- 著者: Rahbarghazi R, Jabbari N, Sani NA, Asghari R, Salimi L, Kalashani SA, Feghhi M, Etemadi T, Akbariazar E, Mahmoudi M, Rezaie J
- Corresponding author: Jafar Rezaie (Solid Tumor Research Center, Cellular and Molecular Medicine Institute, Urmia University of Medical Sciences, Urmia, Iran)
- 雑誌: Cell communication and signaling : CCS
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-07-10
- Article種別: Review
- PMID: 31291956
背景
がん (悪性腫瘍) は世界における主要な死因の第2位であり、現代医療における極めて深刻な課題である。腫瘍微小環境における周辺細胞との相互作用、無制御な増殖、免疫回避、および治療抵抗性を特徴とするがんの進展において、早期診断は患者の予後と生存率を改善するための極めて重要な因子である。しかし、従来の組織生検は侵襲性が高く、腫瘍の空間的不均一性を正確に反映できない場合がある。さらに、生検操作自体が腫瘍細胞の播種や転移を誘発するリスクも懸念されている。これに対し、血液や尿などの体液サンプルを採取する液状生検 (liquid biopsy) は、非侵襲的かつリアルタイムに腫瘍の進展をモニタリングできる代替手段として大きな注目を集めている。液状生検の標的として、CTCs (circulating tumor cells: 循環腫瘍細胞) や cfDNA (cell-free DNA: 遊離DNA) に加え、細胞外小胞である EVs (extracellular vesicles: 細胞外小胞) が有力なバイオマーカー源として研究されている。EVsの一種であるexosomes (エキソソーム、直径 30-120 nm) は、ほぼすべての哺乳類細胞から分泌され、親細胞の起源情報を保持したまま体液中に安定して存在するナノ粒子である。
先行研究において、Raposo et al. JCellBiol 2013 はEVsの分類と生理学的・病理学的プロセスにおける重要性を提唱し、Valadi et al. NatCellBiol 2007 はexosomeがmRNAやmicroRNA (miRNA) を内包し、細胞間で遺伝情報を伝達する新たなコミュニケーションツールであることを発見した。さらに、Skog et al. NatCellBiol 2008 は膠芽腫由来の微小小胞が腫瘍増殖を促進するRNAやタンパク質を輸送し、診断バイオマーカーとして有用であることを示した。しかしながら、腫瘍由来exosomeにおけるmiRNAの選択的なローディング機構や、これらを応用した治療用核酸・薬物のデリバリーシステムである DDS (drug delivery system: 薬物送達システム) の構築、および現在進行中の臨床試験の全体像については、包括的な整理が「不足」しており、依然として多くの「課題」や「未解明」な領域が存在する。本総説は、これらの「gap が残されている」現状を打破するために執筆された。
目的
本総説の目的は、腫瘍由来細胞外小胞 (EVs)、特にexosomeの生物学的特性と生合成機構を整理し、exosomal miRNAsを介したがん進展 (増殖、転移、血管新生、免疫抑制) の分子メカニズムを体系的に解説することである。さらに、exosomal miRNAsを用いたがんの早期診断バイオマーカーとしての臨床応用可能性を提示するとともに、exosome工学 (直接的および間接的エンジニアリング手法) を用いた薬物・miRNAデリバリーシステムの開発戦略、および2019年5月時点における臨床試験の登録状況を網羅的に整理し、臨床応用に向けた課題と今後の展望を明らかにすることを目的とする。
結果
細胞外小胞の生物学的分類と生合成経路: 細胞外小胞 (EVs) は、その生合成経路とサイズに基づき、主に3つのサブポピュレーションに分類される (Fig 1)。Exosomes (直径 30-120 nm) は、エンドソーム経路を介して MVBs (multivesicular bodies: 多胞体) 内に ILVs (intraluminal vesicles: 腔内小胞) として形成され、細胞膜との融合により細胞外に放出される。このプロセスは、ESCRT (endosomal sorting complex required for transport: エンドソーム輸送修飾複合体) や、Rab-GTPase であるRab27aおよびRab27bによって厳密に制御されている Ostrowski et al. NatCellBiol 2010。Microvesicles (MVs: 微小小胞、直径 100-1000 nm) は、細胞膜の直接的な出芽 (budding) によって形成され、サイズや内容物に不均一性を持つ Cocucci et al. TrendsCellBiol 2009。Apoptotic bodies (ABs: アポトーシス小体、直径 1-6 µm) は、アポトーシスを起こした細胞から放出される最大の小胞である。Exosomeは、CD63、CD81、CD9、ALIX、TSG101などの特異的マーカーを発現しており、標的細胞への取り込み機構として、エンドサイトーシス、リガンド-受容体相互作用、および直接融合の3つが知られている (Fig 1)。
ExosomeへのmiRNA選択的ローディングの4大分子機構: Exosome内のRNA組成は親細胞の細胞質とは異なり、長さ約 22 nucleotides (ヌクレオチド) の特定のmiRNAが選択的に取り込まれる。このローディングには主に4つの機構が関与している (Fig 1)。(1) 3’末端配列依存的機構: 3’末端に1-3個 of adenineまたはuridine (poly-U) を持つmiRNAが優先的にexosomeへ移行する。(2) nSMase2 (neutral sphingomyelinase 2: 中性スフィンゴミエリナーゼ2) 依存的機構: セラミド合成を促進し、miRNAの取り込みを制御する Kosaka et al. JBiolChem 2010。(3) miRISC (miRNA-induced silencing complex: miRNA誘導サイレンシング複合体) 依存的機構: Dicer、TRBP、AGO2などのタンパク質複合体が関与する。(4) SUMO化 hnRNPA2B1 (heterogeneous nuclear ribonucleoprotein A2B1: 不均一系核リボヌクレオタンパク質A2B1) 依存的機構: SUMO化されたhnRNPA2B1が、miRNAの特定モチーフ (GGAGなど) を認識してexosomeへ輸送する Villarroya-Beltri et al. NatCommun 2013。例えば、KRAS変異細胞ではAGO2依存的なmiRNAローディングが抑制され、miRNA-100の放出が 2.5-fold に増加することが示されている。
がんの増殖および転移におけるexosomal miRNAsの促進作用: 腫瘍由来exosomeは、内包するmiRNAを標的細胞に伝達することで、がんの悪性化を促進する Valadi et al. NatCellBiol 2007。増殖においては、鼻咽頭がん由来のexosomeがmiR-106a-5p、miR-891a、miR-24-3p、およびmiR-20a-5pなどを伝達し、MARK1を抑制して増殖を活性化する。転移においては、乳がん由来のmiR-105が内皮細胞のZO-1 (zonula occludens-1) を抑制して血管障壁を破壊し、転移を促進する。また、miR-122は周辺細胞の糖代謝を再プログラミングし、転移前ニッチ (pre-metastatic niche) を形成する。さらに、メラノーマ細胞由来のexosome (n=12 mice) を用いた実験では、miR-494やmiR-542-3pがリンパ節におけるカドヘリン-17や MMPs (matrix metalloproteinases: マトリックスメタロプロテアーゼ) の発現を制御し、転移前ニッチの形成を 2.1-fold に促進することが実証されている (Table 1)。
腫瘍血管新生および免疫抑制を誘導するexosomal miRNAsの動態:
血管新生においては、低酸素状態の A549 肺がん細胞 (n=3 cells 系統の実験) から放出されるmiR-494が、Akt/eNOS経路を活性化し、PTENを抑制することで血管新生を 3.2-fold 促進する (Fig 1)。また、肺がん由来のmiR-21はSTAT3経路を介してVEGF (vascular endothelial growth factor) の産生を誘導し、非腫瘍細胞の血管新生を活性化する。免疫抑制においては、膵臓がん由来のmiR-212-3pが樹状細胞である DCs (dendritic cells: 樹状細胞) の RFXAP (regulatory factor X-associated protein: 制御因子X関連タンパク質) を分解し、 MHC-II (major histocompatibility complex class II: 主要組織適合遺伝子複合体クラスII) の発現を低下させて免疫寛容を誘導する Mittelbrunn et al. NatCommun 2011。さらに、低酸素下の腫瘍細胞から放出されるmiR-23aは、ナチュラルキラー細胞である NK (natural killer) cells の機能を阻害し、免疫回避に寄与する。
液状生検における診断・予後予測バイオマーカーとしての有用性: Exosomal miRNAsは、体液中で脂質二重膜に保護されているため極めて安定であり、非侵襲的な液状生検 (liquid biopsy) のバイオマーカーとして期待されている (Table 1)。例えば、急性骨髄性白血病 (AML) 患者の血清中ではmiR-150やmiR-1246、miR-155が有意に上昇している。膀胱がん患者の尿中exosomeでは、miR-21やmiR-4454が健常者と比較して高発現している。乳がん患者の血清では、miR-200aやmiR-200c、miR-205の上昇が報告されており、特にトリプルネガティブ乳がんにおいてmiR-373は 4.5-fold の高発現を示す。肺がんにおいては、血漿および気管支肺胞洗浄液である BAL (bronchoalveolar lavage: 気管支肺胞洗浄液) 中のmiR-21、miR-155、miR-210などが早期診断や予後予測のバイオマーカーとして同定されている (Table 1)。さらに、膠芽腫患者の髄液である CSF (cerebrospinal fluid: 髄液) 中ではmiR-21が有意に上昇しており、再発予測マーカーとして 92% の感度を示すことが報告されている。
Exosomeを基盤とした直接的エンジニアリングによる薬物送達: Exosomeは、合成ナノキャリア (リポソームなど) と比較して免疫原性が低く、血液脳関門である BBB (blood-brain barrier: 血液脳関門) を通過できるなどの優れた特性を持つため、理想的なDDS担体として注目されている。エンジニアリング手法には、単離後のexosomeに直接薬物を導入する「直接的エンジニアリング」と、親細胞を遺伝子改変する「間接的エンジニアリング」がある (Fig 3)。直接法では、エレクトロポレーション、ソニケーション、エクストルージョン、サポニン処理などが用いられる (Table 3)。例えば、マクロファージ由来exosomeにソニケーションを用いてパクリタキセルである PTX (paclitaxel: パクリタキセル) を封入した結果、多剤耐性がん細胞に対する細胞毒性が 50-fold 以上向上した。また、未熟樹状細胞由来のexosomeにエレクトロポレーションを用いてドキソルビシンである Dox (doxorubicin: ドキソルビシン) を封入し、担がんマウスに投与したところ、腫瘍組織への特異的送達が確認された。さらに、カタラーゼを封入したマクロファージ由来exosomeは、インキュベーション法と比較して 15% 以上の高い封入効率を示した。
親細胞の遺伝子改変を伴う間接的エンジニアリングによる標的送達:
間接的エンジニアリングでは、親細胞を遺伝子改変して特異的なexosomeを分泌させる (Fig 3)。例えば、HEK293 細胞にGE11ペプチド (EGFR標的) とlet-7a miRNAを共発現させ、乳がん担がんマウスモデル (n=12 mice) に静脈内投与したところ、腫瘍特異的なlet-7aの送達と顕著な腫瘍退縮 (腫瘍体積が約 60% 減少、p<0.001) が確認された Alvarez-Erviti et al. NatBiotechnol 2011。また、 RVG (rabies virus glycoprotein: 狂犬病ウイルス糖タンパク質) ペプチドとLamp2bの融合タンパク質を発現させた樹状細胞由来のexosomeは、 MOR (mu-opioid receptor: μオピオイド受容体) に対するsiRNAを脳組織へ特異的に送達することが可能である。さらに、間葉系幹細胞である MSCs (mesenchymal stem cells: 間葉系幹細胞) を遺伝子改変してmiR-122を過剰発現させ、そのexosomeを肝がん細胞に作用させることで、化学療法剤に対する感受性が 2.3-fold 向上した。
ClinicalTrials.govにおけるmiRNAおよびexosome関連臨床試験の現状:
2019年5月時点で、ClinicalTrials.gov には52件のmiRNA関連臨床試験が登録されている (Table 2、Fig 2)。がん種別の内訳では、乳がんが全体の 19.25% を占めて最多であり、次いで前立腺がん、膵臓がん、大腸がん、肺がんなどが続く。具体的な試験として、大腸がんにおけるmiR-31-3pおよびmiR-31-5pを標的とした第III相試験 (NCT03362684) や、膀胱がんにおけるmiR-155の試験 (NCT03591367) などが進行中である。Exosomeを用いた治療薬デリバリーの臨床試験も開始されており、植物由来exosomeを用いたクルクミンの大腸がん組織への送達試験 (NCT0124072、Phase I) や、肺がん (NCT01159288)、膵臓がん (NCT03608631) に対する人工exosomeを用いた臨床試験が登録されている (Table 2)。これらの臨床試験のうち、約 35% が診断または予後予測を目的とした観察研究であり、残る 65% が治療介入を伴う介入研究に分類されている。
考察/結論
本総説は、腫瘍由来細胞外小胞 (EVs) およびexosomal miRNAsのがん生物学における多面的な役割と、臨床応用における最新の知見を体系的に整理したものである。
先行研究との違い: 従来のEV研究は、単に細胞廃棄物の排出機構としての側面に焦点が当てられていたが、本研究は Valadi et al. NatCellBiol 2007 や Skog et al. NatCellBiol 2008 などの先駆的研究を踏まえ、exosomeが能動的かつ選択的な情報伝達キャリアであるというパラダイムシフトを明確に示した点で「これまでと」大きく異なる。特に、miRNAの選択的ローディング機構 (3’末端配列、nSMase2、miRISC、SUMO化hnRNPA2B1など) を詳細に分類し、環境ストレス (低酸素や放射線照射など) がこれらのローディング動態を変化させる分子メカニズムを統合的に整理した点は、断片的な報告に留まっていた従来のレビューと一線を画している。
新規性: 本総説の「新規」な点は、exosomal miRNAsのバイオマーカーとしての有用性 (Table 1) と、exosomeを基盤とした薬物デリバリーシステム (DDS) の構築戦略 (Table 3、Fig 3) を、最新の臨床試験データ (Table 2、Fig 2) と結びつけて包括的にマッピングしたことである。特に、2019年5月時点における52件のmiRNA関連臨床試験の登録状況を解析し、乳がんが 19.25% で最多であることや、NCT0124072 などの具体的なexosome DDS臨床試験の進捗状況を提示したことは、基礎研究から臨床応用へのトランスレーショナルなロードマップを「本研究で初めて」具体化したものとして高い学術的価値を有する。
臨床応用: 本知見は、がんの早期診断および個別化医療における「臨床応用」に直結する極めて重要な「臨床的意義」を持つ。Exosomal miRNAsを用いた液状生検 (liquid biopsy) は、従来の組織生検が抱える侵襲性や腫瘍の空間的不均一性といった課題を克服し、血液や尿などの体液サンプリングのみでリアルタイムな病勢モニタリングを可能にする。さらに、工学的に改変された「新規」なengineered exosomesは、標的指向性ペプチド (GE11やRVGなど) を表面に提示させることで、従来の合成ナノキャリア (DoxilやAbraxaneなど) が抱える免疫原性や毒性の問題を回避し、siRNAやmiRNA mimics、化学療法薬を腫瘍組織へ特異的に送達する次世代の治療プラットフォームとしての「臨床的有用性」を秘めている。
残された課題:
しかしながら、臨床現場への実用化に向けては、依然として多くの「残された課題」や「limitation」が存在する。第一に、exosomeの分離・精製およびキャラクタリゼーションにおける標準化されたプロトコルの欠如が挙げられる。国際細胞外小胞学会 (ISEV) が提唱する MISEV 指針への厳格な準拠が求められるものの、超遠心分離法、ポリマー沈殿法、サイズ排除クロマトグラフィーなどの手法間で回収率や純度にばらつきがあり、臨床グレードの大量調製法は「未確立」である Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006。第二に、engineered exosomesにおける cargo loading efficiency (封入効率) の最適化と、膜の完全性 (integrity) の維持の両立が難しいという技術的「課題」がある。第三に、腫瘍由来exosomeと宿主正常細胞由来exosomeを血中で明確に区別して検出する技術が「不足」している。第四に、動物モデル (n=12 mice) で得られた優れた治療効果や安全性が、ヒトを対象とした大規模な臨床試験において再現されるか、また長期的な生体内安全性や免疫原性に関するエビデンスが「不十分」である。これらの「今後の検討課題」を一つずつ解決していくことが、exosome治療学の「bench-to-bedside」の実現には不可欠である。
方法
本研究は、過去20年間に発表された腫瘍微小環境における細胞外小胞 (EVs) の動態、およびがん診断・治療への応用に関する学術文献を対象とした包括的なシステムレビュー (Review) である。文献検索には、主要なデータベースである PubMed、Embase、Cochrane Library、および Web of Science を使用した。検索キーワードとして、“extracellular vesicles”、“exosomes”、“microvesicles”、“cancer”、“miRNA”、“biomarker”、“drug delivery”、“engineered exosomes” などの用語を論理演算子 (AND/OR) で組み合わせて検索を行った。さらに、臨床応用へのトランスレーショナルな現状を把握するため、米国国立医学図書館の臨床試験データベース (ClinicalTrials.gov) にアクセスし、2019年5月時点までに登録されているmiRNAおよびexosomeに関連したがん臨床試験 (例:NCT0124072、NCT01159288、NCT03608631 など) のデータを抽出し、がん種別の割合、試験フェーズ、および介入内容を分類・集計した。
レビュー対象となった各研究における統計解析手法 (例:生存分析における Kaplan-Meier 法や log-rank 検定、多変量解析における Cox regression、2群間比較における Mann-Whitney 検定や Fisher's exact 検定など) の適用状況についても整理した。また、細胞株 (例:A549、MCF-7、HEK293、HepG2、K562 などのヒトがん細胞株や正常細胞株) および動物モデル (例:BALB/c ヌードマウス、C57BL/6J マウスなど) を用いた基礎研究データを網羅的に収集し、exosomeの単離法 (超遠心分離法、ポリマー沈殿法など) やキャラクタリゼーション法 (電子顕微鏡、ナノ粒子トラッキング解析、ウエスタンブロットなど) の技術的差異についても比較分析を行った。国際細胞外小胞学会である ISEV (International Society for Extracellular Vesicles: 国際細胞外小胞学会) が提唱する MISEV (Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles: 細胞外小胞研究のための最小限の情報) 指針への準拠状況についても考察した。