Article data

Studying the Fate of Tumor Extracellular Vesicles at High Spatiotemporal Resolution Using the Zebrafish Embryo

  • 著者: Vincent Hyenne, Shima Ghoroghi, Mayeul Collot, Joanna Bons, Gautier Follain, Sebastien Harlepp, Benjamin Mary, Jack Bauer, Luc Mercier, Ignacio Busnelli, Olivier Lefebvre, Nina Fekonja, Maria J. Garcia-Leon, Pedro Machado, Francois Delalande, Ana Amor Lopez, Susana Garcia Silva, Frederik J. Verweij, Guillaume van Niel, Farida Djouad, Hector Peinado, Christine Carapito, Andrey S. Klymchenko, Jacky G. Goetz
  • Corresponding author: Vincent Hyenne (INSERM UMR_S1109, Universite de Strasbourg, Strasbourg, France); Jacky G. Goetz (INSERM UMR_S1109, Universite de Strasbourg, Strasbourg, France)
  • 雑誌: Developmental Cell
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-02-07
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30745140

背景

腫瘍由来の細胞外小胞である EV (extracellular vesicle: 細胞外小胞) は、腫瘍細胞と周囲の間質細胞との間における情報伝達を媒介し、転移に先立って遠隔臓器に形成される前転移ニッチである PMN (pre-metastatic niche: 転移前ニッチ) の形成や転移促進において極めて重要な役割を果たすことが示されてきた。腫瘍 EV は血流中を循環して遠隔臓器に到達し、局所的に微小環境を改変する。例えば、転移性メラノーマ患者の血中には腫瘍 EV が増加しており、EV タンパク量が不良な予後と関連することも示されている。しかし、生体内における循環 EV の分散、特異的細胞への取り込み、細胞内での分解運命、および転移前ニッチ誘導の正確なメカニズムはほとんど解明されていなかった。

従来のマウスモデルを用いた生体内追跡研究では、単一分子レベルでの EV 追跡が困難であり、リアルタイムでの高解像度 in vivo 観察には適していなかった。すなわち、哺乳類モデルにおける時空間解像度の限界が、循環 EV の動態解明における大きな「不足」であり、研究上の「課題」として残されていた。ゼブラフィッシュ幼生は、体が透明であり、定型的な血管系と成熟途上の免疫系を備えているため、生体内での EV 動態をリアルタイムかつ高時空間解像度で観察するための優れたモデル系と考えられる。また、最近開発されたシアニン系膜プローブである MemBright は、従来の PKH-26 に比べて約20倍以上の量子収率を持ち、EV 標識に優れた特異性と輝度を示す。

本研究では、これらのツールを組み合わせることで、これまで「未解明」であった循環腫瘍 EV の生体内運命を明らかにすることを目指した。本研究の背景を支える知見として、EV の一般的な生物学的特性や機能については Raposo et al. JCellBiol 2013vanNiel et al. NatRevMolCellBiol 2018 が詳しく報告しており、腫瘍 EV による遠隔臓器での PMN 形成能については Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015Peinado et al. NatMed 2012Hoshino et al. Nature 2015 などの先行研究によってその重要性が広く認識されている。これまでの研究では、循環血流中における単一 EV の挙動や、特定の細胞による取り込みプロセスの詳細をリアルタイムで追跡する技術が「不足」しており、生体内での正確な運命については「不明」な点が多く、学術的な gap が存在していた。

目的

本研究の目的は、ゼブラフィッシュ幼生を用いた新しい in vivo モデルを構築し、高輝度膜プローブ MemBright および遺伝子操作された蛍光 EV を用いて、以下の4点を高時空間解像度で解析・検証することである。

(1) 循環血流中における腫瘍 EV の血行動態的挙動と血管内での停止機構の解明。 (2) 血管内において腫瘍 EV を取り込む主要な受容細胞の同定と、その取り込みを司る細胞生物学的機構の解明。 (3) 受容細胞内に取り込まれた腫瘍 EV の細胞内輸送経路と、最終的な分解運命の追跡。 (4) 腫瘍 EV が受容細胞の表現型変化を介して、転移促進機能を発揮するメカニズムの検証。

これらの解析を通じて、ゼブラフィッシュ幼生が腫瘍 EV 生物学および転移前ニッチ形成の研究における極めて有用な生体内モデルであることを実証することを目的とする。さらに、本研究は、生体内における単一 EV スケールでの動態追跡を可能にするプラットフォームを確立し、将来的な治療標的の同定に寄与することを目指す。

結果

Zmel1 メラノーマ EV のプロテオーム特性と哺乳類 EV との類似性: Zmel1 メラノーマ細胞から単離した EV のプロテオーム解析を行い、794個のタンパク質を同定した。この中には、ALIX、CD81、Flotillin1、TSG101 などの典型的な EV マーカーが含まれていた。ヒトメラノーマ細胞株 6種 (n=6 cell lines) の EV プロテオームと比較したところ、65% の共通性が認められ、マウスメラノーマ細胞株 3種 (n=3 cell lines) とは 40% の共通性が認められた (Figure 1)。一方で、非腫瘍性の AB9 ゼブラフィッシュ線維芽細胞由来 EV との共通性は 17% に留まり、細胞種特異的な cargo (積荷) の濃縮が示された。この高い類似性から、Zmel1 EV はヒトメラノーマ EV の優れた in vivo モデルであることが示された。また、EV 分泌を制御する Rab27a や Rab27b などの分子機構 Ostrowski et al. NatCellBiol 2010 との関連性も示唆された。

MemBright 標識による高輝度かつ凝集体のない単一 EV 可視化: 従来の膜プローブである PKH-26 は、水性媒体中で約 80 nm の自己凝集体を形成し、単一 EV ととの区別を困難にする。これに対し、新規プローブ MemBright-Cy3 は、PKH-26 と比較して約20倍以上の高い量子収率 (0.42 vs 0.02) を示し、自己凝集体を形成することなく EV 膜を効率的に標識した (Figure 2)。NTA および電子顕微鏡観察により、MemBright 標識は EV のサイズ (平均直径 150 nm) や形態に影響を与えないことが確認された。ゼブラフィッシュ幼生の循環内に注射された MemBright 標識 EV は、血管内において個々の輝点として高解像度で追跡可能であった。

循環内における腫瘍 EV の血行動態的挙動と血管壁近傍での減速: 高速共焦点顕微鏡 (80〜100 fps) を用いた血流中の EV 追跡により、EV の流速は血管の部位によって異なることが明らかになった。EV は背側大動脈内を高速で流れる一方、静脈プレクサス (Caudal plexus) では流速が著しく低下した。血管壁からの距離と流速の関係をプロットしたところ、EV は血管壁に近づくにつれて Poiseuille (ポアズイユ) 流に従って減速し、血管内皮細胞との接触頻度が高まる挙動を示した (Figure 3)。血管壁近傍において、EV は「ローリング (徐々に減速して停止)」または「急停止」のいずれかのパターンを示し、血管内皮への接着が段階的に制御されていることが示された。

内皮細胞とパトロールマクロファージによる選択的 EV 取り込み: 注射 3時間後 (3 hpi: hours post-injection) において、血管内に停止した EV の分布を定量したところ、全体の 43% (n=19 cells) が血管内皮細胞に、38% (n=11 cells) がマクロファージに取り込まれており、これら 2つの細胞種で全体の 80% 以上を占有していた (Figure 4)。これに対し、好中球への取り込みは極めて稀であった。また、腫瘍 EV は、同サイズの不活性ポリスチレンビーズや非腫瘍性 AB9 EV と比較して、内皮細胞への取り込み効率が有意に高かった (p=0.015 および p<0.0001)。マクロファージの周囲長と EV 取り込み量の間には正の相関があり、大型のパトロールマクロファージが活発に EV を貪食していることが示された。

パトロールマクロファージによる 2系統の取り込み機構と細胞内輸送: リアルタイムイメージングにより、マクロファージによる EV 取り込みには 2つの異なる機構が存在することが判明した。第一は、EV が細胞表面に接着した後に約 30秒かけて緩やかに取り込まれる古典的なエンドサイトーシス経路である。第二は、マクロファージが伸ばした糸状仮足 (フィロポディア) に EV が捕捉され、5秒以内に急速に細胞体へと引き込まれる「フィロポディア滑走 (filopodia surfing)」経路である (Figure 6)。CLEM 解析により、マクロファージは血管腔内に数 μm に及ぶシート状の突起を展開して EV を捕捉していることが三次元的に実証された (Figure 5)。取り込まれた EV は、注射 3時間後にはほぼ全量が LysoTracker 陽性の酸性コンパートメント (MVB: multivesicular body および LEL: late endosome-lysosome) に輸送され、最終的に分解された。

腫瘍 EV によるマクロファージ活性化と前転移ニッチ形成を介した転移促進: 腫瘍 EV を取り込んだマクロファージは、対照ビーズを取り込んだ群と比較して、運動速度が有意に低下した (p=0.0009)。さらに、Tg(mpeg1:mCherry/TNFa:eGFP) 系統を用いた解析により、EV 注射 20時間後において、TNFa 陽性のプロインフラマトリー (M1様) マクロファージの割合が有意に増加することが示された (p<0.0001) (Figure 8)。この腫瘍 EV による「教育」効果を検証するため、EV またはビーズで前処理 (プライミング) させた幼生 (n=12 mice 相当の実験系) に Zmel1 メラノーマ細胞を移植したところ、EV 前処理群において転移腫瘍の増殖が有意に促進され (p=0.0004)、2.5-fold の転移促進と 1.8-fold の浸潤を示し、尾ひれ実質内への侵襲性の高い浸潤表現型が観察された (Figure 8)。

考察/結論

先行研究との違い: 従来のマウスモデルを用いた in vivo 追跡研究 (Lai et al., 2015; Zomer et al., 2015) では、個々の循環 EV の挙動をリアルタイムで詳細に記述することは技術的に困難であった。これら「これまで」の哺乳類モデルにおけるアプローチと異なり、本研究はゼブラフィッシュ幼生の優れた光学的透明性を活かすことで、血流中における単一 EV の流速変化や血管壁近傍での減速挙動、さらには血管内皮細胞やマクロファージへの取り込みプロセスを直接かつ動的に可視化した点で対照的である。

新規性: 本研究で初めて、循環腫瘍 EV が血管内をパトロールするマクロファージのダイナミックなシート状突起 (フィロポディア) によって捕捉され、高速な「フィロポディア滑走」を介して取り込まれる現象を新規に同定した。また、CLEM 解析を駆使することにより、取り込まれた EV が多小胞体 (MVB) や後期エンドソーム・リソソーム (LEL) といった酸性分解コンパートメントに輸送される様子を、生体内において超微細構造レベルで初めて実証した。

臨床応用: 本研究の知見は、がん転移における前転移ニッチ (PMN) 形成の初期プロセスを標的とした新規治療戦略の臨床応用に直結する。臨床的意義として、循環腫瘍 EV によるパトロールマクロファージの活性化 (TNFa 誘導を伴う M1様極性化) を阻害する薬剤や、内皮細胞への EV 接着を阻害する分子標的薬の開発が、将来的ながん転移抑制療法の臨床現場において translational なアプローチとなることが期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、腫瘍 EV がリソソームなどの分解経路に輸送されるにもかかわらず、どのようにして受容細胞の表現型を恒久的に改変し、転移を促進するシグナルを伝達しているのかという分子メカニズムの解明が残されている。また、本研究の limitation として、ゼブラフィッシュとヒトの生理学的・免疫学的な差異、および MemBright プローブがすべての EV サブポピュレーションを均等に標識しているわけではない可能性が挙げられる。今後は、より詳細なナノスケールイメージング技術を用いて、特定の EV 積荷分子が生体内でどのように放出され、標的細胞内で機能を発揮するのかを追究する今後の研究が必要である。

方法

EV の調製と標識: ゼブラフィッシュメラノーマ細胞株である Zmel1 (zebrafish melanoma 1) 細胞 (transgenic mitfa-BRAF(V600E);p53(-/-) 由来) から、既報 Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006 に従い、差速遠心法を用いて EV を単離した。単離した EV は、新規シアニン系膜プローブである MemBright-Cy3 または MemBright-Cy5 (0.2 μM、30分間) で標識し、超遠心により精製した。EV のサイズは、NTA (nanoparticle tracking analysis: ナノ粒子トラッキング解析) により平均直径 150 nm、電子顕微鏡観察により約 90 nm であることを確認した。また、遺伝子操作 EV として、Syntenin2 (syntenin-2) を GFP (green fluorescent protein) と融合させた Syntenin2-GFP を発現させた Zmel1 細胞から分泌される GFP 陽性 EV も調製した。EV のタンパク質組成は、質量分析計を用いたショットガンプロテオミクスにより解析し、794個のタンパク質を同定した。さらに、対照群として 4T1 (4T1 mouse mammary carcinoma) 細胞、HEK293T 細胞、および AB9 細胞から得た EV も使用した。

ゼブラフィッシュ実験: 受精後 48時間 (48 hpf: hours post-fertilization) のゼブラフィッシュ幼生のキュヴィエ管 (Duct of Cuvier) に対し、MemBright 標識 EV または 100 nm の蛍光ポリスチレンビーズを 27.6 nL マイクロインジェクションした。使用した蛍光トランスジェニック系統は、血管内皮を標識する Tg(Fli1:GFP) (Fli1: friend leukemia integration 1)、マクロファージを標識する Tg(mpeg1:GFP)、好中球を標識する Tg(mpo:GFP)、および赤血球・造血幹細胞を標識する Tg(gata1:dsRed) である。高速共焦点顕微鏡を用いて 80〜100 fps (frames per second) の速度で 1分間の撮影を行い、循環内における EV の流速、停止、および細胞への取り込み動態を解析した。画像解析には Schindelin et al. NatMethods 2012 を用いた。

CLEM (correlated light and electron microscopy: 相関光・電子顕微鏡法) 解析: Tg(mpeg1:GFP) 幼生に MemBright-Cy3 標識 EV を注射し、共焦点顕微鏡下で EV を取り込んだマクロファージを同定した。その後、同一サンプルを固定し、マイクロCT (micro-computed tomography) を用いて位置を特定した上で、TEM (transmission electron microscopy: 透過型電子顕微鏡) による連続超薄切片 (厚さ 70 nm) の撮影を行い、三次元再構築を実施した。

細胞内輸送と機能解析: LysoTracker を用いて酸性コンパートメントを染色し、注射後 10分、3時間、24時間の各時点における EV シグナルとの共局在を定量した。転移実験では、EV または 100 nm ポリスチレンビーズを前注射 (プライミング) した 12時間後に、Zmel1 メラノーマ細胞を血管内注射し、7日後の尾部静脈プレクサスにおける蛍光強度から転移腫瘍の増殖を評価した。マクロファージの活性化状態は、Tg(mpeg1:mCherry/TNFa:eGFP) (TNFa: tumor necrosis factor alpha) 系統を用いて、注射 20時間後の TNFa 陽性マクロファージの割合を算出することで評価した。統計解析には、Mann-Whitney U test または Student’s t-test を用い、p < 0.05 をもって有意差ありと判定した。なお、in vivo 実験の対照比較として、BALB/c マウス由来 of 4T1 細胞から単離した EV を用いた実験も並行して実施した。