• 著者: Chiou VL, Burotto M
  • Corresponding author: N/A (Comments and Controversies Review)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-08-10
  • Article種別: Review
  • PMID: 26261262

背景

免疫チェックポイント阻害薬(pembrolizumab・nivolumab等のPD-1/PD-L1阻害薬、ipilimumab等の抗CTLA-4抗体)は、転移性メラノーマや非小細胞肺がん(NSCLC)など、進行固形腫瘍において高い奏効率と持続的奏効を示し、がん治療に革命をもたらした。これらの薬剤は、宿主の抗腫瘍免疫応答を刺激することで作用するが、腫瘍細胞は免疫破壊を回避するために、効果的な抗原提示の阻害、エフェクターT細胞機能の低下、免疫寛容を促進する経路のアップレギュレーションなど、複数のメカニズムを用いて免疫抑制的な微小環境を形成する。この複雑な相互作用は、Schreiber et al. Science 2011によって提唱された「がん免疫編集」の概念にも関連する。特に、プログラム細胞死-1(PD-1)/プログラム細胞死リガンド-1(PD-L1)経路は、腫瘍が媒介する免疫抑制の重要な要素であるとPardoll et al. NatRevCancer 2012が報告している。PD-1およびPD-L1に対する抗体は、進行固形腫瘍において臨床的有用性を示しており、米国食品医薬品局(FDA)は転移性メラノーマに対してPD-1阻害剤であるペムブロリズマブとニボルマブを承認し、さらに転移性扁平上皮非小細胞肺がんの治療薬としてもニボルマブを承認した。また、PD-L1阻害剤MPDL3280Aは膀胱がんおよび非小細胞肺がんの画期的な治療薬として指定されている。これらの薬剤やその他の免疫チェックポイント阻害剤は、現在、単剤療法として、また他の薬剤との併用療法として、複数の臨床試験で評価が進められている。

しかし、免疫療法では、従来の化学療法では見られない特異な反応パターンが報告されるようになった。その一つが「仮性増悪(pseudoprogression)」であり、これは腫瘍の初期増大や新病変の出現後に、遅れて奏効が生じる現象を指す。従来の固形腫瘍の奏効評価基準であるRECIST(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors)基準は、このような免疫療法特有の奏効パターンを正確に評価できないという課題を抱えている。Eisenhauer et al. EurJCancer 2009が提唱したRECIST 1.1基準では、腫瘍病変の有意な増大や新病変の出現は明確な疾患進行と見なされ、治療中止の判断につながることが一般的である。しかし、仮性増悪の場合、RECIST基準で進行と判定されたとしても、実際には免疫細胞の浸潤や一時的な炎症反応による見かけ上の腫瘍増大であり、治療を継続することで真の奏効が得られる可能性がある。このため、真の疾患進行と仮性増悪を区別することができず、患者が早期に治療機会を失うリスクが懸念された。従来の評価基準では、免疫療法による効果発現までの時間差や、免疫細胞の浸潤による一時的な腫瘍増大を適切に評価することが不足していた

このような背景から、免疫療法特有の反応パターンをより適切に評価するために、免疫関連奏効基準(irRC: Immune-related Response Criteria)がWolchok et al. ClinCancerRes 2009によって提唱された。irRCは、新病変の出現を直ちに進行と見なさず、全腫瘍量に算入して評価することで、仮性増悪の可能性を考慮した基準である。しかし、その実臨床での適用は限られており、irRCの臨床的意義や、仮性増悪の発生頻度、特徴、そして真の疾患進行との鑑別方法については、さらなるデータ蓄積と系統的な評価が未解明な点として残されていた。特に、様々な固形腫瘍における仮性増悪の全体像を把握し、irRCの有用性を確立することは、免疫チェックポイント阻害剤の適切な臨床使用にとって不可欠な課題であった。

目的

本レビューの目的は、免疫チェックポイント阻害剤治療における仮性増悪(pseudoprogression)および免疫関連奏効パターンの発現率、特徴、および臨床的意義を、複数の固形腫瘍の臨床試験データから系統的に整理し、irRC基準の重要性と臨床的課題を考察することである。具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。第一に、様々な固形腫瘍における仮性増悪の全体的な発生頻度を定量的に評価すること。第二に、イピリムマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブなどの主要な免疫チェックポイント阻害剤を用いた臨床試験において、腫瘍種別および薬剤別に仮性増悪を含む免疫関連奏効パターンの発現率と特徴を詳細に分析すること。第三に、RECIST基準とirRC基準の評価の差異が患者の生存転帰に与える影響を検討すること。最後に、仮性増悪と真の疾患進行を区別するための臨床的課題を特定し、今後の研究開発の必要性について提言することである。これらの目的を達成することで、免疫チェックポイント阻害剤の適切な治療判断と患者管理に資するエビデンスを提供することを目指した。

結果

仮性増悪の全体発現率と免疫関連奏効の重要性: 複数の固形腫瘍を対象とした免疫療法臨床試験(合計n=1,126例の評価可能患者)の統合解析では、仮性増悪の発現率は約4%(44/1,126例)であった。これは、全症例の約4%がRECIST基準では進行と判定されたにもかかわらず、その後に腫瘍縮小または安定を示したことを意味する。この発生率は、全ての試験でirRCが包括的に評価されていたわけではないため、過小評価されている可能性が指摘された。この結果は、RECIST基準のみに依拠した場合、患者が早期に治療を中止され、潜在的な生存ベネフィットを逸するリスクがあることを示唆している (Table 1)。

メラノーマにおけるイピリムマブ治療での免疫関連奏効: イピリムマブによるメラノーマ治療の初期報告では、WHO基準で進行と判定されたにもかかわらず、免疫関連基準では奏効(部分奏効または安定)と評価された患者が9.7%(22/227例)存在した。この免疫関連奏効群の患者の全生存期間(OS)中央値は未達であり(95% CI, 13.5ヶ月-未達)、WHO基準と免疫関連基準の両方で奏効した患者のOS中央値31.2ヶ月(95% CI, 27.8-31.2ヶ月)と比較しても良好な生存プロファイルを示した。このことは、irRCがRECISTでは捉えきれない真の臨床ベネフィットを特定できる可能性を示唆する (Table 1)。

メラノーマにおけるニボルマブ治療での免疫関連奏効: ニボルマブによる転移性メラノーマ治療の臨床試験では、10%(11/107例)の患者がRECIST基準での進行後に免疫関連奏効を示したと報告された。具体的には、Topalian et al. NEnglJMed 2012の試験では、評価可能患者n=236例中49例(21%)がRECIST 1.0で奏効を示し、さらに8例の追加奏効が報告された。また、Brahmer et al. JClinOncol 2010の試験では、メラノーマ、腎細胞がん、大腸がん患者n=39例中3例(8%)がRECIST 1.0で奏効し、irRCに関する具体的な数値は報告されていないものの、免疫関連奏効の可能性が示唆された (Table 1)。

メラノーマにおけるペムブロリズマブ治療での免疫関連奏効: ペムブロリズマブを用いた進行メラノーマ患者の臨床試験では、RECIST基準で進行と判定された後に奏効または安定維持を示した患者が複数報告された。Hodiらの解析では、n=411例中12%(51例)の患者がirRCでは奏効または安定と分類されたが、RECISTでは進行と分類された。この患者群は、RECISTとirRCの両方で進行と判定された患者群と比較して、OSの改善が認められた。別のペムブロリズマブメラノーマ試験では、n=192例中3.6%(7例)が初回評価でRECIST進行と判定された後、2回目の評価で奏効を示し、さらに3.1%(6例)がRECIST進行後に遅延奏効を示した。合計で6.7%(13/192例)の患者が仮性増悪を経験したことになる。Hamid et al. NEnglJMed 2013の試験では、ラムブロリズマブ治療を受けたメラノーマ患者n=117例中44例(38%)がRECIST 1.1で奏効を示し、irRCではn=135例中50例(37%)が奏効と評価された (Table 1)。

非メラノーマ固形腫瘍における免疫関連奏効: メラノーマ以外の固形腫瘍においても、免疫関連奏効の報告があった。腎細胞がんのニボルマブ試験(Motzer et al. 2015)では、RECIST 1.1に基づくORRが21%(35/168例)であったのに対し、irRCでは23%(38/168例)とわずかに高い奏効率が示された。膀胱がんのMPDL3280A試験(Powles et al. 2014)では、RECIST 1.1に基づくORRが26%(17/65例)であったが、irRCでは1例の追加奏効が報告された。非小細胞肺がんのニボルマブ試験(Rizvi et al. 2015)では、RECIST 1.1に基づくORRが14.5%(17/117例)であったが、irRCに関する定量的データは限定的であったものの、追加奏効例の存在が示唆された。Brahmer et al. NEnglJMed 2012の抗PD-L1抗体試験では、複数の癌種で評価可能患者n=135例中17例(13%)がRECIST 1.0で奏効し、さらに4例の追加奏効が報告された (Table 1)。

仮性増悪の主なパターン: 仮性増悪で最も多く報告されたパターンは、標的病変の縮小と同時に新病変が出現する組み合わせであった。次に多かったのは、初期の腫瘍増大後にその後の縮小(遅延奏効)が見られるパターンである。これらのパターンは、いずれもRECIST基準では「進行」と判定されるが、実際には免疫細胞の浸潤や一時的な炎症反応による見かけ上の腫瘍増大と解釈された。これらの現象は、免疫チェックポイント阻害剤の作用機序に起因するものであり、腫瘍微小環境における免疫応答の複雑性を反映している。

irRC (Immune-related Response Criteria) の設計と意義: irRCは、新病変の出現を直ちに進行とみなさず、全腫瘍量に算入して評価するよう設計されている。これにより、RECIST基準で「進行」と判定された場合でも、次の評価まで治療を継続することで、仮性増悪の患者を見逃さないことを目的としている。複数の試験で、irRCとRECISTの評価の差異が生存転帰に影響を与えることが示された。イピリムマブおよびペムブロリズマブの試験では、免疫関連基準での奏効群が、RECIST基準で進行と判定された群よりも良好なOSを示した。例えば、Wolchok et al. ClinCancerRes 2009の報告では、イピリムマブ治療を受けたメラノーマ患者において、WHO基準で進行と判定されたがirRCで奏効した患者群のOS中央値は未達であり、WHO基準で奏効した患者群のOS中央値31.2ヶ月(95% CI, 27.8-31.2ヶ月)と比較して、良好な生存プロファイルを示した。これは、irRCがRECISTでは捉えきれない真の臨床ベネフィットを特定できる可能性を示している。

臨床的課題: 仮性増悪と真の疾患進行を治療中に確実に区別する手段が不足していることが大きな臨床的課題として挙げられた。全体的な仮性増悪の発現率(約4%)は比較的低く、大多数の「RECIST進行」は真の疾患進行であると考えられる。このため、早期に治療を中断することで奏効機会を逃すリスクと、真の増悪例で治療を継続することで有害な治療曝露を延長するリスクとのバランスをどのように取るかが、実臨床において重要な判断となる。

考察/結論

本レビューは、免疫チェックポイント阻害剤治療における仮性増悪(pseudoprogression)および免疫関連奏効パターンの発現率と臨床的意義を、複数の固形腫瘍の臨床試験データから系統的に整理した点で重要な文献である。

新規性: 本研究で初めて、複数の免疫療法臨床試験のデータを統合し、固形腫瘍全体における仮性増悪の全体的な発現率が約4%であることを示した。これは、従来の化学療法では見られなかった免疫療法特有の反応パターンを定量的に評価した点で新規性が高い。特に、メラノーマ患者におけるイピリムマブ治療で9.7%(22/227例)、ペムブロリズマブ治療で6.7%(13/192例)の患者がRECIST基準では進行と判定されるも、免疫関連奏効を示したことは、本研究で初めて明確に示された重要な知見である。

先行研究との違い: 従来のRECIST基準が免疫療法特有の奏効パターンを捉えきれないという課題に対し、本レビューはirRC基準の臨床的有用性を強調した。Eisenhauer et al. EurJCancer 2009が提唱したRECIST 1.1は、腫瘍径の変化のみに焦点を当てていたのに対し、irRCは新病変の出現を全腫瘍量に含めて評価することで、免疫療法における仮性増悪の可能性を考慮した点で対照的である。本レビューは、irRCがRECIST基準では見過ごされる可能性のある奏効例を特定し、治療継続の機会を提供できることを複数の試験データから裏付けた。

臨床応用: 本知見は、免疫チェックポイント阻害剤の臨床応用において極めて重要な含意を持つ。仮性増悪の存在は、RECIST基準のみに依拠した早期の治療中断が、真の奏効機会を逸するリスクがあることを示唆している。したがって、RECIST基準で進行と判定された場合でも、特に臨床状態が安定している患者に対しては、irRCを考慮した治療継続の判断が臨床的に有用である。これにより、患者は潜在的なベネフィットを享受できる可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、仮性増悪と真の疾患進行をより早期かつ確実に区別するためのバイオマーカーやイメージングモダリティの開発が挙げられる。本レビューの時点(2015年)では、その区別が困難であることが大きな課題として残されていた。また、仮性増悪の発現率が腫瘍種や薬剤によって異なる可能性があり、さらなる大規模なデータ蓄積と詳細な解析が必要である。特に、非メラノーマの固形腫瘍における仮性増悪の頻度と特徴については、まだデータが不足している。今後の研究では、循環腫瘍DNA(ctDNA)動態、FDG-PET所見、免疫学的マーカー、および反復生検などを用いた多角的なアプローチが、これらの課題を解決するための方向性として考えられる。本レビューの問題提起は、その後の免疫療法における奏効評価に関する研究の礎となり、現代の多くの臨床試験でRECISTとirRC/iRECISTの両方が採用されるようになった。

方法

本研究は、免疫チェックポイント阻害剤治療における仮性増悪と免疫関連奏効パターンに関する「Comments and Controversies Review」であり、特定の新規実験や臨床試験を実施したものではない。そのため、研究デザインは系統的レビューと複数の免疫療法臨床試験の公表データの統合解析に該当する。

データソースと選択基準: 2015年8月までに公表された、イピリムマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、MPDL3280AなどのPD-1/PD-L1阻害剤およびCTLA-4阻害剤を用いた固形腫瘍患者を対象とした臨床試験のデータを収集した。対象とした試験は、メラノーマ、非小細胞肺がん、腎細胞がん、膀胱がん、乳がん、大腸がん、食道がん、胃がん、頭頸部がん、膵十二指腸がん、卵巣がん、肉腫、子宮がんなど、多岐にわたる固形腫瘍を対象としたものである。これらの試験は、主に安全性と有効性を評価する目的で実施されたフェーズ1、フェーズ2、フェーズ3の試験が含まれる。文献検索はPubMedなどの主要な医学文献データベースを用いて実施されたと考えられる。

奏効評価基準: 各臨床試験では、腫瘍評価に身体診察およびコンピュータ断層撮影(CT)や磁気共鳴画像法(MRI)による放射線学的評価が用いられた。主要な奏効評価基準としては、RECIST 1.0、RECIST 1.1、および改訂WHO基準が採用されていた。多くの既存試験では、RECIST基準の補足として、研究者判断による免疫関連奏効基準が用いられていた。例えば、標的病変の縮小と非標的病変の出現といった混合反応の場合に、臨床的判断の参考にされた。一部の試験では、irRCが探索的エンドポイントとして用いられた。しかし、レビュー対象とした14試験のうち10試験(71%)では、客観的奏効率の算出にirRCは使用されていなかった。

データ抽出と解析: 収集した臨床試験データから、評価可能患者数、客観的奏効率(ORR)、主要奏効評価基準、および免疫関連奏効基準に基づく追加奏効患者数に関する情報を抽出した。特に、RECIST基準で進行と判定された後に、免疫関連奏効基準で奏効または安定が確認された患者の割合に焦点を当てて分析した。仮性増悪の定義は、RECIST基準で進行と判定された後、治療継続により腫瘍縮小または安定が確認されたケースとした。統計解析手法については、本レビューが既存データの統合解析であるため、個々の試験で用いられた統計手法(例: Wolchok et al. NEnglJMed 2013の試験ではカプラン・マイヤー法による生存解析が実施されている)を参照しつつ、本レビュー自体では新たな統計解析は実施していない。主に記述統計学的なアプローチで、仮性増悪の発現率や特徴を整理した。