- 著者: Qing-Fang Han, Wen-Jia Li, Kai-Shun Hu, Jie Gao, Wen-Long Zhai, Jing-Hua Yang, Shui-Jun Zhang
- Corresponding author: Wen-Long Zhai (The First Affiliated Hospital of Zhengzhou University, China); Jing-Hua Yang (The First Affiliated Hospital of Zhengzhou University, China); Shui-Jun Zhang (The First Affiliated Hospital of Zhengzhou University, China)
- 雑誌: Molecular Cancer
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-11-01
- Article種別: Review
- PMID: 36320056
背景
エクソソームは直径30-150nmの多小胞体 (MVB) 融合由来の細胞外小胞であり、細胞間コミュニケーションの重要な媒体として機能する。がんの発生・転移・血管新生・免疫回避・薬剤耐性に関わることが多くの研究で示されてきた。例えば、Kalluri et al. Science 2020はエクソソームの生物学的機能と応用を包括的にレビューし、Chen et al. Nature 2018はエクソソームPD-L1が免疫抑制に寄与することを示した。また、Harding et al. JCellBiol 1983はレチクロサイトにおけるトランスフェリン受容体のエンドサイトーシスとリサイクリングを報告している。しかし、エクソソーム生合成の分子機序の詳細、特にがん細胞がこれらの機序を流用する方法についての系統的理解は不足している。エクソソームの生合成制御が腫瘍促進EVの産生を調節することから、生合成機序を標的とした新たながん治療戦略の開発が期待されているが、その詳細な分子メカニズムについては未解明な点が多く、さらなる研究が必要である。
目的
エクソソーム生合成の4つの主要ステップ (カーゴソーティング、MVB形成・成熟、MVB輸送、MVB-形質膜融合) に関わる分子機序を系統的に総括し、がん細胞による制御戦略と生合成標的薬剤の治療的意義を提示すること。
結果
ESCRT依存的ILV形成機序: 多小胞体 (MVB) 内腔小胞 (ILV) 生成の古典的経路はESCRT-0→ESCRT-I→ESCRT-II→ESCRT-III→VPS4という順序的カスケードで駆動される。ESCRT-0 (Hrs/STAM複合体) はFYVEドメインによってエンドソーム膜上のPtdIns3Pに結合し、同時にユビキチン結合ドメインでモノ・ポリユビキチン化カーゴを認識してクラスリン被覆微小ドメインに集積する。ESCRT-I (TSG101を含む) ・ESCRT-IIが順次リクルートされ、鞍型タンパク質複合体を形成してESCRT-IIIの会合を促進する。ESCRT-III (CHMP4・CHMP2等のサブユニット) は重合してILV形成に必要な膜変形と切断を駆動し、VPS4 ATPaseがESCRT-IIIを解体・再利用する。非古典的ESCRT依存経路として、HD-PTPがESCRT-0/Iを介さずESCRT-IIIとVPS4を直接リクルートしEGFRやインテグリンなどのユビキチン化カーゴをILVに取り込む経路、およびAlixがMVBの限界膜に結合してESCRT-IIIを直接ヌクレエートする経路 (Syndecan-Syntenin-Alix軸・GPCR由来YPX3Lモチーフ認識等) が存在する。Alix依存経路においてヘパラナーゼがSyndecanのヘパラン硫酸鎖を修飾することでSyndecan-Syntenin-Alix経路を促進し、ARF6・PLD2・SRC・Shp2がPhosphatidic acid (PA) 産生またはSynteninリン酸化を通じてILV生成を調節する (Fig 2)。
ESCRT非依存的ILV形成機序: nSMase2 (中性スフィンゴミエリナーゼ2)-セラミド経路はスフィンゴミエリンからセラミドへの変換を触媒し、コーン型の分子形状によって自発的な膜陥入・ILV形成を誘導する。Trajkovic et al. Science 2008は、セラミドがエクソソーム小胞のMVBへの出芽を誘発することを示した。nSMase2阻害薬GW4869・nSMase2 RNAiによる実験でオリゴデンドログリア細胞のPLP・神経細胞のプリオンタンパク質・がん細胞の複数のRNAのエクソソームソーティングが制御されることが実証された。FAN (WDリピートタンパク質) がnSMase2活性を増強してセラミド産生を促進し、HEK293TおよびがんモデルではMVB上のMAPK基質としてPE結合LC3がFANをリクルートし、LC3-interaction region (LIR) を持つSAFBやhnRNPKをESCRTおよびクラシカルオートファジーとは独立した機序でILVに組み込む。CD63 (テトラスパニン) はHRSと競合してESCRTおよびセラミド非依存的なILV形成を制御し、LMP1・VEGF・フェリチン・核内成分等の多様なカーゴのエクソソーム分泌に関与する。テトラスパニン6 (TSPN6) はSynteninとの相互作用でアミロイド前駆体タンパク質のILVソーティングを促進する一方でSyndecan-4のリソソーム分解を促しエクソソーム産生を抑制するなど、細胞モデル依存的な二面性を持つ。カベオリン-1・フロチリンは脂質ラフト依存的なILV形成を制御し、特にカベオリン-1はHNRNPKをMVB限界膜の脂質ラフトへ移行させプロステートがん細胞でのmiRNA積み込みを調節する。S1P-Rac/Cdc42軸によるF-アクチン形成もCD63・CD81・フロチリン等のカーゴILVソーティングに寄与することが示された (Fig 2)。
カーゴソーティングの分子機序: タンパク質のMVBへのソーティングは①ESCRT依存的ユビキチン化認識 (ESCRT-0やHD-PTP経由)、②テトラスパニン複合体依存的ソーティング、③Alix-Syntenin軸依存的ユビキチン非依存的ソーティング、④Hsc70/LAMP2A依存的シャペロン媒介型ソーティング (KFERQモチーフ含有タンパク質) 等の多重経路で制御される。RNAカーゴのソーティングはhnRNPA2B1・hnRNPK・YBX1・MVP (major vault protein)・MEX3C・SYNCRIP (synaptotagmin-binding cytoplasmic RNA-interaction protein)・Ago2・FMR1等のRNA結合タンパク質 (RBP) が担う。YBX1はセラミド依存的経路でmiR-223を認識しエクソソームへ選択的に積み込む。さらにYBX1が液-液相分離 (LLPS) を起こしてコンデンセートを形成し、miR-223をエクソソームへ選択的にソーティングする過程が示され、相分離阻害によって積み込みが抑制された。hnRNPA2B1・hnRNPKはlncARSR・lncRNA ELNAT1・circRHOBTB3等の非コーディングRNAのエクソソーム分泌にも関与する。DNAのエクソソームへのソーティングについては、卵巣がんモデルで微小核がCD63依存的にILVへ取り込まれるという報告と、mitochondrial DNAがPINK1媒介のMVB-ミトコンドリア接触を経てRAB27依存的にエクソソームへ分泌されるという知見が示されているが、その詳細な機序は未解明な部分が残る (Fig 1)。
MVBの輸送・融合・運命決定機序: MVBの分泌型 (sMVB) vs 分解型 (dMVB) の運命はRAB7の活性状態が中心的に制御する。Mon1a/b・ネジル化Coro1aがGEF (guanine nucleotide exchange factor) としてRAB7を活性化してダイニン依存的逆行輸送・リソソーム融合 (分解型) を促進し、Arl8b/SKIP/HOPS/TBC1D15カスケードやRAB31/TBC1D2BカスケードがRAB7をGAP (GTPase activating protein) 依存的に不活化してキネシン依存的順行輸送 (分泌型) を促進する。sMVBの形質膜へのドッキング・融合にはRAB GTPaseの多様な制御軸が関与する。Ostrowski et al. NatCellBiol 2010は、Rab27aとRab27bがエクソソーム分泌経路の異なるステップを制御することを示した。RAB27aとそのエフェクターSlp4は形質膜ドッキングを制御し、RAB27bとSlac2bは核周辺部から細胞周辺部へのsMVB移行を担う。RAB11とMunc13-4は再利用エンドソームとMVBの融合を媒介してMT1-MMP (membrane type 1 matrix metalloproteinase) の分泌を促進する。RAB35・RAB11・RAB17・RAB20・RAB39等の他のRABも細胞型・カーゴ依存的に機能する。形質膜融合のSNARE複合体は細胞型に応じた構成を持ち、VAMP7-Syntaxin4-SNAP23 (MT1-MMP陽性エンドソームの侵食突起融合)、SNAP23-VAMP3 (肝癌)、SNAP25-VAMP5 (骨髄間葉系幹細胞) 等が報告されている。invadopodia (腫瘍細胞侵食突起) はsMVBの特異的ドッキング・分泌部位として機能し、cortactin-RAB27a軸・WASH (Wiskott-Aldrich syndrome protein and SCAR homolog) タンパク質・exocyst複合体がアクチン重合とinvadopodia形成を通じてMVB分泌を協調的に制御する (Fig 3, Fig 4)。
がんにおけるエクソソーム生合成の制御異常: 腫瘍微小環境 (低酸素・低pH・高乳酸) がエクソソーム産生と組成を変化させる多層的な機序が整理された。低酸素はRAB27a発現をアップレギュレーションしRAB7・LAMP1/2・NEU-1を低下させ、エクソソーム分泌を促進して卵巣がんの浸潤・化学療法耐性に寄与する (Dorayappan et al.)。細胞外の低pHはカベオリン-1含有エクソソームの産生増加を誘導し、V-ATPase阻害薬パントプラゾールがVATPaseを通じてエクソソーム産生を抑制する。Ca²⁺シグナル亢進 (TrpC5・TRPML3・ORAI1/STIM1経路等) はMunc13-4・Syt7・ESCRTの活性化を通じてエクソソーム産生を促進する。がんドライバー変異 (mutant KRAS・RAS/RAF/MEK/ERK・STAT3・GPCR・p53) が生合成機序の各ステップを特異的に調節することが体系的に示された。例えばmutant KRASはnSMase2-セラミド経路依存的にmiR-100エクソソーム分泌を促進し (野生型KRASはmiR-10b分泌を加速・nSMase非依存的)、活性化ERK1/2がHrsをリン酸化してPD-L1のエクソソーム分泌を促進する。STAT3/PKM2/SNAP23の連続リン酸化がSNARE複合体形成を促進してエクソソーム産生を加速する (がん悪液質との関連も示唆)。
エクソソーム生合成標的の治療戦略: 77件以上の前臨床研究から治療標的として有望な分子群が体系化された (Table 1)。nSMase2阻害薬GW4869・スフィンゴシン系阻害薬は転移前ニッチ形成阻害・免疫チェックポイント回避軽減を示した。Rab27aとそのエフェクターSlp4の相互作用を阻害するBHMPSがエクソソーム分泌を減少させ乳がん腫瘍増殖を抑制した (IC50 200 nM)。mGluR3 (metabotropic glutamate receptor 3) アンタゴニストLY341495によるグルタメートシグナル遮断がRAB27依存的エクソソーム分泌を抑制し、乳がん細胞の浸潤を阻害した。Vps4A腫瘍抑制活性・HD-PTPによるEGFR・インテグリンのリソソーム分解促進も治療的意義が示された。
考察/結論
先行研究との違い: 本総説は、エクソソーム生合成のESCRT (endosomal sorting complex required for transport) 依存/非依存経路の分子機構を詳細に解説し、がん細胞が遺伝子発現異常、翻訳後修飾、シグナル経路変化など多様な戦略を用いてエクソソームの生合成と組成を制御するメカニズムを強調した点で、これまでの個別の研究報告とは異なり、包括的な視点を提供している。特に、Jeppesen et al. Cell 2019がエクソソーム組成の再評価を行ったのに対し、本総説は生合成経路の制御に焦点を当てている。
新規性: 本研究で初めて、液-液相分離 (LLPS) とエクソソームカーゴソーティングの新たな接点 (YBX1コンデンセートによるmiRNA選択的積み込み) が、RNA顆粒が「エクソソームカーゴ中継ステーション」として機能する可能性を示唆する新規な概念を提示した。これは、Villarroya-Beltri et al. NatCommun 2013がhnRNPA2B1のSUMO化によるmiRNAソーティングを報告したことに対し、より高次の分子機構を示唆するものである。
臨床応用: 本知見は、nSMase2 (中性スフィンゴミエリナーゼ2) 阻害剤GW4869やRab27a阻害剤BHMPSなど、エクソソーム生合成を標的とする薬理学的アプローチが有望ながん治療戦略であることを示し、臨床応用への道筋を提示する。エクソソームの産生を抑制することで、腫瘍の進行、転移、免疫回避、薬剤耐性を阻害できる可能性があり、これはHanahan et al. CancerDiscov 2022が提唱するがんのホールマークに対する新たな治療介入点となる。
残された課題: 今後の検討課題として、エクソソームとMVの生合成機序の相互関係の解明、インビボでの生合成阻害の安全性評価、患者選択バイオマーカーの開発が残されている。また、エクソソームの不均一性 (heterogeneity) を生み出すメカニズムの解明も重要である。GW4869は溶解度が低く、阻害能も不十分であるため、DPTIP (2,6-dimethoxy-4-(5-phenyl-4-thiophen-2-yl-1H-imidazol-2-yl)-phenol) やPDDC (phenyl(R)-(1-(3-(3,4 -dimethoxyphenyl)-2,6-dimethylimidazo[1,2 -b]pyridazin-8-yl)pyrrolidin-3-yl)-carbamate) といった新規のnSMase2阻害剤の開発が期待される。
方法
本総説は、エクソソーム生合成の分子機構、がんにおけるその制御、および治療的意義に関する文献を包括的にレビューした。PubMed、Embase、Web of Science などの主要なデータベースを用いて、関連する英語論文を検索した。検索期間は2000年から2022年8月までとし、「exosome biogenesis」、「MVB formation」、「cargo sorting」、「exosome secretion」、「cancer」、「therapeutic targeting」などのキーワードを組み合わせて使用した。収集した文献は、エクソソーム生合成の各ステップに関わる分子メカニズム、がん細胞による生合成の制御、およびエクソソーム生合成を標的とした治療戦略に焦点を当ててスクリーニングした。特に、ESCRT (endosomal sorting complex required for transport) 依存性および非依存性経路、RNA結合タンパク質 (RBP) によるカーゴソーティング、RAB GTPaseによるMVB輸送と融合、腫瘍微小環境やシグナル伝達経路による生合成の調節、および薬理学的阻害剤に関する報告を詳細に分析した。エビデンスレベルのグレーディングは行わず、広範な基礎研究および前臨床研究の知見を統合した。