• 著者: Kai Breitwieser, Leon F. Koch, Tobias Tertel, Eva Proestler, Luisa D. Burgers, Christoph Lipps, James Adjaye, Robert Fürst, Bernd Giebel, Meike J. Saul
  • Corresponding author: Meike J. Saul (Technische Universität Darmstadt, Germany)
  • 雑誌: International Journal of Molecular Sciences
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-08-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 35955677

背景

小型細胞外小胞 (small extracellular vesicles: sEV、直径 <200 nm) は、エンドソーム系に由来するエクソソーム (exosomes) および形質膜の出芽に由来するマイクロベシクル (microvesicles: MVs) を包括する総称であり、近年の細胞生物学において極めて重要な役割を担うことが明らかになっている Raposo et al. JCellBiol 2013。sEVは脂質二重膜の内部に脂質、タンパク質、核酸などの多様なマクロ分子を内包し、標的細胞にこれらを取り込ませることで細胞間コミュニケーションを媒介し、病態生理学的プロセスを制御する vanNiel et al. NatRevMolCellBiol 2018。この機能単位としての重要性から、sEVはバイオマーカー、薬物キャリア、あるいは再生医療における治療製剤としての応用が急速に注目されている。

しかし、sEVの大部分は直径 30-100 nm と極めて小さく、従来の光学顕微鏡や一般的なフローサイトメトリーの分解能限界以下であるため、単一小胞レベルでの詳細な表現型解析は技術的に困難であった Dragovic et al. Nanomedicine 2011。これまでの多くの研究では、超遠心分離法などによりバルクとして回収されたsEVサンプルをウェスタンブロットやオミクス解析などの集団平均的な生化学的手法、あるいは電子顕微鏡による形態観察に依存して評価せざるを得なかった Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006。この技術的限界により、個々のsEVにおける表面抗原の不均一性 (ヘテロジェナイティ) や、細胞種特異的なsEV表現型 (phenotype) に関する詳細な知見は依然として不足しており、sEVの生理学的理解や臨床応用への展開における大きな知識ギャップ (knowledge gap) となっていた。

テトラスパニン (tetraspanins) であるCD9、CD63、CD81は、長年にわたり普遍的なpan-sEVマーカーとして扱われてきた。しかし、近年のプロテオミクス解析などの進展により、細胞種や生合成経路の違いによって表面に発現するテトラスパニンの量や組み合わせが異なることが示唆されている Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016。国際細胞外小胞学会 (ISEV) が発行したMISEV2018ガイドライン Thery et al. JExtracellVesicles 2018 においても、sEVの物理的特性や生化学的組成を単一粒子レベルで詳細に記載することが推奨されているが、異なる細胞種由来のsEV集団におけるテトラスパニン組成の包括的な比較解析は未解明な点が多く、特定のテトラスパニン組み合わせが選択的に形成されるか否か、またその分布がランダムパターンから逸脱するかどうかは十分に検討されていなかった。この知識ギャップを埋めることは、sEVの生理学を理解し、新規治療アプローチを開発するために不可欠である。

目的

本研究は、単一粒子干渉反射イメージングセンサー (single-particle interferometric reflectance imaging sensor: SP-IRIS) 技術を基盤とするExoView R100プラットフォームを用いて、線維芽細胞、がん細胞、内皮細胞、幹細胞を含む計11種類の異なるヒト細胞株由来sEVのCD9/CD63/CD81テトラスパニン組成を単一粒子レベルで詳細に解析し、細胞種特異的なsEV表現型ライブラリーを構築することを目的とした。さらに、各細胞種におけるテトラスパニンの共局在 (co-localization) パターンが、数理統計的に予測されるランダムな分布から逸脱しているかを評価し、特定のテトラスパニン組み合わせが優先的に選別・形成される生合成メカニズムの存在を検証することを目的とした。これにより、sEVの不均一性と複雑性に関する理解を深め、sEVベースの新規治療アプローチ開発のための基礎情報を提供することを目指した。

結果

線維芽細胞由来sEVの臓器特異的ヘテロジェナイティ: 心臓線維芽細胞 (huCarFib) および包皮線維芽細胞 (CI-huFIB) 由来のsEVは、互いに極めて類似したテトラスパニン組成パターンを示した。huCarFib由来sEVでは、CD9陽性sEVの 56.6% がCD9/CD63/CD81三重陽性であり、CD9単陽性sEVはわずか 6.4% であった (Figure 1)。CI-huFIB由来sEVにおいても、CD9陽性sEVの 63.4% が三重陽性であり、CD9単陽性は 4.9% に留まった。これに対し、肺線維芽細胞 (HFL1) 由来sEVは異なるパターンを示し、CD63捕捉スポットにおいて単陽性sEVが 42.0% と高い割合を占め、三重陽性sEVは 32.9% であった (Figure 1)。ランダム性解析において、huCarFibおよびCI-huFIB由来sEVは理論的ランダム分布に近かったが、HFL1由来sEVではCD9捕捉スポットにおいて単陽性 (実測値 25.4% vs 理論値 12.9%) および三重陽性 (実測値 52.2% vs 理論値 39.6%) が共に過剰表現されており、肺線維芽細胞特異的な非ランダム的テトラスパニン選別機構の存在が示唆された。この実験は独立した n=3 biological replicates にて実施された。

がん細胞由来sEVにおける多様な表現型シグネチャー: 解析したがん細胞株由来sEVは、それぞれ極めてユニークなテトラスパニンプロファイルを示した。HeLa由来sEVでは、CD9捕捉スポットにおいてCD9単陽性sEVが 56.7% と過半数を占めた (Figure 2)。最も特徴的であったのは肝細胞がん株HepG2由来sEVであり、CD81陽性sEVが全体のわずか 8.2% と極めて低く、IgGコントロールと同等のバックグラウンドレベルであった。さらに、HepG2由来sEVのCD9捕捉スポットでは 94.3% がCD9単陽性、CD63捕捉スポットでは 56.0% がCD63単陽性であり、三重陽性sEVはほぼ検出されないという極めてユニークな表現型を示した (Figure 2)。非小細胞肺がん腺がん株H1650由来sEVでは、CD9捕捉スポットが全体の 71.0% を占め、そのうち 45.8% が単陽性であった。神経芽腫株SH-SY5Y由来sEVは、CD81捕捉スポットが 46.1% と最多であり、テトラスパニン組成は比較的均等に分布していた。ランダム性解析では、HeLa由来sEVのCD9捕捉スポットで非共局在sEV (実測値 56.7% vs 理論値 48.1%) および三重陽性sEV (実測値 17.6% vs 理論値 9.1%) が過剰表現されていたが、HepG2およびH1650由来sEVは概ねランダム分布に従っていた。

内皮細胞由来sEVの類似性と非ランダムな選別パターン: HMEC-1およびHUVEC由来のsEVは、非常に類似したテトラスパニン分布パターンを示した。両細胞株において、CD9捕捉スポットが最多 (HMEC-1: 49.8%、HUVEC: 47.3%) であり、CD81捕捉スポットがそれに続いた (Figure 3)。CD9陽性sEVにおける三重陽性の割合はHMEC-1で 37.0%、HUVECで 33.6% であり、CD81捕捉スポット上のsEVの多くが三重陽性 (HMEC-1: 56.8%、HUVEC: 46.7%) であった。しかし、CD63捕捉スポットにおいては若干の差異が認められ、HMEC-1では 59.2% が三重陽性であったのに対し、HUVECでは 39.0% がCD63単陽性であった。ランダム性解析では、両内皮細胞由来sEVのCD63捕捉スポットにおいて、単陽性sEVが理論値の約2倍 (fold change 2.0x、p<0.01) 過剰に表現されており (Figure 5)、三重陽性sEVも過剰表現されていた (HMEC-1で 1.3-fold、HUVECで 1.6-fold)。この結果は、内皮細胞におけるsEV生合成過程で、特定のテトラスパニン選別を制御する非ランダムな機構が働いていることを示している。

幹細胞由来sEVにおける培養条件依存的な組成変動と非ランダム性: hiPS細胞株 (A4およびCO2) 由来sEVは互いに類似したプロファイルを示し、いずれの捕捉スポットにおいても三重陽性sEVが多数派を占めた (A4のCD63捕捉スポットで 61.4% が三重陽性) (Figure 4)。これに対し、hPL添加培地で培養されたMSC (hPL-MSC) 由来sEVは極めて特徴的な表現型を示し、CD9単陽性sEVが 78.1% 、CD63単陽性sEVが 63.1% と著しく高値を示した一方、CD81陽性sEVは全体のわずか 16.7% であった。極めて興味深いことに、MSCの培養培地をhPLからFCSに変更すると、CD81陽性sEVの割合が 33.6% へと上昇し、CD9捕捉スポットにおける三重陽性sEVの割合が 11.6% (hPL) から 29.2% (FCS) へと 2.5-fold 以上の顕著な増加を示した (Figure 4)。ランダム性解析では、hPL-MSCおよびFCS-MSCの双方において、CD9およびCD63捕捉スポットで顕著な非ランダム分布が認められた。hPL-MSCのCD63捕捉スポットでは、単陽性 (実測値 63.1% vs 理論値 54.5%) および三重陽性 (実測値 15.5% vs 理論値 6.9%、p<0.001) が有意に過剰表現されており、CD9捕捉スポットでも同様の過剰表現が確認された (Figure 5)。これらの結果は、n=3 biological replicates の独立した実験により実証された。

考察/結論

本研究は、ExoView R100プラットフォームを用いて、11種類の異なるヒト細胞株由来sEVのテトラスパニン (CD9/CD63/CD81) 組成を単一粒子レベルで包括的に解析した初の研究である。

先行研究との違い: 従来のバルク解析や、sEVのテトラスパニン組成はランダムな分布に従うとする一般的な仮説とは異なり、本研究は肺線維芽細胞、間葉系幹細胞 (MSCs)、および内皮細胞由来sEVにおいて、特定のテトラスパニン組み合わせが理論的予測値から有意に逸脱して過剰または過少に表現される非ランダムな分布パターンを明確に示した。これは、特定の細胞種においてsEVの生合成および放出時にテトラスパニンの選別を制御する能動的な分子メカニズムが存在することを示唆している。例えば、CD63陽性かつCD9/CD81共陽性のsEVが多胞体 (MVB) 由来のエクソソームに対応し、CD9またはCD81単陽性のsEVが形質膜出芽型のエクトソームに対応するという生合成経路の二極化モデル Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016 Mathieu et al. NatCommun 2021 が提唱されているが、本研究で見出された非ランダムな分布パターンは、これらの生合成経路の選択や調節が細胞種特異的、あるいは微小環境依存的に高度に制御されていることを裏付けるものである。

新規性: 本研究で初めて、ヒト肝細胞がん株HepG2由来sEVにおいてCD81の発現がほぼ皆無 (8.2%) であるというユニークな表現型を同定した。これは、CD81抗体を用いた免疫捕捉法のみに依存したsEV解析では、特定の細胞種由来のsEV集団を完全に見落とすリスクがあることを示しており、sEV研究におけるマルチマーカー解析の重要性を新規に提示した。さらに、治療用製剤として臨床応用が進むMSC由来sEVにおいて、培養添加物 (hPL vs FCS) の違いによってsEV表面のテトラスパニン組成がダイナミックに変化することを初めて明らかにした。

臨床応用: MSC由来sEVは、その優れた免疫調整能や組織再生能から、様々な疾患に対する無細胞治療 (cell-free therapy) の製剤として期待されている Giebel et al。本研究が示した「培養条件によるsEV表面組成の変動」という知見は、sEV治療薬の製造プロセス (CMC) 設計において極めて重要な臨床的意味を持つ。培地成分の違いがsEVの表面抗原プロファイルを変化させ、それが標的細胞への指向性や治療効果に影響を及ぼす可能性があるため、大規模製造における再現性と安全性を確保するためには、培地成分の標準化と単一粒子レベルでの品質管理 (QC) が不可欠である。

残された課題: 本研究の限界 (limitation) として、ExoView R100プラットフォームはCD9/CD63/CD81のいずれも発現していないsEVを捕捉・検出できない点が挙げられる。また、サンプル乾燥に伴うsEVの収縮により、SP-IRISによる測定サイズが実際よりも小さく見積もられる傾向がある。今後の検討課題として、異なる単一粒子解析プラットフォーム (画像フローサイトメトリーなど) とのクロスバリデーションを行うとともに、同定されたテトラスパニン表現型とsEVの機能活性 (標的細胞への取り込み効率や生理作用) との直接的な相関関係を解明することが求められる。

方法

細胞株および培養条件: 本研究では、線維芽細胞としてCI-huFIB (ヒト包皮線維芽細胞由来不死化細胞株)、huCarFib (ヒト心臓線維芽細胞由来不死化細胞株)、HFL1 (human lung fibroblast 1: ヒト肺線維芽細胞株) を使用した。がん細胞株としてHeLa (子宮頸がん)、HepG2 (肝細胞がん)、H1650 (非小細胞肺がん腺がん)、SH-SY5Y (神経芽腫) を使用した。内皮細胞としてHMEC-1 (human microvascular endothelial cell-1: ヒト微小血管内皮細胞株) および一次培養のHUVEC (human umbilical vein endothelial cell: ヒト臍帯静脈内皮細胞) を使用した。幹細胞として、ヒト人工多能性幹細胞 (hiPS) 株であるA4 (包皮線維芽細胞由来) およびCO2 (真皮線維芽細胞由来) を使用した。さらに、ヒト骨髄由来間葉系幹/基質細胞 (mesenchymal stem/stromal cells: MSCs) を使用し、培養添加物としてヒト血小板溶解物 (human platelet lysate: hPL) または胎児牛血清 (fetal calf serum: FCS) を用いた条件で培養した。各細胞は標準的な培養条件 (37度、5% CO2、98%湿度) で維持された。

サンプル調製: 各細胞株が 70-80% のコンフルエンスに達した後、条件培地 (conditioned medium: CM) を回収し、13,000 × g で5分間遠心分離して細胞デブリおよび浮遊細胞を除去した。得られた上清は直接ExoView解析に供するか、あるいは-80度で保存した。

ExoView R100プラットフォームによる単一粒子解析: 抗CD9 (クローンHI9a)、抗CD63 (クローンH5C6)、抗CD81 (クローンJS-81) 抗体、およびマウスIgGアイソタイプコントロールが感作されたマイクロアレイチップ (NanoView Biosciences, 製品番号EV-TETRA-C) を使用した。細胞デブリを除去した条件培地をインキュベーション溶液で希釈し、40 µLをチップ上に添加して一晩室温でインキュベートし、sEVを特異的に免疫捕捉した。翌日、CF488標識抗CD9抗体、CF647標識抗CD63抗体、CF555標識抗CD81抗体 (各1:500希釈) の混合液を用いて1時間蛍光染色を行った。洗浄および乾燥後、ExoView R100プラットフォームを用いて測定した。SP-IRISモードにより直径 50 nm 以上の粒子を計数およびサイズ測定し、多色蛍光チャンネルにより単一sEV上でのテトラスパニン共局在を評価した。実験は独立した生物学的3反復 (n=3 biological replicates) および技術的3反復 (n=3 technical replicates) で実施した。

統計解析およびランダム性シミュレーション: 各テトラスパニンの実測陽性率に基づき、各テトラスパニンが独立かつランダムにsEV膜上に分布すると仮定した理論的ランダム分布を数理モデルにより算出した。具体的には、各マーカーの独立確率を掛け合わせることで、特定の共局在組み合わせ (単陽性、二重陽性、三重陽性) が発生する理論的確率 P(combination) = p1 × p2 × p3 を計算した。この理論値と実測値を比較することで、特定のテトラスパニン選別がランダム分布から有意に逸脱しているかを評価した。統計解析には one-way ANOVA (一元配置分散分析) を用い、有意水準は p<0.05 とした。グラフ作成にはGraphPad Prism 6ソフトウェアを使用した。