- 著者: Bordanaba-Florit G, Royo F, Kruglik SG, Falcón-Pérez JM
- Corresponding author: gbordanaba@cicbiogune.es; jfalcon@cicbiogune.es (CIC bioGUNE)
- 雑誌: Nature protocols
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-06-16
- Article種別: Review
- PMID: 34135505
背景
細胞外小胞 (EV: Extracellular Vesicles) は、脂質二重層に囲まれた不均一なナノからマイクロメートルサイズの粒子であり、脂質、タンパク質、代謝物、核酸など多様な分子を内包する多機能キャリアである。EVは、凝固、炎症、細胞成熟、免疫応答、神経細胞間コミュニケーションなど、哺乳類の多くの生理学的プロセスに積極的に関与することが示されている Valadi et al. NatCellBiol 2007。また、がんの進行における転移前ニッチの形成など、様々な病理学的プロセスにおいても重要な役割を果たすことが報告されている Becker et al. CancerCell 2016。その特異的な生理学的特徴から、EVは様々な疾患の検出およびモニタリングにおいて極めて有用なツールとなり得る Andaloussi et al. NatRevDrugDiscov 2013。
しかし、EVの構造と組成における複雑な不均一性は、その医療診断および治療への応用を妨げる主要な課題である Thery et al. JExtracellVesicles 2018。この多様性により、EVの正確な生理学的役割や、異なるEVサブポピュレーションの機能と組成を特定することが困難となっている Kalluri et al. Science 2020。従来のEV特性評価に用いられてきたウェスタンブロッティングやオミクス技術などのアンサンブル平均的手法は、個々のEVが持つ不均一性を覆い隠してしまう傾向がある。反応経路の分子状態や個々のタンパク質、核酸の不均一性を検出できないことが、アンサンブル測定の誤解釈につながる可能性が指摘されてきた Mathieu et al. NatCellBiol 2019。このため、EVの生物学的機能の理解と潜在的な臨床応用のためには、個々のEVレベルでの詳細な解析が不足しており、異なるEVサブポピュレーションの機能的役割は未解明のままであった。
目的
本総説は、細胞外小胞 (EV) の不均一性が医療応用を妨げる主要な課題であるという認識に基づき、この課題を克服するために不可欠な単一小胞解析 (SVA: Single-Vesicle Analysis) 技術の現状、利点、および課題を包括的に議論することを目的とする。具体的には、ナノ粒子追跡解析 (NTA: Nanoparticle Tracking Analysis)、ラマンピンセット顕微分光法 (RTM: Raman Tweezers Microspectroscopy)、表面増強ラマン分光法 (SERS: Surface-Enhanced Raman Spectroscopy) などのラベルフリー手法、および高分解能フローサイトメトリー (hrFC: High-Resolution Flow Cytometry)、全反射蛍光顕微鏡 (TIRF: Total Internal Reflection Fluorescence microscopy)、デジタルドロップレットPCR (ddPCR: Digital Droplet PCR) などのラベルベース手法を含む20種以上のSVA技術の原理、性能、および応用について詳細に解説する。これにより、EVの特性評価、細胞間コミュニケーションにおける役割の解明、疾患バイオマーカー発見、特に前立腺がん (PCa: Prostate Cancer) 診断への応用におけるSVAの貢献を明らかにする。最終的に、マイクロ流体デバイスを用いた革新的なSVAイメージングおよび解析手法の可能性を議論し、低侵襲予後システムへの迅速かつ効果的な基礎的・実用的応用への貢献を示すことを目指す。
結果
本総説は、単一小胞解析 (SVA) 技術が、従来のアンサンブル解析では見過ごされてきた細胞外小胞 (EV) の著しい不均一性を明らかにし、EV生物学の理解と疾患バイオマーカー発見に多大な貢献をしたことを示した。
EVの形態学的・生化学的特性評価におけるSVAの貢献: SVA技術は、EVの形態、サイズ、組成、物理的特性の多様性を個々の小胞レベルで詳細に解明した。例えば、極低温透過型電子顕微鏡 (Cryo-TEM) は、様々な細胞種由来のエクソソーム (直径30-150 nm) が球状、円筒状、膜断片など多様な形態を示し、同じ細胞株由来であっても異なる機能を持つサブポピュレーションが存在する可能性を示唆した (Table 2)。血漿EVの解析では、そのごく一部しかホスファチジルセリンを表面に露呈しておらず、従来のEV形成理論とは異なる生成経路を持つサブポピュレーションの存在が示唆された。原子間力顕微鏡 (AFM) は、ラット肝細胞由来EVがマウス肝前駆細胞EVよりも脆弱であることを示し、EVの機械的特性の多様性を明らかにした。さらに、AFMと赤外分光法を組み合わせたAFM-IRは、2つの胎盤幹細胞サブタイプ由来EVの分子構成 (タンパク質、脂質、DNA) と構造の違いを初めて個々の小胞レベルで識別し、タンパク質凝集体とEVを区別することに成功した (Table 2)。ラマンピンセット顕微分光法 (RTM) は、粘菌 (Dictyostelium discoideum) が細胞増殖期と飢餓誘導凝集期という異なる生理状態で、核酸、タンパク質、脂質、カロテノイドの組成が著しく異なるEVを産生することを明らかにした (Table 2)。また、単一EV中の核酸濃度を定量的に測定した研究では、ラット肝細胞やヒト尿といった同じサンプル内でも、個々のEVが生化学的に顕著な不均一性を示すことが報告された。ナノ粒子追跡解析 (NTA) は、ヒト膠芽腫細胞から放出される複数のEV集団を特定し (Table 2)、蛍光NTAはCD9、CD63などの表面マーカーに基づき特定のEVサブポピュレーションの濃度とサイズ分布を決定した。これらの研究は、EVの特性が細胞起源だけでなく、細胞の生理的状態や外部刺激に強く影響されること、そしてこの不均一性が機能的多様性と密接に関連していることを示している。
EVトラフィッキングとシグナル伝達メカニズムの解明: SVAアプローチは、EVの細胞への取り込み、膜融合、そして細胞間コミュニケーションにおける役割の理解を大きく前進させた。超解像顕微鏡 (SRM) の一種であるPALM (Photoactivation localization microscopy) およびSTORM (Stochastic optical reconstruction microscopy) を用いた研究では、アルツハイマー病などの神経変性疾患の原因となるタウタンパク質の凝集体が、EVを介してプリオン様に細胞間を伝播するメカニズムが示された。Cryo-TEMは、ポリオウイルス感染細胞から放出される直径100-1,000 nmのEV内に、細胞溶解前に複数のビリオンが含まれていることを可視化し、ウイルス感染拡大の新たな経路を明らかにした (Table 3)。蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET) 顕微鏡は、EV由来のカーゴ分子が核へ輸送される過程で必須となる三量体タンパク質VOR (vesicle-associated nuclear transport organizer) の動態を追跡し、この過程を阻害することが神経変性疾患の治療標的となりうる可能性を示唆した (Table 3)。また、別のFRET研究では、T細胞のインスリン貯蔵小胞の成熟過程において、小胞内の遊離亜鉛濃度が重要な調節因子であることが示された。デジタルドロップレットPCR (ddPCR) を用いた研究では、骨転移性の高い黒色腫細胞由来のEVが、転移性の低い細胞 (n=6 細胞株) に取り込まれると、CXCR7 (CX-C motif chemokine receptor 7) の発現を 2.8-fold 上昇させ (p<0.05)、走化性とがんの進行を促進することが示された (Table 3)。AFMを用いた研究では、赤血球由来EVの剛性がタンパク質と脂質の比率に逆比例し、タンパク質リッチなEVは柔らかく、脂質リッチなEVは硬いことが示され、これが異なる出芽メカニズムと関連している可能性が示唆された。SNAREタンパク質が介在する膜融合イベントでは、最適な融合距離が5 nmであることが報告されている。これらの知見は、SVAがEVを介した複雑な情報伝達ネットワークと、それが病態生理に与える影響を解明する上で不可欠なツールであることを証明している。
疾患バイオマーカー発見におけるSVAの役割: SVA技術は、低侵襲な液体生検における疾患特異的バイオマーカーの発見に革命をもたらした。特に前立腺がん (PCa) 診断において顕著な進展が見られた。高分解能フローサイトメトリー (hrFC) と免疫蛍光染色を組み合わせた研究では、PCa患者 (n=40) の血漿中の PMP (circulating prostate microparticles) レベルが健常者比 3.5-fold 高値を示し (p=0.002)、悪性度の高い (Gleason score ≥ 8) 患者を、従来のマーカーである PSA (Prostate-Specific Antigen) の値に関わらず識別できることが示された (Table 4)。これは、より正確な予後予測への道を開くものである。ラマン分光法を用いた研究では、PCa患者由来の血液EVにおいて、表面タンパク質の二次構造が健常者のαヘリックスリッチな構造からβシートリッチな構造へと変化することが発見された。また、RTMはPCa細胞由来EVに特有の脂質とタンパク質の化学的シグネチャ (波数2,800-3,100 cm⁻¹) を検出し、機械学習と組み合わせることでEVの細胞起源を高い精度で予測できることを示した (Table 4)。肺がん研究では、SERSを用いて健常者と肺がん患者由来のEVを区別できる11種類の癌特異的なラマン信号が同定された (Table 4)。ddPCRは、脳のグリオーマ患者の脳脊髄液由来EV中に変異型IDH1遺伝子の転写産物を検出し、治療効果モニタリングへの応用が期待されている (Table 4)。結腸直腸がん (CRC: colorectal cancer) では、血漿EV中のBRAFおよびKRAS遺伝子変異がddPCRで同定され、またCD147タンパク質がフローサイトメトリーでバイオマーカーとして同定された (Table 4)。さらに、膵臓がんでは、がん細胞由来EVの表面に特異的に存在する Glypican-1 (GPC1、heparan sulfate proteoglycan) が、早期診断の有望なバイオマーカーとして Melo et al. Nature 2015 により報告された (Table 4)。これらの成果は、SVA技術が個々のEVの微細な分子変化を捉え、高感度かつ特異的な次世代診断法の開発に不可欠であることを明確に示している。
EVの分離・精製技術の進展とSVAの統合: SVA技術の進歩と並行して、EVの分離・精製技術も発展を遂げている。超遠心分離法、サイズ排除クロマトグラフィー、免疫アフィニティー捕獲法、ポリマー沈殿法、マイクロ流体デバイスなど、様々な原理に基づく分離技術が開発されてきた。これらの技術は、EVの物理化学的特性に基づいてEVサブポピュレーションを分離するが、それぞれが異なるEVサブセットを濃縮する傾向があるため、解析結果にバイアスが生じる可能性がある。例えば、超遠心分離法では、EVだけでなくリポタンパク質やタンパク質凝集体も沈殿するため、純粋なEV集団を得ることが困難な場合がある。SVA技術は、このような分離技術の限界を補完し、分離されたEV集団の不均一性を個々の小胞レベルで評価することを可能にする。例えば、NTAはEVのサイズ分布と濃度を定量するが、タンパク質凝集体とEVを区別できないという課題を持つ。しかし、蛍光標識と組み合わせた蛍光NTAは、特定の表面マーカーを持つEVサブポピュレーションのみを解析できるため、分離されたEV集団の特異性を検証する上で有用である。マイクロ流体デバイスは、EVの分離、検出、分析を単一プラットフォーム上で統合する有望なアプローチであり、SVAとの組み合わせにより、高スループットかつ自動化されたEV解析を可能にする。例えば、アコースティックトラッピング技術を用いたマイクロ流体プラットフォームは、全血からEVをラベルフリーかつ非接触で分離し、次世代シーケンシングと組み合わせてmiRNAバイオマーカーを同定できることが示された。このような統合プラットフォームは、少量のサンプルから高感度なバイオマーカー発見を可能にし、臨床診断への応用を加速させる。
SVAによるEVの機械的特性と膜ダイナミクスの解明: SVA技術は、EVの機械的特性や膜ダイナミクスに関する新たな知見ももたらしている。原子間力顕微鏡 (AFM) は、EVのサイズ、形状、剛性、変形能などの物理的特性をナノスケールで測定できる。赤血球由来EVの研究では、EVの剛性がタンパク質と脂質の比率に逆比例することが示され、タンパク質が豊富なEVは柔らかく、脂質が豊富なEVは硬いことが明らかになった。この機械的特性の多様性は、EVの出芽メカニズムの違いと関連している可能性が示唆されている。また、遺伝性球状赤血球症患者由来のEVと健常者由来のEVを比較した研究では、両者の間で機械的特性と小胞形成に違いがあることが示され、これが診断パラメータとして利用できる可能性が示唆された。EVの膜融合や細胞への取り込みといったダイナミクスも、FRET顕微鏡やTIRF顕微鏡などのSVA技術によって詳細に解析されている。SNAREタンパク質が介在する膜融合イベントでは、脂質単分子膜の混合から完全な二重層融合に至る一連の中間体が可視化され、最適な融合距離が5 nmであることが報告された。さらに、コレステロールが融合ダイナミクスの重要な調節因子であり、高コレステロール濃度がt-SNAREのプレクラスター化を促進し、融合孔の安定性と融合イベントの速度に影響を与えることが示された。これらの研究は、SVAがEVの物理的特性と膜ダイナミクスを理解し、その生物学的機能との関連性を解明する上で不可欠なツールであることを強調している。
考察/結論
本総説は、細胞外小胞 (EV) の不均一性がその生物学的機能の理解と医療応用を妨げる主要な課題であることを強調し、単一小胞解析 (SVA) 技術がこの課題克服に不可欠であることを示した。
先行研究との違い: 従来のアンサンブル平均的手法では、EV集団全体の平均的な特性しか捉えられず、個々のEVが持つ構造、組成、機能の多様性は見過ごされがちであった。これに対し、本総説で詳述したSVA技術は、個々のEVレベルでの直接的な可視化と定量化を可能にし、EVの複雑な不均一性を初めて明らかにした点で、これまでの研究とは対照的である。特に、EVの形態や組成が細胞起源だけでなく、細胞の生理的状態にも依存すること、そして特定のEVサブポピュレーションが疾患の進行に特異的に関与していることなど、アンサンブル解析では得られなかった知見がSVAによってもたらされたことは、EV生物学の理解を大きく進展させるものである。
新規性: 本総説は、ナノ粒子追跡解析 (NTA) やラマン分光法などのラベルフリー手法から、超解像顕微鏡 (SRM) やデジタルドロップレットPCR (ddPCR) などのラベルベース手法に至るまで、20種類以上のSVA技術の原理、性能、長所と短所、そして応用例を包括的にまとめた点で新規である。これらの技術が、EVの特性評価、細胞間コミュニケーションのメカニズム解明、および疾患バイオマーカー発見にどのように貢献したかを体系的に解説し、特に前立腺がん (PCa) 診断におけるSVAの具体的な貢献を強調したことは、これまで報告されていない包括的な視点を提供する。
臨床応用: SVA技術は、疾患バイオマーカーの発見と検証において絶大な臨床的有用性を持つ。特に、PCa診断における液体生検への応用は、侵襲的な組織生検や特異性の低いPSA検査の課題を克服する可能性を秘めている。例えば、SVAにより、悪性度の高いPCa患者をPSA値に関わらず識別できる PMP が同定されたことは、臨床現場における早期診断と個別化治療戦略の立案に直結する臨床応用の可能性を示唆する。また、肺がん、結腸直腸がん、膵臓がんにおける特異的分子シグネチャや遺伝子変異の検出は、低侵襲で高感度な診断・モニタリングツールの開発に貢献する。これらの知見は、EVフィンガープリンティングと多変量解析を組み合わせた診断プラットフォームの開発を促進し、個別化医療の実現に向けたtranslationalな研究を加速させるだろう。
残された課題: SVA技術は大きな進歩を遂げたが、その潜在能力を最大限に引き出すためには、いくつかの残された課題がある。まず、多くの技術において、定量性、信頼性、解像度、スループットのさらなる改善とコスト削減が必要である。例えば、NTAは直径60 nm未満の粒子の正確な検出が困難であり、RTMのスループットは0.2 particles/minと低いという課題がある (Table 1)。また、生体内 (in vivo) での単一EVの動態追跡は依然として技術的に困難であり、ゼブラフィッシュ胚のような透明な動物モデルの活用や、マルチモーダルイメージングプラットフォームの開発が今後の検討課題となる。さらに、異なるサンプルタイプや疾患に対するEVの分離・精製および特性評価の標準化されたプロトコルが不足しており、これが臨床応用への大きな障壁となっている。SVAは高解像度の表現型解析には優れているが、機能研究に直接結びつけることは必ずしも容易ではないというlimitationも存在する。しかし、システムモデルや単一小胞技術の今後の進歩は、これらの課題を克服し、EVを介したネットワークに基づく全く新しい細胞間コミュニケーションのパラダイムを解明する基盤を提供すると期待される。
方法
本総説では、細胞外小胞 (EV) の不均一性を解明するために開発された20種類以上の単一小胞解析 (SVA: Single-Vesicle Analysis) 技術を包括的に評価した。これらの技術は、EVの特性評価、細胞間コミュニケーションにおける役割の解明、疾患バイオマーカーの同定という3つの主要な問題に対処するために用いられる。SVA技術は、ラベルフリー手法とラベルベース手法に大別される (Figure 1)。本総説の作成にあたり、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な科学データベースを用いて、2000年から2020年までの期間に公開された関連文献を検索した。検索キーワードには、「extracellular vesicles」、「exosomes」、「single-vesicle analysis」、「nanoparticle tracking analysis」、「Raman spectroscopy」、「flow cytometry」、「super-resolution microscopy」、「liquid biopsy」、「cancer biomarkers」などを用いた。文献の選択は、EVの単一小胞解析技術の原理、性能、応用、および疾患バイオマーカーとしてのEVに関する原著論文および総説を対象とする包含基準に基づき実施した。特に、SVA技術の新規性、技術的詳細、および臨床応用の可能性に焦点を当てた。各SVA技術の性能比較は、検出原理、得られる情報、スループット、分析時間、推奨作業濃度、サンプル量、サンプルの再利用可能性などのパラメータに基づき、Table 1にまとめられた。本総説では、個々の研究の質を評価するために特定のエビデンスレベルグレーディングシステムは使用しなかったが、各技術の限界と課題を明確に記述することで、その信頼性と適用範囲を評価した。
ラベルフリー手法 ラベルフリー手法は、外部からの標識を用いずにEVを直接分析する。
- ナノ粒子追跡解析 (NTA): 懸濁液中の粒子のブラウン運動を追跡し、その移動距離から流体力学的直径を算出することで、粒子集団のサイズ分布と濃度を決定する。レーザー光の散乱を利用して粒子を可視化し、ビデオフレームレートで追跡する。推奨作業濃度は10^7-10^10 particles/mLである。しかし、タンパク質凝集体やウイルス粒子とEVを区別できず、直径60 nm未満の粒子の正確な検出は困難であるという限界を持つ。
- ラマンピンセット顕微分光法 (RTM): 光学ピンセットで単一のEVを捕捉し、レーザー光の非弾性散乱 (ラマン散乱) を測定することで、その化学組成を分析する。タンパク質、脂質、核酸、カロテノイドなどの生体分子に特有の振動フィンガープリントを提供し、定性的および定量的な生化学的特性評価を可能にする。信号強度が低いためデータ収集に時間がかかり、スループットは典型的には0.2 particles/minと低い (Table 1)。
- 表面増強ラマン分光法 (SERS): RTMの低信号強度を補うため、EVを金属ナノ粒子や特殊な基板に接触させ、プラズモン共鳴を利用してラマン信号を増強する。主にEV表面の分子特性評価に用いられるが、増強効果がナノ粒子からの距離に強く依存し、数nm以上離れると消失するため、再現性に課題がある。
- 極低温透過型電子顕微鏡 (Cryo-TEM: Cryogenic transmission electron microscopy): サンプルを液体エタン中で急速凍結することで水の結晶化を防ぎ、EVの天然に近い構造を保存したまま高分解能 (<1 nm) で観察する。EVの形態的多様性、膜の二重層構造、内部構造を直接可視化できるが、スループットは低く、通常は一度に数個のEVしか観察できない。
- 原子間力顕微鏡 (AFM: Atomic force microscopy): ナノスケールの探針 (プローブチップ) とサンプル表面との間に働く原子間力を利用して、表面の三次元形状を画像化する。水平分解能1-3 nm、垂直分解能<0.1 nmという高解像度で、EVのサイズ、形状、剛性、変形能などの物理的特性を測定できる。免疫機能化されたプローブを用いることで、表面の生化学的特性も評価可能である (Table 1)。ただし、EVの形状は固定化される基板表面に強く影響される。
- 単一粒子干渉反射イメージングセンサー (SP-IRIS: Single-particle interferometric reflectance imaging sensor): シリコン基板上でEVを捕捉し、粒子からの散乱光と基板からの反射光との干渉を利用して信号を増強し、個々のEVを検出する。複数の表面バイオマーカーを同時に検出し、サイズを測定できる。顕微鏡の横方向分解能 (約400 nm) の限界により、高濃度サンプルでは複数の小胞が単一の信号として誤検出される可能性がある。
ラベルベース手法 ラベルベース手法は、蛍光色素や抗体などを用いてEVを標識し、その信号を検出する。
- 高分解能フローサイトメトリー (hrFC): 蛍光標識されたEVを流体中で一つずつレーザーに通過させ、散乱光と蛍光を多パラメトリックに検出することで、EV集団のサイズ分布と表面マーカーの発現を定量する。未結合の蛍光色素による高いバックグラウンドが課題となるほか、複数の粒子が同時に検出器を通過する「スウォーム効果」により、解析可能な濃度範囲 (通常 <10^9 particles/mL) が制限される。
- 全反射蛍光顕微鏡 (TIRF): 高屈折率のカバーガラスと低屈折率のサンプルとの界面で全反射を起こさせ、界面近傍にのみ発生するエバネッセント波を用いて蛍光分子を励起する。励起深度が数百nmに限定されるため、バックグラウンド蛍光が極めて低く、高い信号対雑音比で細胞膜近傍の現象や固定化されたEVを観察できる。
- 蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET: Fluorescence resonance energy transfer): 2つの異なる蛍光色素 (ドナーとアクセプター) が10 nm以内に近接した際に、ドナーからアクセプターへ非放射的にエネルギーが移動する現象を利用する。EVと細胞の相互作用、膜融合、タンパク質間相互作用などのダイナミクスをナノスケールで評価できる。
- 超解像顕微鏡 (SRM: Super-resolution microscopy): 光の回折限界 (約250 nm) を超える解像度を実現する顕微鏡技術の総称。光活性化局在性顕微鏡 (PALM: Photoactivation localization microscopy) や確率的光学再構築顕微鏡 (STORM: Stochastic optical reconstruction microscopy) などの単一分子局在化法は、個々の蛍光分子を時間的に分離して点滅させ、その位置情報を超解像度で再構築する。単一EVの内部構造や表面分子の分布を詳細に可視化できる。
- デジタルドロップレットPCR (ddPCR): サンプルを数万個の微小なオイル液滴 (ドロップレット) に分割し、各液滴内でPCR反応を行う。これにより、各液滴が単一のEVまたは単一の核酸分子を含む状態を作り出し、標的核酸の絶対定量が可能となる。微量サンプル (例: 20 µL) からの分析が可能で、バイオマーカーの探索や検証に用いられる。
本総説で参照した一次研究における統計解析には、主に Student t検定、Mann-Whitney U検定、log-rank検定が用いられており、p<0.05 を有意水準として設定した報告が多数を占めた。
これらの技術は、マイクロ流体デバイスと統合することで、EVの分離、検出、分析の自動化と高スループット化が進められており、臨床応用への展開が期待されている。