• 著者: Qing Fan, Liang Yang, Xiaodong Zhang, Xueqiang Peng, Shibo Wei, Dongming Su, Zhenhua Zhai, Xiangdong Hua, Hangyu Li
  • Corresponding author: Hangyu Li (Department of General Surgery, The Fourth Affiliated Hospital of China Medical University, Shenyang, China)
  • 雑誌: Cancer Letters
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2017-10-26
  • Article種別: Review (Mini-review)
  • PMID: 29107112

背景

エクソソームは、直径 30-100 nm の脂質二重膜小胞であり、ほぼ全ての細胞から分泌され、タンパク質、脂質、核酸 (mRNA、miRNA、lncRNA、DNA) をカーゴとして細胞間で運搬する細胞間情報伝達媒体である。Trams et al. (1981) は腫瘍細胞・正常細胞から放出される平均 40 nm (一部は 500-1000 nm) の小胞を初めて記載し、Pan & Johnstone (1983) がこれを exosome と定義した。当初エクソソームは細胞の代謝廃棄経路と見なされていたが、樹状細胞 (DC) が MHC (major histocompatibility complex) と共刺激分子を含むエクソソームを分泌して免疫調節を担うことが示され、さらに Valadi et al. NatCellBiol 2007 が mRNA/miRNA の細胞間水平伝達を実証して以来、腫瘍生物学における新たなパラダイムとして注目を集めている。腫瘍細胞はエクソソームを活発に分泌し、腫瘍微小環境 (TME) における情報交換、悪性形質形成、浸潤、転移、薬剤耐性に寄与する。例えば Hunter et al. (2008) は血中マイクロベシクル中の miRNA 発現を報告し、Harding et al. JCellBiol 1983 はトランスフェリン受容体のエンドサイトーシスとリサイクル経路を記述している。しかし著者らは、(1) ncRNA がどのようにエクソソームへ選択的にローディングされるのか、(2) 多胞体 (MVB) の分泌と細胞膜融合を制御する分子機構、(3) 受容細胞による特異的取り込み機序、(4) 腫瘍進行におけるエクソソーム性 ncRNA の個別分子機能、という4点が依然として未解明であり、これらを ncRNA 中心の視点で横断的に統合したレビューが不足していることを指摘した。とりわけ、ローディングの配列選択性と化学療法耐性の水平伝播を結びつけた整理は手薄であり、この knowledge gap を埋めることが本稿の動機である。

目的

本ミニレビューの目的は、エクソソームの生合成、放出、取り込みという3段階の分子機構を ncRNA の選択的選別という観点から統合的に整理することである。さらに、腫瘍由来エクソソーム性 ncRNA (miRNA, lncRNA) がオートファジー、化学療法耐性、転移といったがんの進行にどのように寄与するかを分子レベルで解明し、液体生検診断、循環エクソソーム除去、エクソソームベース薬物送達ベクターといった臨床応用に関する展望を提示することを目指す。

結果

ncRNA のエクソソーム選択的ローディング機構: miRNA のエクソソームへのローディングは、miRISC (miRNA-induced silencing complex) 非依存的に生じる。Gibbings et al. および Ostenfeld et al. は、精製エクソソーム内に miRISC 関連タンパクや AGO2 (argonaute 2) がほぼ検出されず (AGO2 は3反復中1反復のみで微量検出)、miRNA 選別が miRISC 非依存経路で進むことを示した。T細胞では、エクソソームに濃縮される miRNA が共通配列 GGAG (EXOmotif) を共有し、これが sumoylated hnRNPA2B1 (heterogeneous nuclear ribonucleoprotein A2B1) および hnRNPA1 に認識されて選択的ローディングを制御する。Villarroya-Beltri et al. NatCommun 2013 は、hnRNPA2B1 の sumoylation がこの選別に不可欠であることを報告した。肝細胞では、別の extra-seed 配列 GGCU (hEXOmotif) が SYNCRIP (synaptotagmin-binding cytoplasmic RNA-interacting protein; hnRNP Q/NSAP1 とも呼ぶ) に直接結合して濃縮を誘導し、SYNCRIP ノックダウンはエクソソーム特異的 miRNA の積み込みを障害する。さらに YBX1 (Y-box binding protein 1) は、ACCAGCCU・CAGUGAGC・UAAUCCCA といった構造モチーフを認識し、mRNA/lncRNA のエクソソームへの選別を制御する (Figure 1)。すなわち特定の RNA 結合タンパクが特定配列と協調して selective sorting を司る。

MVB 放出と SNARE 介在膜融合: エクソソーム放出には、合計 9 種類の小 GTPase (Rab2B, Rab5, Rab7, Rab9A, Rab11, Rab27A, Rab27B, Rab35, RAL) が関与する。Rab ファミリーは 70 を超えるサブタイプを持ち、小胞の出芽・脱被覆・運動・テザリング・融合を協調的に制御する。Stenmark et al. NatRevMolCellBiol 2009 は Rab GTPase を小胞輸送の調整役として概説した。特に Rab27A/B は Slp4-a, Slac2-b, Munc13-4 などのエフェクターと結合してエクソソーム分泌を制御し、Ostrowski et al. NatCellBiol 2010 は Rab27A/B の RNAi が MVB の異常蓄積を引き起こすことを示した。Rab35 は TBC1D10A-C (TBC1 domain family member A-C) の GAP 制御下で PLP-EGFP (proteolipid protein 1-enhanced green fluorescent protein) エクソソームを制御する。Invadopodia (アクチンに富む侵襲突起) は Rab27a・CD63陽性 MVB に特異的な主要ドッキング/分泌部位として機能し、cortactin が安定化する (Figure 2)。膜融合は v-SNARE (VAMP7) と t-SNARE (SYX-5, SNAP-23, syntaxin 4) のペアリングが駆動し、NSF (N-ethylmaleimide sensitive factor) ATPase が複合体を解離してリサイクルする。好気的解糖が亢進した腫瘍細胞では、PKM2 (pyruvate kinase muscle isozyme 2) による SNAP-23 の Ser95 リン酸化が SNARE 複合体を安定化させて放出を亢進する。SM (Sec1/Munc18) タンパク (Vps33, VPS33B) は SNARE アセンブリを調整し、ARC症候群では VPS33B 変異により分泌異常が生じる。さらに V-ATPase V0 サブユニット (VHA-5) は MVB ドッキングの最終段階を制御する。

受容細胞の取り込みと臓器指向性: エクソソームはクラスリン依存性・カベオラ依存性エンドサイトーシス、ファゴサイトーシス、マクロピノサイトーシスによって取り込まれ、低 pH 環境下では膜融合が優勢となる (Figure 1)。HSPG (heparan sulfate proteoglycan) は単なる付着部位ではなく真の内部化受容体として機能し、その合成と硫酸化が取り込みに必須で、syntenin が HSPG と連携して取り込みを強化する。インテグリン αvβ3・α5β1 も内部化受容体として働く。Hoshino et al. Nature 2015 は、腫瘍エクソソーム膜上のインテグリン発現パターンが臓器指向性転移を決定することを示した。具体的には、エクソソーム性インテグリン α6β4/α6β1 は肺転移に、αvβ5 は肝転移に関連し、α6β4 と αvβ5 の標的化はエクソソーム取り込みを低下させる。

化学療法耐性の水平伝播: lncARSR (lncRNA activated in renal cell carcinoma with sunitinib resistance) は、AKT/FOXO (forkhead box O) 軸の下流で発現上昇し、競合的内因性 RNA としてスニチニブ耐性を腎細胞癌間で水平伝播する。lncRNA UCA1 は乳がんのタモキシフェン耐性を ER陽性細胞へ伝播する。膵管腺癌 (PDAC) では、ゲムシタビン曝露により miR-155 が上昇し、DCK (deoxycytidine kinase, ゲムシタビン代謝酵素) を抑制することで耐性を拡散する。腫瘍関連マクロファージ (TAM) 由来のエクソソーム性 miR-21 は胃がんのシスプラチン (DDP) 耐性を、MCF-7/Adr 細胞由来 miR-222 はアドリアマイシン耐性を伝播する。NSCLC では A549/DDP 細胞由来の miR-100-5p・miR-96 がシスプラチン耐性に関与し、A549-GR (ゲムシタビン耐性) 細胞由来の miR-222-3p が親細胞の増殖・耐性・移動・浸潤を増強する。逆にエクソソーム性 miR-146a-5p の回復は A549/DDP 細胞の耐性を逆転させ、血清エクソソーム性 miR-146a-5p はシスプラチン効果を予測する候補バイオマーカーとなる (Table 1)。

転移促進とオートファジー: 乳がん由来のエクソソーム性 miR-105 は ZO-1 を標的として内皮タイトジャンクションを破壊し、血管バリアの完全性を消失させる。Fong et al. NatCellBiol 2015 は、乳がんエクソソーム性 miR-122 が前転移ニッチのグルコース代謝を再プログラムして転移を促進することを示した。低酸素性口腔扁平上皮癌 (OSCC) 由来の miR-21 は HIF-1α/HIF-2α 依存的に移動・浸潤を促進し、Zhang et al. Nature 2015 はアストロサイト由来のエクソソーム性 miR-17-92 クラスターが腫瘍細胞の PTEN 発現低下を介して脳転移の outgrowth を駆動し、Iba1陽性骨髄系細胞を動員することを報告した。ドキソルビシン誘導の MDSC (骨髄由来抑制細胞) 由来 miR-126a は肺転移を、NSCLC 患者血清の lncRNA MALAT-1 は腫瘍移動を促進する。さらにエクソソーム性 miRNA は受容免疫細胞の TLR (Toll-like receptor) リガンドとして働き、前転移性炎症応答を駆動する (Table 1)。オートファジーとの関係では、正常細胞では MVB のリソソーム分解とエクソソーム放出が動的に均衡するが、腫瘍細胞では低酸素・化学療法ストレス下で放出が亢進する。マウスアストロサイトでは PRNP (prion protein) が CAV1 (caveolin-1) を介してオートファジーを抑制し MVB 分解を防いで放出を促進する一方、HEK293T 細胞では TSG101 (tumor susceptibility gene 101) の ISGylation がリソソーム融合を促し放出を抑制する。

考察/結論

本総説は、エクソソームが単なる「細胞のゴミ」ではなく、がんの進行・耐性伝播・臓器指向性転移・液体生検の分子基盤として機能するという 2010年代の知見を ncRNA 中心に統合した。特に、(1) EXOmotif/hEXOmotif と hnRNPA2B1/SYNCRIP/YBX1 による配列選択的ローディング、(2) 9種の小GTPase-SNARE-SM-V-ATPase-invadopodia による分泌制御の階層性、(3) インテグリン-HSPG を介した臓器特異的取り込み、(4) Rab27A-cortactin-VAMP7/SNAP-23 を結節とする invadopodia-エクソソーム軸、という4つの分子機構を系統的に整理した。

先行研究との違い: これまでのレビュー (Thery 2009, Valadi 2007 など) と異なり、本稿は ncRNA ローディングの配列選択性 (GGAG, GGCU, YBX1 構造モチーフ) と、腫瘍由来エクソソーム性 ncRNA による化学療法耐性の水平伝播 (lncARSR, miR-155, miR-222, miR-146a-5p) を一本の流れとして結びつけた点が新規な視点である。既報の多くが生合成機構あるいは診断応用のいずれか一方に焦点を当てていたのとは対照的に、本稿は loading→release→uptake→腫瘍機能という連続軸で整理した点に新規性がある。Table 1 に集約された16事例の ncRNA-がん-耐性/転移マトリックスは、診断・治療標的の参照カタログとして有用である。

臨床応用: 本知見は、エクソソーム由来 ncRNA の液体生検診断 (循環腫瘍細胞 CTC や循環腫瘍 DNA ctDNA と相補的) と、エクソソームを標的とした治療戦略の臨床応用に直結する。具体的には、エクソソーム生合成阻害 (VPS4A/B, Rab27A/B, アクチン/cortactin, SNARE, SM, V0-ATPase, n-WASp/Tks5 による invadopodia 介入) による放出低下、金ナノ粒子を用いた循環エクソソームの選択的除去、siRNA・パクリタキセル・免疫アジュバントを積載した薬物送達ベクターとしての利用が臨床的有用性を持つ。エクソソームは CTC より濃縮が容易で、体液中で核酸を分解から保護するため、bench-to-bedside の橋渡しに適した特性を備える。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) エクソソーム由来 ncRNA の血漿濃度測定・分離法の標準化、(2) 腫瘍由来と非腫瘍由来エクソソームの識別法の確立、(3) 生合成阻害剤 (VPS4A/B, Rab27A/B 等) における腫瘍特異性の担保、(4) 薬物送達システムのスケールアップと GMP 製造、(5) miR-146a-5p などを用いたリアルタイム耐性モニタリングの実装、が残されている。ncRNA 選別の制御スイッチや薬物ローディングの分子スイッチが未同定である点は本領域の根本的な limitation であり、これらを克服する future research がエクソソームを腫瘍診断・標的治療に橋渡しする鍵となる。

方法

本稿は実験データを伴わない narrative なミニレビューであり、特定の統計手法 (Cox 回帰、ANOVA、log-rank 検定、Kaplan-Meier 法など) や前向きコホート・メタ解析は実施していない。代わりに、PubMed を主たる検索ソースとして 2017年7月までに発表されたエクソソーム生物学およびがん関連 ncRNA の原著論文・総説を渉猟し、エクソソームの生合成・放出・取り込みの分子機構と、エクソソーム性 ncRNA のがんにおける機能に関する知見を主題別に統合した。文献は「exosomes」「non-coding RNA」「miRNA」「lncRNA」「cancer」「chemoresistance」「metastasis」などのキーワードで抽出し、英語論文を対象とした。引用した原著で用いられたエクソソーム分離・定量法としては、差動超遠心法 (differential ultracentrifugation)、密度勾配遠心 (density gradient centrifugation)、サイズ排除クロマトグラフィー (size-exclusion chromatography)、ポリマー沈殿法が主に採用され、特性評価には CD9・CD63・CD81 (tetraspanin marker)・TSG101・Alix といった ISEV (International Society for Extracellular Vesicles) 推奨マーカーの western blot、ならびにナノ粒子トラッキング解析 (nanoparticle tracking analysis) と透過電子顕微鏡 (transmission electron microscopy) による粒径・形態確認が用いられている。本稿は系統的レビュー (PRISMA 準拠の網羅的検索・選択フローやバイアス評価) ではなく、著者の専門的判断に基づき機構的に重要な原著を選別した記述的総説である点に留意が必要である。主要な分子機構と具体的な分子事例は、Figure 1 (ncRNA のローディングと受容細胞への3経路取り込み)、Figure 2 (Rab GTPase/SNARE による MVB のドッキングと膜融合)、および Table 1 (ncRNA とがん種・薬剤耐性・転移を対応づけた16事例のマトリックス) に集約して提示している。