• 著者: Kitajima S, Asahina H, Chen T, Guo S, Quiceno LG, Cavanaugh JD, Merlino AA, Tange S, Terai H, Kim JW, Wang X, Zhou S, Xu M, Wang S, Zhu Z, Thai TC, Takahashi C, Wang Y, Neve R, Stinson S, Tamayo P, Watanabe H, Kirschmeier PT, Wong KK, Barbie DA
  • Corresponding author: David A. Barbie (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2018
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30205046

背景

KRAS変異は非小細胞肺がん (NSCLC)、大腸がん、膵がんなどで最も高頻度のがん遺伝子変異であるが、長年にわたり直接標的療法の開発が困難を極めていた (Stephen et al. 2014)。KRASの主要下流エフェクターであるRAL-GDS (RAL guanine nucleotide dissociation stimulator) 経路は、RALBを介してTANK-binding kinase 1 (TBK1) が関与する自然免疫シグナルを活性化し、IL-6やCCL5の分泌によるSTAT3/NF-κB依存性の腫瘍細胞生存を支持することが知られている (Barbie et al. 2009; Chien et al. 2006; Zhu et al. 2014a)。一方、MEK阻害薬はIL-6/STAT3フィードバック活性化を誘導し、TBK1阻害薬はMEK/ERK活性化をもたらすことから、TBK1/JAKとMEK (trametinib) の同時阻害が合理的な組み合わせとして提案されてきた (Lee et al. 2014; Zhu et al. 2014a)。実際に、我々は以前、selumetinibとTBK1/JAK阻害薬momelotinibの併用が、KRAS駆動型肺がんマウスモデルにおいて相乗的な腫瘍退縮を誘導することを報告している (Zhu et al. 2014a)。

しかし、KRAS変異NSCLCは遺伝的に不均一であり、共変異するTP53 (KRAS;TP53 = KP) またはSTK11/LKB1 (LKB1) のステータスにより腫瘍生物学、免疫プロファイル、治療感受性が大きく異なることが近年明らかになっている (Skoulidis et al. CancerDiscov 2015; Koyama et al. CancerRes 2016)。例えば、LKB1欠損はMEK阻害に抵抗性を示す一方で、TBK1/JAK阻害には感受性が高いことが報告されている (Chen et al. 2012; Koyama et al. CancerRes 2016)。実際に、KRAS;LKB1 (KL) 遺伝子改変マウスモデル (GEMM) ではmomelotinib単剤で一時的な腫瘍縮小が得られるものの、約4週で耐性が生じることが知られていた。一方、KP細胞はmomelotinibに対して内因性抵抗性を示す。免疫チェックポイント阻害も有望なアプローチとして浮上しているが (Topalian et al. CancerCell 2015; Tran et al. NEnglJMed 2016)、TBK1/MEK二重阻害への耐性機序と、その克服策の解明が課題として残されていた。特に、KRAS変異NSCLCにおける標的療法の長期的な有効性を制限する適応メカニズムについては、未解明な点が多かった。このため、KRAS変異NSCLCに対する効果的な治療戦略を開発するためには、二重阻害療法に対する耐性メカニズムを詳細に解析し、それを克服する新たな治療標的を同定することが不足している状況であった。

目的

KRAS;LKB1 (KL) および KRAS;TP53 (KP) 変異非小細胞肺がん (NSCLC) モデルにおけるTBK1/MEK二重阻害への獲得・内因性耐性のメカニズムを解明し、耐性を克服する第3の標的と治療スケジュールを同定する。特に、KL細胞がTBK1/MEK二重阻害に感受性が高い背景に着目し、この組み合わせ療法に対する獲得耐性の主要なドライバーを特定することを目指した。さらに、KP細胞における内因性抵抗性の根底にあるメカニズムを明らかにし、LKB1またはTP53の共変異ステータスにかかわらず、KRAS変異NSCLC全体に適用可能な治療戦略を開発することを目的とした。最終的に、最適化されたTBK1およびBET (bromodomain and extra-terminal domain) 阻害薬を用いた併用療法が、臨床応用可能な有効な治療戦略となりうるかを前臨床モデルで検証する。

結果

LKB1欠損はIL-6高発現とmomelotinib感受性をもたらし、TBK1/MEK二重阻害への獲得耐性にはIGF1/IGF1Rシグナルが関与する: KRAS;LKB1 (KL) およびKRAS;LKB1;TP53変異型 (KLP) ヒト非小細胞肺がん (NSCLC) 細胞は、KRAS;TP53 (KP) 細胞に比べベースラインのIL-6分泌が有意に高く、momelotinib感受性がIL-6発現量と正相関した (R^2 = 0.69, p < 0.01) (Fig 1A)。LKB1の再発現はIL-6発現とmomelotinib感受性を低下させ、CRISPR/Cas9によるLKB1ノックアウトはこれらを増加させた (Fig 1C-F)。KL遺伝子改変マウスモデル (GEMM) では、momelotinib 10 mg/kgとtrametinib 2 mg/kgの併用療法によりMRI上でほぼ完全な腫瘍縮小が得られたが、約4週で急速に獲得耐性が生じた (Fig 1G)。Momelotinib処理24時間後にphospho-RTK arrayでIGF1Rのリン酸化増強が確認され (Fig S2A)、獲得耐性A549細胞 (MSR-A549) ではIGF1 mRNAおよび分泌が高度に上昇した (Fig 2E)。IGF1プロモーターのH3K27アセチル化も可逆的な変化として確認された (Fig 2H)。IGF1R阻害薬linsitinibとの三剤併用はKL GEMM (n=10 mice) で一時的な腫瘍縮小増強を示したが、数週後には再び耐性が生じ、完全な克服には不十分であった (Fig 2K, 2L)。linsitinibとmomelotinibの併用は、A549細胞 (n=3 cells) において相乗的な細胞増殖抑制を示し、アポトーシスを誘導した (Fig 2I, 2J)。この相乗効果はKLおよびKLP細胞でKP細胞よりも顕著であった (Fig S2M, S2N)。

YAP1の転写適応活性化がIGF1/IGF1Rとは独立した主要な獲得耐性機序であり、KP細胞の内因性抵抗性にも寄与する: MSR-A549細胞のRNAシーケンス (RNA-seq) 解析により、IGF1に加えて複数のYAP1標的遺伝子 (SERTAD4、CTGF、ANKRD1、CYR61など) が親細胞株と比較して有意に上昇していることが判明した (Fig 3A)。これらの遺伝子は親細胞株と比較して2-5 foldの増加を示した。免疫蛍光染色では、核局在化したYAP1およびTAZタンパクの増加が確認された (Fig 3C, 3D)。YAP1 short hairpin RNA (shRNA) による枯渇はMSR-A549細胞のmomelotinib/selumetinib耐性を著明に解除し (Fig 3E)、YAP1 5SA過剰発現は親細胞株に耐性を付与した (Fig S3J)。IGF1とYAP1は相互に独立した経路として作用し、linsitinib処理ではYAP1/TAZは抑制されなかった (Fig S3G, S3H)。Cancer Cell Line Encyclopedia (CCLE) およびThe Cancer Genome Atlas (TCGA) のKP肺腺がんではYAP1シグネチャーおよびTEAD1標的遺伝子が有意に濃縮されていた (Gene Set Enrichment Analysis (GSEA), Normalized Enrichment Score (NES) 2.08, False Discovery Rate (FDR) < 0.05) (Fig 5C)。YAP1枯渇KP細胞 (n=3 cells) はmomelotinib感受性が回復し (Fig 5D)、KP細胞での内因性抵抗性の少なくとも一部がYAP1依存性であることが示された。KP細胞ではKL細胞と比較してベースラインでYAP1タンパク質レベルが増加しており、JQ1処理により抑制された (Fig 5A)。

BET阻害薬は広範な耐性プログラムを抑制し、KL・KP両GEMMで間欠投与により持続的腫瘍制御を達成する: H3K27アセチル化クロマチン免疫沈降シーケンス (ChIP-seq) とRNAシーケンス (RNA-seq) の統合解析により、MSR-A549細胞で659遺伝子の耐性関連発現上昇が確認され、IGF1やYAP1標的遺伝子を含む広範な転写適応 (therapy-induced secretome; TIS) が関与していることが明らかになった (Fig 4A, 4B)。これらの遺伝子はBET阻害薬JQ1処理後に包括的に抑制され、YAP1およびTAZタンパク自体もJQ1により下方制御された (Fig 4E, 4F)。JQ1はMSR-A549細胞 (n=3 cells) のmomelotinib感受性を回復させ (Fig 4G)、親A549細胞でもmomelotinib + MEK阻害薬との相乗的増殖抑制を示した (Fig 4H, 4I)。in vivoでは、KL GEMM (n=10 mice) においてmomelotinib 10 mg/kg + trametinib 2 mg/kgの毎日投与とJQ1 50 mg/kgの間欠投与の組み合わせで、10週時点でも腫瘍体積がベースライン以下に維持される持続的腫瘍制御を達成した (Fig 6D)。KP GEMM (n=10 mice) では二剤療法が効果不十分であったのに対し、三剤療法では9週間持続する深い腫瘍縮小が得られた (Fig 6F)。KL患者由来異種移植 (PDX) モデル (DFCI-366) では、最適化TBK1阻害薬compound 1とBET阻害薬GS-626510の交互投与戦略により、3週間治療後、薬剤中止後10日経過後も90%以上の腫瘍増殖抑制が維持され (Fig 7G, 7H)、高い臨床翻訳可能性が示された。GS-626510はMSR-A549細胞におけるIGF1およびYAP1活性化を抑制し、KP細胞における内因性YAP1発現も減少させた (Fig S7A-S7C)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究の核心は、MEK・TBK1の二重下流阻害への耐性が特定の単一遺伝子変異ではなく、YAP1が主導する広範なエピジェネティックな転写再プログラミング (IGF1・複数RTK・分泌因子を包含) として生じるという知見である。この「転写的可塑性」は薬剤中止で可逆的であり (MSR-A549でのIGF1/YAP1の可逆性)、安定した二次的変異による耐性機序とは対照的である。BET阻害がIGF1・YAP1シグナルのみならずtherapy-induced secretome全体を包括的に抑制できるのは、BRD4がH3K27アセチル化を認識してエンハンサー・プロモーターの転写機構を活性化するという機能に由来する。

新規性: LKB1ステータスと治療感受性の関係については、LKB1欠損がTBK1依存性の自然免疫シグナルを亢進させることでKL細胞がmomelotinibに感受性が高くなるという新規なメカニズムを提示する。これはLKB1欠損がオートファジーを障害しpTBK1を脱抑制することと整合的である (Yang et al. 2016)。一方、KP細胞での内因性抵抗性はYAP1の構成的高発現に起因するが、BET阻害薬がYAP1をKP・KL双方で抑制できることは、LKB1/TP53ステータスに依存しない汎KRAS変異NSCLCへの適用可能性を本研究で初めて示唆する。

臨床応用: 臨床応用への課題として、持続的BET阻害薬投与の毒性 (造血系・免疫系への影響) があるが、間欠投与スケジュールがin vitroでもin vivoでも十分な転写制御を維持しながら毒性を軽減できることが本研究で示された。TBK1・BET双方に強力かつ選択的な新世代阻害薬 (compound 1、GS-626510) の開発が、臨床への橋渡しにとって重要な前提となる。本研究で開発された交互投与戦略は、薬物間相互作用 (DDI: drug-drug interaction) を最小限に抑え、複雑な用量漸増スケジュールを必要としないため、迅速な臨床導入の可能性を秘めている。この戦略は、KRAS変異NSCLC患者に対する効果的な併用療法として、将来的に臨床試験で検証されるべきである。

残された課題: 残された課題として、YAP1阻害薬の特異性と毒性のバランス、およびBET阻害薬の長期的な影響の評価が挙げられる。今後の研究方向性として、本研究で同定された耐性メカニズムがヒト患者においても同様に機能するかを検証するための臨床試験の実施、および他のKRAS変異がん種への本治療戦略の適用可能性の検討が必要である。また、BET阻害薬の間欠投与スケジュールにおける最適な投与量と期間のさらなる最適化も今後の検討課題である。さらに、YAP1の活性化がIGF1/IGF1R経路とは独立して作用するメカニズムの分子的な詳細を解明することも重要である。

結論として、KRAS;LKB1変異NSCLCはTBK1/MEK二重阻害に特に感受性が高いが、IGF1/IGF1R活性化とそれに続くYAP1の転写適応活性化が主要な耐性機序として機能する。この耐性プログラムはH3K27アセチル化を介したエピジェネティックな可逆的変化であり、BET阻害薬JQ1によって包括的に抑制できる。KLおよびKP両GEMMでの間欠BET阻害薬投与による持続的腫瘍縮小の達成は、TBK1・MEK・BRD4三標的への多剤療法がKRAS変異NSCLCにおける実行可能な治療戦略となりうることを示した。本研究はKRAS変異がんに対する多剤下流阻害戦略の臨床開発に科学的根拠を提供する。

方法

ヒトKRAS変異NSCLC細胞株 (KL: A549、H1944; KLP: HCC44、H23; KP: H2009、H441、H358など) を用い、phospho-RTK (receptor tyrosine kinase) arrayでフィードバック活性化経路を網羅的にスクリーニングした。Momelotinib/selumetinibで2ヶ月かけて獲得耐性細胞 (MSR-A549) を作製し、RNAシーケンス (RNA-seq) とH3K27アセチル化クロマチン免疫沈降シーケンス (ChIP-seq) を統合してエピジェネティック耐性プログラムを解析した。YAP1の役割はshRNA (short hairpin RNA) 枯渇、YAP1 5SA過剰発現、linsitinib (IGF1R阻害) との相互作用実験で検証した。JQ1 (BET阻害薬) の耐性打破効果をIGF1/YAP1発現、細胞増殖、アポトーシスで評価した。

in vivo実験はLSL-Kras^G12D;Lkb1^f/f (KL) およびLSL-Kras^G12D;Trp53^f/f (KP) 遺伝子改変マウスモデル (GEMM) でMRI (magnetic resonance imaging) 連続腫瘍体積測定を実施した。Momelotinibは0.5%メチルセルロース、0.4%ポリソルベート-80に溶解し、10 mg/kgで毎日経口投与した。Trametinibは0.5%ヒドロキシプロピルメチルセルロース (HPMC) に溶解し、2 mg/kgで毎日経口投与した。LinsitinibはHPMCに溶解し、7.5 mg/kgで毎日経口投与した。JQ1は10% DMSOと10%シクロデキストリン水溶液に溶解し、50 mg/kgで2日ごとに腹腔内注射した。KL患者由来異種移植 (PDX) モデル (DFCI-366) で最適化されたTBK1阻害薬 (compound 1) + trametinib + BET阻害薬 (GS-626510) の交互投与スケジュールの前臨床有効性を検証した。Compound 1は0.5% HPMC、0.4% Tween 80、99.1% 0.05 N HClに溶解し、40 mg/kgで経口投与した。GS-626510は10%エタノール、40% PEG300、50%水に溶解し、40 mg/kgで経口投与した。

統計解析はGraphPad Prism7を用いて、Studentのt検定、一元配置分散分析 (ANOVA) とTukeyの事後検定、または二元配置分散分析とTukeyまたはSidakの事後検定により実施した。p値が0.05未満を有意とした。The Cancer Genome Atlas (TCGA) およびCancer Cell Line Encyclopedia (CCLE) データベースを用いてKP/KL細胞株・腫瘍でのYAP1シグネチャー活性化を確認した。RNA-seqデータはGEO: GSE96779、ChIP-seqデータはGEO: GSE96780に登録されている。