• 著者: Nobuyoshi Kosaka, Haruhisa Iguchi, Yusuke Yoshioka, Fumitaka Takeshita, Yasushi Matsuki, Takahiro Ochiya
  • Corresponding author: Takahiro Ochiya (国立がん研究センター研究所 転移研究部, 東京)
  • 雑誌: The Journal of biological chemistry
  • 発行年: 2010
  • Epub日: 2010-03-30
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 20353945

背景

細胞外 microRNA (miRNA) が腫瘍患者の血中に安定して循環することは以前から知られていたが、その安定性を説明するためにエクソソームや脂質小胞への封入が示唆されていた。miRNA は20〜22 塩基長の非コード低分子 RNA であり、標的 mRNA の 3’ 非翻訳領域に対する imperfect 相補的結合を介して翻訳抑制・mRNA 分解を惹起する。多くの miRNA の発現異常が癌の発症・進行・転移に関与することが明らかにされており、B 細胞リンパ腫・前立腺癌・肺癌・卵巣癌患者の血漿中で腫瘍由来の分泌 miRNA が上昇することが報告されていた (Mitchell et al. 2008, Chen et al. 2008, Taylor et al. 2008)。これらの先行研究は、循環 miRNA が癌の新規診断マーカーとして機能する可能性を示唆していた。

エクソソームは直径 50〜100 nm の膜小胞であり、多胞体 (MVB; multivesicular body) の細胞質膜との融合により細胞外に放出される (Cocucci et al. TrendsCellBiol 2009)。エクソソームが miRNA を含む細胞間情報伝達物質として機能する可能性が示唆されていたが (Valadi et al. NatCellBiol 2007, Skog et al. NatCellBiol 2008)、miRNA がどのような機序でエクソソームに搭載されて分泌されるのか、また分泌された miRNA が受容細胞において生理的に機能しうるのかは未解明であった。エクソソーム生合成には ESCRT (endosomal sorting complex required for transport) 機構が関与すると考えられていたが、Trajkovic et al. Science 2008 はスフィンゴ脂質セラミドを介した ESCRT 非依存的経路の存在を報告しており、miRNA 分泌がいずれの経路を用いるかは未解明であった。

細胞外 RNA の安定性については、血漿や血清中にリボヌクレアーゼが存在するにもかかわらず、細胞外 RNA が十分な完全性をもって循環することが示されていた (Fleischhacker and Schmidt 2007)。外来性 RNA は血漿中で直ちに分解されるのに対し、内因性血漿 RNA は同じ条件下で数時間安定であることが報告されており (Tsui et al. 2002)、これは細胞外 RNA がアポトーシス小体やエクソソームなどの分泌粒子にパッケージ化され、リボヌクレアーゼから保護されていることを示唆していた。しかし、これらの分泌メカニズムの詳細は不明であり、特に miRNA がエクソソームに選択的に搭載されるソーティング機構については知識ギャップが残されていた。本研究は、この細胞外 miRNA の分泌メカニズムと、分泌された miRNA の受容細胞における機能について詳細な解析を行うことで、細胞間コミュニケーションにおける分泌 miRNA の生理学的役割を明らかにすることを目的とした。

目的

本研究の目的は、細胞外 miRNA の分泌メカニズムを解明し、特に中性スフィンゴミエリナーゼ 2 (nSMase2; セラミド生合成の律速酵素) がエクソソームへの miRNA 搭載と細胞外への分泌を制御するセラミド依存性経路に関与するかを検証することである。先行研究でエクソソーム生合成におけるセラミドの役割が示唆されていたが、miRNA の分泌経路が ESCRT (endosomal sorting complex required for transport) 経路とセラミド依存性経路のどちらであるかは不明であったため、この点を明確にすることを目的とした。

さらに、分泌された miRNA が受容細胞に取り込まれて標的遺伝子サイレンシングを惹起し、表現型変化 (増殖抑制等) を誘導しうるかを実証することも重要な目的である。これにより、分泌 miRNA が単なる細胞の老廃物ではなく、生理学的に活性な細胞間情報伝達分子として機能する可能性を検証する。特に、腫瘍抑制性 miRNA である miR-146a がエクソソームを介して癌細胞に転送され、その増殖を抑制する効果を実証することで、分泌 miRNA の臨床的・治療的意義を評価する。これらの検証を通じて、細胞間コミュニケーションにおける分泌 miRNA の役割に関する新たな知見を提供することを目指した。

結果

miRNA 分泌量の細胞内発現量依存性: HEK293 細胞に pri-miRNA 発現ベクターをトランスフェクション後、細胞内 miRNA 量の増加に比例して条件培地中の miRNA 量が増加した (Fig. 1A)。各 miRNA の分泌比率 (分泌量/細胞内量) は、内因性 miR-16 で 1.21±0.12%、内因性 miR-21 で 1.62±0.63%、外来性 miR-143 で 2.57±1.03%、外来性 miR-146a で 15.6±1.62%、外来性 miR-155 で 1.38±0.84% であった。siRNA (ルシフェラーゼ標的) も発現ベクターからの産生量に比例して分泌された (Fig. 1B)。条件培地中の miR-16・miR-21・miR-146a は 96 時間にわたって時間依存的に蓄積し (Fig. 1C)、アポトーシス誘導剤 (シスプラチン) 処理では miRNA 分泌量は増加しなかった。これらの結果は、生細胞 (n=3 replicates) が内因性および外来性の miRNA、さらには人工の低分子 RNA を能動的に分泌することを示唆している。

分泌 miRNA のエクソソーム封入の証明: HEK293 細胞から超遠心で分離したエクソソーム画分は CD63 陽性であった (Fig. 2A)。条件培地・エクソソーム画分の Bioanalyzer 2100 解析では、18S/28S rRNA のピークを欠く小 RNA 主体のプロファイルが認められ、エクソソームが分泌 RNA の主要な担体であることが示された (Fig. 2B)。RNase A + T1 (37°C 30 分) 処理後も条件培地中の miR-21 は安定して検出された一方、外来性スパイクイン (cel-miR-39) は完全に分解されており、内因性 miRNA がエクソソーム膜に保護されていることが確認された (Fig. 2C)。抗 CD63 磁性ビーズ免疫沈降では miR-16・miR-155 および人工ルシフェラーゼ siRNA がエンリッチされており (IgG 対照と比較して有意に高値、p<0.05)、CD63 陽性エクソソームへの選択的封入が実証された (Fig. 2D, E)。

nSMase2 依存的な分泌制御: GW4869 (nSMase2 阻害剤) 処理により、内因性 miR-16 および外来性 miR-146a の条件培地への分泌量が用量依存的に有意に低下した (p<0.05、細胞内 miRNA 量は不変) (Fig. 3A)。エクソソームタンパク量も GW4869 用量依存的に減少し、CD63 発現 (単位細胞数あたりのエクソソーム) は低下したが、単位エクソソームタンパクあたりの CD63 量は変化しなかった (Fig. 3B, C)。これはエクソソームの組成ではなく量が減少したことを示唆する。nSMase2 siRNA ノックダウンでも分泌が有意に抑制された (Fig. 4A, B)。逆に nSMase2 過剰発現では、内因性 miR-16・外来性 miR-146a・ルシフェラーゼ siRNA の分泌が細胞内量変化なしに有意増加した (p<0.05) (Fig. 4C, D)。nSMase2 過剰発現ではカスパーゼ-3/7 活性の上昇は認められず、アポトーシス亢進によるアーティファクトではないことが確認された (n=3 replicates)。

ESCRT 非依存性の実証: Alix (ESCRT 関連タンパク) を siRNA でノックダウンすると miR-146a のサイレンシング活性が消失したが (ESCRT 機能障害の確認) (Fig. 5A, B)、miR-146a の細胞外量は対照 siRNA との比較で有意差がなかった (Alix siRNA vs NC siRNA, n.s.) (Fig. 5D)。nSMase2 siRNA は miR-146a のサイレンシング活性に影響しなかった (Fig. 5B)。これらの結果は miRNA 分泌がセラミド依存的・ESCRT 非依存的な経路によることを明確に示した。

受容細胞における miRNA 機能の実証: miR-146a 搭載条件培地 (COS-7 または HEK293 由来) を COS-7 センサー細胞に添加すると、Renilla ルシフェラーゼ活性が用量依存的に有意低下した (p<0.05) (Fig. 6C)。変異型センサーベクター (miR-146a シード配列変異型) ではこの抑制が認められず、特異的な miRNA-標的相互作用による効果であることが確認された (Fig. 6D)。裸の合成 miR-146a の直接添加 (100 nM) はルシフェラーゼ活性を変化させなかった。人工ルシフェラーゼ siRNA を含む条件培地も、ルシフェラーゼ安定発現 HEK293 細胞 (n=3 replicates) のルシフェラーゼ活性を約 60% 抑制した (Fig. 6A)。

前立腺がん細胞増殖への影響: miR-146a を過剰発現した COS-7 細胞の条件培地 (21 pM miR-146a 含有) を PC-3M-luc 前立腺癌細胞に 3 日間添加したところ、増殖が約 20% 抑制された (p<0.05) (Fig. 7B)。これは合成 miR-146a 10 pM 直接トランスフェクションと同等の抑制効果であった。ROCK1 (miR-146a の標的遺伝子) タンパク発現が合成 miR-146a 処理と同程度に顕著に低下した (Fig. 7C)。GW4869 処理したドナー細胞の条件培地では増殖抑制効果が消失しており (p<0.05)、エクソソームを介した miR-146a 転送が増殖抑制の原因であることが確認された (Fig. 7D)。

考察/結論

本研究は、miRNA 分泌の分子機序として nSMase2 介在のセラミド依存性・ESCRT 非依存的経路を初めて同定した。nSMase2 はセラミド生合成の律速酵素として機能し、GW4869 (化学阻害剤) または siRNA ノックダウンによる nSMase2 抑制は miRNA 分泌を選択的に低下させ、nSMase2 過剰発現は分泌を増加させた。この結果は Trajkovic et al. Science 2008 によるセラミド依存的エクソソーム分泌機構の報告と整合しており、miRNA のエクソソーム搭載においても同経路が機能することを示す。

ESCRT 機構の役割についての先行研究 (Gibbings et al. 2009; MVB でのプロセシングへの ESCRT 関与) との関係について、本研究は ESCRT 障害 (Alix ノックダウン) が miRNA の細胞内活性を損なう一方で分泌量には影響しないことを示し、miRNA の intracellular sorting と分泌経路が分離されている可能性を提示した。MVB は miRNA が遺伝子サイレンシング経路と分泌経路のどちらに振り分けられるかを決定する分岐点である可能性があり、この選別機構の解明が今後の重要な課題である。本研究で初めて、miRNA 分泌がセラミド依存的かつ ESCRT 非依存的な経路によって制御されることを明確に示した点は新規性がある。

先行研究との違い: Valadi et al. NatCellBiol 2007 および Skog et al. NatCellBiol 2008 がエクソソームを介した miRNA・mRNA 転送の可能性を報告したが、分泌制御の分子スイッチとして nSMase2/セラミド経路を同定したのは本研究がこれまで報告されていない新規の知見である。腫瘍抑制的 miR-146a (前立腺癌で低発現) のエクソソームを介した細胞間転送が受容癌細胞でのゲノムサイレンシング機能を保持し、実際に増殖抑制効果を発揮することを実証した点は、エクソソーム miRNA 研究において重要な概念的前進である。

臨床応用: 本知見は、(1) nSMase2/GW4869 系が細胞外 miRNA 産生の薬理学的制御点として機能することを示唆し、(2) エクソソームが治療的 miRNA の天然送達担体として利用できる可能性を提示する。腫瘍抑制 miRNA を搭載したエクソソームによる癌治療、免疫調節等への臨床応用が期待される。また、腫瘍微小環境において周囲の正常細胞が腫瘍抑制 miRNA 搭載エクソソームを腫瘍細胞に供給することで発がん初期の tumor suppression に貢献し、この代償機構の破綻が癌進行に関与する可能性というモデルを提示した。

残された課題: miRNA がエクソソームへ選択的に搭載される「ソーティング機構」は依然未解明である。また、in vivo 動物モデルでのエクソソーム miRNA 転送の効率と組織選択性、血中循環 miRNA の生理的シグナル分子としての役割の検証が今後の研究課題である。これらの残された課題の解決が、分泌 miRNA の生理学的・病理学的役割の全容解明に繋がるだろう。

方法

細胞系および過剰発現系: HEK293 (ヒト胎児腎細胞) および COS-7 (アフリカミドリザル腎線維芽細胞) を用い、pri-miRNA 発現ベクター (miR-16・miR-21・miR-143・miR-146a・miR-155) をトランスフェクションした。合成成熟 miRNA ではなく pri-miRNA 発現ベクターを使用し、余剰リポソームの影響を排除するため培地交換前に細胞を 3 回洗浄した。前立腺癌モデルとして PC-3M-luc 細胞 (安定ルシフェラーゼ発現株) を用いた。安定発現 HEK293 細胞株は、pLucNeo ベクターまたは pri-miR-146a 発現ベクターをトランスフェクション後、300 μg/ml Geneticin で選択し樹立した。

エクソソーム単離: 条件培地を 2,000 × g (15 分) → 12,000 × g (35 分) の差速遠心で細胞残渣を除去後、110,000 × g (70 分) 超遠心でエクソソームをペレット化した。PBS で洗浄・再懸濁し、Micro BCA プロテインアッセイキットでタンパク定量した。エクソソームマーカーとして抗 CD63 抗体を用いた Western blot で確認した。

miRNA 定量: mirVana キットで条件培地・細胞から miRNA を抽出した。cel-miR-39 をスパイクイン内部標準とし、TaqMan microRNA アッセイ (qRT-PCR) で miR-16・miR-21・miR-143・miR-146a・miR-155 を定量した。全反応はトリプリケート (n=3 replicates) で実施した。細胞内 miRNA の不変コントロールとして hRNU6 を用いた。

nSMase2 操作実験: (1) 化学阻害剤 GW4869 (0〜5 μM; セラミド生合成阻害) を用量依存的に処理した。(2) nSMase2 siRNA (s30925; Applied Biosystems) をトランスフェクションしてノックダウンした。(3) ヒト全長 nSMase2 cDNA を pIRES2-EGFP ベクターにクローニングして過剰発現させた。エクソソームタンパク量は BCA アッセイ・CD63 Western blot で評価した。nSMase2 過剰発現細胞におけるアポトーシス誘導の可能性を評価するため、Apo-ONE homogeneous caspase-3/7 アッセイを実施した。

ESCRT 機構の関与評価: ESCRT 関連タンパク Alix を siRNA でノックダウンし、miRNA 分泌量 (qRT-PCR) および miRNA 活性 (ルシフェラーゼセンサーアッセイ) を評価した。センサーベクターは Renilla ルシフェラーゼの 3’UTR に miR-146a 完全相補配列を 2 箇所タンデムに挿入し、Firefly ルシフェラーゼで正規化する二重ルシフェラーゼシステムを用いた。変異型 miR-146a センサーベクターも作成し、特異性を確認した。

細胞間 miRNA 転送の機能評価: (1) ルシフェラーゼ安定発現 HEK293 細胞にルシフェラーゼ siRNA 搭載条件培地 (200 pM) を添加し、ルシフェラーゼ活性を測定した。(2) miR-146a センサーベクタートランスフェクト COS-7 細胞に miR-146a 豊富条件培地を添加し、Renilla/Firefly 比を評価した。(3) PC-3M-luc 前立腺癌細胞に miR-146a 豊富条件培地を添加し、3 日後のルシフェラーゼ活性 (細胞数の指標) および ROCK1 タンパク発現 (Western blot) を評価した。

miRNA の RNase 耐性検証: 条件培地に RNase A (5 units/mL) + RNase T1 (200 units/mL) を 37°C 30 分間処理後に miR-21 を qRT-PCR で定量した。外来性スパイクイン (cel-miR-39) を対照として RNase の活性を確認した。さらに、抗 CD63 磁性ビーズ免疫沈降法を用いて、CD63 陽性エクソソームへの miRNA の選択的封入を検証した。統計解析には Student’s t-test を用いた。