免疫性血小板減少、自己免疫性溶血性貧血、後天性血友病、播種性血管内凝固として報告される。輸血支持とプレドニゾン1 mg/kg、ステロイド抵抗性ではIVIG±シクロスポリンを追加する。Grade 1-2の血液毒性ではICI継続可能である。
考察/結論
本レビューは、FDA承認ICI(イピリムマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ)のirAEを臓器別に包括的に整理し、段階的な免疫抑制管理アルゴリズムを提示した実臨床ガイドとして広く引用された重要論文である。
先行研究との違い: 本研究は、これまでの個別のirAE報告や試験結果と異なり、複数のICIに共通する、あるいは特異的なirAEの発生率と管理法を統合的に提示した点で新規性がある。特に、消化器irAEにはインフリキシマブが有効である一方で、肝炎にはインフリキシマブが禁忌であるという重要な臨床的区別を明確に示した点は、これまでの報告では十分に強調されていなかった。
新規性: 本研究で初めて、Grade 3/4 irAEに対するプレドニゾン1〜2 mg/kgの開始という統一的原則と、臓器特異的な二次免疫抑制薬の選択(ミコフェノール酸モフェチル、インフリキシマブ、IVIG、抗胸腺細胞グロブリン)という体系的アプローチが、実臨床に直接応用可能な形で提示された。これは、irAE管理における標準化された治療戦略の基盤を築くものであり、これまで報告されていない実践的な指針を提供した。
臨床応用: 本知見は、ICI治療を受ける患者の罹患率と死亡率を低減するための臨床応用に直結する。ニボルマブとイピリムマブの併用療法におけるGrade 3/4 irAEが55%という高頻度は、二重ICI療法の臨床適用において、綿密なモニタリング体制、患者教育、および多職種連携(内分泌、消化器、呼吸器専門医など)の必要性を強調する。本レビューは、その後のASCOやESMOのirAEガイドライン策定の基礎資料として機能し、ICI治療の普及とともに不可欠な参照文献となった。
残された課題: 今後の検討課題として、CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) グレーディングと連動したより定量的で詳細な管理指針の確立、irAE後のICI再投与基準の最適化、および免疫抑制がICIの有効性に与える影響に関する前向き研究が残されている。また、稀なirAEに対するエビデンスの蓄積や、特定の患者集団(例:高齢者、併存疾患を有する患者)におけるirAE管理の特殊性についても、さらなる研究が必要である。
方法
本レビューは、FDA承認ICI(イピリムマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ)の適応承認がなされているがん種(転移性メラノーマ、NSCLC、腎細胞癌)におけるirAEに関するデータを収集・統合した。Medlineデータベースを用いて、これらのICIに関するPhase 2およびPhase 3試験、拡大アクセスプログラム、および後ろ向き解析を検索した。検索は2016年3月15日までに公開された文献を対象とした。
検索された文献から、irAEの全体的な発生率、Grade 3/4 irAEの頻度、および各臓器特異的irAE(皮膚毒性、消化器毒性、肝毒性、内分泌毒性、肺毒性、神経毒性、稀少irAE)の臨床的特徴と管理に関する情報を抽出した。特に、irAEの診断基準、発症時期、症状、および推奨される治療法(コルチコステロイドの用量と期間、セカンドライン免疫抑制剤の選択)に焦点を当てた。文献の選択基準としては、英語で書かれたヒトを対象とした臨床試験および症例報告を含めた。除外基準は、非臨床試験、非英語文献、および承認されていないICIに関する報告とした。
本レビューでは、MSKCCにおける著者らの豊富な臨床経験も統合し、既存の発表データと実臨床での知見を組み合わせることで、より実践的な管理アルゴリズムを構築した。統計手法に関する特定の記載はないが、各irAEの発生率や重症度に関するデータは、元の臨床試験の統計解析結果に基づいている。本レビューは、irAEの管理に関する前向き試験が存在しないため、既存の臨床経験と発表されたエビデンスに基づくコンセンサスガイドラインとして位置づけられる。エビデンスレベルの評価は行われていないが、主要な臨床試験の結果を優先的に参照した。