• 著者: Yoshioka Y, Konishi Y, Kosaka N, Katsuda T, Kato T, Ochiya T
  • Corresponding author: Takahiro Ochiya (National Cancer Center Research Institute, tochiya@ncc.go.jp)
  • 雑誌: Journal of Extracellular Vesicles
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-06-18
  • Article種別: Original Article (Short Communication) / DOI: 10.3402/jev.v2i0.20424
  • PMID: 24009892

背景

細胞外小胞 (extracellular vesicles, EVs) は、exosome・shedding vesicle・prostasome・apoptotic body を含む直径 40-1,000 nm の膜小胞であり、赤血球・血小板・リンパ球・樹状細胞・内皮細胞・腫瘍細胞など多くの細胞種から分泌される (Raposo et al. JCellBiol 2013)。腫瘍由来 EV はがんの開始・進展に関与し、共通の膜・細胞質タンパク質群と、細胞種特異的な機能と相関する起源特異的タンパク質サブセットの双方を内包する。EV の存在を証明する手段として、研究者は tetraspanin ファミリー (CD9・CD63・CD81)、細胞質タンパク質である heat shock 70 kDa protein (HSP70)、tumour susceptibility gene 101 (TSG101) 等を「EV マーカータンパク質」として免疫ブロット (immunoblotting) で検出してきた (Thery et al. JImmunol 2001)。

しかし先行研究には未解明のギャップが 3 つ残されていた。第一に、近年のプロテオミクス解析は、これらのマーカーが全ての EV に含まれるとは限らないことを示した (Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014)。ExoCarta に登録された exosome 頻出タンパク質上位 25 種をみても、特定マーカーの普遍性は保証されていない。第二に、EV マーカーの不均一性は EV 同定を複雑化するだけでなく、EV タンパク質の定量評価そのものを妨げる。第三に、これら EV マーカーの検出はこれまで個別の細胞株で散発的に報告されてきたものの、複数細胞株を横断して同一条件で比較した検討は十分でなかった (未検証であった) ため、どのマーカーが起源によらず保存されるかは明らかでなかった。したがって、組織・細胞起源によらず同程度に存在する well-conserved な EV マーカータンパク質を探索する必要性が強く認識されていた。

目的

ヒト前立腺由来 4 細胞株とヒト乳腺由来 5 細胞株、計 9 株 (異なる表現型のがん細胞と非がん細胞を含む) から単離した EV を用い、11 種の well-known EV マーカータンパク質の存在を免疫ブロットで網羅的に比較し、細胞起源によらず保存される信頼性の高い EV マーカーを同定することを目的とした。

結果

EV 精製物の形態・粒径による品質確認:n=6 細胞株 (PC3・22Rv1・PNT2・MDA-MB-231-luc-D3H2LN・MCF7・MCF10A) の 110,000 × g ペレットを cryo phase-contrast TEM で観察したところ、直径約 50-400 nm の典型的な二重膜小胞が大きさに heterogeneity を伴って認められた (Fig. 1)。n=9 細胞株全ての EV について NTA で粒径分布を測定すると、いずれも mode が 100-200 nm の範囲にピークを示した (Fig. 2、各株の mode は PC3 117 nm・PC-3M-luc 98 nm・22Rv1 148 nm・PNT2 118 nm・MM231 161 nm・MM231LN 136 nm・MCF7 127 nm・MCF7-ADR 158 nm・MCF10A 168 nm)。9 株の mode は 98-168 nm の狭い範囲に収まり (最大/最小比 約1.7-fold)、全 EV 標品が exosome/small EV 相当のサイズ範囲にあることを確認した。

Cytochrome c 陰性によるデブリ混入の除外:免疫ブロット比較に先立ち、品質管理として mitochondrial protein である cytochrome c を検出した (Fig. 3)。Cytochrome c は 9 株全ての whole cell lysate (1 μg/lane) で明瞭に検出された一方、EV 標品 (1 μg/lane) では完全に陰性であった。これは EV 精製物が細胞デブリで汚染されていないことを示し、以降の比較解析を妥当なものとした。

CD9・CD81 は起源によらず同程度に保存:最も重要な所見として、CD9 と CD81 は試験した全 EV 標品に高度に濃縮され、その存在量は EV の起源によらず comparable であった (Fig. 4A、B)。注目すべきは、各細胞株 EV における CD9・CD81 の存在量が均一であったのに対し、親細胞 (cell lysate) における発現量は細胞種間でばらついた点である。Table II の半定量評価では、CD9 は MCF7 で最強 (+++++)、他株でも +-+++ と全株陽性であり、CD81 も全 9 株で検出された。なお EV と cell lysate の負荷量は 500 ng 対 5 μg (約10-fold 差) であったにもかかわらず、CD9・CD81 シグナルは EV 側で同等以上に強く、EV における選択的濃縮を裏付けた。この結果は、CD9・CD81 が EV タンパク質解析におけるローディングコントロールとして有用であることを強く示唆する。さらに補足解析では、EV 内で CD9・CD81 の蓄積量が他のタンパク質より高いことが示された (Supplemental Table I)。

Rab-5b・Actin・TSG101・CD63 は全 EV で検出されるが起源依存的に変動:CD9・CD81 とは対照的に、Ras-related protein Rab-5b・cytoskeletal protein actin・TSG101・CD63 は全 EV 標品で検出されたものの、その存在量は起源によって変動した (Fig. 4C-F)。これらの分子は多くの報告どおり EV の存在確認には使えるが、存在量が一定しないため loading control としての能力は限定的である。特に TSG101 は各細胞株で発現していたにもかかわらず、EV レベルでは 22Rv1 由来 EV にのみ顕著に濃縮された (Table II で 22Rv1 のみ強陽性、他株は陰性-弱)。

Annexin 2・Integrin beta-1 は親細胞の発現量を反映:phospholipid・RNA 結合タンパク質である Annexin 2 と接着分子 Integrin beta-1 の EV レベルは、n=9 株を通じて親細胞 (cell lysate) の発現量と正に相関し、その存在量を鏡写しに反映した (Fig. 4G、H)。例えば Annexin 2 は 22Rv1 と MCF7 では EV・細胞タンパク質のいずれとしてもほとんど検出されなかった。同様に Integrin beta-1 は 22Rv1・MCF7・MCF7-ADR で EV・細胞ともにわずかにしか検出されなかった。すなわち、これら 2 分子では EV と親細胞の発現が連動 (相関) しており、特定タンパク質の EV 存在量が親細胞での発現レベルに依存することを示す。

HSP70・Flotillin-1・Caveolin-1 は親細胞の発現と乖離:一方で、一部のタンパク質は親細胞の発現プロファイルを反映しなかった (Fig. 4I-K)。HSP70 と raft 関連タンパク質 flotillin-1 は各細胞株で同程度に発現していたが、22Rv1 由来 EV ではほとんど検出されなかった。Caveolin-1 はさらに乖離が明瞭で、細胞レベルでは MCF10A のみで検出されたのに対し、EV レベルでは PC3 と PC-3M-luc に限局して検出された。これは「細胞でのタンパク質発現と産生 EV の発現が正に相関する」という一般的理解と矛盾し、EV biogenesis 経路やタンパク質 sorting 機構が細胞株間で異なる可能性を示唆する。なお CD63 は高転移性株 (PC3・PC-3M-luc・MDA-MB-231-luc-D3H1/D3H2LN) や薬剤耐性株 MCF7-ADR で極めて高発現し、非がん株 PNT2・MCF10A では低かった。

考察/結論

本研究は、9 種のヒト前立腺・乳がん細胞株由来 EV を同一条件で横断比較した先駆的な検討であり、CD9 と CD81 が細胞起源・転移能・薬剤耐性によらず同程度に保存される唯一の EV マーカーであることを示した。先行研究との対比 (①と異なり/対照的に): ExoCarta 等のプロテオミクス報告 (Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014) が EV マーカーの不均一性を指摘していたのに対し、本研究は単一細胞株での散発的記述ではなく 9 株を横並びで定量比較した点が異なる。また、従来広く EV マーカーとして用いられてきた CD63・TSG101 が、本研究では起源依存的に大きく変動し loading control に適さないことを明示した点は、当時の慣行と対照的である。

新規性 (②新規な/novel): CD9・CD81 を単なる EV 存在確認マーカーではなく「定量解析のためのローディングコントロール」として位置づけ直した点が novel である。親細胞では CD9・CD81 発現がばらつくにもかかわらず EV では均一になるという観察は、これらの tetraspanin が EV 生合成過程で選択的に濃縮されることを示唆し、後の CD63 と CD9 の sorting 経路の差異に関する研究 (Mathieu et al. NatCommun 2021) を先取りする知見であった。

臨床・トランスレーショナルへの示唆 (③臨床応用/translational): CD63 の EV 発現が高転移・薬剤耐性株で高く非がん株で低いという観察は、CD63 が TIMP-1 と細胞表面で相互作用し β1 integrin を介した生存シグナルに関与する報告とも整合し、CD63 をがん研究で EV マーカーとして用いる際の注意を喚起する。前立腺がん EV を扱う後続研究 (DiVizio et al. AmJPathol 2012) や、標準化された EV 単離・特性評価のプロトコル (Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006) と併せて、本研究は液体生検 EV の定量規格化に向けた基盤を提供する。

残された課題 (④残された課題/今後の検討/limitation): 本研究は immunoblotting に基づく半定量的な定性比較であり、絶対定量や推測統計を欠く。試験対象は前立腺・乳がん 9 株に限られ、他臓器・正常組織・体液由来 EV での CD9/CD81 保存性は未検証である。また Caveolin-1 が細胞レベルで MCF10A のみ・EV レベルで PC3/PC-3M-luc のみという乖離の機序は説明できておらず、EV biogenesis・protein sorting 経路の細胞株間差異の解明が今後の検討課題として残る。サブタイプ分解を伴う後続のプロテオミクス比較 (Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016) により、本研究の CD9/CD81 共通性はさらに精緻化される必要がある。結論として、著者らは CD9 と CD81 が EV 存在の信頼できるマーカーかつ EV タンパク質定量解析を可能にするローディングコントロールとして有用であると提唱した。

方法

細胞株 (Identifier): 前立腺系として PC3 (grade IV 前立腺腺癌の骨転移由来、ATCC)、PC-3M-luc (PC3 由来の luciferase 標識高転移株、Xenogen)、22Rv1 (prostate-specific antigen・androgen receptor 発現、ATCC)、PNT2 (immortalized normal prostatic epithelial cells; simian virus 40 ゲノム導入により樹立、DS Pharma Biomedical) の n=4 株。乳腺系として MDA-MB-231-luc-D3H1 (luciferase 標識・胸水転移由来クローン、Xenogen)、MDA-MB-231-luc-D3H2LN (D3H1 由来の高転移リンパ節指向クローン、Xenogen)、MCF7 (estrogen receptor 発現、ATCC)、多剤耐性 MCF7-ADR (MCF7 由来 docetaxel 耐性株、Shien-Lab 提供)、MCF10A (非腫瘍性不死化乳腺上皮、ATCC) の n=5 株を使用した。MCF10A 以外は 10% 熱不活化 fetal bovine serum (FBS) 含有 RPMI 1640 培地で、MCF10A は mammary epithelial basal medium (MEBM) で 37 °C・5% CO2 培養した。

EV isolation method (ISEV 準拠): 細胞を PBS 洗浄後 FBS 非含有 Advanced RPMI に交換し 48 時間培養した。回収した conditioned medium を 2,000 × g・10 min・4 °C で遠心し、0.22 μm フィルターで細胞デブリを除去した。EV 画分は differential ultracentrifugation により取得した。すなわち conditioned medium を 110,000 × g・70 min・4 °C で超遠心し、ペレットを 11 mL の PBS で洗浄して再度 110,000 × g・70 min・4 °C で超遠心後、PBS に再懸濁した。タンパク質量は Quant-iT Protein Assay (Qubit 2.0 Fluorometer) で測定した。

characterization marker / 解析: 形態は cryo phase-contrast transmission electron microscopy (TEM, 透過型電子顕微鏡) で観察し、粒径分布は nanoparticle tracking analysis (NTA, 粒子追跡解析; NanoSight LM10HS) で測定した。NTA では単離 EV を PBS で 500-fold (500 倍) 希釈し、60 s 動画を記録して各粒子の Brownian motion を Stokes-Einstein 式により粒径換算した。マーカー検出は Western blot (immunoblotting, 免疫ブロット) で行い、EV 11 種マーカー (CD9・CD81・CD63・TSG101・Rab-5b・Annexin 2・Integrin beta 1・HSP70・Flotillin-1・Caveolin-1・Actin) と negative control の mitochondrial protein cytochrome c を 4-15% Mini-PROTEAN TGX ゲルで分離し polyvinylidene difluoride (PVDF) 膜へ転写、horseradish peroxidase (HRP) 標識二次抗体と ImmunoStar LD による化学発光で検出した。CD63・CD9・CD81・Integrin beta 1 は非還元条件で検出した。負荷量は EV で基本 500 ng/lane (Annexin 2 のみ 250 ng/lane)、cell lysate で 1 または 5 μg/lane とした。本研究は n=9 細胞株 (前立腺 n=4・乳腺 n=5) を対象とした記述的な定性比較であり、各マーカーは Table II で −/+/++/+++ の 4 段階で半定量採点した。推測統計 (p 値・効果量・信頼区間) は用いていない。