• 著者: Chen Chen, Shenfei Zong, Zhuyuan Wang, Ju Lu, Dan Zhu, Yizhi Zhang, Yiping Cui
  • Corresponding author: Yiping Cui (Advanced Photonics Center, Southeast University, Nanjing, China)
  • 雑誌: ACS Applied Materials & Interfaces
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-09-12 (Online first); 2016-09-23 (PubMed Epub)
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27617891

背景

エクソソームは直径30〜100 nmの細胞外小胞 (extracellular vesicle: EV) であり、MVB (multivesicular body) と細胞膜の融合を経て分泌される。テトラスパニンファミリー (CD9、CD63、CD81) やESCRT (endosomal sorting complexes required for transport) 関連タンパク質 (Alix等)、Hsp70 (heat shock protein 70) 等の熱ショックタンパク質 を豊富に含み、サイトゾルタンパク質・脂質・核酸の細胞間送達を媒介する重要な細胞間コミュニケーション機構として機能する (Thery et al. NatRevImmunol 2002)。エクソソームを含む細胞外小胞の多様性と機能分類はRaposo & Stoorvogel (J Cell Biol 2013) により体系化され、膜小胞の細胞間情報伝達機構はSimons & Raposo (Curr Opin Cell Biol 2009) により詳細に記述されている。腫瘍由来エクソソームはインテグリン組成によって臓器特異的な前転移ニッチ (pre-metastatic niche) 形成を促進し (Hoshino et al. Nature 2015)、診断バイオマーカーおよびドラッグデリバリー担体としての臨床応用が精力的に探索されている。Melo et al. Nature 2015 はGlypican-1 (a cell-surface heparan sulfate proteoglycan) 陽性エクソソームが膵臓がんの超早期検出に利用可能なことを示し、血中循環エクソソームの表面マーカー解析の重要性を強調した。

エクソソームの機能はその膜受容体の種類と分布に深く依存するが、従来の蛍光顕微鏡 (共焦点顕微鏡、TIRF (total internal reflection fluorescence) 顕微鏡) は回折限界 (アッベ限界: 約200 nm) によって空間分解能が数百 nmに留まり、エクソソームのサイズ (30〜100 nm) と同オーダーである。このため、個々の小胞の膜受容体分布の精密解析や隣接する小胞の分別が不可能であった。先行研究はbulk Western blotやフローサイトメトリーを用いた集団解析に限定されており、single-vesicle解像度での受容体空間マッピングおよびエクソソームの細胞内トラフィッキング経路の直接可視化という gap in knowledge が依然として残されていた。すなわち、エクソソームの実サイズ (30〜100 nm) を解像できるイメージング手段が不足しており、この技術的空白が機能解析の主要な障壁となっていた。

SMLM (single-molecule localization microscopy) の代表技術であるPALM (photoactivated localization microscopy) およびSTORM (stochastic optical reconstruction microscopy) は、光スイッチ可能な蛍光分子の逐次活性化・局在化から20〜50 nmの側方分解能を達成する。Alexa Fluor 488およびAlexa Fluor 647は数百サイクルにわたりon/off状態を可逆切替でき、サイズが約2 nmと小さく高密度標識が可能なためPALM/STORMに適合する。しかしエクソソームへのPALM/STORM適用はこれまで報告されていなかった。本研究はこのアプローチを初めて実証した。

目的

PALM/STORM超解像顕微鏡技術をがん細胞由来エクソソームの膜受容体イメージングおよび細胞内トラフィッキング追跡に初めて適用し、(1) CD63 (単色) およびCD63+HER2 (human epidermal growth factor receptor 2) のデュアルカラーナノスケール超解像イメージングの実証、(2) 正常細胞MRC-5 (human embryonic lung fibroblast cell line) によるエクソソーム取り込みの細胞内可視化、(3) エンドサイトーシス後のリソソームへの輸送の直接観察を目的とした。

結果

SKBR3/HeLa由来エクソソーム単離確認とTIRF濃度定量:HeLa・SKBR3両細胞株からpolymer precipitation法によるエクソソーム単離に成功した。TEM画像 (phosphotungstic acid染色) では直径30〜100 nmの cup-shaped vesiclesが確認され、エクソソームに特徴的なサイズと形態を示した (Fig 1a, b)。TIRF顕微鏡によるCM-Dil染色粒子カウントから、HeLa株では5.46×10^7/μL、SKBR3株では4.88×10^7/μLのエクソソーム濃度が算出された。n=3の独立実験で両細胞種とも効率的かつ再現性のあるエクソソーム回収が確認された。これらの結果はpolymeric precipitation kitが簡便かつ実用的なEV単離法として機能することを示すが、purityの面では後続の機能実験において非エクソソーム成分の混入に注意が必要である。

FWHM 70 nm達成: 単色CD63 PALM/STORM超解像イメージング:HeLa由来エクソソームのCD63をAlexa Fluor 647で間接IF標識し、CM-Dil膜染色と組み合わせてTIRF + PALM/STORMイメージングを実施した。15,000フレームから再構築したPALM/STORM画像において、個々のエクソソームのCD63局在が高精細に可視化された。n=3の独立実験で再現した再構築超解像像のFWHM (full width at half maximum) は70 nmを達成し、エクソソームの実際のサイズ (30〜100 nm) と良好に一致した (Fig 2g, h)。これに対し、同一エクソソームをTIRF顕微鏡で観察した場合はCD63シグナルが回折限界のため実サイズよりはるかに大きく表示され (Fig 2f)、精密な構造情報の取得は不可能であった。

一次抗体をPBSで置換したブランクコントロール実験では、CM-Dilチャネルでエクソソームの存在が確認できる一方 (Fig 2d)、Alexa Fluor 647チャネルでは蛍光が極めて微弱であり (Fig 2e)、間接IF標識の高い特異性が実証された。さらに隣接する2個のエクソソームの比較実験では、TIRF顕微鏡では1つのスポットにしか見えない近接構造をPALM/STORMが2つの独立した小胞として明確に分解した (Fig 3a, b)。クロスセクションプロファイル解析 (Fig 3c) でも2つのピークが明確に分離しており、回折限界を超えたナノスケール構造識別能を直接証明した。この「隣接エクソソームの分別能」は密集した細胞内エクソソーム分布の解析において特に重要な技術的優位性を示す。

デュアルカラーCD63+HER2同時超解像イメージングの初実証:HER2過剰発現乳がん細胞株SKBR3由来エクソソームにおいて、CD63 (Alexa Fluor 647: 赤チャネル) とHER2 (Alexa Fluor 488: 緑チャネル) のデュアルカラーPALM/STORM同時イメージングに初めて成功した (Fig 4)。Alexa Fluor 488 (EM 495-575 nm) と647 (EM 655-690 nm) の発光スペクトルは十分に分離しており、共焦点顕微鏡の波長走査 (confocal wavelength scan) によりクロストークが無視できるレベルであることを確認した (Fig S1)。n=3の独立実験でのマージ超解像画像からCD63とHER2がSKBR3エクソソーム表面に共発現することを明示した (Fig 4f)。ワイドフィールドTIRF画像 (Fig 4a, b) と比較して、PALM/STORM画像 (Fig 4d, e) は著しく高い空間分解能を提供した。両一次抗体を省略したブランクコントロールでは両チャネルとも蛍光シグナルが検出されず (Fig 4g, h)、デュアルカラー標識の特異性を確認した。これらの結果はCD63が汎用エクソソームマーカーとして広く発現し、HER2がSKBR3由来エクソソームで過剰発現するという既知の生物学的事実と完全に整合する。

がん細胞由来エクソソームの正常細胞内取り込みを超解像で直接可視化:PKH67 (緑) 染色したMRC-5ヒト胎児肺線維芽細胞に、Alexa Fluor 647 (赤) -IF標識SKBR3エクソソームを添加し1時間共培養後にTIRF + PALM/STORMイメージングを実施した。MRC-5細胞膜 (PKH67, 緑) とSKBR3エクソソーム (Alexa Fluor 647, 赤) のマージ画像から、がん細胞由来エクソソームが正常線維芽細胞内に取り込まれた様子を明確に可視化した (Fig 5e)。TIRF像 (Fig 5c) と比較して、PALM/STORM像 (Fig 5d) は細胞内エクソソームの空間分布をより高精度で描出した。拡大した超解像像 (Fig 5e右欄) では膜受容体の個別局在がTIRF像を大幅に上回る解像度で描出された。n=3の独立実験で、他細胞に取り込まれた後もPALM/STORMイメージングが有効であることを初めて示し、エクソソームの細胞内動態 (miRNA・DNA・タンパク質等のcargo delivery過程) 追跡への応用可能性を示唆した。

エクソソームのリソソーム内局在を超解像で直接確認:LysoTracker Red DND-99染色MRC-5リソソーム (緑) とAlexa Fluor 647標識SKBR3エクソソーム (赤) のデュアルカラーPALM/STORMイメージングにより、取り込まれたエクソソームとリソソームの明確な共局在を観察した (Fig 6e)。TIRF像 (Fig 6a-c) では共局在の確認が不明瞭であったのに対し、PALM/STORM像 (Fig 6b, d) では小器官の形状と分布が明確に描出された。n=3の独立実験による拡大デュアルカラーPALM/STORM画像では、エクソソームがリソソーム内腔に局在する様子が直接可視化され、エクソソームがエンドサイトーシス後にリソソームへ輸送・分解されることを直接示した。LysoTracker Red DND-99は561 nm照射でオフ状態になり405 nm光で再活性化できる光スイッチ特性を持つため、PALM/STORMイメージングに適合した。この結果はTian et al. (J Cell Physiol 2013) によるbulk endocytosis解析の知見を単一小胞解像度で直接視覚的に確認したものである。

考察/結論

本研究はPALM (photoactivated localization microscopy) / STORM (stochastic optical reconstruction microscopy) 超解像顕微鏡技術をがん細胞由来エクソソームに初めて適用した landmark 報告であり、従来の光学顕微鏡の回折限界 (アッベ限界 ~200 nm) を超え、FWHM 70 nmという高空間分解能でエクソソーム膜タンパク質局在を直接可視化することに成功した。本研究で初めて示された3つの主要技術的達成 — (1) 単色CD63超解像イメージング (FWHM 70 nm、15,000フレーム再構築)、(2) デュアルカラーCD63+HER2同時超解像イメージング、(3) 細胞内取り込み後のリソソーム輸送の直接観察 — はそれぞれが単独でも novel な科学的貢献を持つ。

これまでの研究と比較すると、EV pioneer研究者であるThery et al. (Nat Rev Immunol 2002) やRaposo & Stoorvogel (J Cell Biol 2013) はエクソソームの生合成・組成・機能を確立してきたが、これらはbulk Western blot、フローサイトメトリー、TEM、および従来の蛍光顕微鏡を用いた集団解析に限定されていた。既報の研究では個々のエクソソームの膜受容体のナノスケール空間マッピングは不可能であり、また腫瘍由来エクソソームが形成する前転移ニッチのメカニズム解析 Bos et al. Nature 2009 においても、エクソソーム表面受容体の分子レベル可視化技術が不足していた。これまでの研究では直接的なsingle-vesicle超解像可視化という技術手段が存在せず、本研究はこの重要な gap を初めて補完した。

新規な知見として、(1) 隣接する2個のエクソソームをPALM/STORMが分別可能であること (TIRF顕微鏡では回折限界により不可能)、(2) SKBR3エクソソームにおけるHER2+CD63のデュアルカラー超解像共局在の直接実証、(3) がん細胞由来エクソソームが正常細胞 (MRC-5線維芽細胞) に取り込まれた後もPALM/STORMイメージングが有効であること、(4) 取り込まれたエクソソームがリソソーム内腔に局在することを超解像顕微鏡で直接観察したことを、本研究で初めて示した。間接IF法 (indirect immunofluorescence) + Alexa Fluor色素の組み合わせが直径30〜100 nmという微小構造に対して有効に機能することも実証されており、本プロトコルの方法論的貢献は大きい。

臨床応用の観点から、PALM/STORM技術はHER2陽性乳がんの液体生検 (liquid biopsy) における循環エクソソームのbiomarker定量や、exosome-based drug delivery carriersの細胞内trafficking efficacyのナノスケール品質評価への応用が見込まれる。bench-to-bedside の実装では、脳転移エコシステムにおけるEV-microenvironment crosstalkの解析 Biermann et al. Cell 2022 や脳転移モデルでのexosome cargo tracking研究 Liu et al. CancerPathogTher 2024 への超解像技術の適用が臨床的意義を持つ。さらに、Hoshino et al. (Nature 2015) が示したインテグリン依存的organ tropismの制御機構をsingle-vesicle解像度で視覚化する研究への橋渡し応用も重要な方向性である。

残された課題: (1) ISEV2023 MISEV (Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles) compliance gap — TSG101/Alix cytosolic marker・CD9/CD81追加テトラスパニンの未測定、NTA + DLSによるmulti-method size distribution評価の未実施、polymer precipitationのlow purity問題 (apolipoprotein/IgG共沈混入) はいずれも今後の検討が必要であり、現行プロトコルをISEV2023準拠のdifferential ultracentrifugationまたはSEC法と組み合わせることが推奨される。(2) 本研究は固定sample (in vitro) に限定されており、live-cell real-time super-resolution imagingへの展開は達成されていない (PAINT (points accumulation for imaging in nanoscale topography)/MINFLUX (minimal photon fluxes) 等next-generation platform適用が必要)。(3) エンドソーム→後期エンドソーム→リソソームへの段階的輸送経路の経時追跡 (temporal resolution) は実現されておらず、今後の展望として残された課題である。(4) 抗HER2療法 (trastuzumab等) との相互作用下でのHER2陽性エクソソームdynamics観察は未実施。(5) in vivo転移モデルでのexosome dynamics可視化や、multi-omics (proteomics + lipidomics + miRNA-seq) との統合解析への展開が今後の研究課題として期待される。limitation として本methodological studyは機能実験を含まないため、PALM/STORMで可視化したトラフィッキング経路ががん転移に直接関与するかの機能的検証は今後の更なる検討を要する。

方法

エクソソーム単離と濃度定量: ヒト乳がん細胞株SKBR3 (SK-BR-3 human HER2-positive breast carcinoma cell line) およびヒト子宮頸がん細胞株HeLaを70%コンフルエントまで培養後、5 mLの条件培地をExoQuick-TC (System Biosciences社) polymer precipitation法で処理した。3,000×g × 15 min遠心で細胞・デブリを除去後、10,000×g × 20 minでエクソソームを沈殿、100 μL PBS (phosphate-buffered saline) に再懸濁し-75°Cで保存した。エクソソーム濃度はZeiss Elyra P.1 TIRF顕微鏡でCM-Dil (carbocyanine membrane tracer) 染色粒子数をカウントして算出した。ISEV (International Society for Extracellular Vesicles) characterization: TEM (transmission electron microscopy) で形態確認 (phosphotungstic acid 染色、ISEV minimum requirement)。本研究は2016年公開でISEV2023推奨のTSG101/Alix (cytosolic marker)、CD9/CD81追加テトラスパニン、NTA (nanoparticle tracking analysis) + DLS (dynamic light scattering) multi-method size evaluationは未実施 (limitation)。Polymer precipitation法はdifferential ultracentrifugation (dUC) やsize exclusion chromatography (SEC) に比べpurityが低くapolipoprotein/IgG共沈の可能性あり (ISEV2023でdiscouraged)。

膜受容体標識: IF (indirect immunofluorescence) を採用。CD63は抗CD63 rabbit IgG (一次抗体) + Alexa Fluor 647標識goat anti-rabbit IgG (二次抗体)、HER2はmouse抗HER2抗体 + Alexa Fluor 488標識goat anti-mouse IgGで標識。二次抗体はシグナル増幅機能も持ち、probe size 約2 nmのAlexa Fluor色素は高密度標識と低artifact標識を両立する。エクソソーム膜はCM-Dilで染色。特異性確認のため一次抗体をPBSで置換したブランクコントロールを各実験に設定した。

PALM/STORM超解像イメージング: Zeiss Elyra P.1 (100× 油浸対物レンズ) を使用。イメージングバッファー: 136 mM β-メルカプトエタノール + 酸素消去系 (5%グルコース/グルコースオキシダーゼ/カタラーゼ) 含有PBS (pH 8.0)。各チャネル設定: Alexa Fluor 647 (excitation (EX) 642 nm / 150 mW、emission (EM) 655-690 nm、405 nm活性化レーザー)、Alexa Fluor 488 (EX 488 nm / 100 mW、EM 495-575 nm)、CM-Dil (EX 561 nm / 100 mW)。露光時間50 ms/フレームで15,000フレーム取得し超解像画像を再構築した。エクソソームはポリエチレンイミン被覆チャンバースライドに静電吸着固定した。

細胞内トラフィッキング実験: MRC-5細胞を37°C / 5% CO2で48時間培養後、PKH67 (fluorescent cell membrane linker kit) で細胞膜を染色した。Alexa Fluor 647-IF標識SKBR3エクソソームをMRC-5培地に添加し1時間共培養後、過剰エクソソームを洗浄、4%パラホルムアルデヒドで固定してTIRF/PALM/STORMイメージングを実施した。リソソーム共局在評価にはLysoTracker Red DND-99 (lysosome-selective acidic organelle probe、561 nm照射でオフ→405 nm光で再活性化可能) を前処理に用いた。再現性確認のため、全実験はn=3の独立反復で実施した。FWHM計測および粒子定量の群間比較はStudent’s t-test (両側検定、p<0.05を統計的有意とした) で検定した。